党大会シーズンを終えて(How the Party Conferences Went?)

 

キャメロン首相の保守党大会のスピーチは聞かせるものだった。前日のロンドン市長・ボリス・ジョンソンの演説とは趣を変え、大向こうに受けるようなレトリックを避け、着実に自分の来歴と、自分の目指すもの、これまでの実績、そしてこれから予想される困難な障害を労働党との違いを浮き立たせるように語った。一種の緊張感を最後まで保ち、非常に完成度の高いスピーチだった。さすがという印象があった。あるBBCのジャーナリストは、首相らしい演説だったと評した。

ただし、聞き終わった後、いったい何を話したのだろうかと振り返ってみると、キャメロンのジョークと父親の話、亡くなった長男の話、そして、自分の育った恵まれた境遇を社会に広く広げたいという話であった。キャメロンのジョークは、労働党をダシにしている。労働党は政権担当中も、野党になっても、お金を借りることばかり考えている。One Nation ならぬOne Notionだと揶揄したものだ。これは、保守党大会だからジョークになる。

キャメロンのスピーチは聞かせるものではあったが、話の中で使った統計には疑わしいものがあった。もちろんどこかにそのような統計はあるのであろうが、政治的なスピーチでは、時に統計を非常に巧妙に使っている場合があるので留意しておく必要がある。

それよりも、BBCの政治副部長が、キャメロンは保守党の党首となってから7年もたつのに、自分をあらためて今さら定義しなければならないのは、尋常ではないとコメントした。一方、政治部長は、これまでの批判に対する反論を一つ一つ上げた、防衛的な演説だと評した。

キャメロン首相は、競争のますます厳しくなる国際環境の中で、英国が生き残っていくためには、国の財政を立て直し、福祉制度を見直し、教育を向上させ、公平な社会とし、誰もがよくなろう、よくしようという向上心を持つ国が大切だと訴えた。

これはよくわかる話で、多くの人がそれに賛成するだろうが、向上心や、一生懸命働くなどと言っても、このような「スローガン」は、残念ながらすぐに忘れ去られてしまうように思われる。このスピーチは保守党大会参加者にはかなりの満足感を与えたようだが、一般の有権者の判断はどうだろうか。

今年の党大会シーズンのハイライトは、ミリバンド労働党党首のスピーチだろう。10月14日のサンデータイムズのYouGov世論調査では、この党大会シーズンで最も成功したのは誰かという問いに対して、キャメロンとした人が22%、自民党のクレッグとした人が3%だったのに対して、32%がミリバンドと答えた。それまであった、ミリバンドは党首そして将来の首相としてふさわしくないのではないかという大方の見方を変えたものだったからだ。そのスピーチでOne Nation Labourを打ち出したが、これは、保守党のこれまでのOne Nation Toryを変えたものである。One Nation Toryとは「金持ち・特権階級」と「貧しい労働者階級」がかい離した国ではなく、全体で一つにまとまった国にしようとする考え方である。かつてこれを打ち出したのは、かつて保守党首相を務めたベンジャミン・ディズレーリであった。ディズレーリはもともとポルトガルから移ってきたユダヤ人移民の子孫で、ミリバンドは英国に移ってきたポーランド系のユダヤ人の子供である。ディズレーリとミリバンドはこの点で共通点があるといえるだろう。

ミリバンドンの演説は、かなりリラックスしたもので、65分の演説をすべて覚えておいて話したものだった。政策的な内容はほとんどなかったが、政策の方向性を示すもので、これには多くが驚いた。One Nation Toryの上から下を見下ろした発想ではなく、つまり、金持ちにより多くのお金を稼がせながら課税し、それを下に振りまくという発想ではなく、国全体をOne Nationに合致するように変えていくという発想である。ミリバンドは、この演説に相当な自信があったように思われる。それが演説に現れていた。その結果、政治を報道するジャーナリストのかなりの敬意を勝ち取った。これは大きな成果と言えるだろう。今後ミリバンドのことを書く際の視点が異なってくるからだ。これとOne Nation Labourのスローガンは今後長く残るように思われる。

なお、ミリバンドは、今の時点で、詳細な政策を出す必要はない。選挙はまだ2年半先のことで、経済状況はまだまだ変わる。その上、一般に英国では、選挙は「政権政党が失う」ものだと考えられている。経済状況が悪く、保守党には左右の対立があり、政策のUターンやミスが続いている。しかも保守党は、英国のEUからの脱退を求める英国独立党UKIPに大きく票を失う状況だ。自民党の支持率は低いままで、前回の総選挙で、自民党に票を投じた人の多くが労働党に投票する構えである。そういう中、ミリバンド労働党はまったく焦る必要はない。

