新聞紙のスタンス

9月12日に労働党の党首に選出されたジェレミー・コービンへの個人攻撃が続いている。その政策は、これまでの労働党主流から大きく左に触れており、「極左」と表現されることが多く、影の内閣での政策不一致などが毎日のように報道されている。

9月20日のメール・オン・サンデーでは、第一面で、昔の話に基づいたコービン攻撃がなされた。コービンの元妻である大学教授に、かつて元愛人が「町を出ていけ」と言ったので、傷ついた、という話である。日曜紙の第一面で扱うほどだから、よほどの内容があるのだろうと思って読み進むと、長い記事だが、ほとんど中身がない。同じことを元妻の言葉を借りて、何度も繰り返しているだけであった。

コービンの現在の妻は、3番目だが、この元妻は1番最初の妻である。サンデー・タイムズ紙が、党首選の最中に、この最初の妻が、コービンは本当に素敵な人だが、政治がすべての先にきて、それが別れた理由だと言ったと紹介したことがある。メール・オン・サンデーでは、元愛人が、この元妻を訪ねてきて、上記の言葉を言ったというが、実は、それは、36年前の1979年のことである。コービンがロンドンの区の区議会議員をしているときのことで、コービンと元妻が別れてからのことである。なお、コービンが下院議員となるのは1983年のことである。

この元愛人は、ダイアン・アボットである。1987年から下院議員を務めており、下院最初の黒人女性議員だった。人権問題に強く、左派のアボットは、2010年には、労働党党首選に出馬し、落選、2015年には、2016年5月に行われるロンドン市長選の労働党候補者となろうとしたが、選ばれなかった。コービンを党首候補として推薦した。かつて広報担当官の仕事をしたことがあるが、党首選の間、コービン擁護の論陣を張り、現在は、コービン影の内閣で国際開発を担当している。

この点をメールは指摘し、かつての愛人にポストを与えたとも批判した。メールは、かつてエド・ミリバンド前労働党党首に痛手を与えるため、ミリバンドの父(故人、アメリカの大学でも教えていたマルクス主義学者)はイギリスを嫌悪したと攻撃したこともある。

一方、デイリー・メールは、元保守党幹事長の億万長者アッシュクロフト卿らの著した、キャメロン首相の伝記の連載を始めた。この伝記では、キャメロンの過去の麻薬の話など、キャメロンには、かなり痛手となるものを含んでいる。保守党支持のメールが、このようなものを連載するのは少し意外だが、メールは、この伝記は、アッシュクロフト卿の「復讐」だとしている。すなわち、保守党の財政担当なども務め、保守党に多額の献金をしたのにもかかわらず、政府内の役職を与えられなかったことに恨みを持っているというのである。

このキャメロン伝記のメール掲載で思い出したのは、2009年の議員経費乱用に関して漏らされたCDをテレグラフ紙が購入したことである。実は、このCDは、当初タイムズ紙に持ち込まれたが、タイムズ紙は断った。それで、テレグラフ紙に渡ったのである。テレグラフ紙は、その内容を徐々に発表し、政界は大騒ぎになった。テレグラフ紙は別名トーリーグラフと呼ばれる新聞で保守党支持だが、多くの保守党政治家も痛手を負った。しかし、誰もがテレグラフ紙に注目した。一方、タイムズ紙では、持ち込まれたCDを断ったことで、トップが怒ったと伝えられる。

メール紙は、保守党支持だが、キャメロン伝記のように多くの読者が得られそうな記事は逃さないようだ。しかし、労働党攻撃、特に絶え間ないコービン攻撃は続く。

イギリス政治の醜い面

3月11日の首相のクエスチョンタイムは、イギリス政治の醜い面が典型的に出た。野党労働党のミリバンド党首が質問に立ち、5月7日の総選挙前の、ミリバンドとの一騎打ちの党首テレビ討論に参加しない意思を表明しているキャメロン首相をなじり、「怖気づいている(チキン・アウト)」と攻撃した。労働党議員の中に、「弱虫」を意味する鶏(チキン)の鳴き声の物マネをする人もいた。

これに対し、キャメロン首相は、スコットランド国民党SNPとの連携を否定しないミリバンド党首を「弱い」、「卑劣」だと主張した。お互いの人格攻撃だった。いずれの側からも大きなヤジが飛びかい、何を言っているか聞こえないほどだが、キャメロン首相もミリバンド党首も、どっちもどっちだ。キャメロンは、選挙に勝ち、始めた仕事を終わらせたい、国の誇りを取り戻したいと言うが、このような発言をして、国民に「誇り」を持たせるようなことができるとは思われない。

これらの発言は、保守党も労働党側も、選挙に向けての効果を考えた上のことだろう。しかし、イギリスの下院議員は、もう少しましだろうと思う人がいれば、それは誤りである。イギリスの下院議員には、ヤジ将軍のような人物が何人もおり、しかも、院内総務が指示を出して、ヤジらせている場合も多い。

しかもヤジだけではない。女性差別的な行動・ジェスチャーをする人も少なからずいる。労働党の「影の下院のリーダー」は女性だが、労働党が政権につけば、下院での発言のルールを厳しくして、議長が処分しやすくすると言う。

女性差別だけではなく、「弱い者いじめ」を下院でする人もいる。自民党の下院議員は、発言しようとして立ちあがるたびに、からかいのヤジを受けた。また、他の党の議員の発言が気にいらない場合、「看護婦」と叫ぶ議員もいる。これは、精神異常者がいるので、処置が必要だという意味である。

このような行動に対して、議員たちは、長い議論に退屈し、それを発散しているのに過ぎないという声もある。しかし、これらの態度は、下院議員が公職についている者であるというよりも、一種の与太者的な印象を受ける。

キャメロン首相の側近で、教育相だった、現院内総務のマイケル・ゴブのヤジは有名で、議長から何度も叱責された。ゴブは、保守党の同僚からは、信念のある政治家で、非常に礼儀正しい人物と考えられている。しかし、同時に、議長に叱責されているのを見ると、公職についていることを忘れているように見える。

このような行動は、ゴブも学んだオックスフォード大学のカレッジの男子学生の騒々しい雰囲気などに助長された面もあるかもしれない。もしそうならば、そのような態度事態、改める必要があろう。

いずれにしても、このような行動を許しているイギリス議会には、幻滅という言葉以外何もない。