ある新聞紙のボリス・ジョンソン攻撃(A Newspaper’s Attack on Boris)

3月31日のサンデータームズ紙は、3月24日朝のBBC番組でのエディー・メイアーによるロンドン市長ボリス・ジョンソンへの追及は軽くすんだと主張した。メイアーは、ジョンソンに面と向かって、過去の失敗を問いただし、それらにきちんと答えられないジョンソンに対して「あなたは汚い奴(a nasty piece of work)じゃないですか?」と言ったのである。これはジョンソンに大きなダメージとなると見られた出来事であった。それにもかかわらず、ジョンソンは世論調査での支持率を伸ばした。

サンデータイムズ紙の記事(同紙News Review P4)は、ジョンソンのこれまでの約束違反、下院議員時代(2001年から2008年まで)と2008年に市長になってからの行動と実績などに焦点を当て、ジョンソンの首相となる資格に疑問を投げかけたものである。その記述にはかなりの反ジョンソンのバイアスがかかっている。

この記事はジョンソンがキャメロン後の保守党党首になる可能性がかなり高まってきたことを反映している。というのは、タイムズ紙はかつてジョンソンをクビにしたが、ジョンソンはテレグラフ紙と深い関係があり、ジョンソンが保守党党首・首相となることはタイムズ紙にとっては好ましいことではないからである。

デービッドとフレデリックのバークレー兄弟がテレグラフ紙を買収した時、タイムズ紙は、第一面から数面を使い、バークレー兄弟を徹底的に攻撃した。タイムズ紙とテレグラフ紙にはお互いにかなり強いライバル意識がある。

英国の新聞を読む際には、その新聞の傾向、ライバル関係、さらには、政治家などとの関係などに留意しなければならないことが多い。例えば、マイケル・ゴブ教育相は、2005年に保守党下院議員となるまでタイムズ紙のアシスタント・エディターだった。その妻は現在、タイムズ紙のジャーナリストである。当たり前のことだが、タイムズ紙の記事を読むときにはこういう事実を覚えておく必要があろう。

キャメロン後に向けて動き出した保守党(Tories Preparing for after Cameron)

デービッド・キャメロン首相は、2005年12月に保守党の党首となってから7年半たつ。2010年5月に首相となって3年近い。この間、幾度もの危機を乗り越えてきた。しかし、キャメロン政権は次の総選挙までで、それ以降は保守党の党首が変わるだろうという雰囲気がある。

キャメロンは、2010年の総選挙で過半数に至らず、最大の危機を迎えた。この選挙結果を招いた最大の要因は、あの三党首のテレビ討論だったとして、そのテレビ討論を2005年から提唱してきたキャメロンは大きな批判にさらされた。(参照:https://reutersinstitute.politics.ox.ac.uk/fileadmin/documents/Publications/Working_Papers/History_and_Future_of_TV_Election_Debates.pdf

議会で過半数を占めずに政権を担当する少数政権では、すぐに倒れる可能性が高かった。キャメロンの責任を問う声も強く、党首としての地位も脆弱だった。その中で、自民党との連立政権を組むことで、危機を乗り切った。

今や、政権についてから3年近く経ち、キャメロン個人への有権者の支持は、ミリバンド労働党首より高いが、保守党への支持は労働党に経常的に10ポイント程度の差をつけられている。通常、選挙と選挙の間は、政権政党への支持が下がり、野党に大きな差をつけられることがあり、それが次期総選挙を反映しているとは必ずしも言えない場合が多いが、今回は、UKIP(英国独立党)への支持の増加や、保守党の中での対立もあり、保守党への支持が大きく回復する可能性は少ないと見られている。無役の下院議員がキャメロン保守党執行部の意向に反して投票するケースが目立ってきた。キャメロンの権威が衰えてきている。

そういう中、保守党の中で、キャメロン後を狙う、テリーザ・メイ内相らの動きが顕在化した。また、ロンドン市長、ボリス・ジョンソンへの期待が高まっている。

ボリス・ジョンソンへの期待

3月24日のBBCのジョンソンへのインタビューと、その翌日25日のジョンソンに関するドキュメンター番組で、ジョンソンの過去の不行跡に焦点が集まった。その結果、ジョンソンの保守党党首・首相となる夢が大きく傷つけられたと見られた。しかし、その後、それらはダメージにはなっていないことがわかった。

3月28日のロンドンのイブニング・スタンダード紙のYouGovの世論調査の結果では、一週間前の世論調査の結果と比べるとジョンソンへの支持が2%増えている。しかも、キャメロン率いる保守党の支持率は31%で、労働党37%、自民党12%だが、ジョンソンがもし党首となり保守党を率いると、保守党と労働党が37%で肩を並べ、自民党が11%となるという。ジョンソンへの支持は、すべての年齢に広がっているが、特に25歳から39歳の層で強い。
http://www.standard.co.uk/news/politics/voters-say-boris-johnson-must-lead-tories-8553013.html

さらに注目すべき点は、もしジョンソンが保守党の党首となれば、UKIPの支持者の3分の1が保守党に投票するという。保守党の支持者は、キャメロンを好み、ジョンソンを58%対29%で上回っているが、UKIPの支持者で見ると、51%対21%でジョンソンが上回っている。

イブニング・スタンダード紙は、2008年と2012年の市長選でジョンソンを強く押したという事実もあり、その扱いには注意が必要だ。また、YouGovの世論調査では、労働党は保守党に通常10ポイント程度の差をつけているが、ここではキャメロン率いる保守党と労働党との差がわずか6ポイントというのは、外れ値である可能性がある。つまり、この世論調査自体には?がつく。それでもジョンソンがダメージを受けると予想されていたにもかかわらず、それをやり過ごしたということは、保守党関係者にとっては、かなり心強い結果であると言える。この結果は、保守党関係者にとっては、ジョンソンは、キャメロンに代わって保守党を率いる準備ができていることを示していると言える。

キャメロンは、レーム・ダックか?

