先の見えないイギリス政局

メイ首相が7月6日に首相別邸で開いた内閣の会議で、内閣のブレクシットへの方針が決まったと思いきや、7月8日、9日とブレクシット大臣と外務大臣が辞任した。メイの方針はEUに譲歩しすぎで、これでは本当のブレクシットはできないと主張したのである。

メイの率いる保守党は、EUからの強硬離脱を目指す勢力と、ソフトな離脱を図る勢力とが対峙してきたが、強硬離脱派が今回のメイの方針に強く反発しており、保守党がこの問題でまとまることはほとんど不可能な状態になってきている。

ただし、メイを保守党党首・首相の座から引き下ろすことはそう簡単ではない。強硬離脱派は既に80名ほどの勢力があり、保守党の党首信任投票に必要な48名は超えている。しかし、信任投票を行うことはできても、保守党の316人の下院議員の中でメイの不信任が勝ち取れるかどうかは不透明だ。もし、不信任とならなければ、それから12ヶ月は再び不信任投票を行うことができない。その上、もし不信任となり、党首が交代することとなっても、党首選には3か月程度かかり、今年の秋(遅くても11月と言われるが)までの期限に新しい首相による交渉が間に合うかどうか疑問がある。

メイは、首相別邸で合意された内容を白書としてまとめ、今週中に発表する予定だ。そこで問題になるのが、EU側がそれをきちんと受け止めてさらに交渉するかという点と、最大野党の労働党がどう対応するかである。

EU側は、白書を見てからという態度だ。メイ保守党政権が生き延びれるかどうか、保守党内でどの程度の支持が得られるか、または労働党がどのような対応をするかなどを見極めた上で反応が返ってくることとなるだろう。EUがその白書を交渉の基礎とするのに消極的だと根本的に状況が異なってくる。

上記でも触れたが、野党労働党の対応が重要だ。今のままでは、全650議席の下院(議席に就いていないシンフェイン党の議席も含む)で、保守党の強硬離脱派の支持を受けずに過半数の賛成を得るには、メイ首相は労働党のかなり大きな支持が必要だ。しかし、労働党も総選挙の可能性を見極めながら動かざるを得ず、最初から方針を決めて対応することは難しい。

結局、当面はメイ政権のまま、どの当事者も今後の政局の行方を見ながら判断していかざるをえない状況にあると言える。白書が発表された後の来週あたりに状況がもう少しはっきりしてくるだろう。

保守党党首選の可能性?

6月のEUサミットで、ブレクシットの概要が決まるはずだった。ところが、このサミットでは移民の扱いが中心課題となり、ブレクシットはその他の話題の一つに過ぎなかった。その理由の一つには、保守党の中だけではなく、メイ政権の中でもブレクシットに関する考え方がまとまっていないことがある。それをまとめるのは、7月6日(金)に首相別邸で予定されている閣僚の集まりとされている。2016年6月のEU国民投票から2年たち、来年3月にはEUを離脱するというのに、未だに政府の立場が決まっておらず、追い詰められた状態になっていること自体、危機的な状態である。

ところが、問題はそれだけにとどまらない。有力閣僚のゴブ環境相が、首相別邸の会議で提出される予定の文書が気にいらず、破り捨てたと報道された。この文書は、ブレクシットに関する内閣小委員会の中のワーキンググループの報告書で、内閣の中の意見の相違をまとめるための重要なものである。すなわち、7月6日の会議の、少なくとも基礎になる文書にケチがついたことで、この会議そのものの意義が疑われる事態になってきた。

ゴブ環境相は、2016年のEU国民投票で離脱派キャンペーンの有力者の一人だった。ゴブ環境相の動きは、メイ下ろしの一環である可能性がある。強硬離脱派の中の他の有力リーダーであるジェイコブ・リース=モグは「原理主義的」であり、ジョンソン外相は、その軽率な言動に問題がある。もしメイが退くこととなった場合、リース=モグかジョンソンが後任の保守党党首、首相となって、EU側と交渉する立場となることには、保守党内からも、EU側からも理解されることが難しいだろう。その一方、ゴブの能力を高く評価する声があり、しかもプラグマティックな人物だ。保守党内をまとめ、EUに対峙するには、恐らく、これらの人物の中では最もふさわしいだろう。

そのようなことを反映しているのだろう、ブックメーカーの賭けでは、ゴブは次期保守党党首候補の筆頭となっている。ゴブに首相となる野心があることはよく知られており、現在の火中の栗を拾う覚悟はあるように思われる。むしろ今を逃せば、2016年の党首選でミソをつけたゴブのチャンスはなくなるかもしれない。7月6日の会議がどうなるかで、保守党の党首が交代する可能性が出てくる。