緑の党を率いる党首

大きな注目を浴びている緑の党は、党員を急速に伸ばしている。現在、47,969人。党員の数では、副首相ニック・クレッグが党首を務める自民党やイギリス独立党(UKIP)を上回った。急増の大きな原因は、保守党の党首デービッド・キャメロン首相が、緑の党が党首のテレビ討論に招かれなければ、自分も出席しないと言ったことにある。なお、緑の党をテレビの党首討論に参加させるようにとのオンラインのペティションは、28万を超えた。

その緑の党を率いるのはナタリー・ベネットである。ベネットは、1966年2月10日、オーストラリアのシドニー生まれ。シドニー大学とニューイングランド大学を卒業した後、ジャーナリストとなり、1999年イギリスへ。その後、レスター大学でマスコミュニケーションの修士号取得。ジャーナリストとして、インデペンデント紙やタイムズ紙に書いた後、ガーディアン・ウィークリーの編集に携わる。

2006年1月、緑の党に入り、2012年9月、党首に選出された。なお、イギリスの緑の党には、イングランド&ウェールズ、スコットランド、北アイルランドと3つあり、上記の党員数はその合計数。ベネットは、その最大の組織、イングランドとウェールズの党首である。その前任者は、キャロライン・ルーカスで、現在、緑の党唯一の下院議員である。ルーカスの選挙区は、イングランド南岸のブライトン・ホブ市の3議席のうちの1つであり、ブライトン・ホブ市では緑の党が少数与党ではあるが、市政を握っている。しかし、5月の総選挙と同時に行われる地方選挙を控え、その予算案に反対する勢力があるなど、緑の党に責任ある施政ができるか疑問がある。

緑の党の政策は、地球温暖化対策やグリーンに関するものだけではない。かなり極端なものがあり、国民全員に「市民の収入」として週に72.4ポンド(1万3,000円:£1=180円)以上支給するというものも含まれる。キャメロン首相が、党首討論には緑の党も、と主張したのは、労働党や自民党よりもかなり左の緑の党が含まれれば、労働党と自民党がかすみ、また、それらの支持票が緑の党に流れる可能性があると見ていることもある。緑の党そのものの総選挙での獲得予想議席数は、1から2議席である。

ベネットは、緑の党の党首でありながら、ロンドンの大英博物館の近くのブルームズベリーのコープのフードストアで今もパートタイムで働いているようだ。これまで総選挙も含めて何度か選挙に立候補しているが、落選した。しかしながら、今回のテレビ党首討論の議論で、メディアで大きく取り上げられている。これまでベネットが下院議員のルーカスに替わって党首となったことを知らなかった人が多かったが、ベネットの知名度が大きく上がり、これから出馬する選挙、特にロンドンの地方選挙で当選する可能性はかなり高くなった。緑の党の政策には疑問のあるものも多いが、スーパーの店員として働く知的な人物が公職に就くことには、メリットがあるように思える。

キャメロン首相抜きの党首テレビ討論?

BBCの政治部長ニック・ロビンソンが指摘しているが、アメリカの大統領選挙のテレビ討論が1960年に初めて行われ、その後16年間行われなかったように、この5月に行われるイギリス総選挙前の党首テレビ討論の実施を巡ってゴタゴタがあるのは何もおかしいものではない。

ロビンソンによると、保守党党首のキャメロン首相は、2010年のテレビ討論はその敵方を有利にしたとして、今回は出席しないために臆病者と言われても構わない、と決めているそうだ。テレビ討論に喜んで出るからといって有権者は投票しないというのである。

ミリバンド労働党党首、クレッグ自民党党首、ファラージュUKIP党首は、キャメロン首相に手紙を書いて、テレビ討論に参加するよう促したが、同時にこの手紙で、放送局にキャメロン抜きでも実施するよう圧力をかけている。

放送局は、いずれもUKIPは除外できないが、緑の党は除くべきだと考えているそうだ。それでは緑の党抜きではテレビ討論に出席しないと主張するキャメロン首相抜きで実施すればよいのではないか?しかし、ことはそう簡単ではないという。放送局がキャメロン抜きのテレビ討論を実施するにはかなりの覚悟がいるようだ。公共放送のBBCは政府の勅許の書き換えがあり、政府との視聴料の交渉もある。ITVとチャンネル4は政府の規制が気がかりで、スカイもその買収問題に関して経験したように、政治と無関係ではない。

キャメロン首相は、首相となる可能性のある二人、自分と野党労働党のミリバンド党首とのテレビ討論、そして保守党、労働党、自民党、UKIPそれに緑の党の5党のテレビ討論には応じる可能性に言及したが、本音は、テレビ討論そのものに出たくないと言われる。ミリバンド党首との一騎打ちのテレビ討論には大きな障害はなさそうだが、実はこれも避けたい考えだと言われる。キャメロンは、世論調査の個人支持率でミリバンドに大きな差をつけているが、もしテレビ討論が行われれば、多くの人が過小評価しているミリバンドが健闘するのは間違いないと見ているからだ。そのため、キャメロン首相側がテレビ討論が行われないように力を入れるのは間違いない。

ただし、ロビンソンも示唆するように、放送局の中でも「勇敢(無謀?)」なところもあるだろう。政党だけではなく、放送局も加えて、今後のなり行きは予断を許さない。