3月26日にテレグラフ紙に ‘Pity our poor PM—the Tories are now in a Post-Dave state of mind’という記事が現れた。テレグラフ紙は保守党支持者の読む新聞である。この記事では、保守党は、既にキャメロンがレーム・ダックであるかのように動いているというのである。テレグラフ紙は、かつてジョンソンがジャーナリストとして働き、しかも今も契約して記事を書いていることを考えると、若干の注意が必要だ。

ただし、この記事のキャメロン批判は保守党内部のかなり多くの声を反映していると言える。

①キャメロンはこれまで首相として、期待はずれであった。約束がかなえられていないという感じがある。

②キャメロンの最も重要な仕事は、公共財政を緊縮財政で立て直すことであったが、経済は相変わらず停滞し、政府債務は増える一方である。

③年金生活者への便益(注:無料テレビ視聴料などのことで、首相のTV討論で迫られて約束した。つまりTV討論がなければこのような約束はしなくて済んだ。)と海外援助の予算を守り、国防やインフラが犠牲になっている。

④形ばかりのグリーン政策のために、エネルギーコストが、ほかの国では下降している時に、意図的に上げられている。

これらの批判は、もし、世論調査で保守党の支持がもう少し高ければ、大きな問題ではなかっただろう。特に②の経済が上向きで、政府債務へのコントロールが予定通りに行っていれば全く違った反応となるように思われる。しかし、保守党が次期総選挙でかなりの議席を失う状況が予測される事態となってきているため反応は異なってくる。

また、EUの国民投票を巡る問題は、キャメロンの2017年国民投票の提案で鎮静化するどころかさらに問題が大きくなる情勢である。キャメロン首相は、まだ、レーム・ダックとは言えないだろうが、立場がかなり弱くなってきている。

キャメロンが保守党党首を降ろされる?

保守党の中には、経済が苦しい時に、保守党の党首そして首相を変えようとすることは適当ではないという見方がある。確かに、新しい党首が、現内相のテリーザ・メイや首相側近のマイケル・ガブ教育相などだと国民からの批判が強いだろう。しかしながら、もし新しい党首がジョンソンなら話は別となるのではないかと思われる。ジョンソンは下院議員ではなく、党首になるためには、まず選挙を経て下院議員になる必要があるが。

党首への信任投票を司るのは、保守党の無役議員たちの団体である1922委員会である。現職議員の15%の支持があれば、党首への信任投票が行われる。つまり、46人が1922委員会委員長にその旨の手紙を書けばよい。既に25人がそうしたと言われる(タイムズ紙3月29日)。

キャメロンは、これ以上多くの議員が1922委員会委員長に手紙を書かないよう注意して行動する必要がある。従来、党所属議員にはスリーラインウィップという指示厳守命令を出して、党の指示したように投票させるが、これまでこれに従わずに投票した議員がかなりいる。しかし、キャメロンは、現状では、指示に違反した人に強い処分を与えにくい。つまり、キャメロンの権威は、さらに衰え、ますます厳しい状況になっていくと思われる。

サッチャーの気配り(Caring Thatcher)

1979年から1990年まで英国の首相をつとめたマーガレット・サッチャーは、しばしば「鉄の女」と呼ばれ、タフであったことで有名だ。最近明らかになったフォークランド紛争当時の文書で、サッチャーの側近が、フォークランド諸島に侵略したアルゼンチン相手に戦争に踏み切るのに反対したが、戦争に踏み切ったことがわかった。そして勝利を得た。睡眠時間4時間で多くの仕事をさばき、大臣たちよりも政策に詳しかったと言われる。

そのサッチャーの気配りはこれまでにもJohn CampbellのMargaret Thatcher Volume Two: The Iron Lady (London: Jonathan Cape 2003)などで触れられている。最近出版された、ジリアン・シェパードのThe Real Iron Lady (Bitback Publishing, 2013)でも、気配りに触れている。

サッチャーのスペシャル・アドバイザーであったElizabeth Cottrellによると、スピーチの準備で午前3時になった時、「英国の首相が自分のために風呂を入れてくれ、ナイトドレスと歯ブラシを持ってきて、ベッドが冷たいといけないからと湯たんぽも入れてくれた・・・翌朝7時には紅茶を持ってきてくれた」という。

双子の子供を持つ母親、そして女性としての気配りが、タフな「鉄の女」の背後にあったことがわかる。

英国の移民問題―神話?(Are Immigration Problems Myth?)

英国では、移民の問題は多くの国民の関心事だ。移民が英国のシステムに付け込んでいる、そして政府が移民をきちんとコントロールしていないと考える人が多い。国境局が、刑務所から出た外国人の取り扱いでミスを犯し、しかも不法滞在者を十分把握していない、移民関係の未解決のバックログが31万2千件もあり、その数が増えているというような話を聞くと、移民問題は本当に深刻だと考えがちだ。

ヨルダン人のイスラム教過激派指導者であるアブ・カタダの例は象徴的だ。この人物の存在は国家の安全を損なうと、メイ内相は、カタダをヨルダンに本国送還しようとしている。メイ内相は、同じことを試みた6人目の内相である。3月27日の控訴院判決で、3人の判事は本国送還を認めなかった。もしヨルダンに送還すれば、他の人を拷問にかけて入手した証拠がカタダに対して使われ、その結果、その人権が侵害される可能性が高いとした。

カタダは、オサマ・ビン・ラディンの欧州の右腕と呼ばれた人物である。カタダには法律扶助が与えられ、家族と住む住居は提供され、しかもそのセキュリティには1週間に10万ポンド(1450万円)かかっているという。しかし、この控訴院の判決で、カタダは英国に居続けるのではないかと見られている。

