オリンパス元社長の経験(Former Olympus CEO’s Experiences)

光学メーカー、オリンパスの社長を務めたマイケル・ウッドフォードが自分の経験を書いた本「暴露:オリンパススキャンダルの内幕―私がいかにCEOから内部告発者になったか」が11月29日に発売される。既に大きな注目を集めており、英国のアマゾンでは、すべての本の中で現在1787位である。

ウッドフォードは、2011年、オリンパスとの戦いで、英国でビジネス関係の様々な賞を受賞した。不当解雇されたことなどについては、既にオリンパスと和解し、1000万ポンド(12億6千万円)の和解金を受け取っている。

英国の日曜紙で最大の売り上げ部数のサンデータイムズ紙の付録のマガジンが、表紙にウッドフォードを取り上げ、その話が中で6ページにわたり取り上げられている(2012年11月11日)。それによると、ウッドフォードには、ある英国の会社が会長に就任してほしいと言ってきているそうだ。また、ある日本の会社が社長になってくれと申し出てきたとも言う。しかし、今は、この本の映画化の権利を欲しがっている映画会社と話をしているという。

ウッドフォードの戦いはそう簡単なものではなかったそうだ。ジェイク・アーデルスタインというアメリカのジャーナリストで日本のヤクザの権威が、ウッドフォードに命が危ないぞと言ったという。またロンドン警視庁の刑事が、ウッドフォードのロンドンのアパートを訪れ、緊急暗号を与え、郵便受けを塞ぐようにと言ったそうだ。何者かがそこから火をつけるかもしれないからだという。ウッドフォードの妻は、非常に怖がり、真夜中に叫んで目が覚めることがあったそうだ。

日本のメディアは、このスキャンダルを取り上げるのが遅かったが、外国のメディア、ウォールストリートジャーナル、ファイナンシャルタイムズ、そしてサンデータイムズは執拗だったという。

サンデータイムズ紙の記者は、ウッドフォードは、欧州で2回腐敗を曝しだし、会社の中で、腐敗を暴露するという評判があったのに、なぜ秘密を抱えるオリンパスがウッドフォードを社長に任命したのかと疑問に感じている。それでも根本は、残念ながら日本には体質が旧態依然で時代に適合できていない会社がかなりあるということのようだ。

BBCの何が問題なのか?(What went wrong with BBC?)

BBCが揺れている。会長が就任以来2か月持たずに辞任した。児童性的虐待をめぐる番組制作上の問題が原因である。具体的には、次の二つの出来事がこれを引き起こした。

①まず、BBCの看板番組の一つニュースナイトが、昨年12月にBBCのかつてのスタープレゼンター、ジミー・サヴィルの児童性的虐待疑惑を報道する準備ができていたにもかかわらずその報道を取りやめたことである。これは今年10月に発覚した。この報道取り止めには、同じ時期にBBCが多くの経費をつぎ込んだサヴィル追悼番組が報道されることになっていたことに関係していたのではないかと言われている。

②さらに、同じ番組ニュースナイトが、11月2日、北ウェールズで1970年代から80年代にかけて起きた、養護施設に収容されていた子供への性的虐待問題で、サッチャー政権当時の有力政治家の関与を報道した。その政治家の名前がツイッターなどで明らかにされたが、その性的虐待の被害者が人違いに気づき、それを認めたために、BBCが全面的に謝罪する事態となった。その結果、BBC会長の辞任を招いた。

これらを受け、BBCを監督する立場のBBCトラストの会長、パットン卿は、BBCの構造を徹底的に再点検する必要があると言った。しかし、これはシステムの問題だろうか?

この点、12日のファイナンシャルタイムズの視点が的をえているように思われる。これはむしろ人の問題だと言うのである。ファイナンシャルタイムズでは、BBCの元執行役員会のメンバーの言葉を借りて、ニュースの指揮系統はそう複雑なものではないと指摘し、これは、編集判断の失敗であると示唆した。さらに同紙のベン・フォスターは、BBC会長の失脚は、大きな仕事を十分なサポートなしに、経験も不足している中でしようとしたことにあると指摘している。

12日に出された、第二の問題の調査結果(中間報告)のまとめによると、サヴィルの番組の取りやめの件①でニュースナイトのエディターがその職務を一時離れることになった。しかも副エディターの一人が辞任したなどから、番組のリーダーシップが混乱していたという。この報告書では、②では、報道前に基本的なチェックが行われていなかったという。

さらにこの番組を統括管理する立場にある上司二人も、上記のサヴィル番組取りやめの件①で調査を受ける立場となったため、サヴィルや児童性的虐待の問題に関する決定に関与しないこととしたため、他の幹部がそれに関する問題を監督することとなったが、意思決定の面で混乱があったと言う。

中間報告書を受け、この意思決定の問題に対処するため、辞任した会長の後を受けた暫定会長は、新しい人を担当部署に就け、指揮系統を確立した。

この一連の動きを見ると、組織の陥りやすい問題に気づく。特にお役所的な体質を持つ場合である。

まず、第一の事件が起きた時、辞任した会長は、取りやめるという話は聞いたが、どういう経緯で番組のサヴィル児童性的虐待報道が取りやめになったか知らなかったと発言した。この会長は、もともとジャーナリスト出身で、BBCの生え抜きである。この取りやめ問題が起きたのは、BBCのテレビ部門を統括するビジョン部門の責任者だった時である。しかし、それ以上追及して聞くということはなかった。つまり、詳細を知らなければ、それは自分の責任ではないということである。もし、詳細を知っていて、それで動かなければ、それは自分の責任となる。知らないことは幸いだということである。

つまり、出世するためには、なるべく問題に巻き込まれないということが大切ということだった。問題は、いざ自分がトップの会長になった時、それでは通用しないことがわかったことだ。

BBCラジオ4の朝のTodayという番組で、11月10日(土)、この会長は厳しく問い詰められた。11月2日夜のニュースナイトの番組の内容は、ツイッターなどで放映よりかなり前からわかっていた。しかし、この会長は、その翌日までそれを知らなかったと言った。これでは危機下にあるBBCのトップの任には堪えないだろう。情報をいち早く集めて対応することが必要だった。

しかも、ニュースナイトの製作現場の管理を中途半端な形で間に合わせようとしたことも誤りだった。今回暫定会長が実施したように、きちんとした管理体制を敷くことが必要だった。これらは、システムの問題というより、人の問題である。責任者の能力と判断の問題である。もちろん、この会長を任命したBBCトラストのパットン会長の判断にも疑いが残るが。