強引な節税

昨年のパナマ文書に続き、パラダイス文書と呼ばれる書類が大量に漏えいされた。この書類で明らかにされたのは、大企業や大金持ちがタックスヘイブン(租税回避地)を利用し、税金逃れを図っていたことである。この中には、アップルや、イギリスのエリザベス女王、フォーミュラ1のドライバー、ルイス・ハミルトンなども含まれていた。いずれも不法なものではないとされるが、既存の制度を巧妙に利用したもので、本来支払われるべき税金が支払われていない。

メイ首相は、税金逃れに対するこれまでの対策と成果を語り、きちんと税が支払われねばならないと主張したが、それ以上の策には踏み込まなかった。

一方、野党労働党のコービン党首は、英国産業連盟(CBI:日本の経団連に相当する)での演説で、これらの税が支払われなければ、国民保健サービス(NHS)などの公共サービスが影響を受け、財政赤字が出れば、その穴埋めをするのは一般の国民だと批判した。

昨年のパナマ文書は、アイスランド首相の辞任につながった。また、イギリスのキャメロン首相が、父親が租税回避地に設立したトラストファンドの持ち分を売り、利益を得ていたことがわかり、キャメロン首相自身が政治家として終わりだと思ったと伝えられる。政治家には、直接関与することがあれば、大きなリスクとなりうる。

今回の漏えいは、有権者がこのような文書の漏えいに慣れてしまっており、パナマ文書ほどのインパクトはないのではないかという見方がある。恐らくそれは正しいだろう。公共放送BBCが、パラダイス文書を扱った番組パノラマを放映したが、そのインパクトははるかに小さいように思われた。

産業振興や投資促進などが複雑に絡み合い、税金の仕組みは非常に複雑なものになっている。イギリスには、王室属領などの租税回避地の存在で、その金融セクターの発展に役立ててきた歴史がある。それらを巧妙に操作し、強引な節税に走る向きは、そう簡単に減りそうにない。

ブレアのイラク戦争責任を問う下院動議

イギリスは、2003年のイラク戦争に参戦し、その後、イギリス軍はイラクに2009年までとどまった。その間、179人の兵士らイギリス関係者が亡くなった。イギリスのイラク参戦への批判はやまず、労働党のブラウン首相が、イラク参戦にまつわる徹底的な調査をするためのチルコット委員会を設け、その報告が7年後の2016年にやっと提出された。

その後の余震は今なお続いている。下院で、スコットランド国民党(SNP)らがイギリスをイラク戦争に導いたブレア首相をさらに調査すべきだという動議を圧倒的多数の反対で否決した。賛成票70に対し、反対は439票だった。

チルコット委員会は、機密文書を含め、すべての文書にアクセスできる権限を与えられ、徹底的な調査をした。さらに、その報告書で批判された人には、発表前に反論の機会を与えたため、時間が非常にかかることとなった。その報告書では、イラク参戦は、最後の手段ではなかった、大量破壊兵器を持っていたという主張は正当化されない、この参戦の準備、その後の治安計画などが不適当であったという結論を出した。イラク戦争参戦を決断したブレアが議会に意図的に誤った情報を与えたかどうかという点では、それを否定し、むしろインテリジェンス当局や軍関係者の責任を問う結果となった。

下院の議決の結果には、この委員会の報告を含め、すべてのイラク戦争関係報告書が、ブレア首相が意図的に誤った情報を与えたという点を否定している中で、さらにブレア首相の調査を行うというのはブレア首相をスケープゴートにするばかりか、政府が今後同じような過ちをしないようにするという目的から外れるという判断が表れている。

ブレア元首相の責任を問う声は未だにある。SNPの下院議員、サモンド前スコットランド首席大臣がSNPの動議をリードしたが、これは、イラクで亡くなった兵士らの関係者が、ブレアが非合法の戦争に踏み切ったために無駄死にしたと、未だにブレア訴追を求めて活動していることが背景にある。

イギリスでは、下院議員が、サージェリーと呼ばれる、地元住民らとの面談をすることが通例となっている。そこでは、それぞれの住民の問題や苦情が話される。それらの人々の圧力を受けて、下院議員が動くことが多い。それは、11月28日に放映された、下院議員のサージェリーやその背景を報道したテレビ番組でよく出ている。

イラク戦争は、イラク国民にたいへん大きな影響を与えたが、それはイギリスの政治に今でも大きな影響を与えている。