公務員の質の向上?(Improving the Civil Service Capabilities?)

政府は、公務員の能力向上のために、公務員改革プランを昨年6月に発表し、また、「コンピテンシー・フレームワーク」(Competency framework:参照http://www.civilservice.gov.uk/wp-content/uploads/2012/07/Civil-Service-Competency-Framework-July-2012.pdf)を導入した。しかし、このフレームワークに本当に効果があるかどうか大きな疑問がある。

最近、内務特別委員会が、歳入関税庁のチーフ・エグゼクティブで事務次官であるリン・ホーマーが、その能力に疑問があるにもかかわらず、内務省国境局のチーフ・エグゼクティブから運輸省の事務次官へ、そしてさらに格上の現在のポストへ昇進させられたことはおかしいとして、議会に事務次官人事の拒否権を与えるべきだと訴えた(詳細は、http://kikugawa.co.uk/?p=1465)。事務次官人事は、人事委員会(Civil Service Commission)の担当である(参照 http://kikugawa.co.uk/?p=629)。つまり、内務特別委員会は、この人事を担当した人事委員会の人物査定の能力に大きな疑問を投げかけた。さらに、重大不正捜査局(SFO)のトップ、前ダイレクターだったリチャード・オルドマンのお粗末な運営能力も明らかになっている(参照http://kikugawa.co.uk/?p=1081)。

このような重要な人事で査定が不十分、つまり、そのポストに就いてきちんとした仕事ができる能力の無い、もしくはその能力の乏しい人がトップのポストに就いているということは、それ以外の幹部の人事査定にも深刻な問題があることを示唆している。それでは、上記の「コンピテンシー・フレームワーク」を導入した結果、公務員の能力は向上するのだろうか。

なお、日本では公務員の人事は、通常人事部が行うが、英国では、自ら他のポストに応募し、インタビューを受けてポストに採用され、仕事を変わる制度を取っている。

この「コンピテンシー・フレームワーク」は、抽象的な「あるべき姿像」を想定して「効果的な行動」をする人とそうでない人を描き出そうとしている。そして、ここで取りあげられた10のコンピテンシーは、成功するパフォーマンスを導き出す技能、知識、そして行動であると規定する。しかしながら、このようなコンピテンシーのあることが、成功するパフォーマンスを生み出す十分条件では必ずしもないと思われる。つまり、もしそれぞれのコンピテンシーがあったとしても、それで成功するかどうかということは別の問題である。

また、このフレームワークでは、査定の上で新たなティック・ボックス・メンタリティを生む可能性が強い。つまり、それぞれのボックスにティックすればそれでことは済んだと考え、全体的に見ようとしない可能性がある。

ここでの問題は二つあるように思われる。一つは、選考する人の能力である。政府は政策の実施により力を入れ始めているが、これまで公務員の世界で政策の策定を中心に出世してきたいわゆるジェネラリストの人たちが、政策の実施を担当する人の選任にどの程度有効かという問題がある。

さらに、このフレームワークでは、リーダーシップのあり方が極めて一面的である点である。リーダーとして前面に立ち、最初から確信があり、自分が何をするかはっきりと理解しているという想定がある。しかし、これはかなり非現実的だと思われる。まず、大臣たちの能力の問題がある(参照 http://www.reform.co.uk/resources/0000/0607/Whitehall_reform_The_view_from_the_inside.pdf)。また、ステーキホルダーたちとの交渉の中で、立場を変えざるを得ないこともかなりある。最初から決まった政策や方針が提供されると想定しているように思われるが、それは現実的ではないだろう。

最大の問題は、こういうフレームワークを作ることで、同じようなタイプの人を量産し、平均的な幹部が増える一方、本当に物事を成し得る才能がこれまで以上に埋もれてしまうことだ。これまでの公務員の行動形態を考えるとその危険性はかなり高いと思われる。

メイ内相の英国国境局廃止は英断?(May’s Decision to Abolish UKBA)

3月26日、テリーザ・メイ内相が内務省の事業執行機関である国境局(UKBA)を廃止して、その仕事を査証部門と移民の法執行機関の二つに分割し、内務省直属とすることにした。新しく、事務次官をトップにした戦略的監視機関を設け、この機関で移民政策、パスポートサービス、国境フォース、それに新しい二つの部門の調整を図るという。この仕組みは、4月1日からスタートする。

