2024年7月4日の総選挙の前に主要政党は、マニフェストを発表している。野党第一党で、総選挙で勝利する見通しの強まっている労働党のマニフェストには、英国の上院(貴族院)改革がある。
英国は、民主主義の一つのモデルとされている。二院制で上院と下院(庶民院)があるが、その上院の議員は公選(一般有権者の自由投票)で選ばれていない。これは長い間、論争の種となってきた。
上院議員には3つの種類がある。
(1) 一代貴族に任命された者
(2) 英国国教会の要職にある僧侶
(3) 世襲貴族。
なお、上院議員には、年俸はなく、議事に出席した場合に日当が出る。
これまで上院と下院の関係や上院の在り方を巡っては、様々な論争が繰り広げられてきた。近年では、1997年の総選挙で地滑り的大勝利を勝ち取った労働党のトニー・ブレアはそのマニフェストで上院の改革を掲げ、「上院における世襲制を廃止する」とした。すなわち、「世襲貴族が上院に議席を持ち、投票する権利を廃止する」としたのである。これは上記の(3)の変更を意味した。
しかし、実際にブレア政権で実施したのは、他の政党と合意できた、世襲貴族の数を92に制限し、世襲貴族内の選挙で上院議員を選ぶことであった。そして上院の在り方を諮問する機関を設けて、検討することとしたが、上院と下院の意見が合わず、結局、1997年から2010年の労働党政権では、結論が出せなかった。
2010年総選挙で保守党が最大政党となったが、過半数を獲得できなかったために野党第二党の自民党と連立政権を組んだ際、自民党の要求で上院の改革を模索した。しかし、80%の議員を公選で選ぶ案に保守党下院議員の多くが反対し、結局諦めることとなった。
そして今回、労働党のマニフェストで、「世襲貴族の議席と投票権を廃止する、さらに議会末に80歳に達した者は引退を義務付ける制度を導入する」とした。長年存在してきた制度の改革は簡単なことではない。英国は君主国で、貴族がおり、また、君主が英国国教会のトップであることが問題を複雑にしている面がある。しかし、労働党の改革案は、上院の抜本的な改革案ではなく、実現できる可能性が高いように思われる