党大会シーズン:リーダーたちの課題②(Party Leaders’ Challenges this autumn)

② 労働党:マンチェスターで9月30日から10月4日。テーマは「英国再建」

前回の①自民党に引き続き、ここでは②労働党を見る。

労働党の党首エド・ミリバンドは、2010年9月に党首に選出された。これは、2010年5月の総選挙で、前党首で首相ゴードン・ブラウンが率いる労働党が大きく議席を失い、いずれの政党も過半数を占めることのない、いわゆるハング・パーリアメントという状態になり、最も多くの議席を獲得した保守党が第三党の自民党と連立政権を樹立した後のことであった。

労働党の党首選では、最後まで、前エネルギー相エド・ミリバンドの兄で、前外相のデービッド・ミリバンドが優勢と見られていた。デービッド・ミリバンドは、元首相のトニー・ブレアに近く、労働党の中でも右寄りと見られていた。一方、エド・ミリバンドは、ブラウン前首相に近く、労働党の中でも左寄りと見られていた。

労働党下院議員に支持の強いデービッド・ミリバンドが優勢だったが、労働組合がエド・ミリバンドにテコ入れし、最後にわずかの差でエド・ミリバンドが予想を覆し、逆転勝ちした。この結果、エド・ミリバンドには数々の批判が浴びせられた。

一番大きなものは、保守党らによる「赤のエド」という批判である。つまり、労働組合の支持を受けて党首になったために、労働組合寄りの政策を打ち出す必要があると見られたためである。

次に、兄のデービッド・ミリバンドは、それまでかなり長い間、次期党首候補と見られていたことから、党首に就く心の準備ができており、打ち出す理念がはっきりしていると見られていたが、エド・ミリバンドには、その準備も、理念もはっきりしていないという批判であった。これは、特にマスコミや労働党の下院議員に強い批判であった。これは今でも払しょくされていない。

さらに、言葉尻が明瞭ではない、という批判もあった。なお、これについては、鼻の手術をした結果、かなり改善し、最近ではそう気にならない程度になっている。

エド・ミリバンドは、「赤のエド」というレッテルを取り除こうと、労働組合とは距離を置く方針を取ってきた。例えば、連立政権の公務員の賃金凍結政策に同意する発言をしている。これらの努力の結果、この「赤いエド」という言葉はあまり使われなくなってきた。

しかしながら、党首に就任してから2年経つが、労働党の方向性や、労働党が政権につけばどのような政府になるかについては未だにはっきりしていない。これらをはっきりと示し、党首選でデービッド・ミリバンドを支持した多くの下院議員たちに、労働党の党首としてふさわしいと証明する必要がある。

この点、9月初め、エド・ミリバンドは、Predistributionという言葉で自分の基本的な考え方を紹介しようとした。これは、不平等を減らすために、賃金をまともなものにすることに焦点を当て、これまで行われてきている、低賃金をカバーするためのタックス・クレジット(税額控除)のような制度に頼る仕組みを変えていく考え方である。これは、富の公平な分配のメカニズムを「国」よりもむしろ「市場」へと移す議論であり、国が使うお金を減らしながら、平等の程度を高め、貧困を低くしようとするものである。

つまり、政府債務が増え、財政赤字が大きな状態では、貧困をなくすために増税し、それで得たお金で問題解決することが難しくなったことが背景にある。しかも多くの国民が、これまでの税制による富の再分配に反対していることがある。税金が高くなっても、貧しい人々に政府が福祉給付を与えることにもっとお金を費やすべきだという考えに賛成する人が少なくなっている。2007年を境として反対の人が増えてきた。1989年にはそれに賛成する人が60%を越え、ピークであったが、2009年には、反対が43%、賛成が27%となっている。世代間で同じようなパターンが繰り返すのではなく、全体的に賛成が減っているのである。

以上のような状況の中で、プリディストリブーションの考え方は理解できるが、それではどのような手段でそれを実施するのか?福祉をどうするのか?身体障害者など働くことが困難な人をどうするのか?働いていない人をどうするのか?年金をどうするのか?老人介護をどうするのか?経済をどうするのか?人と人のつながりをどうするのか?