同じ日に他の裁判でエチオピア人の本国送還も否定された。このエチオピア人は2005年のロンドン爆弾攻撃未遂事件に関連した人物だが、欧州人権条約のために、英国政府は、追い出せないのである。

このような事例は、政府の能力を疑わせ、また、国民の移民への不信感を強める。それは仕事でも同じで、6割の英国人が移民は英国人の仕事を奪っていると考えている。この移民の問題は、UKIP(英国独立党)の支持率がかなり伸びている大きな要因である。

そのため、各政党は移民対策の案を出す必要に迫られている。保守党のキャメロン首相は、移民が福祉手当を受けられるルールを厳しくしようとしている。メイ内相は、国境局を内務省の直接管轄下に戻した。自民党のクレッグ副首相は、移民問題を起こす可能性の高い国からの英国訪問には、供託金を出させ、出国時に返却する案を打ち出した。この対象国は、インド、パキスタン、バングラデシュそしてアフリ諸国で、その額は千ポンド(14万5千円)と見られている。

ハント健康相は、外国人がNHSを無料で使わないよう、病院などでのチェックをきちんとするよう求めている。

野党労働党は、ミリバンド党首が過去の労働党政権下での不十分な移民対策を謝罪し、クーパー影の内相は、移民への福祉手当を抑制する案を持っている。

しかし、実際には、英国のシステムに移民の与えている影響はそう大きくない場合が多い。

例えば、キャメロン首相が移民の公共住宅への申し込みに制限をつけると発表した。一般に、移民が公共住宅の入居で優先権を与えられているという見方があるが、それを裏付ける証拠はない。

http://migrationobservatory.ox.ac.uk/briefings/migrants-and-housing-uk-experiences-and-impacts

2011年の調査では、英国生まれで公共住宅に住んでいる人が17%に対し、外国生まれで公共住宅に住んでいる人は、その18%という結果である。もちろん外国生まれであっても、英国民となっている人はかなり多い。

公共住宅の問題は、住民の生活様式の変化、例えば、離婚や離別などの増加でより需要が高まっていることや、公共住宅の住人への販売のために、公共住宅そのものの数が減っているのに、新しい公共住宅がなかなか増えないことに大きな要因がある。移民が公共住宅の不足を起こしているというよりは、社会条件の変化や政策の停滞が原因となっていると言える。

移民問題は政治家が無視できないほどに重要な問題となっているが、実態は、かなりの偏見に基づいていることが多い。偏見がこれ以上増大しないよう、政府が既存の政策をきちんと遂行し、国民の信頼を得ることからスタートする必要があるように思われる。

 

メイ内相の英国国境局廃止は英断?(May’s Decision to Abolish UKBA)

3月26日、テリーザ・メイ内相が内務省の事業執行機関である国境局(UKBA)を廃止して、その仕事を査証部門と移民の法執行機関の二つに分割し、内務省直属とすることにした。新しく、事務次官をトップにした戦略的監視機関を設け、この機関で移民政策、パスポートサービス、国境フォース、それに新しい二つの部門の調整を図るという。この仕組みは、4月1日からスタートする。

この決定は、その当日の26日朝決まったという。英国ではこのような省庁の改変は法律で規定されていないので、比較的簡単にできる。

これまでは、大臣が政策を決め、それを国境局が実施するという大まかな役割分担があったが、実際は、政策と実施の関係にはかなりあいまいな部分があった。法律に関連して微妙な問題がかなりあり、そのため大臣の判断を仰ぐ必要があったためだ。

しかし、今後、移民関係の部局は、直接、大臣の管轄下に入る。しかし、これが、多くの課題を抱えるこの部門の問題を解決する決め手になるだろうか?26日に内務省の事務次官がスタッフに送ったメモでは、ほとんどのスタッフは、同じ職場で、同じ仕事をし、同じ同僚で、同じ上司だと説明があったという。つまり、事業執行機関では無くなるが、実際には人はほとんど変わらない。

メイ内相は、この組織改編で、これまでの「閉鎖的で、隠し立てし、防御的な行動様式」を終わらせると言う。3月25日に発表された、下院内務特別委員会の報告書でも指摘されたことだが、今なお、国境局は「その目的にふさわしくない」組織であり、委員会に不正確、もしくは欺いた数字を報告してきた。移民問題に関するケースの処理は遅く、31万2千件あり、とてもすぐに解決できる状況にはない。しかも不法滞在者を国外退去させても不法滞在者の数に追いついて行っていないという問題がある。

メイ内相は、昨年国境局から分離した、空港や港を日々管理している国境フォースがうまくいっており、大きな国境局(全体でフルタイム換算2万3500人。国内は1万3千人)を二つに分けて小さな部局にすることでより焦点が絞られ、効率が上がると考えている。

これは、キャメロン後の保守党党首の座を狙っていると言われるメイ内相にとっては、極めて大きなギャンブルだと言える。大臣が直接担当するからアカウンタビリティが向上すると言っても、問題が解決しない、もしくは、何か問題が起きると大臣が矢面になり、かえって難しい立場になる可能性がある。

一方では、もしメイ内相が、保守党がマニフェストで約束した、移民の数を年に10万人以下とし、この移民の問題を解決できれば、メイ内相の株が大きく上がるのは間違いない。保守党がUKIP(英国独立党)にその支持票を奪われている大きな原因はこの移民の問題だからである。メイは、2010年総選挙後、内相に就任した。EU内では、移動の自由が認められているが、それ以外の国からの人たちを対象にこれまで入国の基準を厳しくするなどの手を打ってきた。2月末に発表された、2012年6月までの過去1年間で、その前年の24万7千人から16万3千人と3分の1減少している。毎年の入国者数から出国者数を引いた正味の移民数はかなり減ってきたものの、それでもまだ目標にはかなり遠い。

