議員の離党で苦境に陥った保守党

保守党の下院議員ダグラス・カースウェルが突然離党し、イギリス独立党(UKIP)に移り、イギリス政界に大きな衝撃を与えた。カースウェルは、党を替えたため再び選挙の洗礼を受ける必要があると自発的に議員を辞職したため、補欠選挙が行われる。その選挙区の世論調査の結果、カースウェルが地滑り的大勝利を収めることが確実であることがわかり、政界は再び大きなショックを受けている。 

2010年総選挙でUKIPはこの選挙区で候補者を立てなかったが、この世論調査では、その時と比較して以下のような結果が出た。()内は2010年総選挙との比較。保守党20%(-33)、労働党13%(-12)、自民党2%(-11)、そしてなんと UKIP 64%(+64%)である。

カースウェルの地元選挙区でのこれまでの活動ぶりは非常に高く評価されているが、それを受けて、UKIPに投票すると言う人の3分の1がカースウェルを気に入っているから投票するという。UKIPが気に入っているから投票するという人は57%、現在の政治に不満を持っているのでUKIPに投票するという人が9%という結果だった。イギリスでは一般に有権者は政党に投票する。これほど高い個人票を集めるのはかなり異例である。

この補欠選挙は保守党大会直後の10月上旬に実施すると見られている。6月のニューアーク補欠選挙で行ったような運動員の大量動員を行うと思われるが、それがどの程度の効果を生むか注目される。どのような結果となっても保守党の次期総選挙の準備に大きな影響を与え、多くのエネルギーを奪うのは間違いない。

もし、この世論調査で示されたような結果が出れば、保守党を大きく揺るがせ、さらに保守党からUKIPへ移る議員が出るばかりか、保守党は、1997年総選挙で欧州統一通貨問題を巡って混乱に陥ったようになる可能性がある。当時存在したレファレンダム党に票を奪われることを恐れた保守党下院議員たちが、当時のメージャー保守党政権の方針に反して、勝手に欧州統一通貨反対を訴え出したのである。結局、メージャーはそれを自由にさせることになり、保守党の地滑り的大敗の一因となった。

移民の数が再び増加

キャメロン首相は、2010年の総選挙で、2015年までに年間の移民数が10万人を下回るようにすると約束した。しかし、この望みは到底かなえられないことがはっきりとした。この3月までの1年間で、正味の移民の数が243千人だったと統計局が発表したからだ。この統計は3か月ごとに発表されるもので、来年5月に予定される次期総選挙まであと何回かの機会があるが、その結果が10万人以下を下回る可能性はほとんどない。

正味の移民の数は、居住するために移入した人の数から、海外に移出した人の数を差し引いたものである。政府は移入者の数をコントロールできたとしても、移出者の数はコントロールできない。しかもEU内(若干のEEA加盟国も含む)からの移入は、域内の移動の自由のために、コントロールできない。

最近の正味移民数の増加は、その3分の2EUからである。EUは景気が停滞しているが、イギリスは向上している。すなわち、これらのEUからの移民はイギリスに仕事を求めてくる。一方では、それぞれの本国の景気が上向かないと帰国する意欲はそう大きくならない。また、イギリスからオーストラリアやニュージーランドなどへの移住は、イギリスで仕事が求められるのでそう大きくない。

つまり、正味の移民数の数を一定の数字までに抑えると約束したこと自体に欠陥がある。コントロールできないのに約束を守ることはできないからだ。 

一方では、イギリスの景気回復はキャメロン首相、オズボーン財相の求めたことである。その経済はまだぜい弱だと言われながらも、成長率がG7でトップである。自分たちの成功で自分たちの首が絞められている形になっている。もちろん移民の問題に国民の関心がなければ別だが、国民の最大の関心事の一つである。

正味の移民の数(暦年12月末まで)は以下の通りである。

2011年までは20144月の統計局数字。2012年と2013年は暫定値) 

