英国の経済は改善している。その中身は、消費や住宅ローンの増加に頼っており、本来あるべき生産性の向上や投資の増加があまりないと指摘されているが。
オズボーン財相の「秋の財政声明」後に行われたYouGoveの世論調査の結果では、キャメロン政権の経済政策・財政赤字削減策は労働党よりも評価されており、財務大臣としてオズボーンは影の財相のボールズより高い評価を受けている。一方、賃金がそれほど上がらないのにインフレがそれを上回り、生活費危機に見舞われている有権者にとっては、野党労働党がそれらの人々のために立ち上がっているという評価がある。
ここにオズボーン財相にとって深刻なパラドックスがある。つまり経済成長が軌道に乗ると、生活費危機で苦しむ消費者を守ると訴える労働党の方へ多くの有権者が惹かれる可能性だ。
このパラドックスにはすでにオズボーンも気づいているらしく、「秋の財政声明」でも英国の財政再建はまだ時間がかかると強調した。オズボーンは、財政再建を軌道に乗せ、経済を成長させれば保守党はその実績で再選できると考えてきたが、有権者がそのようなロジックで行動するかは別の問題だ。
1997年の総選挙では、時のメージャー保守党政権は、順調な経済成長の中で、歴史的な大敗を喫した。もちろんそれまで1979年から18年間続いてきた保守党政権への飽きや、欧州を巡る党内の分裂、さらには党所属下院議員のスキャンダルなど多くの問題で有権者が保守党に見切りをつけていたという状況はあるが、経済成長、財政再建だけでは有権者を説得することは難しい。
とくに財政研究所(IFS)が発表したようにオズボーン財相の財政政策では、今後さらなる大幅な財政カットが必要だという。これを有権者が好むかどうかには疑問がある。Ipsos Moriの世論調査では、政府の政策で公共サービスが長期的に向上すると見る人は21%に過ぎず、その見解に賛成しない人は54%にも上っている。
オズボーン財相にとっては、財政再建を進めるとともに経済が成長しなければならないが、同時に経済がよくなればなるほど保守党にマイナスになる可能性があるというパラドックスの状態に陥っている。