EU離脱 労働党はどうなる?

6月23日の欧州連合(EU)国民投票で、イギリスはEU離脱を選択した。この結果を受け、残留派のキャメロン首相は辞任を表明し、保守党は次の党首を選ぶために党首選挙を実施する。そのため、政府、そして政権与党の保守党が十分に機能を果たせない状態だ。一方、野党最大政党(イギリスでは「対立政党」と呼ばれる)の労働党でもコービン党首への批判が前例のないほど強まり、内乱状態に陥っている。労働党は、これからどうなるのだろうか?

6月28日、コービン党首「不信任案」の投票が労働党下院議員によって行われた。結果は「不信任」賛成が172、反対が40だった。つまり、5人に4人が不信任に賛成したのである。労働党には、このような不信任の規定はなく、法的な効果はないが、象徴的な効果は大きい。この動きは、EU国民投票前の残留派の運動でコービン党首が全力を挙げて戦わなかったと批判して「不信任案」を提出した2人の下院議員に始まる。それまでコービンでは次期総選挙が戦えないとして密かに「コービン下ろし」を画策していた動きが一挙に表面化し、コービンが6月26日「影の外相」を解任した後、31人の「影の内閣」のメンバーのうち、22人が次々辞任し、しかもそれ以下のポストの下院議員も次々に辞任した。

これは、労働党下院議員たちが、キャメロン後の新首相が、就任早々にも総選挙を行うのではないか、もしそうなれば、労働党が壊滅的な打撃を受けると心配したことがある(総選挙実施の見通しについては次回にふれる)。労働党内部の調査によると、「もし総選挙が明日あれば」、大きく議席を失った2015年の総選挙で労働党に投票した有権者の69%しか再び労働党に投票しないことがわかったという。しかもEU国民投票で、労働党の牙城であるべき地域、特にイングランド北部で、労働党支持者の多くが労働党のアドバイスに反して離脱に賛成し、その結果、離脱派が勝利を収めることとなった。

これらは、これまでコービン党首がどの程度労働党を引き上げられるか、様子を見ていた労働党下院議員にとっては、決定的な証拠として目に映った。すなわち、労働党が党勢を回復するためには、既存の労働党支持者を維持するとともに、さらにそれ以外の人たちの支持も獲得する必要があるが、むしろ、コービンは支持を失いつつあると感じたのである。これでは、数か月先に行われるかもしれない総選挙で惨敗するという危機感が労働党下院議員たちにある。そこで、多数の「影の内閣」メンバーの辞任と圧倒的な「不信任」支持で、コービンが自発的に党首の座を辞任することを期待していた。

ところが、コービンは、あくまで、党首に居座り続ける構えである。昨年9月の党首選挙で、労働党の党員やサポーターらの圧倒的な支持を受けて当選した。コービンは労働党の下院議員の中でも最も左派の強硬左派であり、中道的な労働党の指導部の指示に反して下院で投票してきた「問題議員」であり、1983年以来下院議員を務めるにもかかわらず、政府内の役職を務めたことがない。昨年、党首選に立候補するための推薦人の確保に苦しみ、党首選での議論を活発化するためとして、投票しないが、推薦人にはなるとした下院議員が何人もいたため、党首選に立候補できたほどである。ところが、コービンの正直に自分の信念に基づく言動に好感を持ち、惹きつけられた人々がコービンを支持し、党員、サポーターが急増し、あれよあれよという間に、コービンブームとも呼ばれる現象が起きて当選した。労働党下院議員たちの多くは、この結果に失望した。それ以来、もしかするとコービンが労働党に何かプラスをもたらすかもしれないとの淡い期待を持っていたが、労働党は、失敗の続く保守党政権にもかかわらず、世論調査で保守党を下回る支持しか得られず、労働党がその命運を改善しているような現象は見られない。EU国民投票でその不満が一挙に吹き出た形だ。

コービンは、労働党下院議員からの辞任圧力にもかかわらず、自ら辞任する考えはない。党首に選出された経過からして、自分への信任は下院議員たちからではなく、一般の党員やサポーターたちから来ていると考えているためである。また、労働組合もコービンを支持している。そのため、正式な党首選挙で勝負を受けるという立場だ。コービンはその信念で有名な人物であり、労働者や弱者を守るのがその目的である。自分が引けば、これらの人たちの扱いがおろそかになると信じている。党首選挙で敗れれば、当然引かざるをえないが、それまでその意思はないように見える。