このままでは、キャメロン首相が2010年の総選挙で、多すぎると主張した当時の移民数を大きく下回ることは困難で、移民の数をそれほど減らせなかった(もしくは増える可能性もあるが)キャメロン政権下の移民政策の責任を問われることは必死の状況である。

なお、統計局の発表では以下の点にも触れている。

  • 2013年には、イギリス住民の8人に1人(12.4%)が外国生まれだった。2004年には11人に1人(8.9%)だった。
  • 2013年には、イギリス住民の13人に1人(7.8%)がイギリス国籍を持っていなかった。2004年には20人に1人(5%)だった。
  • 2013年には、イギリス以外のEU国籍を持つ住民の数(2507千人)が、それ以外の国籍を持つ人の数(2394千人)を上回った。2004年に人口動態調査を始めて以来、初めてのことである。
  • 2013年には、国外で生まれた人の最多出生国はインドで、推定734千人(海外生まれの人の9.4%)だった。
  • 2013年には、イギリス国籍を持たないイギリス住民で最も多いのはポーランド人で推定726千人(非イギリス国籍者の14.8%)だった。

UKIPに移った保守党下院議員

驚くべきことが起きた。保守党の下院議員ダグラス・カースウェルが保守党を離党し、イギリス独立党(UKIP)に移ったのである。UKIPはイギリスのEUからの離脱を謳う政党である。

その理由は、保守党のキャメロン首相たちは欧州で必要な変化に真剣でない、イギリス政治に根本的な変化が必要だ、UKIPは、内部の少数のグループではなく、党のメンバーのものであり、その根本的な変化を実現できるという。カースウェルは型破りの下院議員で知られている。

キャメロン首相率いる保守党は下院に300余りの議席を持つ、下院最大の政党であるが、UKIPは下院に議席を持たない。それにもかかわらず、カースウェルは下院議員を辞職し、補欠選挙にUKIPの候補者として出馬する。

UKIPは、5月の欧州議会議員選挙でイギリス最高の得票をし、トップの23議席を獲得したが、その選挙は人々の生活に直接関係するものではなく、しかも比例代表制であるため、小選挙区の下院選挙とは異なると考えられている。つまり、世論調査で10%台半ばの支持率のあるUKIPは、来年5月に予定される次期総選挙で数議席獲得する可能性があるが、それ以上は望めない政党だと考えられていた。

しかしながら、カースウェルはこの補欠選挙で当選すると見られている。カースウェルの選挙区が、潜在的なUKIP支持者の多いところであるだけではなく、カースウェルのこれまでの活動で、他の保守党選挙区支部が軒並み党員を減らす中、党員を2倍にした実績が示すように、この選挙区内での知名度が極めて高いためだ。

通常、イギリスでは政党支部が選挙を行う。そのため候補者は政党の選挙マシーンがなければ戦えない。この選挙区では、UKIPがカースウェルを応援した影響もあっただろうが、カースウェルは2010年総選挙で次点の労働党候補者の2倍以上の得票をした。その後この選挙区ではUKIPの支持が伸びてきている。保守党はカースウェルに対抗できるだけの強力な候補者を立てようとするだろうが、それがどこまで効果を出すかが課題だ。

カースウェルのこの動き、しかも予想通り補欠選挙に勝ちUKIPが下院に議席を持つことになれば、これから総選挙までの9か月ほどの間、UKIPのメディアへの露出度を高めることとなる。しかもUKIPの信用度を高めることにもつながる。その結果、UKIPへのプラス効果には相当大きなものがあるだろう。 

世論調査会社YouGovのピーター・ケルナー社長は、このカースウェルの動きで、UKIPが保守党票をさらに奪うこととなり、保守党は労働党に10議席失うことになるだろうとコメントした。