メイ内相は、前のお労働党政権に責任があると主張する。その理由は次のようなものである

①前政権が入出国のコントロールを弱めた。

②人権法を制定したために、外国人犯罪者を国外退去させることが困難になった。

この②への対応としては、国外退去させやすくする法律案を年末までに提出する予定だ。

しかし歴史的に見ると、これは単に労働党の責任ばかりとは言えないだろう。実際に、移民が急激に増え出したのは1990年代である。その中で、コスト削減のために空港などの出国チェックを取りやめた。

2002年から2003年にかけては、亡命志願者が増え、当時のブレア首相がその数を半分にすると約束したことがある。2006年には、外国人で刑期を終えた人を千人余り釈放したが、その人たちの行方が辿れず、しかも深刻な罪を犯した者もいることがわかり、当時の内相チャールズ・クラークがその責任を問われ、ジョン・リードと交代させられた。リードは、「目的にふさわしくない」として、政治家から離れた立場で仕事が行えるよう事業執行機関とすることを決めた。移民申請を扱う部門とかつての歳入関税庁の法執行機関などを合わせ、国境を守り、移民違反を取り締まり、早く、公平な判断をするという役割を担って出発した。それが廃止される。

歴史は回る。世の状況によって、政策課題は大きく変わり、英国の移民の問題は、今そのあおりを受けている。そして、国境局は、内務省内の部局から事業執行機関に、そして再び、内務省に戻る。この効果には悲観的な見方が多いが、メイ内相は、これに賭けているようだ。

首相の器?ロンドン市長ボリス・ジョンソン(Boris Johnson a future Prime Minister?)

英国の首相となるような人は、首相の役割を果たすのに必要な能力が自分にあるか疑問に思っているか? BBCの政治ドキュメンタリー製作で有名なマイケル・コックレルが、あるBBCの番組で、かつて首相になる前のマーガレット・サッチャー、トニー・ブレアそしてデービッド・キャメロンにインタビューした経験を語った。ブレアとキャメロンは自信満々だったが、サッチャーは、自分に疑いがあると言ったと言う。それでも、サッチャーは、これまで首相になった人たちを見て、自分もできるのではないかと思ったと付け加えたそうだ。

コックレルは、3月25日夜にBBC2テレビで放送されたロンドン市長ボリス・ジョンソンについての1時間番組を制作した。ジョンソン本人だけではなく、離婚した両親、妹、それに友人、仕事の関係など多くの人たちとのインタビューをまじえたものだ。その中で、ジョンソンにも同じ質問をした。ジョンソンは、この質問をなるべく避けようとしたが、結局、首相の仕事は非常にたいへんだ。自分にその能力があるかどうかは考えないと思う。心配は誰にでもあるが、機会があればやってみたいと答えた。(http://www.bbc.co.uk/news/uk-politics-21836935)この番組に関連し、3月24日、BBC1テレビでエディー・メイアーがジョンソンとのインタビューを行い、ジョンソンの過去の過ちを質したが、ジョンソンはきちんと説明できなかった。(http://www.bbc.co.uk/news/uk-21916385

両方の番組が相まって、ジョンソンは、その人格に大きなダメージを受け、その首相となる夢は打ち砕かれたと見る人もいる。しかしながら、そのような結論を出すのは早すぎるように思われる。

ボリス・ジョンソン

ジョンソン(1964年6月19日生まれ)は、2008年、日本の東京都知事にあたるポストのロンドン市長選に出馬した。当時保守党下院議員であった。2000年からロンドン市長を務める現職の労働党ケン・リビングストンに対抗しての出馬で、労働党が伝統的に強いロンドンでは勝ち目が少ないと思われた。しかし、1997年から11年目を迎えた労働党政権では、その前年から首相を務めるゴードン・ブラウンに人気がなかった。2008年の地方選挙では労働党が大きく議席を失う中、人気のあるジョンソンがリビングストンを破った。ジョンソンが再選を目指した2012年には、労働党が地方選で多くの議席を回復する中、全国的に低調な保守党支持を尻目に、リビングストンを再び破り、ロンドン市長に再選された。その後、ロンドンオリンピックが大成功に終わり、さらに名を上げた。そのため、保守党の救世主と見做す人も多い。

ジョンソンの強みは、その大衆的なアピールである。注意を引く面白いことを話し、時には状況を的確に把握した表現を使う。その反面、一見、服装にしてもだらしない点があり、ロンドン市長選の際、アドバイザーがジョンソンにワイシャツの裾をきちんとズボンの中に入れるよう指示したと言われる。また、失言を防ぐために余計なことを言わないようアドバイスしたとも伝えられる。しかしながら、形にあまりこだわらないことがジョンソンの弱みでもあり、強みでもある。

2012年秋の保守党の党大会では、キャメロン首相やオズボーン財相がジョンソンの陰に隠れてしまわないよう、ジョンソンのスピーチは、二人のスピーチのない日に30分の出演時間に限られたと言われる。それでもジョンソンのスピーチは説得力のあるもので、キャメロン首相も聴衆の一人で大きく報道された。

ジョンソンの3つの過去の問題

コックレルの番組、そしてメイアーによるインタビューでジョンソンの人格に関する問題として扱われたのは、主に次の3つの古い問題である。

①オックスフォード大学卒業後、1987年、ジャーナリスト見習いとしてタイムズ紙に勤めたが、その際に自分の名付け親である学者の発言として、自分でその発言を作り記事を書きクビになった。

②2004年、保守党党首マイケル・ハワードに、噂されていた不倫の事実はないと報告したにもかかわらず、その数日後にはタブロイド紙で大きく報道され、それが事実であったことがわかり、影の内閣のポストをクビになった。

③1990年、イートン校、そしてオックスフォード大学時代の友人がニューズ・オブ・ザ・ワールド紙の記者を叩きのめしたいので住所を教えてくれてと言ったのに対し、それを提供することを約束した(何も起きなかったが)。これが1995年に明らかになった。

これらの質問に対してジョンソンはきちんと説明できなかったのは事実である。これらはいずれもこれまで広く知られていたことであるが、これらを問うた後、メイアーは、ジョンソンに面と向かって、「あなたは汚い奴(a nasty piece of work)じゃないですか?」と言った。それに対して、ジョンソンは直接答えなかった。

このメイアーのインタビューを見て、ジョンソンの父親は怒ったが、ジョンソン本人は、メイアーは「素晴らしい仕事をした」と褒め、メイアーが説明を求めたのは正しかったと言った。「もし、BBCのジャーナリストが嫌な保守党の政治家をアタックできなければ、いったいどのような世の中なの?あれはオスカー賞並みの仕事だ」と言った。

頭がよいが、愚か者のように振る舞っている?

