メイ首相と国の運

トップ政治家にとって最も必要なのは「政治センス」である。これは、政治の状況を読んで、大きく、どういう政治の方向を取るか直感で判断できるとか、人々の気持ちを感じられ、それに対応できるというように、頭よりも心でそれを察知できる能力と言える。メイ首相はそれに欠ける。すなわち、多くの官僚に見られるように、与えられた仕事をきちんとこなす能力があっても、刻一刻変化する状況に対してクリエイティブな行動のできる能力に乏しい。メイは官僚としては優れているかもしれないが、イギリスがEUを離脱するような重大な時に国の舵を取る役割は、荷が重すぎる。メイが力を失い、早晩その地位から去る状況が生まれているのは、イギリスという国に運があることを示しているかもしれない。

イギリスは、1973年以来、過去44年間メンバーだったEUを離れることとなった。イギリスとEUとの関係は、単に全貿易の44%を占めるEUとの貿易関係だけではなく、産業、労働、消費、人権、研究開発、地域開発、セキュリティなどを含め、社会のほとんどすべての分野に及ぶ。EUを離れるにあたり、EU法や規制に関わる19000の法令を見直す必要がある。すなわち、EUを離れることは、イギリス人にとって、非常に大きな変化だ。そしていかにEUと別れるかは、今後のイギリスに大きな影響を与える。

メイ首相は、68日の総選挙で率いる保守党の議席を減らし、第一党の座を維持したものの全650議席のうち318議席と過半数を割った。お粗末な選挙戦を展開したためだ。その後のロンドンの公営住宅グレンフェル火災、10議席を持つ、北アイルランドの統一民主党(DUP)との閣外協力をめぐる協議、さらに、イギリスに住むEU国人のEU離脱後の権利をめぐるイギリスの提案などお粗末な対応が続いている。

メイのお粗末な政権運営

EU離脱交渉は、619日から始まったが、メイが昨年713日に首相となって以来の言動で、EU側(イギリスを除く27か国)の態度を硬化させ、EU側は、その既得権の維持、EUの今後を優先し、容易に譲歩する考えはない。EU側は、EU内のセキュリティなど他の問題の方が大切で、イギリスとのEU離脱交渉は二の次だとする。

メイは総選挙で当初、地滑り的大勝利を予測されながら、それまでの過半数をやや上回る状態から、少数政権となったことから、権威を失った。メイの側近らのスピン(情報、印象操作)で、有権者からの支持率はサッチャーを上回る、戦後最高レベルとなったが、本人の政治センスのなさが曝け出され、支持を失ったのである。

メイは、施政方針である、621日の「女王のスピーチ」で、首相就任以来主張してきた数々の政策を放棄した。保守党が過半数を大きく下回る非公選の上院(執筆時点で807議席のうち254議席)ばかりではなく、下院保守党内での見解の相違から、下院の賛成を得る見込みのないものは放棄せざるを得なくなったためだ。また、EUとの対決的な離脱交渉戦略を改めざるをえなくなった。しかし、メイの施政方針もEU離脱交渉も中途半端でとても維持できるものとは思えない。

メイの政策変更

メイ政権は、3月の予算で、2025年までに財政赤字をなくすとしたが、総選挙後、これまでの緊縮財政を緩和し、国家公務員や看護師らのNHSスタッフの給料も、過去7年間の1%アップ上限を変更し、増やす構えだ。ポンドが下落し、輸入品などの価格が上がり、物価が2.9%上昇する中、ある程度の賃上げが必要となっている。

グレンフェル火災以来、公営住宅をはじめとする、公共建築物の火災対策をめぐる巨額の財政負担が予想され、しかも総選挙マニフェストで挙げていた、高齢者の冬季燃料補助、年金上昇率の計算基準、高齢者ケア費用負担、無料学校給食の変更など数々の財源確保策を実施しないこととしたため、財政が混乱するのは間違いない。

