次期英国総選挙の予想

次期総選挙は、2025年1月28日までに行わねばならない。スナク首相は、今年の後半に総選挙を想定していると発言しているが、状況によっては、それより前に行う可能性もあると見られている。これまでの世論調査では、野党第一党の労働党が政権政党の保守党に支持率で20%前後の差をつけている。

選挙学(Psephology)の大家ジョン・カーティス教授が、次期総選挙で労働党の勝つ可能性は99%だと発言した。カーティス教授は、英国の世論調査会社や専門家などで構成する英国世論調査会議(British Polling Council)の会長を2008年から2024年2月まで16年にわたって務めた人物で、英国の公共放送BBCの総選挙番組などに頻繁に出演している。総選挙の際にBBCらが行う出口調査のリーダーでもある。

その数日後に発表された、サーベーション(Survation)という世論調査会社のMRP(マルチレベル回帰事後層化シミュレーション)という手法で15000余りのサンプルを用いた次期総選挙の議席予想によると、保守党は全650議席のうち、98議席の獲得に留まり、大敗するという結果を出した。この結果は、その後、YouGovが同じMRPの手法で18000余のサンプルを基に、保守党は155議席という予測をだした。いずれの結果も、保守党は、2019年総選挙の半分の議席も獲得できないという予想だ。スナク首相のこれまでの保守党への支持回復策は不発に終わっており、有権者のスナク首相への評価は低くスナク首相の言うことを聞く耳を持つ人が大きく減っている。選挙の大勢は既に形作られているといえる。保守党は、現状では、1997年総選挙でブレア労働党に敗れたレベルの大敗を喫する状態である。

 実施日保守党労働党SNP自民党その他総議席マジョリティ
YouGov7-27/3/2024155403194924650労154
Survation8-22/3/202498468412221650労286
2019結果12/12/2019365202481124650保80
1997結果1/5/199716541864624659労179
マジョリティとは、英国下院の最大政党が他の政党の合計議席よりも何議席多いかを示したもので、最大政党の基盤の強さをあらわすもの。

一方、世論調査で保守党に大きな差をつけている労働党は、現在のリードを維持していくため、有権者の労働党への投票意欲を削がないよう安全第一の策を取っている。労働党の党員数は2019年末の53万2000人から2024年3月の36万7000人ほどまでに大きく減った。特にパレスチナのガザ問題に関する煮え切らない政策などで、過去2か月で23000人減ったという。それでも労働党は、総選挙で勝つためには「妥協」が必要だという考えだ。

機能していないように見えるスナク首相官邸

保守党内に、スナク首相を他の人に入れ替えようとする動きがあるとの憶測が報道されたが、それを受けて、スナク首相は、ウェストミンスターの政治には関心がない、大切なのは、英国の将来であると言った。この空虚に聞こえる発言は、追い詰められたスナク首相の本心を言っているわけではなく、スナク首相のアドバイザーの助言に基づくものだろう。

ボリス・ジョンソン首相のスパッズ(Spads 政治任用のアドバイザー)だった人物が、BBCのテレビ番組で、保守党大口献金者の人種差別発言が大きな問題になり、いったいスナク首相のアドバイザーたちは何をしているのだと発言したが、首相官邸のアドバイスもうまくいっているようには思われない。

スナク首相は、政治状況の改善を期待して、短期的な判断でくるくる政策を変えている。例えば、2023年10月、首都ロンドンとイングランド北部を結ぶ高速鉄道のHS2で、ロンドンからバーミンガムの建設は予定通り進めるが、バーミンガムから北部のマンチェスターなどに行く区間の建設を突如取りやめた例である。そしてこの廃止で浮いたお金360億ポンドを、代わりの鉄道、道路やバス網に使うとし、具体的な事例を挙げた。しかし、その中身は乏しく、この中には、既に完成しているものも含まれていた。それから5カ月たって、このお金は47億ドルまで縮小したようだ。しかも、その中のプロジェクトは、次期総選挙がすむまで始まらず、それから7年間かかる予定だ。

その一方、2023年7月の、ジョンソン元首相が下院議員を辞任した後の補欠選挙で、予想を覆し、保守党候補者が勝った。労働党の現職市長の政策(Ulez:Ultra Low Emission Zone:超低エミッションゾーン)がその補欠選挙区に拡大するのに反対したのが功を奏したのである。この例に希望を見出したスナク首相は、環境戦略の緩和を「長期的な」視野に基づくものとして打ち出し、また「自動車の運転手」の側に立つとして、道路の改善整備をすると訴えた。ところが、道路の穴の修繕が大幅に遅れている

目先の問題で、くるくると方針を変えることが続いていると、保守党内だけではなく、直近の世論調査に見られるように、有権者の支持が停滞、下降していく可能性がある。