終盤の選挙情勢

5月7日の投票日に向けて、各党は必死の選挙戦を展開している。しかし、状況は膠着状態で、いずれの政党も過半数を取れず、ハングパーリメント(宙づり国会)となる情勢に変わりなく、これからの数日で情勢が大きく変化する事態はなさそうだ。

5月4日現在の、各種の選挙結果予測は以下のとおりである。

保守党

労働党

自民党

UKIP

SNP

その他

2010年総選挙結果

306

258

57

0

6

23

“May 2015”

273

269

27

2

56

23

Election Forecast  

279

270

25

1

51

24

Elections Etc

290

258

25

3

53

21

The Guardian

274

270

27

3

54

22

YouGov

283

261

32

2

50

22

保守党は、議席を減らす見込みだ。それでも現在のところ、保守党に若干の勢いがあり、保守党が最も多くの議席を獲得すると見られている。労働党は、イングランドなどで、保守党、自由民主党から議席を獲得し、議席を増加させる勢いだが、これまで大きな勢力を誇っていたスコットランドで大きく議席を失う見込みで、結果的には、前回からそう議席を伸ばせないと見る向きが多い。

メディアは、スコットランド国民党SNPの勢いに注目している。左のSNPは4月初めからスコットランドで高い支持率を示しており、その勢いは落ちることなく、スコットランドの59議席のほとんどを奪う情勢で選挙日を迎えそうだ。保守党は、スコットランドを独立させることが党是のSNPに支えられた労働党政権を警告している。SNPは保守党政権の成立を阻止するとし、スコットランドの選挙戦略上も労働党を支える方針だが、労働党は、SNPとの連立政権ばかりではなく、協定を結ぶことも否定している。

なお、SNPが労働党から大きく議席を奪い、スコットランドを席巻したとしても、それが直ちに独立住民投票に向かうかどうかは別の問題である。YouGovの世論調査によると、2回目の独立住民投票が10年以内に行われるべきだとするスコットランドの有権者は36%に過ぎず、また、独立反対の有権者は、53%である。総選挙後の、SNPの下院での対応だけではなく、2016年5月に行われるスコットランド議会選挙に向け、マニフェストに独立住民投票を入れるかどうかの判断など、戦略を誤ると、SNPの支持に影響する可能性がある。

いずれにしても、保守党の強い選挙区では、投票率の高いところが多く、そのため、保守党が最も多くの投票を得る政党となるのは間違いない。しかも最多議席の政党となる可能性が高まっている。その結果、保守党は、最も有権者の意思を反映した政党だと主張し、この「正当性」を使って、何とか政権に残ろうとするという見方がある。ただし、「反保守党勢力」である、労働党、SNP、北アイルランドの社会民主労働党SDLP、ウェールズのプライド・カムリ、そして緑の党を合わせれば、過半数を超える可能性が高まっており、その結果、保守党は、「反保守党勢力」以外の政党の協力を得ても政権を維持することが難しい可能性がある。

一方、労働党の議席が、保守党よりかなり少ない場合(例えば20議席以上少ない場合)には、労働党政権が生まれても、その「正当性」に疑いがあるという見解もある。例え、「反保守党勢力」で過半数を占めることができても、次の総選挙がかなり早期に行われる可能性があることから、労働党が少数政権で不安定な政権を運営するより、野党にとどまり、次回の総選挙に備える方が得策という考え方もある。

さらに議席の半減する見込みの自由民主党が、保守党政権、もしくは労働党政権の誕生を巡って、大きな役割を果たす可能性も残っている。クレッグ党首は、これまで落選の可能性もささやかれていたが、その選挙区では、これまで5年間ともに政権を運営してきた保守党の支持者がクレッグに戦略的に投票(タクティカル・ボーティング)する動きがあることがわかっており、当選する可能性が増している。そのため、総選挙の各政党の議席数のなり行きによっては、クレッグが連立政権交渉など、新しい政権の誕生に大きな影響力をふるう可能性がある。

小選挙区制の選挙では、わずかな票の動きが、大きな議席の動きを招く可能性がある。今回の選挙結果予測は、様々な要因が複雑に絡み合っているため、特に困難だが、保守党もしくは労働党のいずれの政党が政権を担当することとなっても、不安定な少数政権となる可能性が高い。

2011年定期国会法で、国会は5年継続することになっており、首相の解散権はなくなった。しかし、下院全体の3分の2の賛成で選挙ができ、また、政権政党が不信任された場合、2週間以内に他の政党が政権を担当できるかどうか調整し、それができなければ、解散することになっている。そのため、場合によっては、施政方針を発表する「女王のスピーチ」の行われる6月まで政権が確定しない状態が続き、しかもその後も、少数政権で、不安定な政権が続く可能性がある。

スコットランドの情勢

スコットランドでは、下院の全650議席のうち、59議席割り当てられている。2010年総選挙では、労働党41議席、自由民主党11議席、スコットランド国民党SNP6議席、保守党1議席だったが、現在の世論調査の状況では、支持率がSNP54%(2010年総選挙では20%の得票)、労働党が20%(2010年42%)で、その差は、縮まるどころか逆に拡大する傾向だ。5%(2010年19%)の自民党が獲得できそうなのは1議席だけ、17%(2010年17%)の保守党は現有の1議席を失い、これまでの総選挙で圧倒的な強みを見せていた労働党は、ほとんど一掃される勢いである。

この背後にあるのは、SNP党首ニコラ・スタージョンへの評価が極めて高いのに対し、労働党のミリバンド党首への評価が極めて低いことである。Ipsos Moriの行った党首評価によると、スタージョンの評価(プラス評価からマイナス評価を差し引いたもの)は+48であるのに対し、ミリバンドは-31である。ミリバンドの場合、同社が全国的に行った世論調査では、-19であり、スコットランドでの評価は、それよりはるかに劣ることになる。

このSNPの勢いに対して、保守党や自由民主党の支持者が、SNPがスコットランドで力が強くなりすぎ、2回目の独立住民投票を近い将来実施するのを警戒して、労働党に投票する可能性が指摘されていた。これは、タクティカル・ボーティング(戦術的投票)と呼ばれ、有権者が自分の支持する政党には投票せず、当選してほしくない政党以外の、最も当選可能性の高い政党に投票するものである。しかし、これは、それほど大きなものではないことがわかった。保守党、自由民主党の支持者の3分の1ほどがタクティカル・ボーティングで労働党に投票する考えがあるが、同時に、保守党、自由民主党の支持者の10分の1ほどは、自分の選挙区のSNPの候補者が勝ちそうなら、SNPに投票するつもりだという。すなわち、労働党にタクティカル・ボーティングで投票しそうな保守党、自由民主党支持者は、5人に1人ほどしかいないこととなる。これほどの支持では、圧倒的な支持の強さを誇るSNPの勢いの前では、数議席の差はでても、大勢には影響はないと見られる。

つまり、労働党がスコットランドで大敗北するのは間違いない状態であり、このため、労働党が全国的に最多議席を獲得する可能性は大きく減少した。