壁にぶち当たるEU離脱交渉

EU離脱交渉は、既に壁にぶち当たっている。イギリスは、既に、EU側の求めた、2段階交渉プロセスに合意した。最初にイギリスのEU離脱交渉で合意し、その後、貿易をはじめとするお互いの将来の関係交渉に入るという段取りである。

第一段階のEU離脱交渉では、①イギリスに住むEU国人の権利、②メンバー国としてイギリスに責任のある、EU側に支払うべき「離婚料」、③アイルランドの北アイルランドと南のアイルランド共和国の国境問題がある。このうち最も容易な問題だと思われた、①イギリスに住むEU国人の権利とEU国に住むイギリス人の権利の問題では、メイが622日のEU首脳会談で提案したが、十分ではないと冷たい反応を受けた。それだけではなく、今後、このようなことは、正式な交渉の場で対応すべきで、重要なサミットで持ち出さないようにという指摘を受けたと言われる。さらには、EU加盟国のリーダーと個別に話をする場合には、離脱交渉に関する話を持ち出さないようにとクギをさされたと言われる。

このイギリスに住むEU国人の権利に関して最も重要な問題は、合意ができても、どのような形でその合意がきちんと実行されるかという点である。EU側は、欧州司法裁判所がその任に当たるべきだとする。メイは、まず、イギリスの裁判所がその任を果たすとする。メイは、これまでにイギリスが主権を取り戻すために欧州司法裁判所の管轄から離れると発言しており、また、保守党内の強硬離脱派への配慮から、欧州司法裁判所は受け入れ難い。一方、将来結ばれるであろう離脱条約で明記されれば、国際司法裁判所で扱える、もしくは、新たに仲裁機関を設けるなどの案もあるが、いずれも現在のところ実現性は乏しい。メイは、基本的に、これまでの発言から強硬離脱的戦略を捨てられない。

スムーズにいかないDUP閣外協力

メイの期待したDUPとの協力関係交渉も壁にぶち当たっている。DUPの要求しているとされる、北アイルランドのNHS(国民保健サービス)へ10億ポンド(1400億円)、さらにインフラ整備などに10億ポンド、計20億ポンド(2800億円)の財政要求は、バーネット・フォーミュラと呼ばれる予算計算方式で、自動的に他の地域、イングランド、スコットランド、ウェールズへの増額を招き、20億ポンドで済まず、総額700億ポンド(49千億円)となるという見方もある。北アイルランドの人口185万人はイギリスの全人口の3%弱であるため、全体額が35倍膨れ上がる可能性がある。財務省らが慎重だとも言われている。

その上、DUPはもともとEU離脱派だが、ソフトなEU離脱を求めている。また、北アイルランドと南のアイルランド共和国との国境は、現在のように、地図上国境はあるが、物理的な国境のない状態を維持したいとしており、メイの強硬離脱的な戦略とどのように折り合えるか疑問がある。

メイの後継首相 

現在のメイは、総選挙直後より強い立場だとする見方もあるが、とてもそのような状況とは言えず、まさしく風前の灯火であり、メイ政権は早晩崩れるだろう。

その後継首相は、もしすぐに総選挙が行われなければ、現離脱相のデービスとなるだろう。

長く筆頭候補だったジョンソン外相は、離脱交渉の終わる2019年前には党首選に出ないと示唆した。EU離脱に当たり、イギリスは何らの支払いをする必要はないどころか、むしろこれまでの貢献分から払い戻しがあるべきだと主張した上、昨年6月のEU国民投票キャンペーン中にEUを離脱すれば、週に35千万ポンド(490億円)をNHSに向けられると主張した。これらの発言と現実の交渉を両立させることは極めて難しい。また、ハモンド財相は、EU残留派だった上、ソフトな離脱を訴えており、党内をまとめることは難しい。

