5月5日の選挙

2016年5月5日(木)には、下院の補欠選挙、分権議会選挙、ロンドン市長選と議会選を含むイングランドでの市長選、地方議会選挙、イングランドとウェールズの警察犯罪コミッショナーの選挙が行われる。

下院の補欠選挙は2選挙区で行われるが、いずれも労働党の強い選挙区で、労働党が勝利を収めるのは確実。シェフィールドの選挙区では、2015年5月の総選挙で当選したばかりの議員が亡くなったために行われる。後継者は、亡くなった議員の妻で、地域の議会議員として経験豊富な人物である。また、ウェールズの選挙区では、中央政府の役職も経験した現職の下院議員がウェールズ議会議員に立候補するために辞職し、行われるものである。ちなみにウェールズ議会議員は下院議員と比べると格下で、議員報酬も少ないが、この人物は次期ウェールズ首席大臣のポストを狙っていると憶測されている。これらの補欠選挙は労働党の勝利が確実視されていることから、メディアでは余り注目されていない。管区ごとの警察を監視する40の警察・犯罪コミッショナーの選挙も低調である。

この中で最も注目されているのが、イングランドの地方議会議員選挙で労働党がどの程度の結果を収めるかである。2015年9月に労働党の党首に選ばれたジェレミー・コービンの評価がこれで決まるとの見方もあるが、前回の2012年には、労働党の支持率が保守党よりはるかに高かったため、前回と比較するのは酷だとの見方もある。124の地方議会で、2743議席が争われるが、保守党が30から50程度の議席増を予想されているのに対し、労働党は、100から200議席程度失うと見られている。しかし、コービンは議席が減らないと強気だ。それでも、労働組合最大手のユナイトのトップは、反コービン派の労働党下院議員たちがコービンの立場を弱くしようと画策しているとして名指しで批判するなど反撃に出ている。

労働党下院議員の多くは、キャメロン保守党政権が苦しみ、批判されている時に、労働党がその党勢を改善できないのはおかしいと見ている。保守党は、欧州連合(EU)に残留するか離脱するかの国民投票で分裂しており、キャメロン政権は、タタ製鉄の撤退問題、国民保健サービス(NHS)の財政や若手医師の契約問題、さらには初中等教育の改革などで大きな批判を浴びている。しかし、ユダヤ人差別の問題への対応で、コービンは労働党内外から、特にユダヤ人関係の影響力の強いメディアから強く批判されており、連日のメディア報道からの防戦に躍起になっている状態だ。それでも、選挙結果予測は、主に全国的な世論調査に頼っており、それがどの程度地方議会選挙の結果に反映するかには疑問がある。

スコットランドでは、政権を担当するスコットランド国民党がさらに議席を増やす勢いである。注目は、第2位の座を労働党が守ることができるかどうかだ。ウェールズでは、60議席中30議席を持ち、これまで政権を担当してきた労働党が数議席失う状態だ。ただし、保守党は、タタ製鉄ウェールズ製鉄所の問題で、初期対応を誤り、雇用不安を招いていることからウェールズで批判を浴びており、保守党も議席を減らす見通しである。これらの影で健闘しているのが、地域政党のプライド・カムリとイギリス独立党(UKIP)である。プライド・カムリは、保守党を追い越し、第2位の議席を獲得する構えだ。また、この分権議会の選挙は、小選挙区と比例区のある小選挙区比例代表併用制であり、これまで分権議会で議席を獲得したことのないUKIP(北アイルランドで当選後UKIPに入党した議員はいる)は、比例区で6もしくは7議席を獲得すると見られている。

さらに注目されるロンドン市長選(日本の東京都知事選にあたる)では、労働党のサディキ・カーン下院議員が当選確実な状態だ。カーン議員は、パキスタン移民の子で、イスラム教徒である。