予算後の世論調査(Opinion Polls After the Budget)

3月24日のサンデータイムズ紙/YouGovの世論調査では、キャメロン政権が3月20日の予算で狙った効果がかなり出ているように思われる(参照http://ukpollingreport.co.uk/http://yougov.co.uk/news/2013/03/23/budget-report-card/ )。

まず、所得税の個人課税最低限度額を上げたことに89%の人が賛成している。政府の住宅ローン保証は50%の人が賛成(28%の人が反対)している。これらの目玉政策に支持が集まっている。

予算で最も利益を受ける人は、39%の人が家を買おうとする人だと答えている。36%が金持ちと言うが、経済活性化策の目玉を理解している人が多い。3番手が22%の小企業で、4番目に大企業、低所得者、働いている両親がいずれも19%で続くがが、今回の予算で小企業向けの、新しく人を雇えば国民保険(National Insurance)を2000ポンド(29万円)免除する制度がある程度知られているようだ。

最もこの予算で悪い影響を受けるのは、24%の人が公共セクターの勤労者と言い、2番目の22%が福祉手当を受けている人と言う。公務員は昇給が1%でインフレ率よりもかなり低い上、勤続年数による昇給がストップされた。公務員が民間よりも給与が高いという批判があり、しかも福祉手当受給者には怠け者が多いという批判がある中では、政府の送りたいメッセージをそのように受け止めている人が多いということを示している。

全体的には、キャメロン政権が現在の経済的な苦境から抜けだせると考えている人は33%と先週の世論調査の29%をやや上回り、また政府の経済戦略が効き始めた、もしくはすぐに効き始めると考える人が24%と先週の19%から増えている。

最も興味深いのは、オズボーン財相への評価がわずかに上がっていることだ。財相として留まってほしいと言う人が先週の17%から27%にアップした(46%が替えるべきだと言うが)。3月22日に発表されたものだが、予算発表後のYouGov/Sunの世論調査で、誰がよりよい財相かという質問に対して、オズボーン財相と言う人が31%、労働党のボールズ影の財相と言う人が25%である。オズボーン財相は密かにほほ笑んでいるに違いない。

 

ちぐはぐなキャメロン政権(Cameron’s Disjointed Administration)

キャメロン政権の政策と戦略がうまく機能していない。キャメロン政権では、このような問題が当たり前になってきており、次第に深刻さを増しているように思われる。

例えば、3月20日のオズボーン財相の予算である。この予算の景気刺激策の中心は、住宅市場の活性化である。これは、英国人の住宅所有指向を考えれば、極めて妥当な政策といえる。英国は極めて厳しい経済状況の中にあり、さらにキプロスの財政危機が表面化し、ユーロ圏に大きな暗雲が立ち込め、英国の経済にも悪影響を与えると見られている。英国の住宅ブームは英国の経済成長をこれまでにも大きく押し上げてきたことから、低調な住宅市場に刺激を与え、国内で経済成長を図る原動力とする考えは妥当だろう。問題は、この政策を生煮えで出したことである。

1300億ポンド(約19兆円)の住宅ローンの政府の保証を巡っては、財務省と内閣府がこれまで数か月にわたり、業界と調整してきたが、詳細の合意ができていないという。問題の一つは、このプログラムを実施するコストをどうするかという問題である。業界の中には、この政策の効果を疑う声もある。

来年1月から開始することを考えれば、今の時点ですべての詳細が決まっていないことは理解できるかもしれないが、今回の予算の目玉政策であるにもかかわらず、財務省がこの制度がどのように機能するかの問い合わせに十分こたえられなかった。オズボーン財相は、キャメロン首相のチーフストラテジストである。キャメロン首相の最も重要なサポート役であるが、これではキャメロン首相をきちんとバックアップしているとはいえないだろう。

実はこのような例はキャメロン首相にとって枚挙にいとまがないほどだ。いくつか例を挙げてみよう。

  • プレス自主規制機関の交渉:キャメロンが、3月14日、主要三党間の考え方の違いが大きすぎ、これ以上話し合いを続けても意味がない、18日に下院の投票で決着をつけると交渉を突然打ち切った。ところが、連立政権をキャメロンの保守党と組む自民党が野党労働党と組んで案を発表し、しかも保守党の20名程度の下院議員が投票で自民・労働党案に賛成することがわかり、保守党の敗色が濃厚となった。急きょ方針を転換し、主要三党間の交渉を再開し、合意案を18日の早朝にまとめた。
  • アルコール最低価格制限:キャメロンは、若者らの大量飲酒の問題や一般人の健康を考慮し、アルコール価格の最低制限を導入すると明言したが、担当の内相をはじめ、多くの反対があり、その導入を中止した。担当者らときちんと相談せずに政策を進め、先走りした。
  • 電気ガス費の問題:電気ガスの料金計算表の種類がいずれの会社にも非常に多く、消費者はどれが自分に最もふさわしいか、最も安いか分からない、既存の消費者が電気ガス会社に食い物にされているという批判に対し、キャメロンは、消費者が最も低い料金を払えるようにすると明言した。ところが、担当のエネルギー大臣はそれを知らず、しかもエネルギー・気候変動省も答えに窮した。これも上記と同じ問題である。
  • 運輸大臣の任命:ロンドンのハブ空港であるヒースロー空港はキャパシティがほとんど満杯である。新興経済圏との直接アクセスを増やすためにもロンドン近辺の空港のキャパシティを急速に拡張する必要があるが、ベストはヒースロー空港の拡張だと考えられている。ところが、この空港に近い空路の下の選挙区から選出されている保守党の下院議員で、空港拡張の反対キャンペーンのリーダー格の人物を運輸大臣に任命した。キャメロンも拡張絶対反対なら特に問題ない人事だろう。保守党は2010年の総選挙で反対を訴えたために次の総選挙前にそれを変更することは難しいが、今ではキャメロンは賛成である。その数か月後に行われた内閣改造でこの大臣は他の省へ移されたが、慎重に検討せずに人事を進めたことが明らかとなった。

以上のようなことから明らかになっているのは、まず、キャメロン首相周辺の判断力に疑問があることである。しかも、キャメロン首相周辺と省庁との連携がうまくいっていない。首相がきちんとした仕事を行うにはしっかりとしたサポート体制がなければならないが、これに深刻な問題があるようだ。