デービスは、離脱派の一人だったが、既に離脱交渉の難しさを十分に理解している。2005年の党首選で勝利するだろうと見られていたが、キャメロンに敗れた。キャメロン党首の下で影の内相となったが、人権問題で自分の考えを貫くために、議員辞職して再び立候補し、当選した人物である。625日のBBCテレビでのインタビューで、イギリス側とEU側が折り合える点を探ると発言したが、現実的な対応をするように思われる。

一方、もし、総選挙があれば、労働党が政権に就き、党首コービンが首相となるだろう。コービンは政治センスが意外に優れていることが明らかになってきている。コービンは、昨年のEU国民投票の前、EU残留を10の内、7もしくは7.5賛成とし、EU残留に100%賛成ではなかった。しかし、EU離脱交渉では、労働党は、合意を必ずするとし、労働者を守るために、貿易関係を重視するとしている。メイと比べて、これまでのお荷物がはるかに少なく、より現実的な交渉ができるだろう。

メイの困難な立場は、多くの国民にEU離脱後の不安を掻き立てており、貿易で現実的な妥協を求めるようになってきている

この状況の中では、メイが首相の座を去ることは、恐らくイギリスにとって望ましいことのように思われる。イギリスがEUから離脱すること自体、長期的に見れば悪いことばかりではないだろう。しかし、その離脱の仕方が大切で、長期的な関係が維持できる、スムーズな離脱となるよう慎重な配慮が必要だ。もしイギリスに運があれば、政治センスのないメイがこの舞台から退場させられることとなるだろうと思われる。

なぜ保守党は総選挙を避けたいのか?

611日、保守党の無役の下院議員の会、1922年委員会のブレイディ会長がテレビに出演し、議員たちには「総選挙に臨みたいという気持ちはない」と発言した。この会は、保守党の党首選挙を運営し、また党首への不信任案を扱うなど非常に重要な役割を果たしている。68日の総選挙の結果が分かった9日には、ブレイディはメイ首相と会談している。

この発言の背後には、総選挙で保守党が13議席減らしたのに対し、前評判を覆して2015年総選挙から30議席を積み増した労働党の現状がある。もし総選挙が行われれば、勢いのある労働党がさらに議席を獲得し、メイ政権ではなく、労働党のコービン政権が誕生するだろうという判断がある。

これには、総選挙後の最初の世論調査が指標となっているように思われる。Servationの政党支持率は以下の通りである。

労働党45%、保守党39%、自民党7%UKIP3%、その他6%

労働党が保守党を6ポイントリードしている。すなわち、労働党がさらに議席を伸ばし、保守党は減らすことを示唆している。

Servationは、今回の総選挙で、多くの世論調査会社が世論の状態を読み誤ったのに対し、最も選挙結果に近かった。実は、2015年総選挙でも世論調査会社がこぞって読み誤った。その中、Servationは、ほとんど正しい結果を出していた。ある新聞社と話をしたそうだが、他の会社のものと比べておかしいとして乗り気ではなく、結局、選挙前発表しなかったという話がある。これらの事実から考えると、Servationのこの選挙後の世論調査はかなり信用できるものだと言えるだろう。

このような政情の中で、前財相のジョージ・オズボーンが、メイ首相は、「死刑囚(Dead Woman Walking)」だと発言した。「死刑を待っている女性」だというのである。総選挙の結果、メイ首相の権威はなくなった。本来なら、党首選挙の話が大きく取り上げられるところである。

611日の日曜紙は、ボリス・ジョンソン外相の出馬の憶測を大きく取り上げたが、ジョンソン本人は、くだらない話だと打ち消した。もちろん、上記のServationの世論調査でもジョンソンが最も有権者の支持を集められる候補だ。しかし、党首選となれば、ハングパーラメントの状態の中で、新しい党首は、総選挙を求められるだろう。その時期ではないという判断から、ジョンソンらは様子を見ており、メイ首相が存命している状況だ。611日に行われた内閣改造では、主要閣僚を異動させることができなかった。多くが、サンデーテレグラフ紙が1面トップで指摘したように、メイは首相だが、権力はなくなったと見ている。

