スコットランドの独立に関する住民投票が来年2014年9月18日に行われる。もし独立すればどのような経済への影響があるかについては、独立賛成派と反対派で結論が大きく異なる。
独立賛成派の議論にはナショナリズムがその背景にある。スコットランドとイングランドの間の敵対意識を掻き立てるために、スコットランドの政権を与るスコットランド国民党(SNP)は、両者の歴史的なバノックバーンの戦いの700周年にあたる来年を選んだ。
実際のところ問題はそうクリアーカットなものではない。私の知人のイングランド人はスコットランドに住んでいるが、スコットランド独立に賛成している。一方、イングランドに住んでいるスコットランド人の知り合いは独立に反対だ。
そのスコットランドの独立の議論の最も大きな基礎は、北海油田の石油・ガスである。つまりそれらからの収益をスコットランドだけに使えば十分独立できるという議論である(参照 またスコットランド政府の分析)。
そして油田からの収入でソブリンファンドを築いているノルウェーのように小さな国であっても十分に自立していけるという考え方である。
ただし、このような考え方がどの程度有効かは実際のところ独立してみるまで不明な要素がある。
スコットランド独立の経済分析には以下のようなものがある。IFS、Niesrそして英国政府のものである。いずれも独立賛成派には厳しいものだ。
それでも以前の記事に引き続き、2点補足しておきたい。
①北海油田の産出量は減少している。また、長期的に見れば、シェールガス・オイルなどの開発でその行方がそう明るいとは思われない。
特にスコットランドは1人当たりの公共支出は、一人当たり£12,200程度だが、英国全体では£11,000程度で£1,200ほど高く、スコットランドは優遇されている(英国政府)。
その公共支出の高さと、英国全体の政府債務の割合分への利子払い(Niesrレポートでは英国と同じ通貨を使っても英国より0.72から1.65%高くなると見られている)を考えると、財政的にかなり苦しくなる。
②スコットランドが英国から分離独立した場合のスコットランド経済へのマイナス効果がかなり大きいことが想定される。
つまり、スコットランドが英国の一部である状態から別の国となると、かなりの割合のビジネス関係が減少する可能性がある。
例えば、20年前の1993年、チェコスロバキアが分離し、チェコ共和国とスロバキア共和国に分かれた。分離前、チェコの対外取引の22%がスロバキアだったが、10年後にはそれが8%となった。反対にスロバキアからチェコへは42%から13%となった(英国政府の分析p. 60)。
また、アイルランドが1922年に英国から分離する前は、90%が英国との取引だったというが、それ以降徐々に減り、現在では20%程度となっている(上記英国政府の分析p.62)。
スコットランドの主要産業の一つである金融サービスは顧客の9割がスコットランドを除いた英国内にあり、ビジネスサービスの6割、食品・飲料の3分の1もそうだという。
つまり、スコットランドの独立は、これらの産業に大きな影響を与えかねない。
独立の議論は改めて、英国の中におけるスコットランドの地位を見直す機会を与えている。それが英国の地域振興をさらに促進する役割を果たせば大きな効果があると言えるだろう。
これらの議論は、北アイルランド問題を考える場合にも重要だと思われる。北アイルランド政府は、その過去の問題のために英国政府から優遇されている。しかも英国の一部として受けているビジネス上の便益が多い。もし、北アイルランドが南のアイルランド共和国と併合されるようなことがあれば、それらが減る可能性がある。その上、IRAと逆の問題が内部の問題として残ることを考えればあまりよい選択肢とは思われない。スコットランドの独立問題は、他の国や地域を考える上で多くの材料を提供していると言える。