スコットランド独立賛成派が優勢だった第2回目のTV討論

スコットランド独立の住民投票が918日(木曜日)に行われる。あと3週間余りとなった。独立賛成側と反対側のリーダーによる第2回目のTV討論が825日の午後8時半から10時までの1時間半行われた。この番組はBBCスコットランドが制作したが、イギリス全体で同時にBBCが放映した。 

独立賛成側は、スコットランド政府のサモンド首席大臣、スコットランド独立党(SNP)の党首である。反対側は、ブラウン労働党政権で財相を務めたダーリング下院議員、独立反対グループのBetter Togetherの会長である。

第一回目の討論ではダーリングが優勢だったが、今回は直後の世論調査によると71%対29%でサモンドが優勢だった 

第二回目の討論が始まった時、サモンドは疲れているように見え、しかも緊張していた。サモンドにとって今回は負けられない討論だった。ダーリングも緊張していた。

まじめでひたむきな印象を与えるダーリングは、前回の討論で効果のあった、独立後のスコットランドの通貨の問題で食い下がった。それが結局しつこいほどの印象を与えることになる。ダーリングは非常に有能な政治家だが、それでも全般的に準備不足の面があるように思われた。

一方、サモンドは、通貨の質問に対して十分な準備をしていた。サモンドが多用した表現は、マンデイト(付託)という言葉である。スコットランド住民が、独立賛成で、自分にスコットランドを代表して正式にイギリス政府と交渉する権利を与えてくれれば、スコットランドに最善の結果を招く交渉をする、それはポンドをイギリスと共有することだとし、もしそれがかなえられなければ、イギリス政府の抱える借金のスコットランド負担分を拒否することも辞さないとした。 

また、サモンドはスコットランドがイギリスに留まる場合のマイナス面を強調しようとした。民営化が進む国民健康サービス(NHS)や弱者に厳しい福祉の問題、さらにスコットランドにある「大量破壊兵器」の核兵器トライデントシステムの問題では、スコットランドはイギリス中央政府の制約を受け、独自の政策を実施できないとした。

これらの問題は、スコットランドのSNP政権下では当てはまるかもしれないが、次期スコットランド議会選挙の行われる2016年以降、変更される可能性もあり、必ずしも独立の利点とは言えないだろう。しかし、独立すれば、イギリスの中央政府とは異なる政策を打ち出せる可能性を示すことでサモンドの得点稼ぎにはなるように思われた。

このTV討論では、途中でクロスイグザミネーションという二人のリーダーがお互いに詰問しあう時間を設けたが、議論が過熱しすぎる場面もあり、このような議論の仕方が適切かどうか疑問に思われた。

討論が終わりに近づいてきて、サモンドの優勢が目立った。サモンドは、これが独立の最後のチャンスかもしれないと言い、投票の結果が独立賛成の場合には、ダーリングも自分たちの側に招きたいとし、ステイツマンらしい面を見せた。

今回の討論ではサモンドが優勢で、しかも、女性の77%がサモンドを優勢としたことで、独立に懐疑的な女性票に影響を与えられたという見方もある。しかし、これまでの世論調査では賛成支持派と反対派の差は10ポイント余りあり、その差をこれからどの程度埋められるかが賛成派のカギとなる。

さて、2人の討論は、3人の討論とはかなり効果が異なる。3人の討論は、2010年の総選挙で主要3政党の党首が行った。3人の場合お互いにけん制しあう面がある。しかし、2人の場合、攻撃の焦点が絞られるので勝ち負けがはっきり出やすい。

2015年総選挙で党首のTV討論がどのような形で行われるかはまだ決まっていない。イギリス独立党(UKIP)の扱いの問題もあるが、数が多くなればなるほど議論の焦点が分散するのは確かだろう。

単なるYes/Noでないスコットランド住民投票

918日にスコットランドが独立するかどうかのスコットランド住民による投票が行われるが、前内閣書記官長(Cabinet Secretary)のオードンネル卿が、イギリス政府は賛成多数だった時の準備ができていないと批判した。キャメロン首相はそのような可能性を信じたくないし、あってはならないと考えていると思われる。現在の世論調査では、独立反対が優勢だが、オードンネル卿の批判は正しいだろう。 

