ブレクジットをめぐる、グロテスクなメイの国際交渉

2018年3月22日から始まるEU首脳会議で討議される、イギリスのEU離脱(Brexit:ブレクジット)交渉の指針を巡り、EU側の準備が進んでいる。そこでは、2年間の交渉期間後の暫定期間や、その後の関係などが話し合われる。

国際交渉では、国と国、または国を構成者とするグループ、もしくはそのようなグループ間の交渉である。一つの国の意思だけでは、その交渉は成立せず、合意もできない。ブレクジット交渉でもそれは同じである。

イギリスとEUはイギリスがEUを離脱するにあたり、その離脱の仕方、さらにその後の関係の問題でお互いが一定の合意をするために交渉しているが、最近までメイ政権はイギリスのEU離脱後、現在と同じ程度の貿易関係が保てる、「合意のない方が悪い合意より良い」と主張してきた。しかし、ブレックジットの不透明な状況下、投資を控える動きは強まっており、イギリスの経済は、これから数年間はG7最低レベルと予測されている。「合意のない方が悪い合意より良い」といった主張は影をひそめ、メイ首相は昨年12月のEUとの、いわゆる「第一段階の交渉」でも、ハードルを乗り越えようと懸命の努力をした。

メイ政権の絶対条件、すなわちEU単一市場と貿易同盟の離脱を貫けば、EUとカナダとの自由貿易協定レベルの合意に留まる可能性がある。その中、メイ首相は、イギリスの一部の北アイルランドとアイルランド共和国との国境の問題を巡り、現在のところ唯一の解決策である貿易同盟案を受け入れずに、これまで同様国境検査なしとすると主張している。また、グレイリング交通相は、フランスに最も近いイギリスのドーバー(港)で、EU側からの物の移動を検問しないとした

もちろん、そのような検問をするかどうかは、それぞれの国の判断だが、その国境の反対側の国やグループがどう判断するかは、全く別の問題である。イギリス側で検問しなくても、国境の反対側で検問されるかもしれない。このような重要な国際交渉に関してイギリス側が一人よがりな方針を主張し続けるのは、国内政治的な効果を狙っているのは明らかだが、国際的には子供じみており、グロテスクに見える。

典型的なメイ首相

メイ首相は、決断できない人物だ。決めるのに非常に長い時間がかかる。失敗を恐れるからだ。それでも時には、短時間で決めなければならないことがある。追い込まれて決め、間違った判断をする。

イギリスがEUを離脱する交渉でもそうだ。なかなかイギリスの交渉戦略を決められない。2016年6月の国民投票でEU離脱が決まってからもう1年9か月経つ。メイが首相となってから1年8か月だ。それでもまだイギリスの交渉戦略ははっきりしていない。昨年12月のEUとの第一段階の交渉での最大の問題は、イギリスの一部である北アイルランドと南のアイルランド共和国の間の国境問題だった。追い詰められて、現状通り国境検問のない状態を維持すると約束したが、EU単一市場にも関税同盟にも残らないという前提の下では、それはほとんど不可能だ。

ロシア人の元スパイとその娘が、軍事用レベルの高度な神経剤を盛られて危篤状態に陥っている。その神経剤は、ロシアが作ったとされており、ロシア政府が関連した暗殺事件ではないかと見られている。メイ首相は、内相時代、他のロシア人が放射性物質を盛られて暗殺された事件で、ロシアとの関係を配慮して公的調査の実施を長年遅らせ、批判されたことがある。そのためか、今回は、首相として、ロシア政府に2日で釈明をするよう求めたが、ロシア政府は、全く急ぐ様子はない。振り上げたこぶしを振り下ろすのに困る状態となっている。

メイ首相は、アメリカのトランプ大統領とは全く異なる。トランプ大統領は、基本的にビジネスマンだ。勝つときもあれば負ける時もあると割り切っており、少々の毀誉褒貶は気にしない。ところが、メイ首相は、小さなことにこだわりすぎ、国内政治的な損得勘定にあまりにも多くの時間を費やしている。木を見て森を見ないメイ首相では本来の仕事はなかなか進まない。