さらにこのプリディストリブーションという考え方は、高度な技術、生産性の高い労働市場が必要だが、最低賃金が上がると、失業とモノの値段が上がる可能性がある。このような問題へ回答を出して行かねばならない。

いずれにしてもエド・ミリバンドは、自分の考え方を示し始めた。党大会では、この動きを歓迎するように思われる。ただし、その具体化は、まだまだ先のこととなるだろうが。

これに関連して重要なのは、ミリバンドの有権者に与えるイメージである。世論調査では、労働党が保守党に10ポイント程度リードしているが、首相としてふさわしいかどうかという点では、保守党のキャメロンの後塵を拝している。その結果、世論調査で、ミリバンド率いる労働党とキャメロン率いる保守党と名指しすると、両党の支持率の差が数パーセント縮む。このイメージの問題に取り組む必要がある。

予算の聖域は非効率のもと(Budget Cut Exemptions May Increase Waste)

日本の予算の概算要求を見て気にかかったことがある。もちろん全体の要求額が東日本大震災の復興費を入れて100兆円を超し、その約4分の1が国債費という状態を非常に残念に思うが、気にかかったのは、アプローチの仕方である。政府の概算要求基準では、要求額を12年度予算より10%削減するよう求めたというが、重点3分野のエネルギー・環境、医療そして農林漁業では、最大4倍の要求額を認めたという。さらに高齢化による医療費や年金など社会保障費の自然増0.8兆円をそのまま要求してよいことにしたという。

もちろん、これは概算要求の段階であり、これからの査定で結果はかなり異なってくると思われるが、このようなアプローチは、現在の英国の政治行政の事例から見ると、避けるべきものだと思われる。

英国では、現在、サッチャー政権よりも厳しい財政削減が進行中だが、その中で、二つの分野では、予算の増額が認められた。海外援助とNHS(国民保健サービス)である。このうち、国際援助は、保守党の2010年総選挙のマニフェストで、2013年からは国民総所得(GNI)の0.7%を海外開発援助(ODA)に向けると約束したことに始まる。これは、実は、労働党がUN(国際連合)の目標を2010年のマニフェストで約束したので、保守党もそれと同じ約束をしたという経緯がある。「嫌な党」保守党のイメージを変える狙いもあった。この結果、2010年の国際援助額78億ポンド(9800億円)から2015年には115億ポンド(1兆4400億円)にまで50%近いアップとなる見込みだ。

この状態で、担当省の国際開発省(DfID)は、毎年急激に増加する国際援助費をかなり「贅沢」な使い方をしていた。外部のコンサルタントに5億ポンド(630億円)近くも使っていたことなどがわかった(参照:http://www.telegraph.co.uk/news/politics/9547162/Probe-over-millions-spent-on-foreign-aid-consultants.html)。

財政削減のため、社会福祉の予算も大幅に削られているのに、海外援助を大幅に増やすのはおかしい、という強い批判がある。キャメロン政権は方針を変え、増やすのではなく、減らすべきだという見解が、保守党内部、特に右派から出てきている。しかしながら、今のところキャメロン首相は方針を変えるつもりはない。そして、公認会計士でもある前運輸相を国際開発相につけ、無駄や非効率な使い方を削減しようとしている。

ただし、省の管理運営費は、2014年度までに3分の1減らす予定で、人員削減が急速に進んでいる。つまり、管理運営の効率化を図る一方、ODA額は急速に増えているという形だ。ここで注目すべき点は、管理運営費を減らせば、無駄や非効率が減るはずだと考えがちだが、特定の部門の予算を急に増やせば、その使い方がかなり放漫になる可能性があるということだ。

さらにNHSでは、保守党がそのマニフェストで、毎年予算を実増すると約束した。しかし、進む高齢化などへの対応で、根本的な機構改革を図っている。その効果は今後の結果を見る必要があるが、英国では、日本のように、単に自然増を認めるというロジックとはならないと思われる。