外国人刑務囚の国外退去に手こずるイギリス

8年前の2006年のこと、刑務所を出所した外国人1千人余りが国外退去措置を検討されることなく、そのままイギリスに滞在することが許されていることが明らかになった。しかもその中には殺人などの重大な罪を犯した人たちが含まれていたのである。非常に大きなニュースとなった。 

それが、このたび会計検査院(NAO)の報告で、改善されていないことがわかった。

外国人刑務囚は現在1700人ほどで、刑務囚全体の13%とかなり多い。外国人刑務囚の対応に昨年85千万ポンド1462億円:£1172円)かかっている。昨年には5千人余りが本国に送られたが、2009年以降イギリス国内に残っている外国人の元刑務囚は4200人ほどで、その6分の1760人は行方が不明であり、そのうち58人は社会に危険な罪を犯した人たちだという。

政府の対応が不十分な原因は以下の2つに集約される。 

  1.  政府の能力の欠如。これは決して新しい問題ではないが、特に以下のような問題が指摘されている。
  • 内務省、法務省、外務省の連携の不足
  • 実務担当者のミス
  • 警察らの既存データのチェックの欠如
  • 消極的な国際的データアクセス 

    2.   欧州人権法などの法制の問題個人の人権が手厚く保護されており、イギリス内の家族、例えば子供がイギリスで生まれたなどの理由で在留を許される例もかなりある。もし在留を否定されても、不服申し立て、再不服申し立てなどでかなり時間が経過し、さらに家族がイギリスに根をおろす機会を与える例もある。政府は、不服申し立ての理由を制限するなどの対応をしているが、不服申し立ての数は増えている。

基本的には服役中に、または刑期が終了すれば、すぐに国外退去をさせるべきだが、それがスムーズに行っていない。在留を拒否されれば、不服申し立てはそれぞれの本国からするようにすべきであるが、伝統的に人権が重視されすぎてきた傾向がある。 

いずれにしても総選挙が半年後に行われる時期となってこのような問題が表面化したことは、キャメロン首相にとって痛手である。