労働党政権の最初の関門

スターマー首相は、総選挙の選挙運動中、3人目以降の子供に対する手当は支給しないとした保守党の政策を継続すると表明した。この政策は、保守党政権が2017年4月に実施したものである。現在の政府の財政状況では、NHSを始め、直ちに対応しなければならない課題が多く、そこまで余裕がないというのである。

Resolution Foundationシンクタンクによると、保守党のこの政策で、影響を受けた家庭は、過去6年間で7万から45万世帯に増えたという。3人目以降の子供1人当たり、3455ポンド(約70万円)の影響があるそうだ。貧困の状態にある子供の数は、これまでで最も高いレベルに達したとする。もし、この政策が廃止されれば、30万人の子供が貧困でなくなり、その費用は17億ポンド(約3400億円)とする。

スターマーは、所得税、国民保険、そして付加価値税の税率は上げないとしたが、それ以外に、他の税への課税や財政の計算方法を変更し、この政策撤廃の財源を生み出すことは可能だとする見方もある。

確かに労働党は、自らに課した、財政に関する制約の中で経済運営をするという極めて慎重な方針を取っている。子供の貧困問題に対する戦略はあるというが、子供に対する手当の予算は今のところついていない。それと同時に、「子供手当は、2人まで」という一種の象徴的な制限を継続することで、他の同じような要求に拡大することを防ぐ意図があるように思われる。

その一方、労働党は、一刻も早く経済成長を成し遂げ、財政を向上させたいという考えがある。労働党の総選挙大勝利は、金融市場に好意的に受け止められた。ドイツやフランスの政治が不安定な中、英国は労働党の地滑り的大勝利で、政治的に安定し、プロビジネスの経済環境を熱心に作ろうとしている。必要な海外からの投資を招きやすくするための環境づくりにも懸命だ。慎重にその効果を測りながら進めて行くことになるだろう。

労働党は、下院で他の政党を大幅に上回る議席がある。この子供手当の問題では、労働党の中にも、子供の数の制限を撤廃すべきだという意見があり、もし7月17日に発表される政府の計画(国王のスピーチ)にそれが含まれていなければ、それに修正動議を出すと公言する下院議員もいる。スコットランド国民党や緑の党もそれに同調する予定で、さらに総選挙で72議席を獲得した自民党もその可能性をほのめかした。労働党が下院で圧倒的に多数を占めているため、かなり多くの労働党下院議員が政府の計画に反対しても、政府案通りの結果となるが、異論の多い事案では、この問題のように、政府対野党連合のような対立の構図となるだろう。

スターマー労働党は政権を少なくとも10年は続けていきたいと考えている。野党連合や世論と対決しなければならない事態は、なるべく避けたいのではないかと思われるが、この段階では、譲歩の可能性は少ないように思われる。