新教育相ナディム・ザハウィ

2021年9月15日、ジョンソン首相は、ナディム・ザハウィを新しい教育相とした。多くの人がこの人事を歓迎している。前任者がコロナパンデミックの中、教育行政に混乱を起こしたと考えられているからだ。ザハウィは、2020年11月にジョンソン首相からコロナワクチン接種担当相として指名され、非常にスムーズにワクチン接種を実施した人物である。その実績を買われ、教育行政の立て直しの仕事を託された。なお、かつて教育省で子供家族担当相だったことがある。

ザハウィは、起業家として知られ、「生まれつきのオーガナイザー」と評価する人がいる。その一人は、作家のジェフリー・アーチャーである。この点では、拙稿の「成功する首相の要件」の中の「適切な人を選ぶ」という点に当てはまるだろう。

ザハウィは、1967年6月2日にイラクのバグダッドで生まれたクルド人だ。祖父はイラクの中央銀行の総裁も務めた人物で、ビジネスマンの父と歯科医の母の間に生まれた。ところが、9歳の時、サダム・フセインが政権を握り、自分たちの身に危険が迫ったため、家族で英国に難民として渡った。私立の学校で学んだ後、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンで化学工学を学ぶ。そこから、起業家としての活動が始まる。アーチャーの知遇を得て、政治に関係するようになり、2010年に下院議員に保守党の強い選挙区から選出された。

ザハウィは、イスラム教徒である。ザハウィらが国際的マーケットリサーチ・世論調査会社のYouGovを設立した時に協力した世論調査専門家のピーター・ケルナーが、ザハウィのラマダンの時のことを語る。ラマダンの時、イスラム教徒は、日の出から日没まで断食する必要がある。ザハウィは、その時間が過ぎればすぐに大きなピザを買いに走り、パクパク食べたという。

もちろん英国でも人種差別はある。ザハウィは、選挙前の戸別訪問(英国では戸別訪問は自由である)の際に人種差別的なことを言われたこともあるという。ザハウィと親しい厚生相のジャビッドは、そのようなことをする人はごく少数で、大多数の人はそのようなことはしないという。それでもザハウィは、イラクを離れて英国に来たことをラッキーだったと言う

ザハウィは、コロナパンデミックで混乱した学校現場を落ち着かせ、パンデミックで見送られたAレベルなどの資格試験を再開させることが期待されている。さらに緊縮財政の中で遅れている校舎の修繕などの事業、教員の待遇、高等教育の予算なども財務省からより多くを獲得して進めることが期待されている。その手腕に期待する人が多いが、どの程度実行できるか注目される。

首相として成功する要件

ジョンソン首相が2021年9月15日、内閣改造を行った。3閣僚が更迭された。なお、ジョンソン内閣の財務相はヒンズー教徒、新教育相はイスラム教徒だ。タイムズ紙のコラムニストで元保守党下院議員のマシュー・パリスは、かつてサッチャー首相に仕えたことがある人物だが、ジョンソン首相は山師で、ジョンソン内閣は、山師の内閣(BBCのRadio4のTodayの最後の5分ほどの中のコメント)だという。

過去の多くの英国首相を分析しているアンソニー・セルドンは、成功する首相のチェックリスト(Institute for Governmentのポッドキャスト)をあげている。そのトップ5は、以下の通りだ。

1.鉄の意志

2.はっきりしたビジョン

3.国民とのコミュニケーション能力

4.自らに近い人々を容赦なく切って捨てる冷酷さ

5.内閣と首相官邸のスタッフに適切な人を選ぶ

このうち、ジョンソン首相にあると思われるものはそれほどない。ただし、今回の内閣改造でマイケル・ゴーブ大臣を「住宅・コミュニティ・地方政府大臣」とし、地方の格差を解消させ、英国の統合を維持する役割を与えたのは重要だと思われる。ゴーブは、恐らく保守党の中で最も能力のある政治家だ。その政治家に喫緊の課題を担当させるのは、5の「適切な人」と言えるだろう。ただし、ジョンソン首相の問題の一つは、対応が後手に回る傾向があることだ。ゴーブがジョンソン政権の抱える問題で結果を出すには、それなりの時間がかかる。今回の内閣改造が結果を生むかどうか注目される。