住宅不足への対応(How to Cope with Housing Shortage?)

英国人は持ち家を好む。家の価格は長期的に見れば上がると考えられていることがその背景にある。しかし、持ち家率が下がり、賃貸率が上がっている。家賃は過去5年間で37%アップしたが、借りている人の数は2倍となった。住宅が不足しているのである。それが住宅の価格が大きく上昇している大きな理由である。

住宅不足を解消するためには、年に24万5千軒の住居が必要だと言われるが、住宅建設は遅れている。2012年は1920年代以来最低レベルの10万軒にとどまり、2013年には11万軒だった。特に急務となっているのは手の届く価格の住宅の供給である。

住宅建設を促すために政府はFunding for Lending やHelp to Buyなどさまざまな資金提供策を講じた。これらは一定の成果を上げているが、それでも住宅建設は遅々としている。この原因の一つは、地方自治体に任せられている建設許可が極めて厳しいことである。

そこでキャメロン政権では、住宅の数を増やすために建設許可制度を緩和している。これには政府の財政負担が必要ない。既存住宅の拡張許可の大幅緩和には大きな反対があった(参照)。農業用建築物を住宅などに変える制度も設けた。そして、それらの中でも特に大きな効果が出はじめているのは、使われていないオフィスなどを基本的に建築許可なしで住宅に変える制度である。

この制度は2013年5月に設けられ、3年間の期間限定となっている。この利点の一つは、一般にアパートなどを建設すると、その中に一定の割合で公共住宅を設けるなどの義務があるが、それなしでできることである。建物の構造を転用できるため、手が届きやすい価格で提供される。

この政策で注目すべきは、既存のインフラの利用である。つまり、このようなオフィスなどには、すでに道路、電気、水道、下水道や駐車場などがある。また、鉄道などの公共交通手段も近いところにあることが多い。

もちろんこのような制度には、粗悪な住居が提供される可能性があるとか、ビジネスを追い払う効果があり、地域の失業を招く可能性もあるなどマイナスの面があることを指摘する声もある。

また、そういう形の住宅増加策よりも、新しいガーデンシティの建設など、まったく新しい街を建設するほうが手っ取り早いと考える人もいる。しかし、既存のインフラを利用できることは、公共財の有効利用からも望ましいように思える。

英国では政策は極端から極端に振り子のように大きく揺れ動くことが少なくなく、このオフィスの住宅転用制度でもまだまだ改善の余地があるように思われる。しかし、このような制度を地方自治体などが慎重にそして賢明に運用すれば、地域に大きなプラス効果を生み出すことは不可能ではないだろう。特に英国の商店街もインターネットでのショッピングの増加や郊外のショッピングセンターなどの影響で空きの店が増えており、将来の見通しは暗い。つまり、街の中央がさびれる傾向もある。商店街の近くには病院、小さな店、また図書館などさまざまなアメニティ施設があり、もしそこに多くの人が住むような仕組みができれば再びにぎやかな場所になる可能性があるように思われる。

必死の自民党(Threatened Lib Dems)

2014年5月の欧州議会議員選挙まで3ヶ月足らずとなった。この選挙では英国に割り当てられた73議席が12地区ごとの比例代表制で選出される。自民党には現在12人の欧州議会議員がいるが、この選挙で自民党の欧州議会議員がいなくなる可能性がある。2010年5月の総選挙後、保守党との連立政権に参加して以来、自民党の支持率が大きく下がったためだ。

実際、自民党の支持の凋落振りには驚くべきものがある。例えば、2014年2月5日から27日の間に1万4千人を対象に行ったPopulus/FTの世論調査である。自民党に2010年総選挙時に投票した人は、統計処理後の数値が2577人(生データ2622人)であったのに対し、現在総選挙があれば自民党に投票するという人は統計処理後987人(生データ899人)しかいない。つまり支持が60%も減少している。英国の有権者は総選挙では欧州議会議員選挙と異なった投票をするが、それでも自民党への支持は大きく減っているといえる。

もし自民党が欧州議会議員選挙で惨敗するようなこととなれば、1年後の2015年5月の総選挙に与える影響は甚大なものがあるだろう。

その中、自民党党首のクレッグ副首相は、その欧州議会議員選挙で大きく議席を伸ばすであろうと見られている英国独立党(UKIP)に党首討論を申し出た。UKIPは英国のEUからの脱退を提唱している政党であるが、自民党は主要政党の中で最も親EUだと考えられている。

この挑戦をUKIPのファラージュ党首が受け入れ、テレビでもBBC2が4月2日(水)午後7時から1時間の放送枠を取って放送することになった。保守党と労働党は参加しない。2010年総選挙時の党首テレビ討論に参加して失敗したと考えられている保守党はテレビ討論への参加には慎重だ。キャメロン首相が参加するとUKIPとの対決で大きな注目を浴び、UKIPを有利にするだけであり、逆効果だと考えていると思われる。

自民党は、この討論を通じて有権者に自民党の存在を改めて認識させることを狙っていると思われる。2010年の総選挙で初めて行われた主要3党首のテレビ討論でクレッグ人気が高まったことの再来を狙っているのは間違いないが、ファラージュUKIP党首は手ごわい相手だ。既に始まったつばぜり合いではファラージュ党首の方が上手を行っている。

3月5日の朝のBBC4ラジオ番組Todayに出演したファラージュ党首は欧州議会議員であるが、クレッグの指摘したいくつかの点に効果的に反論した。

  • 2009年以来欧州議会で議案の修正案を出したことがないという点には、自分は議会内のグループの議長で、自分のグループから多くの修正案が出ている。
  • ファラージュは、欧州議会の議事に貢献していないという点には、自分は、欧州議会から8時間離れたところに住んでおり、英国で全国政党を率いているが、議会の採決には55%出席している。ところが、ロンドンに住んでいるクレッグは、採決にわずか22%しか出席していない。

2010年総選挙の党首討論で一躍脚光を浴びたクレッグだが、自民党のマニフェストに10年以上の英国不法滞在者に合法的に滞在する権利を与えることが入っていることが広く知られるやいなや、クレッグに罵声を浴びせる人たちがでてきたことを思い出す必要があるだろう。英国民は移民の問題に敏感だ。

自民党は連立を組む保守党との違いを強調するなど、その存在意義を訴えるのに懸命だ。それらの努力がどの程度効果があるか注目される。