一方、イングランドの住民は、スコットランドのイギリスからの独立には反対しているものの、スコットランドが中央政府から特別な財政措置を受けていることなどに不満を持っている。主要3政党は、独立反対の場合には、スコットランドにより多くの権限を与えることを約束しているが、独立反対の場合でもイングランドとスコットランドの関係に軋みが出るだろう。 

また、住民投票の直前に、スコットランドの「首都」エディンバラで、北アイルランドを中心にしたオレンジ結社のメンバー1万人の行進が行われる。北アイルランドのプロテスタントの「ユニオニスト」たちは、北アイルランドがイギリスの一部に留まるために戦ってきた。こういう人たちにとってスコットランドがもしイギリスから独立するようなことになれば、心理的なダメージは大きい。

スコットランドの住民投票は、単に独立賛成反対だけの問題ではなく、イギリス人の中に多くの感情を掻き立てているといえる。

その中で、スコットランドの独立問題の第二回目のリーダーTV討論が825日夜に行われる。前回は、スコットランド独立の場合の通貨が大きな話題となった。独立賛成のスコットランドのサモンド首席大臣は、イギリスの通貨ポンドを使うという立場を崩さず、独立反対のダーリング前財相は、主要3党のいずれもがそれを否定している中、代替策はあるのかと厳しく追及した。 

この問題については、ノーベル経済学賞受賞者が、もしイギリスの中央政府がポンドをスコットランドに使わせない場合、イギリス政府の負う借金の割合負担分を受け入れないという案を出している。スコットランドの負担額は1430億ポンド(247千億円)と言われるが、もしスコットランド独立賛成となった場合、その交渉は非常に厄介なものとなるのは間違いない。

第二回目のTV討論では、サモンド首席大臣は、イギリスに留まった場合のマイナス面を強調すると見られており、第一回目のTV討論と比べかなり優勢に議論を進めるのではないかと予測されている。

イギリスの政争に使われるオーストラリアからのEメール

イギリスの下院(庶民院)の事務総長(the Clerk of the House of Commons)は、下院の事務方トップのポストで、これまで議会の議事進行、手続きに詳しい人物が任命されてきた。20148月末で退任する現職は、1972年から42年にわたって下院で働いてきた人物であるが、4月に退任を発表した際、下院の慣例を変え、近代化しようとする現在の議長ジョン・バーカウと衝突したことがその原因と言われた。 

議長のバーカウは保守党の下院議員であったが、議長就任後、保守党を離れた。議長の中立性を確保するために、その選挙区には主要政党は候補者を立てない慣行がある。 

バーカウは、もともと保守党の右だった。ところが、自分の主張を貫く中で、次第に左寄りになったと言われる。妻のサリーは、もともと保守党支持だったが、ブレア労働党時代に労働党の支持者となり、ロンドン・ウェストミンスター区の2010年の地方議会議員選挙に労働党候補者として立候補したほどだ。落選したが。 

バーカウが下院議長に当選した時には、少数の保守党議員と多くの労働党議員から支持を受けた。そのため、保守党出身でありながら保守党の他の下院議員からの受けがよくない。2010年総選挙後の議長選挙でもバーカウを議長の座から引きずり落とそうとする動きが保守党にあった。その他、保守党議員から議長への攻撃は何度も仕掛けられている。その小柄な体格を揶揄して軽蔑的に「小人」と呼ぶ保守党議員もいる。

バーカウの問題の一つは、下院を今の時代に合ったものに変えようと考えていることだ。これに反感を持つ議員が少なからずいる。

イギリスの内閣は、時に「選挙で選ばれた独裁政権」と呼ばれることがあるほど力が強いが、政府の施策を吟味するはずの議会を無視したように施政が進められることがある。それをできるだけ減らすために、議会の委員会の役割を重視するほか、重要な問題には、できるだけ首相や大臣に議会で説明させ、議論させることを心掛けている。時には、首相の意向に反することもあり、キャメロン首相もそれが気に入らないと言われる。