次に自民党のクレッグを見てみよう。クレッグのスピーチは率直でしっかりしたものだったと評価される。自民党は連立政権の中で重要な役割を果たしているとし、クレッグについてきてほしいと訴えた。クレッグのスピーチで、キャメロン首相らとの間で政権の基本的な財政経済政策については変えないという合意ができていることが明らかであったが、その後のオズボーン財相のスピーチで、具体的な税制などではまだ合意ができていないことが明らかになった。

自民党の中にはクレッグ党首を今の時点で入れ替えようという考えはあまり大きくない。しかし、代替党首の筆頭候補とされるケーブル・ビジネス相のスピーチを聞きに集まった人の方が、クレッグより多かったと言う話を聞くにつけ、クレッグの命運はいずれにしても大きく変わらないと思われる。ただし、今現在党首を交代させるのは時期的に早すぎるだろう。自民党も保守党も今の時点での選挙は避けたいと考えており、次期総選挙は任期満了の2015年5月の見込みである。クレッグもスピーチで述べたように、これからさらに厳しい財政削減に取り組まねばならない状況だからだ。つまり、党首を今変えても、クレッグのように大きく人気を失う可能性がある。

一方、クレッグがどのような将来的な構想を描いているとしても、その時がくれば、かつてメンジー・キャンベルが党首から引きずり落とされたように事態は急に進む可能性がある。

いずれにしても、経済が停滞しており、しかも財政再建も停滞している中で、財政緊縮策を取る政権を担当している政党には厳しい状況だ。その中で、野党の労働党は有利な立場であったと言える。

キャメロン首相官邸の決断が遅い?(Cameron’s No 10: Slow in its decision making?)

首相官邸の反応が遅いという不満がたまっているとタイムズ紙の政治部長がコメントした(10月10日)。決め方にきちんとした手順がなく、キャメロン首相の首席補佐官の資質を疑う声もあるようだ。首相官邸には、人あたりなどを気にせず、物事を強力に進めていくことのできるエンフォーサーがいない、官僚トップの一人で内閣担当の内閣書記官がいつも賛成するとは限らない、キャメロン首相とそのストラテジストであるオズボーン財相が最後の最後まで決断しないなどという見方を挙げている。しかしながら、この問題の根底には、キャメロン首相がいったい何をしたいのかはっきりしていないということがあるだろう。

もちろんキャメロン首相には、2010年5月就任以来、財政赤字を減らす、そしてその結果、将来的に政府の負債を減らすという目的がある。しかし、タイムズ紙のフィル・コリンは、キャメロンには、それを越えて、その後のものがないと言う(10月6日)。フィル・コリンは、トニー・ブレア元首相のスピーチライターを務めた人物であるが、このコメントは必ずしも労働党寄りの考え方のためではなく、理由があると思われる。

キャメロンは総選挙前から「ビッグソサエティ」というスローガンを掲げていた。首相となり、政府がこれまで実施してきたことや行政が手の及ばなかったことを市民が自分たちのために、自らの力や創意工夫で、担っていく役割を拡大していくよう推進してきた。これは、ローカリズム法や、この11月のイングランドとウェールズの41警察管区で行われる警察・犯罪コミッショナーの選挙にも体現化されている。つまり、中央集権的なやり方(中央政府でも地方自治体でもありがちだが)から、市民の声が直接その地域で起こっていることに反映される仕組みを作っていこうというものだ。問題は、この「ビッグソサエティ」という考え方そのものの発想は良いが、その内容が希薄である点だ。そのため、政府の「ビッグソサエティ」に関するプロジェクトは勢いを失った。警察コミッショナーの選挙には有権者のほとんどに関心がなく、投票率が低くなるのではないかと心配されており、大きな広告キャンペーンが始まった。あまりに投票率が低いと、例えば15%程度しかないなどという事態になれば、制度そのもののレジティマシー(法的正当性)に疑問が生じる可能性がある。

キャメロンは、この「ビッグソサエティ」の考えをかなり前から持っていたと言われるが、この考え方を肉付けしたのは、キャメロンの側近であったスティーブ・ヒルトンである。つまり、キャメロンにアイデアはあったかもしれないが、「ビッグソサエティ」で行っていることは、他の人が考えたことと言えるだろう。キャメロンの党大会のスピーチで「ビッグソサエティ」に関連して、これまで自分が3年間説明しようとしてきたことを、オリンピックを作った人たちが3週間で素晴らしく行ったと言ったが、これは残念ながら、キャメロンが3年間言い続けてきたことが十分なものではなかったことを示唆しているようだ。

キャメロンは、自分が首相として取り組んでいくことの目的を次から次にスピーチで取り上げたが、これを是非やり遂げたいというものがない。その上、首相官邸の反応が遅ければ、意欲の空回りということになりかねないように思われる。