ただし、このようなメイ政権で、果たしてきちんとしたEU離脱交渉ができるかという疑問がある。また、メイ政権が北アイルランドの民主統一党(DUP)の支援で、過半数の数を確保できたとしても、それが何らかの事情で機能しなくなる可能性も無視できないように思われる。労働党は、メイ政権の政策を発表する「女王のスピーチ」で、大規模な修正案を出してメイ政権を揺さぶる構えだ。事態はかなり流動的だと言える。

急に変わる政治の風

メイ首相にとって、現在の政治状況は「なんてこと」という状況だろう。

3月17日には、前財務相で保守党下院議員のジョージ・オズボーンがロンドンの夕刊紙イブニング・スタンダードの編集長になることが発表された。現在無料の新聞だがもともと有料で、ボリス・ジョンソンの2008年ロンドン市長当選には、この新聞の影響力が大きかった。今でも翌日の新聞の論調を決めるのに大きな役割を果たしていると考えられている。

メイは昨年7月首相に就任した際、オズボーンを冷たく財務相のポストから首にした。閣僚にもしなかった。そのため、この夕刊紙の編集長にオズボーンがなるというのは少なからず脅威に感じられるだろう。

さらには、2015年総選挙などの選挙費用違反問題で、保守党は、これまで最高の7万ポンド(1千万円)の罰金を命じられた。そればかりではなく、13の警察が捜査し、検察に書類を送った。もし、選挙違反が認められれば、当選者は失格となり、再選挙となる可能性がある。この件で、保守党のイメージに大きなダメージがあるだけではなく、保守党が下院の過半数を若干超えるだけの状態のため、政権運営に支障を来す可能性さえある。

また、3月8日の予算発表で自営業者の国民保険(National Insurance)税のアップを発表したが、これは2015年総選挙のマニフェスト違反だと批判され、1週間後にそれをひっこめた。このUターンは、単なる政策の変更とは見られず、財相だけではなく、メイの迂闊さが指摘され、さらには、少々の批判で政策を変えるようでは、はるかに困難なBrexitの交渉ができるか大きな疑問が出てきた。

さらに予算関連では、学校教育費にマニフェスト違反の可能性があり、保守党の中からも批判が出てきている。

その上、スコットランド分権政府が、独立住民投票を2018年秋から2019年春の間に実施したいとしている問題で、メイはBrexit前には認めない方針を示した。スコットランド政府側はそれに強く反発しており、この問題はかなり尾を引く見込みだ。

北アイルランドの政情もある。昨年、北アイルランド議会選挙を実施したばかりだったが、再生可能エネルギー政策の大失敗に端を発して北アイルランド政府が倒れ、3月初めに再び選挙が行われた。しかし、未だに新政府を設ける状態には至っておらず、あと1週間足らずで話がまとまらなければ、再び選挙が行われる見込みだ。従来、北アイルランド問題では歴代首相が相当多くのエネルギーを使ってきており、ウェストミンスターの中央政府が直接統治をしなければならない状況になれば、メイには相当大きな重荷になる。

これらの問題への対応には多くが注目しており、これまで高い世論支持率を維持してきたメイ政権だが、それを額面通りには受け取れない状況となってきた。

3月7日、BBCラジオ4の午後5時のニュース番組でブラウン元労働党首相の戦略担当者が「政治状況は急に変わる、総選挙ができる時間枠は限られている」と話したことが思い出される。

ブラウンは、2007年6月、ブレアの後を継いで首相に就任した。就任当初、高い人気があり、総選挙を実施するようアドバイスされたが、ブラウンは躊躇した。総選挙の憶測が高まったにも関わらず、その判断を遅らせ、秋に総選挙を実施しようと思ったときには、支持率が下がり始めており、結局、実施できなかった。また、ブラウンは臆病者だというラッテルが貼られてしまった。

