ジョンソン首相の結婚式で浮き彫りになった「特権階級」

ボリス・ジョンソン首相と婚約者のカリー・シモンズが2021年5月29日に結婚式を行った。この結婚式は、秘密裏に準備され、行われた後、英国では大きく報道された。なお、英国では、結婚式の少なくとも29日前に登記所に届け出る必要があり、この結婚式が急に計画されたわけではないと思われる。

カリー・シモンズの友人たちは、この結婚式は、シモンズがカミングスに勝利したことだなどと主張している。これは、5月26日にジョンソン首相のトップアドバイザーだったドミニック・カミングスが、下院の委員会で、ジョンソンは首相にふさわしくない、シモンズが英国の政治の妨げになっており、自分の友人たちを首相官邸の仕事につけようとしている、倫理的にも法律的にもおかしいなどと批判したことを指している。

ただし、この結婚式そのものが、かなり異例だ。最初にこのニュースを聞いた時、結婚式がウェストミンスター大聖堂(Westminster Cathedral)で行われたと聞いて、おかしいと感じた。ウェストミンスター寺院(Westminster Abbey)の誤りではないかと思ったのである。ウェストミンスター大聖堂は英国のイングランドとウェールズのカトリックの中心となる教会であり、2度の離婚を経験しているジョンソン首相がカトリックの教会で結婚できるとは思われなかったためである。なお、ウェストミンスター寺院は、イングランド国教会の教会である。

カトリックでも、再婚できないわけではないが、相手が生存中はできないことになっている。ジョンソン首相の場合、これまでの2度の結婚の相手二人とも生きている。

これについて、ウェストミンスター大聖堂は、何ら問題はないとの立場である。関係者は、ジョンソン首相のこれまでの結婚は、カトリック教会で行われたものではなく、カトリック教会の認めるものではない、それゆえ、問題はないという。

ただし、この説明は、一般に行われているものではない。カトリックの神父からも、日ごろ、離婚したら再婚できないと話しているのに、という声が出た。またジョンソン首相に適用されたのなら、他のケースにも当てはめるべきだという意見がある。

ジョンソン首相とシモンズは、おカネの問題で、何かと批判の対象となっている。首相官邸の庭で行われた披露宴は30人以内のコロナ制限を守り、質素に行ったように見せている。しかし、カトリック教会での結婚式は、ジョンソンが首相であるために特別に認められたという印象が免れない。首相の特権を利用したように見られかねない結婚式は意図に反して逆効果のように思われる。

ハンコック厚相の弁明

2021年5月26日に開かれた下院の2委員会合同委員会での、首相のトップアドバイザーだったドミニク・カミングスの7時間にわたる証言の中で強く批判されたマット・ハンコック厚生・社会ケア相が、5月27日に労働党の影の厚生・社会ケア相が求めた緊急質問に立ち、下院議場で議員たちから質問を受けた

カミングスは、5月26日の委員会での証言で、以下のような主張をした。

1.ハンコック厚相は、政府部内でも公でも嘘をつくので更迭すべきだと、当時の内閣書記官長(Cabinet Secretary)とともにジョンソン首相にアドバイスしたが、首相は更迭しなかった。これは、ジョンソン首相が、ハンコックが現在のポストにいると、政府のパンデミックへの対応について早晩行われる見込みの公的調査で、ハンコックに責任をかぶせられると言われたからだと主張した。

2.昨年春、ハンコックが、病院のベッドを空けるため、入院中の高齢者約2万人をケアホームに送り返したことについて、厚相が、カミングスとジョンソン首相に、PCRテストをきちんとして退院させると請け合ったが、実際にはPCRテストはあまり行われず、その結果、ケアホームでコロナウィルスが広がり、何万人もの人が亡くなったと主張した。

これらの批判を受けて、ハンコックは、5月27日の下院では、具体的な話には一切触れず、自分の誠実さに関する主張は本当ではないとし、カミングスの証言は、「裏付けのない主張」だと一蹴した。しかし、5月27日夕方に行われた首相官邸でのハンコックによる記者会見では、質問がケアホームでの死者の問題に集中した。ハンコックは、自分が首相らに高齢者の退院前のテスト実施を約束したかどうかに触れることなく、PCRテストの実施能力を高める必要があったと繰り返し述べるにとどまり、テストをほとんどせずに約25000人を病院からケアホームに移し、それが一因でケアホームでの死者数が42000人にも上ったことについては触れなかった。

ハンコック厚相の苦難はまだ始まったばかりと言えるかもしれない。