欧州のイギリスへの影響

イギリスの現在の政治を考えるうえで欧州の問題は重要だ。これには大きく分けて二つある。まず、EU経済のイギリスへの影響、そしてEUに留まるかどうかの国民投票が行われるかどうかである。この二つがイギリスの政治・経済に、大きな不安定要因となっており、企業の投資意欲を削ぐ大きな要因ともなっている。

EU経済不安

EU経済のイギリスへの影響はかなり大きい。イギリスの貿易の半分はEUとの取引であり、EU圏、特にユーロ圏の経済の停滞はイギリスに響く。欧州中央銀行(ECB)が景気支援とデフレ回避を目的にQE(量的緩和)を発表したが、その効果には疑問がある。また、ギリシャが反緊縮財政の左翼政権の誕生で、ギリシャがユーロ脱退する可能性が高まった。ギリシャは、これまでEU、ECB、IMFらの支援を受け、緊縮財政を実施してきたが、GDPが25%減少、失業率は25%となった。そのため、国民は、反緊縮財政を訴えた左翼政権を選んだのである。ただし、ECBらは既にギリシャに厳しい態度を示しており、ユーロ圏に大きな不安がある。もし、ギリシャがユーロ離脱ということとなれば、かなりの混乱が起きると思われ、イギリスへの影響も免れない。さらにウクライナ紛争に関連した不安材料、ロシアへの経済制裁などの要因もある。5月の総選挙を控えてイギリスの経済が順調に成長してほしいキャメロン政権の不安材料でもある。

EU国民投票

次にイギリスがEUに留まるか、脱退するかの国民投票の問題である。保守党のキャメロン首相は、5月の総選挙後、首相に留まることができれば、2017年末までに国民投票を実施すると約束している。しかし、キャメロン首相らは総選挙後できるだけ早く実施したい考えだ。労働党はこの国民投票を実施しない方針だ。総選挙の結果、保守党政権、もしくは保守党が中心となる政権が誕生すると、EU国民投票の結果、イギリスはEUから離脱する可能性があり、不安材料となっている。

もし国民投票が行われれば、1975年にウィルソン労働党政権下で、国民投票を実施した時とはかなり状況が異なる。その前のヒース保守党政権下でイギリスはEUの前身であるEECに加盟していた。ウィルソンは欧州を巡る労働党内での対立に終止符を打つために国民投票を実施したのである。当時国民はEU支持であり、しかもウィルソンは国民投票でEECに留まるという結果が出ることを確信していた。しかもこの国民投票へのキャンペーンには、EECに留まる側が、脱退側の10倍のお金を使ったと言われる。つまり、ウィルソンは勝つのは間違いないという状況で、さらに念を押した運動を行ったのである。

ところが、もしキャメロン政権下で国民投票が行われれば、前回のものとかなり様相が異なる。世論調査によると、EUメンバー維持の賛成、反対が拮抗している。しかもスコットランド独立住民投票と同じく、賛成側、反対側ともに運動で使える金額は同じだと見られ、しかも使えるお金に厳しい制限があることは間違いない。つまり、1975年の国民投票のようなわけにはいかないのである。

これらの不安定さが、イギリス企業の投資意欲にも大きく水を差しており、欧州に関連して、イギリス政治の不安定さは続く。

成長するイギリス経済と低迷する賃金

イギリスの中央銀行、イングランド銀行がイギリスの経済成長の見通しを20143.5%、20153%と上方修正した。失業率が6.4%と下がり、2008年末以来の低い数字となった。IMFによると、2013年にイギリス経済は、3.2%成長したと予測されており、G72番目のカナダより1%高い。

ユーロ圏が苦しむ中、イギリス経済は順調に見える。経済の78%を占めるサービス部門に頼りすぎているという面があり、経済のぜい弱な点は改善されていないが、中でも特に大きな問題がある。賃金が上がっていないことだ。20144月から6月までの賃金アップ率は0.6%で、ボーナスなどの付加的な収入を除くと‐0.2%だった。なお、イギリスのボーナスは日本で多く見られるような誰もが同じ率で月給何か月などといったものではなく、それぞれのパフォーマンスなどに連係しており、必ずしも誰もが得られるものではない。

インフランド銀行の2014年の賃金上昇率見通しは2.5%からその半分の1.25%に下げられた。インフレ率は1.9%であり、それぞれの人の賃金はインフレに追いついていないことになる。

また、生産性が上がっておらず、雇用が増加したのは低熟練の労働者の仕事が中心であると見られている。

この現状は、ミリバンド労働党党首のマントラ「生活コスト危機」を地で行くようなものと言える。 

オズボーン財相は、来年の次期総選挙までに、有権者に好景気を実感してもらい、保守党政権への期待を盛り上げたい意向であった。しかしそれは難しくなっているように思われる。