ジョンソンを非常に頭のいい人物だが、愚か者のように振る舞っているという見方がある。しかし、ジョンソンは時に愚か者のような振る舞いをするが、同時に不思議に率直な点もあるように感じられる。それが人々の共感を得て、面白いジョンソンに惹かれる点ではないだろうか。これらはジョンソンの計算づくだと見る向きもあるけれども。コックレルはその一人である。キャメロン首相や労働党のミリバンド党首は、ジョンソンほど多くの問題を抱えていないかもしれない。しかしながら、ジョンソンほどの面白みや次の行動への期待感はない。

ジョンソンは、首相になれるか?

ジョンソンが果たして首相となれるかどうか。ジョンソンは、まず、保守党の党首となる必要がある。ジョンソンが保守党の党首となるためには、下院議員となる必要があるが、下院議員を50年以上務める83歳のピーター・タプセル卿が、保守党の非常に強い自分の議席をジョンソンに譲るために引退してもよいと言っている。そのため、2015年の総選挙に出馬する可能性は否定できないだろう。

首相となれるかどうか?これは、理屈ではなかなか測れない。例えば、サッチャーの後、保守党の党首・首相となったジョン・メージャーは、ちょうどいい時に、ちょうどいい場所にいたために予想外にサッチャーの後継者となった。英国では、党首niなると、かなり長くその座にいるのが当たり前であり、毎年変わるというわけではない。そのため、一度チャンスを失うと回復が困難となる。メージャーの下で副首相を務めたマイケル・ヘーゼルタインの例を見るまでもなかろう。

ジョンソンの問題が強みになる可能性

しかし、もしジョンソンに運があり、首相となれば、これまでのジョンソンの問題が強みになる可能性がある。

まず、ロンドン市長となった当初、副市長などが起こした問題で厳しい面があったが、その後は、現在までかなり安定している。これは、ジョンソンが自分の足らない点を十分に認識していることにあるように思われる。2012年の市長選挙の際でも、陣営内部でジョンソンの「いい加減さ」を批判する声があった。しかし、ジョンソンの強みは、人を選び、権限委譲することである。つまり、自分がスーパーマンではないことを理解し、それぞれの職にそれにふさわしい人物をつければ多くの問題は解決できると考えているようである。これは正しいアプローチのように思われる。

さらに人を惹きつける能力に富むことから、多くの有権者の政治への関心を維持できることだ。これは極めて重要なことのように思われる。有権者が政治に関心を失うと、政治家と有権者の距離が次第に大きくなる。しかし、その距離が小さいと、有権者の意思をより政治の現場に反映できる可能性が高まる。ジョンソンは、自分が道化師になることを厭わない。有権者はそれをそのまま受け入れ、疑問にも思っていないようだ。

最も大きな点は、ジョンソンが叩かれ強いであろうということである。多くの問題を抱えながらも人気を維持するのはそう容易ではない。政治家は、通常、時間が経つとポリティカル・キャピタルが減っていくが、その減少の仕方が他の政治家とはかなり違うかもしれない。つまり、少々のスキャンダルがあっても有権者はあまり気にしない可能性が高い。そのため、ポリティカル・キャピタルをかなり高いレベルで維持できる可能性がある。

つまり、ジョンソンが首相となれるかどうかは運次第だろうが、もし首相となると、ジョンソンは打たれ強い首相となる可能性があると思われる。

トップ公務員任命の難しさ(Not Easy to Select a Top Civil Servant)

英国の歳入関税庁(HMRC)のチーフ・エグゼキュティブで事務次官でもあるリン・ホーマーが、下院の内務特別委員会の報告書で非常に厳しく批判された。2005年から2010年までホーマーがチーフ・エグゼキュティブを務めた英国国境局の移民のケースのバックロッグの問題に近年改めて注目が集まっており、在任中の責任が問われたのである。

この報告書では、今でも31万2千のバックロッグがあると指摘しており、ホーマーの在任中、この数字と移民の確認の作業について、議会(内務特別委員会)を欺いていたとしている。ホーマーはその後、度重なる昇進をし、現在の重職に就いているが、マネージメントの能力に問題のある人物が現在の重職を務めていけるか疑問だと言う。

そして、なんと、このようなお粗末な業績の人物が昇進しないように、政府の省庁のトップを任命する際、議会は、拒否権を与えられるべきだと言うのである。

特別委員会が特定の公務員に対して、これほど厳しい批判をするのはそう多いことではない。ホーマーは、この批判に対して、自分が国境局のトップであったのは、もうかなり前の事で、それから起きたことを自分の責任にするのは不公平で事実に反するなどと反論している。また、歳入関税局を司る財務省は、ホーマーは、極めて有能だと弁護している。

この問題は、トップ公務員の任命の難しさを物語る一つの例だと思われる。

ホーマーは、1957年3月4日生まれで、もともと地方自治体の出身である。2003年から2005年まで、英国で最も大きな地方自治体のバーミンガム(特別な自治体であるロンドンを除く)のチーフ・エグゼキュティブを務めた。その後、内務省の移民国籍局の局長となり、2008年には事業執行機関となった国境局のチーフ・エグゼキュティブとなった。なお、ホーマーは、2010年時点で、20万ポンド(2900万円)以上の年収を得ていたが、これは、キャメロン首相の14万5千ポンド(2100万円)を大きく上回る。

