2018年6月3日のサンデータイムズ紙が、イギリスがEUを合意なしで離脱した場合に何が起きるかについて想定した漏えい文書を報道した。これは、メイ内閣の閣僚間の会合向けに用意された文章のようだ。
それによると3つのシナリオがあるという。影響の少ない場合、中程度の場合、そして大きい場合である。中程度の場合でも、1日目からドーバー港では通関手続きができない状態となり、数日でイングランド東南部のコーンウォールやスコットランドのスーパーでは食料がなくなり、2週間で病院の薬品がなくなるという。
実際、合意ができなければそのことはあらかじめわかっているであろうし、このような事態になるかどうか疑問がある。イギリス政府は、そのような場合には、関税やチェックを一時的に停止してモノの輸入を優先したり、場合によってはチャーター便で薬品を輸送したりするなどの方法もとれるという。
それでも、パニック買いでよく見られるように、少しの不安が大きな結果を招く可能性は常にあり、慎重な準備が必要だ。ブレクシット交渉の結果や内容に関わらず、EUも大人げないことはできず、人道的な観点からもある程度の援助は期待できるように思えるが、これまで合意なしに離脱する場合の準備が遅れているのは明らかである。
ただし、バーニエEU交渉代表が指摘したように、イギリスは交渉の立場を今なおはっきりしていない。特に、アイルランドの国境問題の解決と将来の貿易経済関係のシステムについてである。アイルランド共和国の副首相兼外相が、イギリスはあと2週間で案を出す必要があると警告しているにもかかわらず、メイ首相は、内閣内と、その率いる保守党内での強硬離脱派とソフトな離脱派の対立を未だに解決していない。
EU離脱法案は、下院を通過した後、保守党が少数勢力しかない上院で審議されて15か所修正された。これらの修正はソフトなEU離脱を狙い、メイ首相の手を縛るものであり、メイ政権には受け入れられない。しかし、保守党のソフト離脱派らがこれらの修正に賛成し、下院でも可決される可能性がある。そのため、下院の審議を安易に始められない状態だ。しかも、ヒースロー空港の拡張を進める採決もあり、これにも大臣をはじめ、保守党内の反乱があることが予想され、その結果には予断を許さないものがある。
サン紙が、首相官邸にはパニックの雰囲気が出てきているとコメントしたが、メイ政権はBブレクシット交渉で打つ手が乏しくなってきており、追い詰められてきているようだ。