労働党党首ミリバンドへの反乱?

野党労働党のエド・ミリバンド党首では半年先の総選挙が心配だとして、労働党下院議員の中に党首を変えるよう求める動きがあると報じられた

労働党は1年ほど前までは、キャメロン首相の保守党に世論調査で余裕をもったリードを続けていたが、最近、その差は縮まり、ほとんど同じ支持率となった。それでも前回の2010年の総選挙で当選者と次点との差が少ないいわゆるマージナル選挙区の世論調査では労働党が優勢で、今のところ保守党が労働党にかなりの議席を失う状況だ。なお、イギリスの下院議員選挙は、完全小選挙区制であり、650の選挙区で最高の得票をした一人だけが当選する。 

イギリスの賭け屋は、次期総選挙は、いずれの政党も過半数を占めることのないハングパーリアメント(宙づりの国会)となると見ているが、最多議席を獲得するのは労働党だろうと予想している。今回の「反乱」の噂は、労働党の牙城とも言えるスコットランドで労働党がスコットランド国民党SNPに大きく議席を失うと見られていることと、有権者のミリバンドの個人評価が否定的で極めて低いことに端を発していると思われる。特に、スコットランドでは多くの下院議員が議席を失う可能性が高まっているだけに、スコットランド選出の議員など議席が危うい人たちが、ミリバンドを交代させることで少しでも状況を改善させたいと思っていることは容易に想像できる。

しかしながら、ミリバンドが簡単に引き下がるとは到底思えない。2010年の総選挙で労働党が政権を失った後の党首選挙では、本命と目されたミリバンドの兄デービッドを僅差で破り、兄の野心を犠牲にして党首に選ばれた。もしここで引き下がるようなことがあれば、兄に対しても顔向けできないだろう。

ミリバンドに政策や理念がないわけではない。政策でも以下のようなものが挙げられる。

  • エネルギー価格20か月凍結家賃統制
  • 最低賃金を1.5ポンド(273円:£1=182)上げて、8ポンド(1456円)とする。
  • 100万軒の住宅建設
  • 移民政策の強化
  • 高価な住宅に住宅税課税
  • 公共住宅で必要以上の部屋のある人への福祉手当削減を止める。
  • 所得税の50%最高税率の復活
  • EUに留まるか否かの国民投票を行わない。経済環境の不安定要因を除く。
  • 国民健康サービスNHSへの財政支出増加
  • 2018年までに財政を均衡させる。

左寄りだが、政策としては筋が通っているように思われる。キャメロン首相よりも理念がはっきりしている。問題は、ミリバンドにカリスマがないことだ。 

ただし、カリスマがなくても優れたリーダーだった人が労働党に存在する。それはイギリスの福祉国家を築いたクレメント・アトリーである。アトリーは党首として第二次世界大戦後に行われた総選挙でチャーチル率いる保守党を破った。しかし、アトリーでは首相の任に堪えないとして、アトリーが首相に任命される前に、労働党の有力者ハーバート・モリソンがアトリーに替わって党首・首相となるよう画策した。しかし、多くの歴史・政治学者が、アトリーは第二次世界大戦後で最も優れた首相だったと評価している。

次期総選挙の結果を予測することは難しいが、もしミリバンドが首相となるようなことがあれば、期待が低いだけに、かえって首相として成功する可能性があるかもしれない。