ジョンソン首相のトップアドバザーだったドミニク・カミングスの証言

2021年5月26日午前9時30分、下院の二つの委員会が合同開催した委員会で、ボリス・ジョンソン首相のトップアドバイザーだったドミニク・カミングスの証言が始まった。終了したのは午後4時35分。7時間にわたり、15分ほどの休憩2回をはさんでぶっ続けで行われた。二つの委員会の委員長たちが3つの課題を交代して委員長を務めたが、その2人とカミングスの計3人が7時間つきあったのである。委員会の他のメンバーはソーシャルディスタンスの制限で次々に入れ替わって質問し、もしくはインターネット会議で参加した。この委員会に出席した委員たちは、既に聞かれた質問を繰り返す人も多かったが、遠隔で参加する人が多かった上、長時間にわたったため、やむを得ないと思われる。筆者は、この委員会の最初から終了までテレビで非常に強い関心をもって見た。その結果、むしろ、カミングスの真摯さに胸を打たれることとなった。

カミングスは、2019年7月にジョンソン首相が保守党の党首になってから2020年の11月に辞任するまでジョンソン首相のトップアドバイザーを務めた人物である。その立場上、首相官邸の中の司令塔として出来事を把握していた。カミングスは、英国のEU離脱に大きな役割を果たした。2019年に、テレビドラマBrexit:Uncivil Warでベネディクト・カンバーバッチがカミングスを演じている。このドラマでは、カミングスが離脱のコンセプトを生み出すのに苦しむのが描写された。そしてカミングスは「Take back Control(コントロールを取り戻す)」というスローガンを生み出した。これは、EUから離脱することで英国が国のコントロール権を取り戻すという意味である。そしてソーシャルメディアのデータベースを活用し、2016年のEU離脱の国民投票では、当初の予想を覆して52%対48%で離脱派の勝利に導いた。カミングスは、このドラマの中で目的にまい進する非常に能力の高い変わり者と描かれている。

EU残留派から離脱派に転向したジョンソンは、この国民投票の結果で、首相になれた。前任のメイ首相辞任後の首相に就任した2019年7月にカミングスをそのトップアドバイザーとしたのである。

さて、5月26日の委員会でカミングスが明かした内容は、衝撃的だった。かつてメイ政権などで閣僚の経験もある両委員長もその内容に驚いたように見えた。カミングスは、マイケル・ゴブ(ジョンソン現内閣閣僚)がキャメロン政権で教育相だった時に7年ほどスペシャルアドバイザーを務めたことがあるが、英国の官僚制度に非常に批判的で、ジョンソン首相のトップアドバイザーとなった後、官僚制度の改革は、そのトッププライオリティの一つであった。その観点から、官僚制度を真二つに切って捨てるもので、パンデミックの対応で機能不全に陥った官僚機構、官僚の行動様式と採用方法の根本的な改革の必要性を明らかにするものであった。筆者には、カミングスの分析は、英国の官僚制を見る上で、また日本の官僚制度が学べるものの「宝庫」だと感じた。

カミングスのこの委員会での狙いは、パンデミックのような大きな危機が生じた場合の対応で、このような失敗が二度と起こらないように、何千、何万人もの人が必要なく亡くなることがないようにしたいということだった。自分も首相のトップアドバイザーとして、国民が期待するレベルではなかったとして繰り返し謝罪したが、ジョンソン首相と直接の担当者だったハンコック厚相への批判は極めて強いものだった。

ここで見ておかねばならないのは、首相の問題だ。ジョンソンが首相になる前、保守党の議員も含めて、多くがジョンソンは選挙にはいいが、首相の器ではないと指摘していたが、それがはっきりと表れた。カミングスが使った表現で面白いのは、ジョンソン首相が考えをくるくる変える表現として、スーパーマーケットでの買い物で購入したものを入れるトロリー(ショッピングカート:鉄製の大きな押し車)が、押されて片方の壁にガチャ―ンとぶつかり、また違う方向に押されて反対の壁にガチャ―ンとぶつかるようなものだとした点だ。筆者は、首相が方針をくるくる変えると、政府のメカニズムがその方向で動き出し、そのためにそう簡単に止まれず、大きなショックがそのたびごとに生まれるということを表現したのではないかと感じた。いずれにしても、ジョンソン首相の判断能力、もしくは決断できない能力にスポットライトがあたった。

さらに、ジョンソン首相の婚約者の問題だ。ジョンソン首相は、二人目の妻と離婚し、今は首相官邸に婚約者と住んでいる。この婚約者との間には1歳の子供がいる。この婚約者はもともと保守党の本部で広報をしていた女性で、この女性が、ジョンソン首相に様々な問題を起こしていることが改めて浮き彫りになった。

カミングスが首相のトップアドバイザーを辞職したのは、この婚約者カリー・シモンズとの関係が悪化したためである。2021年4月に保守党支持紙らが首相官邸の様々な情報を漏らしていたのはカミングスだと伝えた(これをブリーフィングしたのは、ガーディアン紙が首相自らだったと伝聞形で報道している)。この報道に対して、カミングスが自分ではないと反論したが、そのブログの中で、その情報漏洩の一つは、内閣書記官長(Cabinet Secretary:官僚トップ)が調査し、首相官邸で働いている人物だと特定したそうだ。それをジョンソン首相に報告したところ、その人は自分の婚約者の親しい友人だとして、それ以上調査しないよう求めたという。今回の証言でも、カミングスはこの婚約者は、自分の友人たちを官邸での仕事につけようとして他の人の採用を妨害した、違法の可能性があるとも述べている。そのほか、首相の2020年12月の西インド諸島へのホリデーの問題や首相住居の改装に伴う個人負担部分のおカネの出所問題などジョンソン首相の金銭問題にまつわる問題がある。これらには公式の調査が進んでいるが、56歳のジョンソン首相は自分よりも20歳以上若い婚約者に振り回されている感が強い。今回の証言でも、パンデミックの対応でロックダウンするかどうかの瀬戸際の昨年3月12日、アメリカから中東爆撃の機密情報が入ってきて対応せざるを得ない中、首相の婚約者がタイムズ紙に書かれた自分たちの犬のことで首相官邸の広報に対応を求めてきて、このような些事にも対応せざるをえなかった官邸の状況が述べられた。

カミングスのジョンソン批判の中心は、昨年9月に自分も含めて、政府の役職に就いている科学者らが揃ってロックダウンを求めたのに、ジョンソンがそれを拒否したことだ。結局、10月末までロックダウンは行われなかったが、それまでの間に何万人もの人が亡くなった。

ジョンソンは、(経済に大きな影響を与える)ロックダウンはしたくないと主張し、死体が山のようになってもかまわないと叫んだと伝えられる。この言葉はこれまでも何人ものジャーナリストが報告しているが、カミングスも委員の質問に答えて確認した。筆者がカミングスの証言の休憩時間に、毎週水曜日正午の「首相への質問」があったのでそれを見ると、ジョンソン首相が、ワクチン接種がうまくいっていることが大切で、将来を見るべきだと繰り返し主張していた。「科学者のアドバイスに従って決定する、人の命が大切だと」言いながら、実際には、科学者のアドバイスに反した判断をし、しかも人命を軽視する発言をしていることは「首相の器」に大きく影響すると思わざるをえない。

Comments are closed.