2006年には、刑務所から出所した外国人で本国送還されず、国内に留まったものが千人以上いたことがわかり、しかもそのうちに性犯罪を含めて犯罪を重ねた者がいることがわかった。その責任を取らされ、内相が交代したが、新しい内相は内務省が「目的にふさわしくない」とし、内務省の近代化を打ち出し、その中で移民国籍局を事業執行機関とすることとした。新しく設けられた国境局では、事業執行機関としてそれにふさわしい仕事をするはずであった。ところが、上記の内務特別委員会の委員長は、「今でも目的にふさわしくない」とし、改善されていないと批判しているのである。

国境局の後、ホーマーは2011年1月、運輸省の事務次官となった。2012年1月にはさらに格上の歳入関税局のチーフ・エグゼキュティブ兼事務次官となった。

この間、運輸省事務次官として、少なくとも5千万ポンド(72億5千万円)の損害を出したといわれる2012年のウェストコースト本線入札キャンセル問題との関連も指摘されており、ヴァージン鉄道のリチャード・ブランソンは、ホーマーの責任を示唆している。なお、ホーマーは、歳入関税局のチーフ・エグゼキュティブとしてもカスタマーサービスの遅れを指摘されている。

ホーマーが運輸省の事務次官となった際には、当時の内閣書記官長であり、現在は上院議員のオードンネル卿が、女性の事務次官を増やそうと躍起になっていた。そのような背景があるにせよ、内務特別委員会の報告書は、事務次官人事を扱う人事委員会の、候補者の能力の査定をする能力にも疑問を投げかけている。もちろん内務特別委員会が望んでいるような議会の拒否権のようなものが認められる可能性はないだろうけれども。

予算後の世論調査(Opinion Polls After the Budget)

3月24日のサンデータイムズ紙/YouGovの世論調査では、キャメロン政権が3月20日の予算で狙った効果がかなり出ているように思われる(参照http://ukpollingreport.co.uk/http://yougov.co.uk/news/2013/03/23/budget-report-card/ )。

まず、所得税の個人課税最低限度額を上げたことに89%の人が賛成している。政府の住宅ローン保証は50%の人が賛成(28%の人が反対)している。これらの目玉政策に支持が集まっている。

予算で最も利益を受ける人は、39%の人が家を買おうとする人だと答えている。36%が金持ちと言うが、経済活性化策の目玉を理解している人が多い。3番手が22%の小企業で、4番目に大企業、低所得者、働いている両親がいずれも19%で続くがが、今回の予算で小企業向けの、新しく人を雇えば国民保険(National Insurance)を2000ポンド(29万円)免除する制度がある程度知られているようだ。

最もこの予算で悪い影響を受けるのは、24%の人が公共セクターの勤労者と言い、2番目の22%が福祉手当を受けている人と言う。公務員は昇給が1%でインフレ率よりもかなり低い上、勤続年数による昇給がストップされた。公務員が民間よりも給与が高いという批判があり、しかも福祉手当受給者には怠け者が多いという批判がある中では、政府の送りたいメッセージをそのように受け止めている人が多いということを示している。

全体的には、キャメロン政権が現在の経済的な苦境から抜けだせると考えている人は33%と先週の世論調査の29%をやや上回り、また政府の経済戦略が効き始めた、もしくはすぐに効き始めると考える人が24%と先週の19%から増えている。

最も興味深いのは、オズボーン財相への評価がわずかに上がっていることだ。財相として留まってほしいと言う人が先週の17%から27%にアップした(46%が替えるべきだと言うが)。3月22日に発表されたものだが、予算発表後のYouGov/Sunの世論調査で、誰がよりよい財相かという質問に対して、オズボーン財相と言う人が31%、労働党のボールズ影の財相と言う人が25%である。オズボーン財相は密かにほほ笑んでいるに違いない。

 

ちぐはぐなキャメロン政権(Cameron’s Disjointed Administration)

キャメロン政権の政策と戦略がうまく機能していない。キャメロン政権では、このような問題が当たり前になってきており、次第に深刻さを増しているように思われる。

例えば、3月20日のオズボーン財相の予算である。この予算の景気刺激策の中心は、住宅市場の活性化である。これは、英国人の住宅所有指向を考えれば、極めて妥当な政策といえる。英国は極めて厳しい経済状況の中にあり、さらにキプロスの財政危機が表面化し、ユーロ圏に大きな暗雲が立ち込め、英国の経済にも悪影響を与えると見られている。英国の住宅ブームは英国の経済成長をこれまでにも大きく押し上げてきたことから、低調な住宅市場に刺激を与え、国内で経済成長を図る原動力とする考えは妥当だろう。問題は、この政策を生煮えで出したことである。

1300億ポンド(約19兆円)の住宅ローンの政府の保証を巡っては、財務省と内閣府がこれまで数か月にわたり、業界と調整してきたが、詳細の合意ができていないという。問題の一つは、このプログラムを実施するコストをどうするかという問題である。業界の中には、この政策の効果を疑う声もある。

来年1月から開始することを考えれば、今の時点ですべての詳細が決まっていないことは理解できるかもしれないが、今回の予算の目玉政策であるにもかかわらず、財務省がこの制度がどのように機能するかの問い合わせに十分こたえられなかった。オズボーン財相は、キャメロン首相のチーフストラテジストである。キャメロン首相の最も重要なサポート役であるが、これではキャメロン首相をきちんとバックアップしているとはいえないだろう。

