総選挙は来春?

労働党のコービン党首が、9月24日に結果の発表される党首選で再選されれば、来春に総選挙があることを前提に準備を進めることにしたと報道された。そして、保守党のメイ首相が総選挙を実施したい場合、総選挙に賛成することとしたという。

2011年議会任期固定法で、下院の議席総数650の3分の2の賛成があった際には、総選挙が実施できることになっている。434人の下院議員の賛成で可能だ。保守党と労働党の議員を合わせると、560議席ほどあり、もし両党が賛成すれば実施できる。

保守党下院議員には、総選挙を歓迎する議員が多いだろう。世論調査で保守党が優位に立っており、労働党の内乱、自民党の停滞で保守党が勝てると見られているからだ。また、650議席から600議席に議席を減らし、選挙区のサイズを均等にする区割り作業が進んでおり、もしこれが実現すると2020年に想定される総選挙で選挙区を失う、もしくは不利になる議員たちは、この早い総選挙を特に好意的に見るだろう。

コービンは、総選挙が早期にあるとして、分裂した労働党をまとめ、政策を煮詰め、その組織固めを図ろうとするだろう。一方、労働党でコービン党首に反対する下院議員たちは、増加するコービン支持者たちからの圧力から逃れ、コービンを引きずり落とす良い機会とみるだろう。

メイは、総選挙は2020年まであるべきでないと発言している。メイにはイギリスをEUから離脱させる交渉を進めるという困難な仕事がある。移民のコントロールを最優先するという立場でありながら、EUの単一市場へのアクセスを重視し、特にイギリスの金融サービスのEU市場へのアクセス(一般にバスポーティング権と呼ばれる)を維持したい考えだ。しかし、メイの率いる保守党内には、イギリスはEUからきれいに別れるべきだと主張する、いわゆる強硬Brexit派が100人ほどいると言われ、メイの柔軟な交渉姿勢に批判的だ。この強硬派、柔軟派の対立に決着をつけ、国民からこの交渉への負託を受ける必要があるだろうということから、メイは総選挙に迫られるだろうという見方がある。自民党の党首だったアッシュダウン卿もそう見ている

さらにメイの「グラマースクール」構想には、強い反対がある。この学校は、11歳で子供の能力をテストし、優秀だと思われる子供を選別教育する制度である。キャメロン前首相の下での2015年総選挙マニフェストには含まれていないことから、反対を押し切って実施するには、メイが総選挙で国民の負託を受ける必要があるだろうと見られる。なお、イギリスには、マニフェストで約束したことには、上院が反対しないという慣例がある。すなわち、下院でマジョリティ(「保守党の議員数」マイナス「それ以外の政党の議員の総数」)を増し、しかも保守党が過半数を大きく下回る上院に反対させないためには、現在の政局下では総選挙を実施するのがベストだという考え方である。

自民党は、総選挙を「第2の国民投票」として捉え、メイ率いる保守党が敗れればBrexitを覆すことができると訴えるだろう。UKIPも来年5月の総選挙を想定して準備するとしている。今後の政局は、来春の総選挙を巡って動くことになりそうだ。

2018年にスコットランド独立住民投票?

2014年のスコットランド独立住民投票で独立賛成側を率いた、当時のスコットランド首席大臣サモンドは、現在、ウェストミンスターの下院議員である。住民投票で独立反対多数の結果を受けて首席大臣並びにスコットランド国民党(SNP)党首を辞任し、その後任にスタージョン現首席大臣が就任した。

そのサモンドが、2018年秋に第2の独立住民投票があるだろうと示唆した。経験豊富で、よく「タヌキ」のように描かれるサモンドにはそれなりの計算があるのかもしれない。2017年初めにリスボン条約50条に基づいてイギリスがEUに離脱通告をすると見られており、それから2年の離脱交渉が始まる。すなわち、2019年初めまでにスコットランドが独立を決めれば、スコットランドはイギリスのEU離脱時に何らかの形でEUに留まれるとの考えである。もしそういうことになれば、EU側は、柔軟に対応できる可能性があると見ているようだ。

6月23日のEU国民投票で、イギリス全体としてはEU離脱を選択したが、スコットランドの住民の62%は残留に投票した。住民投票直後の3つの世論調査で、独立賛成支持が反対側を上回ったが、それ以降の5つの世論調査では、いずれも5から7ポイントの差で独立反対が優勢である。その中で最も新しいものは、9月5日から11日に実施されたIpsos Moriのもので、独立賛成45%、反対50%、そして未定5%である。さらに、9月9日から15日までに実施されたPanelbaseのものでも反対が優勢だが、ここ数年の間に独立住民投票を実施するのに反対の人が、賛成の人の2倍以上ある。

2014年の住民投票を1世代(20年)に1度の住民投票と主張したが、わずか4年後にもう1回行っても大丈夫だろうか。メイ政権が、キャメロン政権のようにそのような住民投票を正式に認めるかどうか不明だが、スコットランド議会が、住民投票を発議することは可能だ。全129議席のうち、SNPが63議席、そして前回も独立住民投票で賛成を支持した緑の党が6議席ある。労働党議会議員の中にも賛成する議員が出るかもしれない。

ただし、独立反対派の保守党、労働党、自民党などは、北海油田からの税収がほとんどゼロとなった状態ではスコットランド財政が成り立たないとして強力な反対運動を起こすのは間違いない。特に2014年の住民投票で反対が賛成を上回った55歳以上の層をターゲットに、独立した後のスコットランドでは、年金も保証できないと主張するだろう。

問題は、独立反対の強い中で、敢えて勝ち目のない独立住民投票を実施すれば、SNPの信用を大きく傷つける可能性があることだ。スタージョン首席大臣は、第2の住民投票実施には、特別な場合を除き、独立支持が60%必要としてきた。イギリスがスコットランドの住民の意思とは異なり、EUを離れることは確かに非常に大きな変化と言えるだろう。しかし、勝ち目のない独立住民投票は、多くの労力と費用を招くばかりか無謀な政権というレッテルを貼られかねない。

スコットランド議会の過半数を制した2011年の議会議員選挙、そして2014年の独立住民投票でも投票日直前になって、SNPそして独立賛成支持が急増し、予想外の展開となった。しかし、2016年の議会議員選挙では、予想を裏切り、過半数を獲得できなかった。2011年、2014年のような事態が2018年にも起きると考えることは、柳の下のドジョウを狙うようなものと言えるかもしれない。

なお、上記のPanelbaseの世論調査では、2014年に独立賛成に投票した人の38%、独立反対に投票した人の41%がイギリスのEU離脱に賛成している。確かに、2014年に独立反対に投票したが、それ以降独立賛成に変わった人の半分以上が、EU内に留まりたいことを考えの変わった理由としているが、逆の人、すなわち、EUを離れたいために、2014年に独立賛成に投票したが、今では独立反対に変わった人も少なからずいる。スタージョン首席大臣は、スコットランド住民の意思に反してイギリスがEUを離れる、そのためにスコットランドはEUに留まるべきだと主張してきた。そしてEUの単一市場に留まることを最優先としている。しかし、単一市場の維持が最も重要だとする有権者と、移民のコントロールが最も重要だとする有権者の割合が同じであり、有権者の見方は、多岐に分かれている。スコットランド住民のスコットランド独立とイギリスのEU離脱問題の考え方は、スタージョン式の単純化したものとは異なる。