2021年スコットランド議会議員選挙で多数を占めたスコットランド独立派

2021年5月6日木曜日に行われた英国の各種選挙で最も注目されたものの一つは、スコットランド議会議員選挙であった。スコットランドを英国から独立させようとする勢力がどの程度の議席を獲得するかに関心が集まったのである。

スコットランド独立論争

スコットランド独立をめぐる論争はこれまで長く続いている。そもそも1999年にスコットランド議会が設けられたのはスコットランドの独立機運への対応が念頭にあった。1979年の分権レファレンダムで分権賛成票が規定レベルに達しなかった後、1997年の分権レファレンダムで4分の3が賛成し、スコットランドに議会が設けられたのである。しかし、分権だけでは不満が残った。その結果、2014年に、中央政府が認めて、スコットランド住民による独立レファレンダムが行われた。この際、投票率は84.6%と高まり(これほど高い投票率は普通選挙ではそれまでなかった)、独立賛成44.7%、反対55.3%の結果となり、独立は否定された。もともとこれほどの接戦になるとは予想されていなかったため、英国の中央政府には独立レファレンダムはしたくない、下手をするとスコットランドを失うという意識がある。

2021年スコットランド議会議員選挙結果

2021年議会議員選挙の結果は、スコットランドの英国からの独立を目指すスコットランド国民党(SNP)が全129議席のうち64議席を獲得し、過半数に1議席足りなかった。しかし、スコットランド独立を選挙のマニフェストでうたっている緑の党が8議席を獲得したため、スコットランドの英国からの独立を求める議員が、129議席中72議席を占める。

SNPのスタージョン首席大臣は、これまで、コロナウイルス対策が一段落し、経済が回復のめどが立った後2度目の独立レファレンダムを実施したいと表明していたが、この選挙結果を受け、独立レファレンダムをめぐるスコットランド住民の意思ははっきりしたと公に発言している。スコットランド住民は、スコットランド議会に独立レファレンダムの実施を付託したとし、英国中央政府のジョンソン保守党首相に、「今やレファレンダムを行うかどうかではなく、いつ行うかだ」と直接言った。

これまでのスコットランド議会選挙

スコットランド議会は、1999年に最初の選挙が行われた。選挙制度は、もとよりスコットランド独立派が多数を占めないように組み立てられている。スコットランド議会の選挙制度は、日本の衆議院選挙でも行われている、最多得票者が唯一の当選者となる小選挙区制と地域ごとにその地域の政党の得票であらかじめ設けられたリストから当選者を決めていく比例代表制が合わさった制度である。73の小選挙区から1人ずつ、そして8つに分けられた地域から7人ずつの56人で、総合計129議席である。日本の制度との最も大きな違いは、スコットランドでは、地域内の小選挙区で獲得した議席数が、その地域の政党得票割合による議席配分の計算に入れられ、その割合を超える比例議席は与えられないことだ。すなわち、小選挙区で圧倒的に多数の議席を獲得し、比例区で小選挙区と同じ割合で得票したとしても比例区では全く議席が与えられない可能性がある。

選挙年              政党別議席数
SNP 保守党 労働党 緑の党 自民党
1999 35 18 56 1 17
2003 27 18 50 7 17
2007 47 17 46 2 16
2011 69 15 37 2 5
2016 63 31 24 6 5
2021 64 31 22 8 4

 (なお、2016年と2021年の選挙はその直前の選挙から5年後となっている。これは、スコットランド議会議員選挙が英国の下院選挙と重なり、同じ日に異なる選挙制度の選挙が行われるのを避けようとしたためである)

なお、2021年の各政党の小選挙区と比例区の獲得議席数は以下の通りである。小選挙区で圧倒的多数を占めるSNPは比例区でわずか2議席しか獲得していない。小選挙区で、スコットランド独立に反対する保守党、労働党、自民党が、SNPの候補者に対抗する反独立派の候補者に戦略的に投票した結果、SNP候補者を抑えて当選し、SNPが過半数の議席を獲得することを防いだ。

政党名         議席数
小選挙区 比例区
SNP 62 2 64
保守党 5 26 31
労働党 2 20 22
緑の党 0 8 8
自民党 4 0 4

今後の展開

SNPは、既にスコットランド独立レファレンダム法案(案)を発表しており、次回議会議員選挙の行われる2026年までの間の前半に独立レファレンダムを実施する予定だ(なお、2020年スコットランド選挙法改正により5年ごとに選挙が実施されることとなったため次回選挙は2026年である)。

ただし、2014年の独立レファレンダム実施にあたっては、中央政府から実施に関する一時的な権限移譲を受けたが、その権限移譲が次のレファレンダムでもスムーズに行われるかどうか不明だ。ジョンソン首相は、その実施に真っ向から反対している。独立派が多数を占めているためスコットランド議会がレファレンダム実施を決定するのは確実だが、それを中央政府が阻止する方法の一つとして、英国の最高裁判所に、そのようなレファレンダムは無効だと訴えることが想定されている。しかし、選挙を通じて付託された住民の意思を中央政府が無視し続けることができるかどうかには疑問がある。

一方、独立レファレンダムが実施されることとなっても、独立賛成派が勝つとの保証はない。2014年の二の舞いとなる可能性もある。

スタージョン首席大臣らの戦略は、中央政府に反対させておいて、反ジョンソン政権の機運を高め、独立熱をかきたて、そこで独立レファレンダム実施を押し切る機会を探るということとなるだろう。今後のスコットランドの経済運営やEU離脱後の英国が経済的、社会的にどの程度成功するかも検討材料だ。これからの駆け引きが注目される。