実はこのような例はキャメロン首相にとって枚挙にいとまがないほどだ。いくつか例を挙げてみよう。

  • プレス自主規制機関の交渉:キャメロンが、3月14日、主要三党間の考え方の違いが大きすぎ、これ以上話し合いを続けても意味がない、18日に下院の投票で決着をつけると交渉を突然打ち切った。ところが、連立政権をキャメロンの保守党と組む自民党が野党労働党と組んで案を発表し、しかも保守党の20名程度の下院議員が投票で自民・労働党案に賛成することがわかり、保守党の敗色が濃厚となった。急きょ方針を転換し、主要三党間の交渉を再開し、合意案を18日の早朝にまとめた。
  • アルコール最低価格制限:キャメロンは、若者らの大量飲酒の問題や一般人の健康を考慮し、アルコール価格の最低制限を導入すると明言したが、担当の内相をはじめ、多くの反対があり、その導入を中止した。担当者らときちんと相談せずに政策を進め、先走りした。
  • 電気ガス費の問題:電気ガスの料金計算表の種類がいずれの会社にも非常に多く、消費者はどれが自分に最もふさわしいか、最も安いか分からない、既存の消費者が電気ガス会社に食い物にされているという批判に対し、キャメロンは、消費者が最も低い料金を払えるようにすると明言した。ところが、担当のエネルギー大臣はそれを知らず、しかもエネルギー・気候変動省も答えに窮した。これも上記と同じ問題である。
  • 運輸大臣の任命:ロンドンのハブ空港であるヒースロー空港はキャパシティがほとんど満杯である。新興経済圏との直接アクセスを増やすためにもロンドン近辺の空港のキャパシティを急速に拡張する必要があるが、ベストはヒースロー空港の拡張だと考えられている。ところが、この空港に近い空路の下の選挙区から選出されている保守党の下院議員で、空港拡張の反対キャンペーンのリーダー格の人物を運輸大臣に任命した。キャメロンも拡張絶対反対なら特に問題ない人事だろう。保守党は2010年の総選挙で反対を訴えたために次の総選挙前にそれを変更することは難しいが、今ではキャメロンは賛成である。その数か月後に行われた内閣改造でこの大臣は他の省へ移されたが、慎重に検討せずに人事を進めたことが明らかとなった。

以上のようなことから明らかになっているのは、まず、キャメロン首相周辺の判断力に疑問があることである。しかも、キャメロン首相周辺と省庁との連携がうまくいっていない。首相がきちんとした仕事を行うにはしっかりとしたサポート体制がなければならないが、これに深刻な問題があるようだ。

ギャンブルと言える2013年予算(A Gamble 2013 Budget)

3月20日、水曜日恒例の首相のクエスチョンの後、ジョージ・オズボーン財相が予算演説を行った。非常に厳しい経済環境下、緊縮財政を取る政府のできることは限られていると見られていたが、大きな注目が集まった。英国人は一般の人も予算には注目するからである。

オズボーン財相

オズボーン財相(41歳)は、2010年5月にキャメロン連立政権の財相に就任するまで保守党の影の財相を5年間務めた。その前には1年間、影の財相に次ぐポストである影の財務省主席担当官を務めており、現在まで9年近く、英国の財政を担当、もしくは野党として吟味してきたことになる。

2010年の総選挙で主要三政党の党首討論があったが、その前に三党の財政担当者の討論があった。保守党からはオズボーンが出席した。労働党は当時のアリスター・ダーリング財相だったが、ダーリングは1997年にブレア労働党が政権を担当し始めた時以来の閣僚であり、財相をそれまでに3年間務めていた。自民党からは経済学の博士号を持ち、ロイヤル・ダッチ・シェルのチーフエコノミストでもあったヴィンス・ケーブル(現ビジネス相)であった。この討論では、オズボーンは、あらかじめ作成した模範解答に基づいて質問に答えているように見え、他の二人に比べて弱く見えたが、それは当時この3人の中ではやむをえないように思われた。しかし、オズボーンが財相に就任し既に3年である。オズボーンは政治家として財政を扱うには十分な経験を積んでいるといえる。

これまでのオズボーン財相の実績は芳しいものではない。3月17日のサンデータイムズ紙のYouGov世論調査では、政府の経済運営がまずいと言う人は65%にのぼり、しかもオズボーンは財相としてできが悪いと見る人は67%にも上っている。

野党の労働党のミリバンド党首は、オズボーンをよくパートタイム財相と呼ぶが、これは、オズボーンがキャメロンのチーフストラテジストも務めているからである。財相を替えるべきだという声は保守党内にもあるが、長い盟友であるキャメロン首相は交代させる考えはない。

オズボーンの緊縮財政

財相に就任して以来、オズボーンは財政緊縮を打ち出し、政府の財政赤字の拡大を防ぎ、政府の債務をなるべく早く減らし始めることを目的としてきた。2010年の6月の最初の予算演説では、毎年財政赤字を大幅に減らし、2015年までに政府の債務が減り始める計画を打ち出した。

それ以降、ユーロ危機などで、ユーロ圏外の英国も大きな打撃を受け、経済成長が停滞している。そのため、税収が予想より大幅に下回り、緊縮財政を継続しているものの、当初の計画の延長に迫られてきた。非常に厳しい経済環境の中ではあるが、それでも緊縮財政を継続する方針は変えていない。2015年に予定されている次期総選挙前に政府のこの方針を変えることはないと見られている。

2013年予算演説

今回の予算演説は、財相としてオズボーンの4回目だった。咋年の予算演説では、所得税の最高税率を下げながら、収入に所得税のかかり始める課税最低限度額を上げ、他の多くの分野の税金を見直すなど減税分に見合う財源を捻出する手段を講じ、「帽子からウサギを取り出す」手品のようなことをした。しかし、財源捻出策の多くがUターンを迫られることとなり、「オムニシャンブルズ」と呼ばれ、財相への信頼を大きく傷つけた。その際のオズボーンの予算演説は、自信満々で、傲慢にも見えた。しかし、今回は、オズボーンの傲慢さが影をひそめていた。

