ジョンソン夫人への批判

ジョンソン首相の妻のキャリーは、ジョンソン政権に大きな影響力があると見られている。そのため、キャリーをマクベス夫人(シェークスピアの「マクベス」の登場人物)やマリー・アントワネット(フランス革命時のルイ16世の王妃)になぞらえた批判がある。マクベス夫人やマリー・アントワネットは悲劇的な最期を遂げた人物だが、時には夫をしのぎ、政治に介入した女性たちを引き合いに出してキャリーを揶揄するものに対しては、キャリーが女性差別の対象にされているという批判がある。確かにそのような面はある。その反面、キャリーは公的な役職についていないが、そのような影響力を発揮している人物を批判するのは、当然だとする見方がある。

一方、ジョンソン首相のトップアドバイザーだったドミニク・カミングスは、2016年のEU国民投票で、ジョンソンらの離脱派の公式団体の責任者として大胆なキャンペーン戦略を打ち出し、予想を裏切って離脱派の勝利をもたらした人物である。2019年7月にジョンソンが保守党党首、そして首相となるや首相のトップアドバイザーとして招かれ、12月の総選挙でジョンソン率いる保守党に大勝をもたらした人物だが、キャリーは、その総選挙直後からカミングスらを首相官邸から追い出す動きを始めたという。カミングスは、2020年11月に辞任するに至る。キャリーは保守党本部で働いていた人で、動物愛護を中心にした環境保護の考えを持つ人だとされているが、どの程度政治のことが分かっているか不明だ。カミングスは非常に癖の強い人物であり、このような人物を嫌う人は少なくないだろうが、ジョンソンの水先案内人だったカミングスのような人物を排除しようとするからには替わりの候補者がいるか、自分によほどの自信があるかのどちらかと思われる。カミングスに代わるような「他の候補者」はまだ現れていない。

なお、ジョンソン首相の子供が12月に生まれる予定である。ジョンソン首相(57歳)には、これまで「少なくとも6人」の子供がいると言われてきたが、これが「少なくとも7人」になることになる。2021年5月に正式に結婚したキャリー(33歳)との間には、2020年4月に息子が生まれている。3人目の妻のキャリーとの間では2人目の子供になる。

現職の首相に子供が生まれるのは、2000年のブレア首相、2010年のキャメロン首相の例がある。ブレア首相の場合、4人目の子供が生まれるということは、ブレア首相や妻のシェリーがあまり積極的に触れることはなかった。逆に、4人目の子供の生まれた後、ブレアが全国婦人会の総会に出席した際、子供のことに触れなかったので出席者から批判されるほどだった。キャメロン首相の場合には、首相になる前に重度の身体障碍者の息子を失っていたので、一般に同情的に受け止められた。ジョンソン首相の場合、妻のキャリーがこの妊娠をジョンソンに政治的に利用しようと思っているように感じられる。2021年7月にイギリスで行われたG7のサミットでも、キャリーは息子を連れだし、G7出席者らとの会話の材料に使っていた。子供の生まれることは喜ばしいことだが、キャリーの打つ手が限られてきているように感じられる。

コロナワクチン接種に報酬を与える試みの是非

コロナワクチン接種をすれば、コロナに感染しにくくなり、感染しても発症したり、重症化して病院に入院したり、または死亡するリスクが大きく減ることがわかっている。さらに他の人にうつすリスクも減る。

イギリスでは今や大人の10人のうち9人が1回目の接種を受け、4人のうち3人が2回の接種を受けている。それでも、40歳未満の人たちでワクチン接種の1回目を受けた人は4分の3にも満たない。イギリスでは、接種のペースが鈍化しており、特に若い世代でコロナ接種に消極的な人が多い。

コロナワクチン接種を促進するために、世界には、おカネがもらえるなど何らかの奨励策を設けようとする動きがある。イギリスでもある大学が、10本の5000ポンド(約75万円)のあたる奨励策を打ち出した。ただし、このような手法がどれほど有効かは疑問がある。ガーディアン紙への投稿で2人の学者は逆効果になると主張している

まず、ワクチン接種は、それぞれの人のためになるだけではなく、社会全体の利益になるのに、そのような「報酬」を与えると、うさんくさく感じられることである。特にワクチン接種の副反応に疑いを持っている人たちである。

行動学的研究によると、利他的な行動におカネを払うことは逆効果になる場合がよくあるという。献血の例でみると、自発的に対価なしで行うのが普通になっている場合、おカネを支払うと献血者の数が減るかもしれない。また、慈善事業への募金を集める人たちは、少しばかりのお金を支払われる場合より、支払われない方がより努力し、より多くのおカネを集めるという。

それぞれの状況によるだろうが、長期的にみれば、特に、若い人たちの利他的な行動をするやる気を削ぐかもしれない。ワクチン接種をなるべく早く進めたい気持ちは理解できるが、「報酬」を出すのは慎重に行われなければならないように思われる。