ロシア制裁に手詰まり状態のイギリス

マレーシア航空MH17がウクライナ東部の、ウクライナからの分離を求める親露派の支配する地域の上空で撃墜されたのは717日である。ロシアに武器並びに技術支援された親露派の仕業で、ロシアが深く関わっているのは間違いないが、イギリスはじめ、EU諸国のロシアに対する制裁はなかなか意見がまとまらない。この事件の起きる前から既に制裁ではアメリカに後れをとっていたが、追加の制裁はロシアにダメージを与えるだけではなく、それぞれの国への経済的なダメージにつながるからだ。

威勢のいいことを主張するキャメロン首相は、ロシア制裁のロンドンのシティに与える影響を恐れており、ドイツとイタリアはロシアからのガスと石油に頼っている。フランスはヘリコプター輸送船のロシア納入が迫っており、それに手をつけることは多くの失業につながる。今回の事件で298人のうち大半の死者を出したオランダはロシアとの経済関係が深く、強い立場に出るのは困難だ。

先週の組閣で新しく外相に就任したフィリップ・ハモンドが、国防相時代の今月初めに下院の防衛委員会に出席して発言した。ロシアは、一人の人物が複雑な問題の決断を文字通り寸時に行うことができるが、イギリスは民主主義国であるために戦略的な弱みがある、しかし、それが最大の強みでもあるという。NATOでは全参加国の理解を求めるために決定に時間がかかり、民主主義では時間がかかるが、モラル的に優位に立つなどその利点があるという。 

忘れてならないのは、民主主義国では、政治家は失敗を恐れ、重要な決定を先延ばしする傾向があることである。必ず勝てると思われるものにしか手を出さない傾向があり、しかも早く、安上がりに結果を求める傾向がある。今回の例でいうと、自分たちの国をできるだけ傷つけないようにとの配慮である。これは政治家にとっては一種の「恐れ」とでも言えることだろうが、これがEU諸国の制裁への動きにブレーキをかけている。

ただし、これがすべて悪いかというと必ずしもそうとは言い切れない。国の関係は、現在の国際社会では非常に入り組んだものとなっている。かなり長期間にわたるものであり、お互いが何らかの理解できる接点を見つけ出そうとする努力の中に将来への希望を見出すことのできる可能性があるからである。もちろん今回の撃墜事件の被害者関係者にとっては、大きな不満の残るものであろうが。

ストライキ制限を求める保守党

保守党は、来年57日に予定されている下院の総選挙のマニフェストでストライキの制限を盛り込むことを発表した。なお、連立を組む自民党は賛成していない。

この基本的な考えは、既にキャメロン首相が明らかにしているが以下のとおりである。 

  1. 組合員の最低投票率を50%とする。つまり、半分以上の組合員が投票し、その過半数が賛成しなければその投票は無効となる。現在は、投票率にかかわらず、過半数が賛成すれば成立する。
  2. 何に投票するかをはっきりとさせ、いつどのような行動を取るかを明記させた上で賛否を問わせる。
  3. 賛成の投票結果が出ても、その効果は3か月のみとする。この7月の公共セクターの大規模ストライキであったように教員組合(NUT)の2012年の投票が今でも有効であるのに歯止めをかけるものである。NUTは過去1年間で3回ストライキを実施した。
  4. 雇用者への告知期間を現在の7日から14日に延ばす。
  5. ピケのルールを強化する。

2013年にストライキで失われた勤労日は443600日で、2012年の2倍近い。しかしながら1970年代の年1300万日や1980年代の年700万日などと比べるとかなり少なくなっている。しかしながら、特に公共セクターのストライキの経済に与える影響はかなり大きなものとなっている。 

もし最低投票率を50%にすれば過去4年間に行われたストライキの3分の2は実施されなかったと見られている。また、それぞれの組合の過激派に組合全体が引きずられるのを防止しようという考えもある。

これらに対して、労働組合会議(TUC)は、既に民主主義国の中では最も強いストライキ法の一つで、これでは労働者の雇用者側との交渉で非常に重要なストライキを実施するのは極めて困難になる。現在の投票は、それぞれの組合員の自宅に投票用紙を郵送しなければならないことになっているが、それを改め、コンピュータやスマホなどでも投票できるように改善すべきだなどと反論した。

保守党は、このストライキ法の強化を総選挙の争点の一つとして取り上げる構えで、特に改正の必要を認めていない労働党との差別化をはかる材料の一つとする考えのようだ。