2008年の世界信用危機で、イギリスは景気が下降し、ブラウンは大幅な財政赤字の責任を追及され、しかも2010年総選挙時には欧州の経済危機があり、労働党は、大きく議席を失った。過半数を取れなかったが第一党となった保守党と第三党の自民党の連立政権の誕生を許したのである。

もしブラウンが早期に総選挙を実施していれば、ブラウンには5年後の任期満了まで、すなわち2012年半ばまで十分な時間があり、政治状況は大幅に変わっていただろう。現在の政治状況も全く異なっていたものと思われる。

現在のメイ保守党首相は、その高い支持率の下、2016年7月就任以来、総選挙を実施すれば大きく勝て、下院でわずかに過半数を上回るだけの状態から脱し、余裕のある政権運営ができると見られていた。しかし、メイはこれまで早期総選挙を否定してきた。

この一つの理由には、2011年固定議会法の問題がある。議会は基本的に5年に固定され、早期選挙が実施できるのは、下院議員総数の3分の2が賛成した場合か、政府が不信任され、2週間以内に信任されうる政府ができない場合に限定された。それでも、メイが自らの政府に対し不信任案を提出し、可決させるという奇手があるが、このような手法は、それなりの政治状況がなければ有権者の不信を招く可能性がある。(なお、3月7日、ヘイグ上院議員が固定議会法を廃止するべきだと主張した。しかし、この固定議会法制定時に、それまで首相に解散権を与えていた過去の法制を廃止しており、この固定議会法を廃止しただけでは2011年前の状況になるわけではない。すなわち新しい法律の制定が同時に必要となるが、それには上院の賛成も得なければならない。また、6年前とは異なる政治状況下の現在、首相にどのような解散権限を与えるかなどの議論でかなり時間がかかる可能性がある)

メイが総選挙に打って出るかどうかは別にして、明るく見えた政治状況に急に暗雲が立ち込めてきた。

メイの党大会

保守党の党大会が10月2日から5日まで開かれた。メイ首相誕生後3か月足らず、しかも6月の国民投票でイギリスがEUから離脱することになったことを受け、かなり面白い党大会になると思われたが、現実は各紙が報道したように面白みのない退屈な大会となった。

Brexitについては、EU離脱の手続きを開始するリスボン条約50条に基づく通告を来年3月末までに行うということが発表された他、具体的な話はなかった。この党大会では、ハント保健大臣がイギリス人の医師を増やすための大学定員の25%増加を発表し、また、メイの指示に基づくと思われる移民政策がラッド内相から発表された。ハモンド財相は、これまでの緊縮政策は維持するものの、オズボーン前財相の約束した2020年までに財政赤字を無くすという約束を放棄し、若干の公共投資をすると発表した。

医学部の定員の増加について、メイ首相は、NHS(国民保健サービス)に勤める外国人は「暫定的」で、イギリス人がこれらの人たちに替わると示唆した。しかし、現在でもNHSはスタッフ不足で苦しんでいる。これから大学の定員を増やしたとしてもこれらの人たちが訓練を受けた医師になるのは2025年から30年と見られる。しかも若手医師には、イギリスのNHSに嫌気がさして、オーストラリアやニュージーランドなどへ移住する人が増えている。ハントは、医学部で教育を受けた人には4年間はイギリスで働くことを義務付けるとしたが、それでイギリス人医師が現在全体の4分の1いる外国人医師を入れ替え、NHSが機能する状態となるか疑問だ。逆にメイの発言は長くイギリスで働いている外国人医師を失望させたと言われる。

