英EU離脱後どうなるか?

イギリスは、EUを2019年3月に離脱することとなっている。12月8日にイギリスとEU 側は基本的な3つの問題を扱う第1段階の交渉に合意し、貿易を含む将来の関係に関する第2段階の交渉に進むことに合意した。今後の交渉の経緯如何では、イギリスの離脱の時期が変更される、または、離脱後に2年ほど設けると見られる「移行期間」が延長される、さらには現在では考えにくい「合意なし」などの可能性もあるが、イギリスがいずれEUを離脱するのは間違いない。

イギリスとEU側は、お互いができるだけ自由に貿易できる環境を作ろうとしている。しかし、お互いの原則的な条件のために、それを現状維持のような形で実施するのは極めて難しい。

イギリス側の条件は以下のようなものだ。

  • EU市民の英国における権利を制限する(特に労働力の移動の自由)
  • イギリスの主権の回復(EUルール・裁判管轄権から離れる)
  • 非EU国との自由な貿易関係の樹立(現在はEUのみが行い、個別にはできない)

EU側の条件は以下のようだ。

  • EU加盟国の利益を損なわない。
  • EUの4つの自由(もの、サービス、資本、人)を守る。
  • EUの統一を維持する。

いずれの側の条件も100%かなえるのは難しいが、そこに妥協する余地があるともいえる。すなわち、いずれの側も、イギリスがEUを離脱した後、少なくともある程度の期間、経済的な悪影響があることを想定している。

アメリカのシンクタンク、ランドコーポレーションが、イギリスのEU離脱後の経済予測を発表した。このシンクタンクはその予算の半分以上をアメリカ政府から得ており、アメリカ寄りの分析が出ることは予測できる。

このシンクタンクの結論は、以下のようである。

  • EU側と比べ、イギリスへの経済的悪影響が大きい。特に合意なしの場合。
  • アメリカのイギリスへの投資の28%はイギリスがEUメンバーであるため。
  • EUがアメリカに敵対的になる可能性がある。イギリスがEUを離脱すると、アメリカのパートナーとしてのイギリスの影響力がEU内で無くなるため。
  • アメリカ、イギリス、そしてEUの3者間の包括的自由貿易協定が、イギリスの経済にベストだが、そのような協定ができる可能性は少ない。

上記で述べたように、イギリスもEU側も、イギリスのEU離脱で、お互いに経済的にある程度マイナスとなることは覚悟している。ただし、長期的に見ると、イギリスのEU離脱が必ずしもマイナス面ばかりだとは言えないかもしれない。特にEUの経済成長力より、それ以外の国の経済成長力が大きく上回っている例が増えているからだ。

イギリスのEU離脱は、経済的なものというより、政治的なものだ。そしてそれが長期的にどのような結果を招くかは、これからの離脱交渉と世界の今後の政治、経済状況によると思われる。

イギリス第二の都市バーミンガムの吸引力

労働党が政権に就けば、イギリスの中央銀行であるイングランド銀行の部門をイギリス第二の都市バーミンガムに移すという考えを発表した。この背景に見られるのは、単に、政府関係機能を中央のロンドンから地方に移すというだけではなく、人やビジネスがロンドンから他の地域へ移り始めている動きだ。

ロンドンから160キロほど離れたバーミンガムは、産業革命後工業都市として発展。高速道路でつながっている他、現在電車で1時間半足らず。2026年にはハイスピード列車(HS2)でつながれ、49分となる見込み。なお、HS2は、バーミンガム近郊経由でイングランド北部のマンチェスターやリーズにもつながる予定。さらに近郊にはバーミンガム国際空港もある。将来的には、イングランド南部のロンドンと北部、さらにはスコットランドとをつなぐ中継地として重要だ。

イギリスの議会が改修を迫られているが、その一時移転先にバーミンガムの名が挙がった。この案の実現可能性は、国会議員がロンドン好みのためほとんどない。しかし、人口がイギリス第二の110万人近くで、その周辺のウェストミッドランド地方は300万人近い人口があり、自動車産業などハイテクを含む多くの産業がある。

大手の銀行HSBCやドイツ銀行、さらにはPwCもそれらの主要拠点がバーミンガムに移ることに見られるように、イングランド銀行が移転してきても、そのニーズを支える基本的な能力がある。一方、ロンドンの住宅価格と比べると割安なウェストミッドランドに居を移す人もかなり増えている。

イギリスのEU離脱でEUとの将来の関係に不安があり、ロンドンからEU内に拠点を移すことを検討した企業も多いかと思われる。その過程で、ロンドンでなければならないとする考え方が弱くなったように思われる。EUとの交渉の見通しが少し明るくなってきた現在、バーミンガムや、その他の地域に目を向け始めるビジネスもかなりあるだろう。