自民党を苦しめる政治資金(Lib Dem Party funding)

英国の政治資金は、アメリカや日本などと比べてもはるかに地味である。8月2日に選挙委員会(The Electoral Commission)が発表した、政党の昨年2011年の収入、支出報告によると保守党が2366万ポンド(29億円余)、労働党が3133万ポンド(39億円弱)、それに自民党が620万ポンド(8億円弱)である。

英国のマスコミは、保守党の収入が前年より45%減ったと指摘している。また、労働党も減ったが、2010年の選挙の結果が、いずれの政党も過半数を占めることのないいわゆる「ハング・パーリアメント」に終わった翌年の実績としては、特にそう目くじらを立てる問題でもないように思われる。

保守党は、選挙がある前には、きちんと選挙ができるだけのお金を集めるだろうし、また、労働党は、労働組合が支援しているだけに、2010年総選挙では、かなり倹約せざるを得なかったが、いずれの政党も特にお金の面で困窮することはないと思われる。

問題は、自民党である。もともと献金が少ない。保守党と連立政権を組んだが、政権に就いたといっても、急に資金源ができるわけではない。むしろ、野党に渡される主要な公的資金を失った。政党に対する公的扶助は4つある。下院のショートマネー(Short Money)、上院のクランボーンマネー(Cranborne Money)、スコットランド議会の補助金、それに選挙委員会が扱う、選挙マニフェストづくりに使われる政策発展補助金(Policy Development Grants)である。

このうち、自民党はスコットランド議会では、野党のため、受けられる。また、政策発展補助金は受けられるが、それ以外のものは受けられない。2010年5月の総選挙前の2009-10年度にはショートマネーは、175万ポンド(2億2千万円)に上ったが、これが、連立政権参加後に失われた。

その上、2011年、2012年5月の地方選挙で多くの地方議席を失った影響もある。自民党の地方議員は、通常、議員報酬の1割を党に献金しているが、地方議員の数が急速に減っている中、この面からの収入も減った。しかも、党員の数が、2011年には、6万5千人から4万9千人へと4分の1減少した。

8月20日に選挙委員会の発表した2012年第二四半期の政党献金では、献金72万ポンドのうち、これまで何度も献金している企業家のRumi Vergeeから25万ポンド(3100万円)、それに自民党の上院議員から10万ポンド(1200万円)の献金があった。しかし、自民党が財政的に苦しんでいるのは明らかであり、その財政問題が、連立政権の行方に影響を及ぼす可能性がある。

クレッグの判断(Clegg’s judgment)

政治家が弱く見えることは致命傷になり得る。保守党が上院改革をしないのなら下院の新区割り案に賛成しないというニック・クレッグ副首相の判断は正しいと思われる。もしそうでなければ、クレッグと自民党が非常に弱く見えるからだ。有権者は上院改革にあまり関心がないが、それでもこの判断でクレッグへの評価が上がる可能性がある。

自民党とキャメロン首相が率いる保守党が連立政権を組む際にまとめた連立合意の中で、選挙制度についての幾つかの約束をした。この中の一番大きな柱は、現在の下院の制度である、いわゆる小選挙区制度、つまり一つの選挙区から最も得票の多い候補者を一人だけ選ぶ制度から、AV(Alternative Vote)と呼ばれる制度に修正する国民投票を行うことであった。AVとは、当選者は基本的に、投票した有権者の半分以上の支持を受けるようにする制度である。これは、これまで下院への比例代表制の導入を求めてきた自民党が、保守党と連立政権を構成するうえで最低限の条件としたもので、自民党に有利になると思われた制度である。一方、もしこの制度が導入されると不利になると思われた保守党は、マニフェストでも打ち出していた、議員定数を減らし、有権者の数を均等にする選挙区区割り見直しを要求し、その結果、この二つの制度を組み合わせることで妥協した。つまり、AVの導入で保守党が失うと思われた議席を区割りの見直しで回復させるということである。この妥協は、これらの二つを合わせた「2011年議会選挙制度並びに選挙区法」でも明らかであった。

ただし、連立合意には、さらに上院改革も含まれていた。主要三党の中では、自民党が上院を公選とする改革に最も熱心であった。

2011年5月に行われたAV制度の国民投票では、保守党が中心となった、AV反対のグループが強力な運動を展開し、労働党はどちらつかずの態度を取ったことから、賛成票は3分の1にとどまり、否決された。その後、新たな選挙区区割りを導入すれば、失う議席の割合で最も大きなダメージを受けるのは当初予想された労働党ではなく、自民党であることがわかった。

自民党は、こういう状況の中で、もし、長年の課題であった上院改革がなしとげられるのなら新選挙区割りも容認する立場をとっていたが、保守党の中の上院改革へ反対する勢力が大きく、上院改革が不可能となり、その結果、新選挙区割りを認めない立場をとることとした。「2011年議会選挙制度並びに選挙区法」が成立した後、区割り委員会が手続きを進めているが、区割り委員会の提出する区割り案を議会で採択する必要がある。つまり、自民党は、その区割り案に賛成しない、ということである。

キャメロン首相は、保守党党首として大きな計算間違いをしていたと言わざるを得ない。もし、AVの国民投票が可決されていれば、上院の改革の成否にかかわらず、自民党は新区割り案に賛成していた可能性が強い。しかし、AVも上院改革も成し遂げられないまま連立政権を継続し続けていれば、自民党は本当に弱く見える。自民党がこの問題を抱えていることに十分配慮することを怠ったキャメロン首相は、今や厳しい立場に立っていると言えるだろう。