また、メイは、移民が増えていることが、国民がEU離脱を選択した大きな理由だとして、対策を優先するとしている。ラッドは、学生や外国人労働者のビザを厳しくし、雇用にあたってはイギリス人を優先させ、企業に、そこで働く外国人の割合を公表させる政策案を発表したが、これには大企業も中小企業も反発している。しかし、当の内務省にも、そこで働いている人たちのそのような統計はない。また、そもそも外国人がイギリス人の仕事を奪っているかどうかについても疑いがある。統計局によると、勤労者の中の外国人の割合は、1997年の3.7%から2016年の10.9%に増えている。その数は、345万人と多いが、そのうちEU人は223万人。ただし、人が多くなれば仕事が増え、外国人が多くなれば、イギリス人の仕事を奪うということには直接ならない。特に、現在、失業率は記録的に低く、イギリス人で仕事に就いている人の数は、記録的に高い。権威ある財政問題研究所(IFS)は、外国人がイギリス人の仕事を奪っているという証拠はないとする。景気後退局面では、移民が非常に多いと半・不熟練労働者にその影響がでるという。また、賃金については、サービス産業の半・不熟練労働者の場合、そのセクターで移民が10%増えれば、その賃金が1.88%減少するという調査結果がある。現在の経済、移民の状況からすれば、外国人がイギリス人の仕事を奪っている、賃金下降を招いていると主張するのは誤りがあると言えるだろう。

これらの移民政策は、現内相が発表したが、これらはメイ首相の影響を受けているように思われる。また、メイは内相時代、学生のビザ制限を強化している(拙稿参照)。明らかに、ラッドの政策は、これらの筋に沿ったもので、ラッドの兄が心配するほどである。しかし、これらは、移民の問題を政府が真剣に捉えており、強い対策を取っていること示すナラティブ(物語)であることは明らかであり、効果よりも印象の方が大切だと考えているのではないかと思われる。

ただし、これには副作用もある。10月5日のスピーチでも、社会的責任を果たす資本主義を訴え、壊れた市場を治すため国が介入をするとした。労働者代表の取締役会出席などの政策もある。移民政策やビジネスへの介入の発言を受け、アメリカで開かれたG20財相、中央銀行総裁会議に出席していたハモンド財相は、イギリス経済はオープンで、銀行家など専門職は別と防戦に努める羽目に陥った。

10月5日のメイのスピーチには、政治の方向性のレトリックが強く、新しい政策はなかった。メイには、首相に就任した直後から主張しているように、公平で「誰にもうまく働く国」を築くという目標がある。限られた特権階級ではなく、普通の人、毎日をやっと生活しているような人々に機会が与えられる国を目指している。企業責任を主張し、労働者の支持を得ようとしている。さらに、分断され、今や「嫌な政党(Nasty Party)」となった労働党が左に偏った後の空白地帯、すなわち中道を占めようとしている。また、UKIPを支持している人たちを引き寄せるために、愛国心を強調し、移民を議論の真ん中に持ってこようとしている。UKIPがマニフェストで謳ったグラマースクールの新設も主張した。

メイの意欲は理解できるが、誰もがそれに賛意を示しているわけではない。保守党内の反発を招き、企業に必要以上の心配をさせ、イギリスへの投資のブレーキをかけているように見える。保守党の下院でのマジョリティ(保守党の議員数から他の政党の議員数を引いた数)は少ない。メイは、総選挙の洗礼を受けずに首相となった。イギリスの政治や社会を大きく変えようとする場合、マニフェストでそれを訴えるのが通常だ。しかし、メイの場合、それなしに、自分に大きなマンデイト(国民からの負託)があるかのように振る舞っている。

メイには自分の政治的遺産、すなわちメイ政権での業績が頭にあるのかもしれない。しかし、イギリスをEUからうまく離脱させるだけでも非常に大きな業績となるのではないだろうか。大風呂敷を広げ過ぎるのは禁物ではないか。例えば、メリトクラシーを訴え、グラマースクールを拡張しようとしたが、反対が強く、今では、その地域が求めればと後退している。この調子では、しばらくするとメイの真摯さ、正直さに疑問が出てくる可能性がある。ある保守党下院議員が「コービンを見くびるのは危険だ」と主張した。世論調査の労働党への支持は低いが、政治家不信の時代にコービンが正直さの点で高い評価を受けているためだ。手堅いはずのメイだが、もう少し慎重に振る舞った方がよいのではないかと感じる。