コービンを見くびっていたこともあるのだろうが、コービン下ろしを求める下院議員たちは、苦しい立場に立っている。党員やサポーターのコービン支持が弱くなっているという見方があるが、それでも党首選挙でコービンが再び党首に選ばれる可能性は極めて高い。コービン派の支持者らは、表立って、または背後で、反コービンの下院議員たちを苦しめるだろう。また、労働組合最大手のユナイトのトップが、「下院議員選挙候補者の選挙区選出方法の変更」を認める可能性を示唆した。これまで現職議員は、基本的に、それぞれの選挙区で再び候補者として選出されることなく立候補できたが、これからは労働党候補者として立候補するためには、現職議員でも選挙区支部で再び候補者として選出される必要があるようになるかもしれない。そうなれば、コービン支持の党員が、反コービン現職議員を意図的にブロックしようとする動きに出る可能性がある。

もし、コービンが党首選で再び党首に選ばれた場合、現在の労働党の分裂状況が膠着状態となる可能性がある。そして総選挙が行われた場合、分裂した労働党が再び敗れれば、コービンが責任を取って党首を辞任するだろう。一方、総選挙でコービン労働党が、イギリスのEU離脱反対を唱え、EU国民投票の再実施を訴えて戦えば、一党で下院の過半数を制せずとも、残留派のスコットランド国民党など他の政党との連携で、過半数を制する可能性もあるかもしれない。

一方、もし、党首選挙でコービンが敗れた場合、新党首が就任し、労働党が一応、統一した状態となると思われる。

ただし、多くの労働党下院議員は、コービンが自発的に辞任することを願っていたように思われる。その一つの理由は、前党首エド・ミリバンドの兄で元外相デービッド・ミリバンドのイギリス政界への復帰の可能性である。デービッド・ミリバンドは、2010年党首選挙で、党首に選ばれるのは間違いないと見られていたが、労働組合のエド・ミリンバンドへのテコ入れで、わずかの差で敗れた。その後、アメリカのニューヨークに拠点のある世界的な慈善団体のトップとして、アメリカでも有名な人物となっている。もし、コービンが辞任すれば、殺害されたコックス下院議員の選挙区の補欠選挙に立候補し、党首となる道があるかもしれない。そうなれば、その能力と併せ、労働党の「白馬の騎士(救世主)」となる可能性もある。

労働党の今後が注目される。

EUを離脱するイギリス

6月23日に行われた、イギリスが欧州連合(EU)に留まるかどうかを決める国民投票で、イギリス国民はEUを離脱することを決めた。投票直前、そして投票中も、残留が優勢だという観測が高まったが、実際に票を開けてみると、離脱派の勢いが上回っていた。結果は、離脱52%、残留48%だった。わずかな差だったが、キャメロン首相は、いずれの結果が出てもそれを尊重すると宣言していた。

この結果を受けてキャメロン首相は、首相を辞任すると発表した。この10月に行われる党大会の前までに後継の保守党党首、そして首相を選ぶことになり、キャメロン首相は、3か月後に退くのである。

EUを離脱する交渉を正式に始めるには、リスボン条約で付け加えられた欧州連合条約50条により、イギリスがEUに離脱を通知することとなるが、それは、新しい首相によって行われる。すなわち、これから3か月ほどの期間、本格的な離脱交渉を始めるまでの準備作業が進められることとなる。

この結果でイギリスの政治は大きく変わる。首相が変わり、そして政府の目的も変わる。しかもイギリスとEUとの関係、それ以外の国との関係も含めて、新政府の課題は多岐にわたり、しかも膨大なものとなる。これまでEUに頼って進めてきた貿易交渉を自らの手で行う必要があり、政治、戦略的にも本格的な見直しに迫られる。

イギリスが離脱を選択した大きな理由は、EUとの関係や移民の問題を含めて、現在のイギリス政治に不満をいだく国民が、このような包括的な見直しを求めたためではないかと思われる。投票率は72%と、昨年総選挙の66%を大きく上回り、非常に関心の高かった国民投票だった。

投票日の6月23日には、豪雨などのため、各地で洪水が起き、交通網に影響が出るなどの影響があった。一方、開票結果の分かった翌日の24日早朝は、打って変わったいい天気だった。現状維持の「残留」ではなく、新しい未来を意味する「離脱」にはそれなりの魅力があり、「離脱」の結果に、肩が楽になったような気がした人は多かったと思われる。

しかし、このような気分は、1997年にトニー・ブレアが労働党を率いて総選挙で地滑り的大勝利を収めた時のものに似ているのではないか。ブレア政権は、投票日翌日の、素晴らしい五月晴れの日に政権についた。非常に大きな期待を受けて政権についたブレア労働党政権が、それほど振るわなかったような事態が「離脱派」に待ち受けているかもしれない。

新政権の手腕が問われることとなる。新首相の最右翼と目されている前ロンドン市長ボリス・ジョンソン下院議員にどれだけの能力があるか見ものだ。