議員のリコール(解職)

ボリス・ジョンソン元首相が、いわゆるパーティゲートに関連して、首相在任中にウソ(もしくは本当ではないこと)を下院で発言したことについて下院の名誉委員会(Privileges Committee )が調査を進めている。この調査にはまだ数カ月はかかると見られているが、その結果、ジョンソン元首相が一定期間登院停止になる可能性が高まっている。

もし、登院停止期間が一定のレベルを超えれば、リコール選挙が行われる可能性があるので、その点について触れておきたい。

リコール選挙とは、2015年に設けられた比較的新しい制度で、下院議員のみリコールの対象となる。

一般に、下院議員が失職(ここでは失職の可能性を含む)する場合には以下の3つの場合がある。

  • 有罪刑を受け、それが12カ月以上の収監刑(刑務所)である場合には、自動的に下院議員を失職する。
  • 2009年議会倫理規範法10条で、虚偽などの経費請求をして有罪刑を受けた場合には、収監されたかどうかにかかわらず、失職する。
  • 登院停止処分を受け、登院停止日が10日以上の場合(ただし、会期日が指定されていない場合には14日以上)には、リコール請願過程を経て、失職する可能性がある。

以上のいずれかの場合、下院議長は、当該議員の選挙区の選挙管理者に通知し、補欠選挙、または、リコール請願過程が開始される。

登院停止処分が10日以上の場合、その選挙区の請願管理者(選挙管理者が請願管理者と呼ばれる)は、6週間、請願署名所を設け、当該選挙区の有権者の10%以上がそれに署名すれば、下院議長に報告し、その結果、議席は空席となる。そしてリコール選挙が行われるが、失職した前議員もその選挙の候補者となれる。

ジョンソン元首相の場合、選挙区がロンドン郊外の「アックスブリッジとサウスライスリップ」で、有権者数が7万あまりである。すなわち、有権者のうち、7千人余がリコール請願に署名すれば、補欠選挙が行われる。前回2019年の総選挙(この選挙区の投票率68.5%)では、ジョンソンが全体の53%ほどの票を獲得したものの、次点の労働党、そして自由民主党、緑の党など反保守党と思われる票が2万2千票余りあり、リコール選挙が行われる可能性は高い。

また、この選挙区の住民の過半数は、ジョンソンの推し進めた、ブレクシットを後悔しており、全国的に労働党が支持率で保守党に20%ほどの差をつけている中で、MRP分析をしたElectoral Calculousの分析では、野党労働党の候補者が過半数の票を獲得し、保守党は30%あまりにとどまると見ており、保守党の勝つ可能性はわずか12%としている。

すなわち、もしリコール選挙が行われれば、ジョンソン元首相が敗北する可能性は極めて大きく、ジョンソン元首相の政治生命の終わりとなるだろう。

パーティゲートでさらに苦しむジョンソン元首相

首相在任中に、パーティゲートに関連して下院で「ウソ」と言ったとして、ジョンソン元首相が下院の名誉委員会で取り調べられている。その途中報告書が発表された。パーティゲートとは、コロナ禍、人の集まる機会を厳しく取り締まっていたにもかかわらず、首相官邸などで飲酒などを伴う法律違反の集まりを開いていたという問題である。すなわち自分が作り、厳しく取り締まるよう求めたルールを、自分が破っていたというものだ。これに関連して、ジョンソン元首相は既に罰金刑を受けている。

名誉委員会の今回の報告書では、ジョンソン元首相は、下院で4回にわたり、首相官邸などの集まりは合法だったと「ウソ(mislead)」を言ったかもしれないとした。ジョンソン元首相は、自分には法律違反の認識はなく、しかも自分周辺の役人からもそのようなアドバイスは受けなかったと主張し続けている。しかし、名誉委員会は、ジョンソン元首相は、自分の発言が誤りであったにもかかわらず、これまでそれを訂正しようとしていないとも指摘している。

ジョンソン元首相は、パーティゲートをはじめとする数々のスキャンダルで首相辞任に追い込まれたが、カムバックを模索している。3月下旬に名誉委員会に出席して口頭で質問に答えることになっているが、もし、ジョンソン元首相が「ウソ」をついたと認定されれば、ジョンソン元首相は、一定期間の登院停止、さらには下院議員を失職する可能性もある。

名誉委員会ができることは、下院に処分を勧告することであり、最終的には下院の投票で処分が決まる。多くの保守党下院議員にとっては、そのような投票は極めて厄介なものとなるだろう。保守党は、下院の過半数を大きく上回っており、そのような勧告を拒否することは可能であるが、もし、名誉委員会の勧告に賛成しなければ、既に保守党の支持率が労働党に大きく水をあけられている中、有権者が勧告拒否の保守党下院議員にさらに厳しい目を向けるかもしれない。ジョンソン元首相は、非常に知名度が高く、それが諸刃の剣となっている。なお、ジョンソン元首相は、2022年7月の首相辞任以来、既に500万ポンド(8億円)以上稼いでいるとされる。次期総選挙で、現在の自分の選挙区では勝てないと、選挙区替えを模索していると伝えられるが、政治家として生き残っていけるかどうかは、この名誉委員会の最終判断に大きく左右される。