その近代化の一環として、バーカウは議会の次期事務総長の選任で外部からの登用を図った。従来内部からの登用が慣例であったのを変え、雇用コンサルタントを雇い、外部に広告した。そしてそこで選ばれた候補者を少人数に絞り、議会の主要関係者をメンバーとする選考委員会で面接し、選ばれたのがキャロル・ミルズ(Carol Mills)というオーストラリア議会のスタッフであった。 

この選考委員会の構成は以下のとおりである。委員長は議長、委員には保守党院内総務(前職:7月の初めに内閣改造が行われた)、労働党影の院内総務、自民党代表の下院議員、下院で最も権威のある委員会の公会計委員会委員長、そして議会オンブズマンの計6人であった。 

この委員会でミルズは選ばれ、そしてその名前は、女王の裁可を受けるために首相に送られた。なお、この選考で第2位となったのは、現在の副事務総長であると言われる。 

そして、この任命に反対する動きが始まった。そこで主要な武器にされたのが、オーストラリア上院の事務総長ローズマリー・レイン(Rosemary Laing)がイギリス下院事務総長に送ったEメールである。

その中で、レインは、ミルズにはイギリス下院の事務総長にふさわしい資格がなく、ミルズを任命することはこの仕事に対する侮辱であるとした。ミルズは、2012年にオーストラリア議会で働き始める前、州政府レベルで働いていた人物であり、しかもその責任部門は、議会の管理運営をサポートするものであることから、この仕事に大切な、議会そのものの運営やルールには疎いと主張した。このEメールが任命反対派の主要な武器として使われている。

ミルズ任命への反対、そしてそれを推進するバーカウへの攻撃の動きの背景には、明らかに戦略的なものがあるように思われる。筆者の見るところ、反対派は、このEメールを武器に、一部マスコミを効果的に使い、しかも元下院議長を担ぎ出して批判させた。しかもマスコミには、下院の現在の副事務総長が選出過程の全書類を請求しており、裁判沙汰にする可能性があるとほのめかした。元下院議長には下院院内総務に書類を提出させ、反対させたが、その院内総務がその動きに消極的だと見ると、次から次に波状的に攻撃をエスカレートしていっている。すべての動きがよく計算されている。そして最も新しい動きでは、労働党の重鎮議員の2人の元外相を担ぎ出した。 

このようなことは、バーカウ以外の議長で起こったとは考えにくい。議長は中立であるべきだが、バーカウへの反対派は、その中立性、むしろ独立性と言った方がバーカウにはふさわしいだろうが、のためにバーカウを嫌っているようだ。これには2015年総選挙の後の議長選挙でバーカウの議長再選を防ごうとする動きもあるように思える。バーカウは妻の問題で批判されることが多く、また、バーカウの性格やその問題の処理の仕方を嫌う人も少なくないが、それでも、議会の近代化のために努力している優れた議長だと言える。 

ただし、この全体の逸話で注目すべきことは、オーストラリア上院事務総長のEメールの使われ方である。このEメールを自由に使ってもよいとは書いているが、この事務総長はこのような使われ方を全く予想していなかっただろう。

オーストラリア上院の議長は、このEメールにはがっかりした、とコメントした。内容は明らかにしなかったが、この事務総長と話し、バーカウにも電話をしたと確認している。 

この問題では、反対派が任命前審査を実施させようとしており、その支持者が徐々に増えていっているバーカウはミルズの任命を推進しぬくのではないかと思われるが、この問題がどのような結果を迎えようとも、オーストラリア上院事務総長は個人的に大きな痛手を受けたように思われる。