この決定は、その当日の26日朝決まったという。英国ではこのような省庁の改変は法律で規定されていないので、比較的簡単にできる。

これまでは、大臣が政策を決め、それを国境局が実施するという大まかな役割分担があったが、実際は、政策と実施の関係にはかなりあいまいな部分があった。法律に関連して微妙な問題がかなりあり、そのため大臣の判断を仰ぐ必要があったためだ。

しかし、今後、移民関係の部局は、直接、大臣の管轄下に入る。しかし、これが、多くの課題を抱えるこの部門の問題を解決する決め手になるだろうか?26日に内務省の事務次官がスタッフに送ったメモでは、ほとんどのスタッフは、同じ職場で、同じ仕事をし、同じ同僚で、同じ上司だと説明があったという。つまり、事業執行機関では無くなるが、実際には人はほとんど変わらない。

メイ内相は、この組織改編で、これまでの「閉鎖的で、隠し立てし、防御的な行動様式」を終わらせると言う。3月25日に発表された、下院内務特別委員会の報告書でも指摘されたことだが、今なお、国境局は「その目的にふさわしくない」組織であり、委員会に不正確、もしくは欺いた数字を報告してきた。移民問題に関するケースの処理は遅く、31万2千件あり、とてもすぐに解決できる状況にはない。しかも不法滞在者を国外退去させても不法滞在者の数に追いついて行っていないという問題がある。

メイ内相は、昨年国境局から分離した、空港や港を日々管理している国境フォースがうまくいっており、大きな国境局(全体でフルタイム換算2万3500人。国内は1万3千人)を二つに分けて小さな部局にすることでより焦点が絞られ、効率が上がると考えている。

これは、キャメロン後の保守党党首の座を狙っていると言われるメイ内相にとっては、極めて大きなギャンブルだと言える。大臣が直接担当するからアカウンタビリティが向上すると言っても、問題が解決しない、もしくは、何か問題が起きると大臣が矢面になり、かえって難しい立場になる可能性がある。

一方では、もしメイ内相が、保守党がマニフェストで約束した、移民の数を年に10万人以下とし、この移民の問題を解決できれば、メイ内相の株が大きく上がるのは間違いない。保守党がUKIP(英国独立党)にその支持票を奪われている大きな原因はこの移民の問題だからである。メイは、2010年総選挙後、内相に就任した。EU内では、移動の自由が認められているが、それ以外の国からの人たちを対象にこれまで入国の基準を厳しくするなどの手を打ってきた。2月末に発表された、2012年6月までの過去1年間で、その前年の24万7千人から16万3千人と3分の1減少している。毎年の入国者数から出国者数を引いた正味の移民数はかなり減ってきたものの、それでもまだ目標にはかなり遠い。

メイ内相は、前のお労働党政権に責任があると主張する。その理由は次のようなものである

①前政権が入出国のコントロールを弱めた。

②人権法を制定したために、外国人犯罪者を国外退去させることが困難になった。

この②への対応としては、国外退去させやすくする法律案を年末までに提出する予定だ。

しかし歴史的に見ると、これは単に労働党の責任ばかりとは言えないだろう。実際に、移民が急激に増え出したのは1990年代である。その中で、コスト削減のために空港などの出国チェックを取りやめた。

2002年から2003年にかけては、亡命志願者が増え、当時のブレア首相がその数を半分にすると約束したことがある。2006年には、外国人で刑期を終えた人を千人余り釈放したが、その人たちの行方が辿れず、しかも深刻な罪を犯した者もいることがわかり、当時の内相チャールズ・クラークがその責任を問われ、ジョン・リードと交代させられた。リードは、「目的にふさわしくない」として、政治家から離れた立場で仕事が行えるよう事業執行機関とすることを決めた。移民申請を扱う部門とかつての歳入関税庁の法執行機関などを合わせ、国境を守り、移民違反を取り締まり、早く、公平な判断をするという役割を担って出発した。それが廃止される。

歴史は回る。世の状況によって、政策課題は大きく変わり、英国の移民の問題は、今そのあおりを受けている。そして、国境局は、内務省内の部局から事業執行機関に、そして再び、内務省に戻る。この効果には悲観的な見方が多いが、メイ内相は、これに賭けているようだ。