人が重要(Manufacturing is coming back to Britain)

人の質が大切だ。英国の製造業は、人件費が高いために発展途上国に仕事を奪われていると多くの人が信じている。それはある程度事実かもしれない。しかし、本当の問題は、他にあるようだ。

5月8日と15日のBBCのテレビ番組「The Town Taking on China(中国に挑戦する町)」で、英国のビジネスマンの経験を追っている。リバプールの近くのカービーという所にクッションの工場を持つビジネスマンが、2004年に中国の福州にクッション製造の工場を開いた。しかし、中国でも人件費が開設当初の月50ポンドから現在では250ポンドと5倍になった。しかもインフレ率が年に10%近くとかなり高い。製品のクオリティや輸出費用、関税、それに為替変動などを考えると中国で製造してもメリットがほとんどなくなった。中国で作っているのは、安価なものであり、高級品は英国工場だが、アメリカなどでは「英国製」の方が「中国製」より高い価値があると見られている。そこで英国で大幅にスタッフの数を増やすこととした。これまでは地域にミシン工の経験者で失業している人がかなりおり、比較的簡単に雇うことができたが、それにも限界があるので、若者を雇い、トレーニングすることにした。この工場の地域には、失業が多く、1つの仕事に対して求職者が14人もいるという状況だという。

(なお、このビジネスマンは、5月3日のリバプール市長選に保守党から立候補した人物である。リバプールでは労働党が非常に強く、労働党候補が市長に当選した。このビジネスマンの政治的な動機が、英国で大きな問題となっている若者の失業率に取り組もうとした一つの理由かもしれない。)

この中でわかったのは、特に若い人たちの中にあまり質のよくない人たちがいることだ。よく病欠する、誰にも言わずに勝手に仕事をやめる、仕事の時間が長すぎる、仕事でへとへとになる、給料がばかばかしいほど安い(最低賃金の6.08ポンド《800円》)と文句を言う。

これは英国一般に当てはまる。英国人はよく、EUの中では基本的に労働力の自由な移動が認められているため、他の国、特に東欧のポーランドなどから来た人たちに職を奪われると文句を言う。しかし、実態は、上の若い人たちの事例と似ている。ポーランド人は一般にきちんとよく働く。ポーランド人は「日本人のように働く」と言う人もいる。これでは、英国人の中の「怠惰」な人たちとは比較にならないだろう。

心配なのは、今の日本人、特に若い人たちである。日本人の質が落ちてきていなければよいがと願う。

オムニシャンブルズ(Omnishambles)

キャメロン首相は、3月21日の予算発表以来、オムニシャンブルズという状態に陥っている。これは、何もかもが滅茶苦茶でうまくいっていないという状態を指す言葉である。

この言葉は、現在の状況を強調的に表現したもので、問題をそれぞれ個別に見ると、必ずしも大きな問題とは言えないように思われる。しかし、小さな問題が重なり、しかも絶え間なく出てくるということになると、それは政権担当者の能力に問題があるのではないかという疑念を生むようになる。そしてそれが次第に確信に変わっていく。そのような非常に危険な状態にキャメロン政権はあると言える。

これらの問題の大きな原因の一つは、所得税の最高税率を50%から45%に下げたことだ。これは来年4月から実施されるが、多くの国民にとっては、それが来年であろうが今年であろうが関係なく、政府は金持ち優遇という印象を持った。政府は、この政策をきちんと説明できるという自信を持っていたようだが、国民はこのことと自分たちの生活に直接関係のある「小さな問題」に関連づけ、不公平だと感じた。これがオムニシャンブルズの一つの背景である。

どのような問題がオムニシャンブルズと見られているか概括する。

1.「おばあちゃんタックス」批判:来年度から年金受給者への税の特別控除を徐々に減らす。また、来年度からの新しい受給者には、税の特別控除はない。

2.ガソリンパニック:ガソリンやディーゼルオイルをガソリンスタンドに運ぶタンクローリーの運転手がストライキに賛成した。これを受けて、政府は具体的にストライキが計画される前に、これらの燃料をジェリ缶(灯油缶)で買いだめしておくようにと勧めた。その結果、直ちにパニック買いが始まった。消費者の中には、ガソリンスタンドでガソリンが買えず、車のタンクが底をついたので、ジェリ缶のガソリンを他の容器に移し替えようとした人がいた。たまたまそれが台所で調理中だったために、引火し、大やけどを負う事故も起きた。政府がパニックを起こしたと批判された。

3.「チャリティタックス」批判:裕福な人たちの税回避を防ぐために税控除制度を制限しようとしたが、その結果、慈善事業に大きな影響が出ることが表面化し、大きな批判を受けた。

4.「パスティゲート」:コーニッシュパスティなどのパイなど温めて販売する食べ物にVAT(日本の消費税に相当)を20%かけることとしたが、消費者から総スカンを食らった。その上、キャメロン首相がパスティが好きで、買って食べたと言って、その駅名まで名指しした。ところが、その駅の店はそれより5年も前に閉店されていたことがわかり、キャメロン首相が買ってもいないのに買ったと言ったのではないかという疑いが生まれた。そのために、これは「パスティゲート」であり、「パスティタックス」ではない。

5.「キャラバンタックス」批判:移動式住宅にVATをかけることとした。このため、2千人が失業すると攻撃された。

6.「チャーチタックス」批判:文化財指定建造物の修復改造にVATをかけることとしたが、教会建物に最も影響が出ることがわかった。

7.イスラム教過激説教師強制送還問題:ヨルダンへの強制送還を下院で意気揚々と発表した内相が、欧州人権裁判所の上訴期限を一日誤っていたようで、この強制送還が可能になるまでにはまだかなり時間がかかることがわかった。

8.入国管理の遅れ問題:ヒースロー空港などで入国審査の待ち時間が非常に長くなる場合が出ており、政府の対応が遅れている。

9.文化相のBskyB問題:文化相が、メディア王マードック氏のBskyB買収の試みに便宜を図ったのではないかという疑惑が浮上した。この買収は、電話盗聴問題で取り下げられたが、キャメロン首相や担当の文化相がマードック氏の会社に非常に近いことが浮き彫りにされた。

10.リセッション:昨年第4四半期に続き、今年第1四半期もGDPがマイナス成長となり、正式に景気後退となった。政府の過度の大幅財政緊縮策が、成長を阻害しているのではないかとの批判を受けている。0.2%のマイナス成長は暫定値であり、見直されるとプラス成長となると見られているが、それでも既に政府の政策にダメージを与えており、見直されても後の祭りと言える。