小政党が連立政権に入るリスク(What will happen if a small party joins a coalition?)

自由民主党(自民党)が保守党との連立政権に踏み切った時、英国の隣の国アイルランドの閣僚が自国での連立政権の経験をある会合で語った。その際、ジュニア・パートナー(連立政権の中の小さな政党)の立場の難しさに触れた。アイルランドの小政党、進歩的民主党が1989年に初めて政権に入ったが、それ以来、得票数を減らして2007年の総選挙で惨敗し、ほどなく解散したのである。連立政権ではジョニア・パートナーの存在意義が薄れ、選挙基盤を失っていく可能性が大きい。英国の連立政権のジュニア・パートナーである自民党は左と見られていたが、右寄りの保守党と連立を組んだ結果、選挙基盤を大きく失ったようだ。

9月末の労働党の党大会で、副党首のハリエット・ハーマンが、自民党は保守党の「汚い仕事」をしていると攻撃した。自民党は、保守党のブレーキ役を果たしていると自慢しているが、大学授業料を上げ、付加価値税(VAT)を上げ、警察の予算を削減し、NHS(国民医療サービス)の改革で何が起きただろうか?自民党のブレーキは明らかに利いていない、と主張したのである。確かにこれらの政策は、自民党が政権に加わっていなければ実施できていない可能性が強い。保守党の中には、連立政権の政策へ自民党の影響力が強すぎると批判する人が多いが、一般の人の目には、特に昨年5月の総選挙で自民党に投票した人の中には、自民党に厳しい目を向けている人がかなりいる。それが総選挙時の23%の得票率から現在の極めて低い10%前後という支持率につながっている。

3党の党大会終了後、タイムズ紙がロンドン南西部のトゥーティングでフォーカスグループを行った。7人の浮動票の有権者を集め、3党首の演説の抜粋を聞いてもらい、その後、それぞれの意見を出してもらったのである。その中で、自民党のクレッグ党首の演説が最も低い評価を受けた。私の見たところ、クレッグの演説は、少なくとも労働党のミリバンド党首よりはよいと思われたが、タイムズ紙によると、7人全員が演説を聞く前にクレッグが最低と決めてかかっていたという。

クレッグは、総選挙前、それまでの保守党と労働党の二大政党政治から自民党も入れた多数政党政治へ変わると主張していた。それどころか、現在では、自民党の支持を総選挙前の状況に戻すには少なくとも10年かかるとの見解もある。英国の自民党の例で言えることは、連立政権へ参加することは、小政党の運命を大きく変える可能性があるということだ。

日本が英国自民党の失敗から何を学ぶことができるか?(What Can Japan learn from Nick Clegg’s Mistakes?)

英国の第3党、自民党の苦境から日本の政治が学べることがあると思われる。特に政党トップの意思決定に関することだ。自民党は、2010年総選挙後、党首クレッグのキャメロン保守党党首なら一緒に働けるという一種のフィーリングで保守党との連立に踏み切った。しかし、この決断のために自民党はその支持基盤を大きく揺るがせることとなった。

自民党は、近年、保守党と労働党の2つの大政党に飽き足らない有権者を惹きつけ、成長してきた。そして2010年総選挙では全体で23%の票を獲得した。しかし、保守党と連立政権を組んで以来、多くの支持者を失い、支持率は現在10%前後である。支持率は当然増減する、時間が経てば再び回復すると期待する向きは特に自民党に多いが、既に「汚染」されてしまった自民党への支持が急に回復すると見る人は少ない。2011年5月の地方選挙で自民党は40%の議席を失ったが、2012年の地方選挙でもさらに大きく議席を失うと見られている。地方議員は、自民党の足腰であり、その減少は、非常に大きな痛手だ。

クレッグの失敗は、総選挙で自民党に投票した有権者の期待がどのようなものだったか十分に把握していなかったことだ。総選挙後、選挙中のクレッグブームで大きく支持を伸ばしたように見えた自民党がなぜ予想外に低い議席数しか獲得できなかったのかの分析の混乱があり、はっきりと自民党の状況を把握することが難しかったこともある。しかし、フォーカスグループという世論の意識調査の方法や、それと併せた世論調査で、それを見極めることは可能だったと思われる。

フォーカスグループとは、ブレア元労働党党首・首相の下で、世論のトレンド分析を担当したグールド卿が草分けだが、少人数の様々なバックグラウンドの人を集め、自由に意見を言ってもらい、全体の意見を探る手掛かりに使う方法である。ブラウン前首相の下で世論調査を担当していた人が、その著書の中で、ブラウンがフォーカスグループで集めた結論を無視してそれとは反対の政策を打ち出し、それが、2007年秋に総選挙を断念する結果となったことを明らかにしているが、時に、大きな政治的な転機を生む可能性がある。もちろん、これに頼りすぎることには問題があるが、政治家の勘やフィーリング、さらに少数の側近の見解に頼る旧来の方法よりはるかに科学的だ。日本でも、有権者の期待を慎重にはかり、その上で政治的な決断をすることは極めて大切だろうと思われる。