イギリスのEUとの離脱交渉は、大きな分岐点にさしかかった。この12月のEU首脳会議で、これまでの交渉で十分な進捗があったかどうかが評価される。もしあったと認められれば、第二段階の交渉に移れるが、もしそうでなければ、第二段階の交渉はさらに先になる。
交渉プロセス
1. 第一段階の交渉
- イギリスでのEU市民の権利(EU加盟国でのイギリス市民の権利を含む)
- EU離脱に伴う、イギリスの支払う清算金
- イギリスとEUとの新しい「国境」となるアイルランド島の北アイルランドとアイルランド共和国との境界の取り扱い
2. 第二段階の交渉
- 貿易を含めた将来の関係
イギリスは、2016年6月の国民投票でEUから離脱することを選択した。しかし、イギリスとEUとの交渉は決して対等のものではない。イギリスは、EU28か国のうちの1国に過ぎず、経済力も人口の面でも、他のEU27か国全体と比べるとはるかに小さい。そのため、交渉は当然EU主導となる。もちろんEU側は、イギリスに多くのEU市民が住み、働き、イギリスを生活の基盤にしている人も多いこともあり、イギリスがスムーズに離脱し、経済的にも政治的にもEUとイギリスとの良好な関係を維持する方がよいことは十分に承知している。しかし、イギリスの要求に屈服するような形での離脱は絶対に避けたいと考えている。すなわち、EU内の利害と結束を最も重視するという立場だ。
ただし、ここで考慮に入れておかねばならないのは、時間的な制約である。2017年3月末にイギリスはEU側に離脱通知を送ったが、離脱交渉期限は2年間と定められている。すなわち、2019年3月末にイギリスはEUを離脱することとなる。2年の後、一定期間の移行期を設けるにしても、それを設けるかどうかの交渉もそれまでになされておく必要があり、そのためには、かなり具体的に将来の関係がどのようなものとなるかの合意が必要である。問題は、この12月に第二段階への交渉への移行が合意されないと、交渉時間が本当になくなるということである。次のEU首脳会議は2018年3月であり、EU27か国の合意や欧州議会の合意を得るためには、2018年秋までに交渉の合意がなされておく必要があり、将来の関係の交渉期間が半年ぐらいになってしまう。この複雑な交渉をその期間で実施するのには、大きな疑問がある上、ビジネスの投資は、1年以上前になされる傾向があることから来年3月から将来の関係交渉を始めるのでは遅すぎると見られている。
そのため、メイ政権は、12月の第二段階交渉開始のために、最大の努力をしている。第一段階の交渉の中で最も大きな問題は、イギリスの清算金支払いであったが、その額も、EU側の額に大きく近づいてきた。ところが、アイルランドの国境問題で、アイルランドが態度を硬化させ、イギリス側からはっきりとした保証がなければ、第二段階の交渉に入ることに意義を唱えると主張し始めた。このアイルランドの要求は、至極当然の物であろう。メイ政権や保守党内の強硬離脱派は、これまでこの問題を軽んじていた傾向がある。
さらに保守党内を中心とした強硬離脱派らは、メイ首相に、巨額の清算金を支払うことに対して、メイ首相がそのまま飲めないような条件を突きつけた。
メイ首相にとっては、12月4日のユンケル欧州委員会委員長との会談で、12月に第二段階の交渉開始を決めたかったと思われるが、まだ多くの難問がある