政党の党員数

保守党の党員数が、EU国民投票から急増していると言われる。その数は5万人と言われ、それをメイ新首相の誕生による「メイ・マニア」効果とする見方があるが、実際には、もっと複雑なようだ。キャメロン前首相辞任後、党首選に投票するために入党した人が4人に3人という地方支部もある。保守党の党員数に関する最も新しい情報は、2013年12月現在のものであり、保守党の党員数は、それ以来、減少していたことがうかがわれる。党員の「急増」の結果、現在どの程度の党員数になっているかは不明だ。

なお、労働党、自民党、SNPも6月23日に行われたEU国民投票の後、党員数が増加している。

下院図書館が2016年7月現在でまとめた現状(8月5日発行)では以下のとおり。

政党 2016年07
労働党 515,000
保守党 149,800 2013年12月が最新の数字
SNP 120,000 2013年12月には、25,000
自民党 76,000
緑の党 55,500 2013年には138,000
UKIP 39,000 2015年5月には47,000
PC 8,300

:緑の党はイングランドとウェールズのもの
PCはウェールズの地域政党プライド・カムリ
SNPはスコットランドの地域政党スコットランド国民党
UKIPはイギリス独立党

労働党の党員は、有権者の1.1%、すなわち100人弱に1人程度であり、また、SNPの党員は、スコットランドの有権者数と比較すると、2.9%であり、スコットランドの有権者30数人に1人がSNPの党員ということになる。

ポジショニング段階のメイ新首相

7月20日、メイ新首相が最初の首相への質問に立った。そのパフォーマンスを誉め称える政治コメンテーターは公共放送のBBCを含め多い。確かにメリハリのきいた返答ぶりだった。それでも、メイは、野党第1党の労働党のコービン党首の真剣な質問に答えず、その代わりにコービンを冷笑しただけだった。メイの「冷笑」は、保守党下院議員や、反コービン派の労働党下院議員たちを喜ばせ、政治コメンテーターたちにもエンターテインメントを提供した。しかし、有権者の多くが、まじめで真剣な議論を軽視した、このような政治関係者たちの言動に大きな不満と不信を持っていることを思い起こすべきだろう。欧州連合(EU)国民投票で離脱に投票した友人は、政治家たちは何もわかっていない、目を覚まさせるために離脱に投票したと言う。

メイは、まず、7月20日に発表された、いいニュースとしたうえで、イギリスの雇用が上昇したと言った。実は、これは、2016年3月から5月の数字であり、イギリスがEUから離脱することを決めた後のものではない。オーグリーブズの戦い、すなわちサッチャー政権時代の鉱山労働者と警察との衝突をめぐる真相解明、また、喫緊の問題である住宅問題、生活困窮者らに関する質問にはほとんど答えずなかった。また、イギリスのEU離脱について語れる答えを持っていなかった。このような答えで、なぜ政治コメンテーターたちが高い評価をするのだろうか。政治コメンテーターたちの評価の基準がおかしいのではないか。

メイは、まだ新政権のポジショニング、すなわち、自分の政権をどこに位置付けるかが明確ではなく、今の段階では、スローガンに終始している。メイは、首相に任命された直後の演説で、誰にもうまく働く政権を作りたいと語った。恵まれない人たちを真っ先に考えるとしたが、それを実現する具体策はまだ遠い。

イギリスの統合を重視するとし、首相に就任して最初に訪れたスコットランドでは、スコットランド住民のことを真っ先に考えるとしたが、この訪問は戦略的なものであり、スコットランド住民が、イギリス政府から大切に思われているから独立を考える必要がないと思わせる心理的戦略のように思われる。今のところ、スコットランドのスタージョン首席大臣との関係を作る以上にスコットランドに関して何をするかの具体的な戦略はないのではないか。

