SFO前ダイレクターのお粗末な能力(SFO Former Director’s Mismanagement)

3月7日の下院公会計委員会(Public Accounts Committee)にSFO(重大不正捜査局)の前職と現職の責任者、前ダイレクターのリチャード・オルドマンと現ダイレクター、デービッド・グリーンの二人が呼ばれた。オルドマンは2008年4月から2012年4月まで4年間その任にあった。

焦点となったのは、オルドマンのダイレクター当時に3人の幹部の解雇手当に計100万ポンド(1億4千万円)を支払ったことである。その支払いに必要な内閣府の許可を受けていたことを証明するものが何もなかったことから、会計検査院がその支払いは不正規だと指摘し、限定意見をつけた。さらに、SFO内での情実的人事やスタッフの低いモラールが指摘された上、捜査上の大失敗があったことからこの喚問は注目されていた。

この委員会での質疑で改めてわかったのは、オルドマンは内閣府から許可を受けたと主張するが、それを証明するものがないことである。内閣府はこのような許可をなかなか出さないので知られている。オルドマンは口頭でそのような示唆を受けたのかもしれないが、書面がなければ、その責任はオルドマンにあることになる。

また、3人の幹部の一人は、チーフ・エグゼクティブであったが、その昇進した際の記録が残っていないと言う。また、このチーフ・エグゼクティブは、ロンドンから離れた湖水地方に住み、週5日のうち2日は自宅勤務で、3日ロンドンに出てきていたが、ロンドンでのホテル宿泊費、交通費に2011年度は2万7600ポンド(400万円)公費から支出していたそうだ。

オルドマンは法廷弁護士だが、1975年から公務員として働き始め、2008年にSFOのダイレクターとなった。つまり公務員として30年以上の経験があったことになる。それにもかかわらず、きちんとした記録を残さず、適正手続きの必要性を十分に分かっていなかったようだ。このような人物がSFOのような、重要で、しかも一般からの信頼が要求される部門の責任者のポストに就いていたとは信じがたい。しかし、このような例は恐らくここだけにとどまるのではないだろう。特にSFOのような、英国政府の独立機関ではその可能性がより高いかもしれない。

行政の政治化?Politicisation of the Civil Service?

大臣が専門家アドバイザーを任命している。公務員を、変化に消極的で、能力や専門知識に欠けているとし、新しい血を行政に持ち込もうとしている。これを行政の政治化として捉える人が少なからずいるようだ。

例えば、何かと物議を醸しているマイケル・ゴヴ教育相率いる教育省では、昨年9月以来3人の専門家アドバイザーが任命されている。この3人は以下のような人物である。

・タイムズ紙のコラムニストのアリス・マイルズ(Alice Miles)
・LSEの経済歴史のリーダー(Reader)ティム・レオン(Tim Leunig)
・元歴史教師で、マッキンゼーのコンサルタントのトム・シナー(Tom Shinner)

これらの専門家アドバイザーは、臨時公務員として任期が2年ほど、職のランクは課長職もしくは部長職レベルのようだ。

もちろん大臣らにはすでにスペシャルアドバイザーという政治任用のスタッフがいるが、専門家アドバイザーは、それとは異なり、公務員として働くことになる。

この制度は、2012年6月に発表された公務員制度改革計画(Civil Service Reform Plan)の中で触れられたものである(p21参照)。
http://resources.civilservice.gov.uk/wp-content/uploads/2012/06/Civil-Service-Reform-Plan-acc-final.pdf

これらの人たちは、必要な専門知識を持った人材が公務員の中にいない、そして公募するのが適当ではない場合に、大臣が事務次官に依頼し、国家公務員任用委員会(Civil Service Commission)の許可を受け、ごく少数、期間を限って任命できる。公務員規範に従う必要があるため、政治的な行動は制限されることとなる。

この動きは、大臣が公務員の任命により大きな役割を果たそうとしていることに関係している。昨年12月、国家公務員任用委員会は、公務員制度改革計画の中で触れられた、大臣の事務次官人事への関わりについて説明した。

事務次官任命の手続きは以下のようである。
まず、この選任は、国家公務員任用委員会会長(First Civil Service Commissioner)もしくはその指名した人物を長とした独立委員会が担当する。
手順は、
①どのような技能が事務次官に必要か大臣に見解を問う。
②応募者の中から少人数の候補者を選び出し(ショートリストと呼ばれる)、それらの候補者に大臣が会う。そしてそのフィードバックを独立委員会に渡す。
③そして独立委員会の審査の結果、推薦する候補者を再び大臣に会わせることもできる。
④もし独立委員会が決められない場合には、最終的な候補者を大臣らに再び会わせることもできる。

そして独立委員会の推薦した候補者を任命するかどうかは最終的に首相が判断する。

以上の手続きは以下参照:
http://civilservicecommission.independent.gov.uk/wp-content/uploads/2012/12/EXPLANATORY-NOTE-PERM-SEC-COMPETITIONS-MINISTERIAL-INVOLVEMENT.pdf

いずれにしても、専門家アドバイザーは数が限られており、政治的な活動にも制限があることから、この任命をもって直ちに行政の政治化とまでは言えないように思われる。

一方、前述のゴブ教育相は、教育省の予算をゼロベースで見直し、2015年までに2010年就任時の予算を42%、そして2016年までには50%減らそうという計画だ。そのため、4000人のスタッフを1000人減らす必要があると言われる。

教育省は、アカデミーと呼ばれる中央直轄の学校を急激に増やしており、また、フリースクールもさらに増える状況だ。仕事量が増える中、予算を減らし、しかもスタッフの数を減らしていくのはかなり大変な課題である。

これに対し、中堅以下のスタッフの労働組合であるPCSは教育省の組合員のストライキに関する投票を行い、ストライキへの賛成が2対1であった。そのため、近日中にストライキが行われる可能性が高い。

キャメロン政権の中でも最も改革派の大臣と呼ばれるゴブは、方針を全く変えないと思われるがこれにどのように対応するか注目される。ゴブの専門家アドバイザーで一つ気になったのは、昨年9月に任命した二人はいずれも机で仕事をする人たちだ。コンサルタントが後から加わったにせよ、理論優先で実施後回しの感がぬぐいきれない。