自民党の生活費危機対策

イギリスの経済はG7で最も成長しているが、賃金上昇は停滞している。むしろ物価の上昇を考えれば、マイナスとなっている。 

この中、自民党は来年5月に予定されている総選挙のマニフェストで、それを考慮に入れた政策を打ち出す構えだ。

自民党は2010年の総選挙で、所得に税のかかり始まる、課税最低限度額を1万ポンド(170万円)に上げると約束した。これは既に達成したが、次の総選挙のマニフェストでは、これを12,500ポンド(213万円)にするという。そしてそれを達成した後、国民保険(National Insurance)の労働者負担を下げたいという。

この国民保険は、実は所得税とそう大きく異なるものではない。積立のように将来のために使われるというものではなく、現在、このお金の大半は老齢年金の支払いに回っている。国民保険は、雇用者と被雇用者の両方が支払っているが、現在、所得が8千ポンド(136万円)以上の人が支払っており、ほとんどの人は所得の12%支払っている。

自民党が国民保険に注目している理由の一つは、所得税の課税最低限度額を上げても、既に所得税を支払っていない低所得者の人たちに恩恵がないことである。 

確かにこれはわかりやすい政策だろう。しかし、これは消極的な政策と言えるのではないか?これをマニフェストの目玉とし、「減税政党」のイメージを与えたいのはわかるが、同時に、もっと積極的に賃金が上がる政策を打ち出すことが必要に思える。

政治家への専門家のアドバイス

2010年総選挙の3党首TV討論で自民党のニック・クレッグ党首が大きな成功を収め、クレッグブームが始まったが、その陰でクレッグは専門家のアドバイスを受けていたことがわかった。しかもこの専門家は、8月初めのスコットランド独立住民投票に関するTV討論で、独立反対側のアリスター・ダーリング前財相にもアドバイスしていたという。ダーリングはその生真面目すぎる性格で面白みや迫力に欠けると見られていた。そのため、討論で賛成側のスコットランド首席大臣のアレックス・サモンドに劣ると思われていたが、しつこく通貨の問題でサモンドに答えを迫り、予想を裏切り、ダーリングに軍配が上がる結果となった。 

この人物はスカイニュースのニュース・プレゼンターだったスコット・チゾム(Scott Chisholm)である 

この人によると、自分の言いたいことをわかってもらうには、簡単な言葉で話すことが大切だという。イギリスの代表的な経済紙ファイナンシャルタイムズは12歳にわかるような言葉を使って書いているとし、一般の大衆紙は8歳から9歳を念頭に置いているそうだ。新聞雑誌記者と話す時にはこのことを考えておかなければならないと警告している。

また、テレビの視聴者に話す時には、視聴者が10歳の子供のように話すことが必要だという。もし、聞き手が、話を聞いてすぐに理解できず、頭の中でプロセスしなければならないようなら、その次の3語から6語が頭に入らないという。つまり、10歳の子供が聞いてすぐにわかるような話をしなければならないというのだ。 

これは、恐らく、政治家に限らず有用なアドバイスだと思われる。

成長するイギリス経済と低迷する賃金

イギリスの中央銀行、イングランド銀行がイギリスの経済成長の見通しを20143.5%、20153%と上方修正した。失業率が6.4%と下がり、2008年末以来の低い数字となった。IMFによると、2013年にイギリス経済は、3.2%成長したと予測されており、G72番目のカナダより1%高い。

ユーロ圏が苦しむ中、イギリス経済は順調に見える。経済の78%を占めるサービス部門に頼りすぎているという面があり、経済のぜい弱な点は改善されていないが、中でも特に大きな問題がある。賃金が上がっていないことだ。20144月から6月までの賃金アップ率は0.6%で、ボーナスなどの付加的な収入を除くと‐0.2%だった。なお、イギリスのボーナスは日本で多く見られるような誰もが同じ率で月給何か月などといったものではなく、それぞれのパフォーマンスなどに連係しており、必ずしも誰もが得られるものではない。

