シンフェインの新リーダー

シンフェインの党首ジェリー・アダムズが退き、その後任にメアリー・ロウ・マクドナルドが就くこととなった。

マクドナルド(1969年5月1日生まれ)は、2009年からシンフェインの副党首を務めている。48歳。2004年にシンフェインの欧州議会議員に選出され、2011年からアイルランド下院議員を務めている。他の多くのシンフェインの議員と異なり、裕福な家庭で育った人物で、他の政党のメンバーだったことがある。

シンフェインは、北アイルランドとアイルランド共和国の両方にまたがる政党で、北アイルランドとアイルランド共和国の統一を目指している。マクドナルドが党首となることで、既に北アイルランドのリーダーが女性であることから、シンフェインのトップ2人が女性となる。血にまみれた過去のあるシンフェインのイメージが大きく変わる。

党首を退くアダムズは、IRAのトップ級幹部だったと言われている。アダムズの相棒だったマーティン・マクギネス(故人)は、自らIRAの幹部だったことを認めたが、この2人はIRAに非常に大きな影響力を持っていた。

IRAの行った多くの殺人事件にアダムズやマクギネスが関与したと考えられているが、新しい党首にはそのような過去から引きずってきた問題がない。その意味では、北アイルランドで第2、アイルランド共和国で第3位の政党で、国境を越えて勢力を拡大してきたシンフェインにとっては、さらなる飛躍を目指す、一つの大きなステップとなるだろう。

ここで注目すべきは、IRA/シンフェインのリーダーの選び方だ。アダムズとマクギネスの例を見てもそうだ。ヒース首相時代の1972年7月7日、IRAのトップが、当時の北アイルランド相と密かに会談した時、2人はそのメンバーの中に含まれていた。アダムズ(1948年10月6日生まれ)は当時23歳、マクギネス(1950年5月23日生まれ)は22歳だった。このような重要な機会に出席したということは並々ならぬことだった。その当時から2人がはっきりとしたリーダーシップを発揮していたばかりではなく、将来のトップとして見込まれていたのである。

マクドナルドは、はっきりと話す、強い女性だ。他の政党からもその能力は認められている。シンフェインのような組織が生き残り、勢力を拡大していくためには、リーダーシップの質が極めて重要だ。それが次の世代のリーダーを選ぶ基準となっているようだ。シンフェインは、世代交代の時期を迎えていた。このマクドナルドの就任で、シンフェインがどう変わり、アイルランド共和国と北アイルランドの政治にどのような変化を起こすか注目される。

懲りないメイ首相

メイ首相は内閣改造を行った。新年を迎え、フレッシュな政権のイメージを訴える意図があったと思われるが、不発に終わった。そのことよりも、メイ首相の変わらない手法に落胆したのは筆者だけではないだろう。

メイは相変わらず、側近だったニック・ティモシーに頼っているようだ。ティモシーは、昨年6月の総選挙で、メイが保守党の議席を減らした後、保守党下院議員らの圧力で、首相のスペシャルアドバイザーを辞任した人物である。そして、よく「トーリーグラフ(保守党新聞の意味)」と揶揄されるデイリーテレグラフ紙のコラムニストとなった。ティモシーは、もともと教育問題に深く関わっている。過去の言動で大きな議論を呼び、4 万ものツイッター投稿を削除したトビー・ヤングの、新大学監督機関、学生局(Office for Students)の役員会への任命の背後にあるのではないかと思われる。ヤングは、フリースクールと呼ばれる新しい形の学校の組織「ニュースクールズネットワーク」で、ティモシーの後任の代表者となった人物である。結局、ヤングは学生局役員を辞任することとなる。

しかも、ティモシーは、グリニング教育相が更迭された背後にあると見られている。この更迭は、保守党の議員も含め、大きな議論となった。メイは相変わらず、政治感覚の乏しい側近の声に動かされている。

さらに、その閣僚の任命の仕方だ。その典型は、北アイルランド相に任命されたカレン・ブラッドリーである。この女性は、前任の文化相時代、政府出資のテレビ局チャンネル4の役員への黒人女性の任命に反対して論議を起こした。チャンネル4のトップらが歓迎し、テレビ局の監督機関オフコムが推薦した、イングランド芸術評議会の副会長だった女性に拒否権を行使したのである。大きな問題となり、説明を求められたが、十分な説明ができなかった。結局、1年後にこの女性の任命を認める。

北アイルランドへの対応は熟練の政治家でも難しい。再生エネルギー政策の欠陥で大きな財政問題を抱えているだけではなく、政党間の深刻な対立で、分権議会が2017年1月から停止されている。北アイルランドの政治を正常化するのはたいへんだ。メイは、自分が判断できると考えている節があるが、そのような何もかも自分が采配したいし、できるという発想そのものがメイ政権のこれまでの失敗につながっている。自分に政治感覚が乏しいことを自覚していないようだ。

今までとやり方の変わらないままでは、EU離脱交渉も含め、メイ政権の前途が苦しいものとなるのは間違いないだろう。