情報収集、取り締まりから容疑者の特定、裁判までの徹底強化で、暴動の終息をはかる英国政府

英国のイングランドと北アイルランドで発生している反移民・反イスラム教を念頭に置いた極右らの暴動は、今もなお続いている。暴動は、7月29日にウガンダ人を両親に持つ、英国生まれの17歳の男が3人の子供を刺殺した後、7月30日に始まり、続いている。それでも、政府は、峠を越したと見ているようだ。暴動に参加した、若しくは関係したと見られる人たちは、現行犯逮捕された人たちだけに限らず、映像やソーシャルメディアの分析を通じて次々に逮捕されている。

例えば、8月5日に出廷した容疑者は、ガーディアン紙の記者によると、14歳から69歳まで様々な年代層に及ぶ。その中には、ティーサイド治安裁判所に出廷した1歳の子供を持つ21歳の母親がいる。敷石を警察に投げつけた人にその敷石を渡したことで、次に出廷する9月2日まで拘留されるという。また、シェフィールド治安裁判所に出廷した30歳の男は、棒をふるって女性に脅迫的な行動をしたとして、次の出廷日の9月20日まで拘留されるという。

スターマー首相らは、警察、検察、裁判所、さらに刑務所も含めて、政府全体で体制を構築し、暴動に関与した人は、オンラインで暴動を煽った人も含めて迅速に逮捕し、容疑をかけ、裁判にかけ、厳しい刑を科し、刑務所に送っている。8月6日には、既に2か月の禁固刑を受けた人がいる。また、オンラインで暴動を煽った1人は逮捕された。さらに国外からオンラインで暴動を煽った人には、その居場所の国に引き渡しを求め、処罰する体制も設けたようだ。さらに検察は、暴動に関わった人にも厳しい刑の課されるテロリズム法の適用をする場合があると警告した。その上、ソーシャルメディアの責任は大きいとして、法的な整備を進めており、ソーシャルメディアへの圧力もさらに強める構えだ。

なお、顔認識システムを使うことに批判的な声もあったが、公共放送のBBCを含めて、顔認識の分析をして容疑者の特定をしており、今回の暴動を通じて、政府の治安への対応は、コミュニティを守ることを最優先に、大きく変わろうとしているようだ。

興味深い例もあった。極右らに対抗するイスラム教の人たちを中心にしたグループが、極右の集会の情報を受けて、イスラム教寺院を守るなどのために対抗して集まる例がある。バーミンガムでは、何百人も集まり、極右の集会は実際にはなかったが、近所のパブで極右の人たちが集まっているという偽情報を受けて、窓ガラスが割られたという話があった。そのため、近所のイスラム教寺院が謝罪し、弁償を申し出るという出来事もあった。もちろん警察があらゆる角度から取り調べを行い、逮捕された人もいた。

8月7日には、30以上の極右らの集会が予定されているとされる。暴動対策の基本的な体制構築の終わったスターマー政権がどのように対応するか見ものである。

2011年夏の暴動から学んだこと

暴動はかなり広がっている移民や日常生活に対する一般の人たちの不安や反感に火をつけた、一部の極右の行動に端を発した暴動はまだ社会そのものを揺るがすほどのものではないが、スターマー首相が、その火消しの先頭に立っている。スターマー首相は、もともと人権弁護士だったが、選ばれて2008年から2013年まで検事総長(イングランドとウェールズ、なお、スコットランドと北アイルランドは異なる制度)だった。検事総長だった時、イングランドに2011年8月の暴動が起きた。その際に、暴動に直接対応した経験がある。

2011年の暴動の際には、3000人を超える容疑者を扱った。2011年の暴動の分析で興味深いのは、容疑者の27%が、10歳から17歳であり、26%が18歳から20歳であったことだ。一方、40歳以上の割合は、わずか6%だったという。また、容疑の半分は強盗だったという。なお、今回のケースでは、11歳の子供が警察の車に放火した疑いで逮捕されている

スターマーが、2011年の暴動の対応で重要だと思ったのは、容疑者をスピーディに逮捕していくことだった。容疑者にとっては、刑期の長短よりも、捕まるかどうか、刑務所に入れられるかどうかの方がもっと大きな関心だというのである。捕まりそうだと思えば、行動に出るのに消極的になるのだろう。これは、恐らく、2011年には容疑者の半分以上が20歳以下であったことと関係がありそうだ。

もちろん2024年に起きている暴動は、2011年とは異なる。それでも、暴動の中核になる可能性のある人たちを次から次に逮捕し、収監していくことは、暴動を抑える目的では、大きな手段になるだろう。さらにソーシャルメディアなどの対策も必要だ。

下院議員の中には、夏季休暇中の下院を呼び戻して議論すべきだという見解もある。しかし、それよりも、現在の状況を一刻も早く収束させることの方がはるかに大切で、それに精力を傾けるべきだと思われる。少なくとも、スターマー首相が同じ問題の経験者で、トップダウンで暴動対策に取り組んでいることは、不幸中の幸いと言えるだろう。