インフランド銀行の2014年の賃金上昇率見通しは2.5%からその半分の1.25%に下げられた。インフレ率は1.9%であり、それぞれの人の賃金はインフレに追いついていないことになる。

また、生産性が上がっておらず、雇用が増加したのは低熟練の労働者の仕事が中心であると見られている。

この現状は、ミリバンド労働党党首のマントラ「生活コスト危機」を地で行くようなものと言える。 

オズボーン財相は、来年の次期総選挙までに、有権者に好景気を実感してもらい、保守党政権への期待を盛り上げたい意向であった。しかしそれは難しくなっているように思われる。

総選挙に備えるUKIP

イギリス独立党(UKIP)は5月の欧州議会議員選挙のイギリス選挙区で、主要3政党、保守党、労働党、自民党を抑えて、得票率並びに獲得議席数でトップとなった。そのため、UKIPが来年5月に行われる予定の総選挙でどの程度の議席を獲得するかに注目が集まっている。 

現在、UKIPは下院に議席はない。欧州議会議員選挙は、イギリスを地区に分けて、それぞれの地区から比例代表制で選ばれるが、総選挙は全国の650の選挙区で、トップの得票をした人が一人ずつ選ばれる小選挙区制である。そのため、選挙区支部の強くないUKIPは、これまで、それぞれの選挙区で当選できるような得票ができなかった。ところが、5月の欧州議会議員選挙で示されたように有権者の政府や既成政党に対する不満にはかなり強いものがあり、UKIPへの支持が高まっている選挙区が出てきている。

そういう中、UKIPの党首ナイジェル・ファラージュが、次期総選挙に備えてイングランドの南東部の選挙区のUKIP支部の候補者選考に申し込んでいることがわかった。この選挙区の世論調査でUKIPが高い支持を集めており、この選挙区からファラージュが出馬するのではないかという見通しはこれまでもあり、しかもこの選挙区支部の幹事長(Secretary)がファイナンシャルタイムズ紙に、ファラージュがこの選挙区から出るのは「公の秘密」だと言ったことからその憶測は高まっていた。ファラージュは、インデペンデント紙に投稿してそれを公表した。

ファラージュは、この選挙区サウス・サネット(South Thanet)を含む、イングランド南東地区の欧州議会議員を1999年から継続して務めている。サウス・サネット選挙区には2005年の総選挙で立候補したことがあるが、その際、わずか5%の得票しかできなかった。しかし、上記の世論調査で示されているように、次回総選挙では勝てる可能性があると見られている。

この選挙区は、海岸沿いのワーキングクラスの地域で、有権者が比較的高齢というUKIPの強い典型的な選挙区と言える。前回2010年の総選挙では、保守党が労働党から議席を奪ったが、現職は次の選挙には立たず、次の保守党候補者はUKIPの元副党首が選ばれた。保守党は、UKIP元副党首を立てることでUKIPに向かう票を減らすことを狙ったようだが、相手がファラージュだとその効果には疑いがある。 

UKIPは次期総選挙で議席獲得の可能性のある選挙区を中心に25選挙区に全力を傾注する構えだ。また、UKIPの政治資金の献金額がこの2014年の第2四半期に自民党を上回り、着々と次期総選挙の準備を進めている。

これまで総選挙では、有権者はどの政党・党首が政権を担当する可能性があるかで投票を決める傾向が強いとされてきた。しかし、政治不信が強い中、次期総選挙ではそのような傾向がかなり弱まっているようだ。UKIP2009年の欧州議会議員選挙で保守党に続く議席数を獲得したが、その後世論調査での支持率が大きく下がった。ところが現在は、自民党を上回り、10数%の支持率を維持している。次期総選挙ではUKIP台風の目となるのは間違いなく、その動向が保守党と労働党の議席に大きな影響を与え、選挙の結果が決まる状況だ。