2012年度は、2010年6月の計画では政府の当該年度の借入金額が600億ポンド(8兆7千億円)となる予定であったが、それが大きく増えて2倍の1209億ポンドとなる見通しである。ここでは、昨年度より、借入金額が減ったように見せるため、懸命の努力が繰り広げられた。2011年度の借入金額は1210億ポンドであったが、この予算スピーチ直前の懸命の努力で、1209億ポンドに抑えたのである。これは毎年借入金額が減っていることを示し、政府の赤字削減策が効果を出しているように見せるために必要なものであった。

この財源は、省庁に未使用のお金をなるべく使わないよう圧力をかけて集めたものが中心だが、国際機関への支払いを来年度に回す、さらに税金逃れの摘発から得られる見込み額などを含み、かなり数字が操作されている。かつてオズボーンは、労働党政権が予算で数字の操作をしていると攻撃したことがあるが、それを自らも行っている。

住宅建設と購入促進が景気刺激策の中心

独立機関である予算責任局(OBR)は、2013年の経済成長を0.6%、2014年を1.8%としたが、緊縮財政の中で、経済刺激策を行うのは簡単ではない。これまでの政策も多くが不発に終わっている。その結果、経済波及効果の大きい住宅の分野に力を入れることとした。新しく建てられる住宅を購入する場合、この4月からその20%のローン(最大60万ポンド・8700万円の物件)を政府が無利子で提供する。そして政府の住宅ローンへの総額1300億ポンド(約19兆円)にも上る保証を2014年から3年間実施する予定である。

保証は、政府にとっては、直接予算として計上するものではないのでやりやすい手法だが、同様の政策が、かつてアメリカでサブプライムローンの問題を引き起こしたことや、既に高い住宅の価格をさらに上げる可能性があることなどから批判がある。しかしながら、1300億ポンドという金額は、現在の住宅ローン全体の1割以上にあたる金額であり、1年間に提供されるすべての住宅ローンの額にあたる金額だという。(参照:http://www.bbc.co.uk/news/business-21881174

そのため、かなりのインパクトがある可能性がある。これは保証であり、政府の計算によると住宅購入者の債務不履行のために120億ポンドほどの負担をする可能性はあるそうだが、それでもビジネスも一般の消費者も現在の厳しい経済環境下で投資や消費を控えている中、かなりドラスティックな手段を講じる必要があるとの判断に基づいているようだ。

なお、これは、英国独自の状況を反映した政策と言える。英国では、債務危機以降、住宅価格は若干落ちているものの、依然として、住宅は長期的に見れば最も確かな投資対象と考えられている。つまり、時間が経てば住宅の価値が上がると考えられており、それは住宅の古さには関係ない。そのため、英国人は住宅を持ちたがる傾向がある。

他の経済刺激政策

オズボーンは、英国の中央銀行であるイングランド銀行の権限を柔軟にした。これまでは、イングランド銀行はインフレ率を2%以下に抑えることを目標としていたが、それを経済の状況によって柔軟に対応できるようにした。これは、アメリカやカナダの中央銀行の権限に倣ったものである。今年7月にイングランド銀行総裁に就任するマーク・カーニー現カナダ銀行総裁の仕事がしやすいようにしたものと思われるが、政府の景気刺激策で効果が出ない場合でも、オズボーン財相が自ら何度も説得して任命に至ったカーニー次期イングランド銀行総裁への期待は大きいと言える。

また、この権限の修正で、オズボーンは、低い金利を長く維持できると述べたが、これは、ビジネスにプラスの効果があるだけではなく、今回の予算の景気刺激策の中心が住宅であることを考えれば、住宅の購入者に低い金利が比較的長期間保障されることを意味し、更なる心理的な刺激策になるように思われる。

また、法人税を2013年には23%、2014年には22%にするが、それを2015年には20%まで下げる。これは、先進国の中でも最低水準で、英国への投資意欲を高めるのに役立つと思われる。さらには、企業が新しく雇用する者に対する国民保険(National Insurance)額の最初の2千ポンドを免除することとした。

有権者向け政策

この予算には、一般の国民の喜びそうなものを散りばめている。例えば、ビール1パイントの税を平均して1ペンス下げ、さらに9月から3ペンス上がる予定であったのを中止した。つまり、4ペンス安くなる。この結果生まれる雇用を考えると税収の面では若干のプラスになるという。

自動車のドライバーには、燃料税を凍結した。また、連立政権下で毎年大幅に上げている課税限度額は、2014年4月から、自民党の選挙公約であった1万ポンド(145万円)を1年早めて実施することとなった。

政治は結果

予算責任局は、政府の債務が減り始めるのは2018年になると見ているが、それは2015年の総選挙よりはるかに先である。そのため、2015年の総選挙は、緊縮財政の真っただ中で戦うことになる。このままでは、世論調査の支持率で、経済政策においてキャメロン首相とオズボーン財相のチームの方が労働党のミリバンド党首とボールズ影の財相のチームよりわずかに上回っているのが逆転しかねない。その状況を打開するための手を打たなければならない。同時に、英国の格付けをこれ以上落とさないことも大切だ。ムーディーズが英国をAAAから一つ格下げしたが、フィッチとスタンダード&プアーズの2社も追随する可能性がある。そのためにオズボーンには慎重な財政運営が要求される。

ユーロ通貨圏のキプロスの財政危機の問題が表面化したこともあり、ユーロ圏の今後は不透明だ。英国の有権者は、キプロスと比べて英国の現状を評価し、オズボーンの予算をそれほど悪いものではないと考えるかもしれない。しかし、政治は結果だとよく言われる。いくらよい政策を出しても結果が出なければあまり意味がない。オズボーン財相の住宅に賭ける政策が成功するかどうかは今後を見なければわからないが、労働党のボールズ影の財相がこの政策を批判した際に「成功するかもしれないが」と言った点に注目する必要があるだろう。ボールズは、この政策が結果を出す可能性もあることを見てとっているからだ。