一方、7月20日には、ドイツのマーケル首相を訪ね、リスボン条約50条に基づく、EU離脱通知は年内ではなく、来年となると話した。ところが、その通知を出すまでは、具体的な話はしないと釘を刺される。さらにメイが7月21日に訪問したフランスのオランド大統領は、メイの立場に一定の理解を示しながらも、なるべく早くその通知を出して離脱交渉を始めるべきだとする立場を崩していない。これらの訪問では、トップ同士だけではなく、同行のスタッフらの顔合わせの意味もあるのだろうが、いずれにしても、イギリスの交渉のポジションを定めるのにかかる時間の合意も取れていないようだ。

確かに、新政権が発足したばかりで、すべてを要求するには無理があるだろう。中央銀行のイングランド銀行がイギリスのEU離脱の影響はそれほど出ていないとする報告書を出したが、まだ4週間では、今後どうなるか不透明である。EU離脱の影響がもう少しはっきりと見えてくるまでには、もう少し時間がかかるだろうし、恐らく財相の「秋の声明」で財政状況の説明があるまで、今後の財政を含めた方針が立てにくい状況にある。

メイは、首相への質問で、労働党が党首選でもめている間に、EU国民投票で分断した国を統一させると言ったが、それをどのようにして、また、どの程度できるのだろうか。それに、メイは、国民を分断させた国民投票は、保守党のキャメロンが実施したことを忘れているようだ。

高望みしすぎのメイ首相

7月13日、キャメロン首相が辞任し、メイ新首相(59歳)が誕生した。キャメロン首相は、第2のアンソニー・イーデンとも揶揄されている。イーデンは、1956年のスエズ危機で誤算し、イギリス兵を送り、自滅した元保守党首相である。戦後のイギリス首相のランキングでイーデンは最下位に置かれるが、6月23日の欧州連合(EU)国民投票で計算を誤ったキャメロンは「EU離脱の首相」として歴史に残ることとなると見られている。

キャメロンは、2010年当時の不安定な経済状況から、首相として財政赤字を半分に減らし、また、G7でトップクラスの経済へ導いた。運営の難しいと思われていた自民党との連立政権を5年間うまく運営し、2015年総選挙では、保守党として1992年以来の過半数を成し遂げた。2019年には首相を退くと見られていたが、キャメロンは、既に2度のレファレンダム(自民党の求めた下院議員選挙へのAV 選挙制度の導入、スコットランド独立)で勝っており、さらに6月のEU国民投票でも勝ち、首相在任期間9年の、歴史に残る業績を成し遂げた首相となるのではないかと見られていた。しかし、このEU国民投票で敗れ、キャメロンの命運は尽きた。キャメロンは、これからの数年で、自分の政治的遺産をまとめようと考えていたようだが、時間切れとなってしまった。

一方、EU国民投票で残留派だったが、あまり目立たないようにしていたメイは、イギリスのEU離脱でほとんど傷を受けなかった。そしてキャメロンの後継首相となる最大のライバルと見られていた、残留派のジョージ・オズボーン前財相と、離脱派のリーダーだったボリス・ジョンソン前ロンドン市長が脱落した結果、首相の座が転がり込んできたのである。

メイは、バッキンガム宮殿で、エリザベス女王に首相として任命された後、ダウニング街10番地の首相官邸の前に立って、首相として初めてのスピーチを行い、「誰にもうまく働く国」を築きたいと抱負を述べた。ただし、目下のイギリスの最大の課題は、EUからの離脱にいかに対処するかである。保守党党首選での7月11日の演説では社会正義に重点を置き、さらに残留派、離脱派で割れた保守党の融和、その上、女性を閣僚級に大幅登用する計画など、必ずしも関連していない多くの課題を一挙に解決しようとするメイの試みは、すべてがそう簡単に成功するとは思えない。

メイのこれまでを見ると、危険なことを極力避けてきた、いわゆる優等生タイプのようだ。メイは、小さなことにこだわりすぎ(マイクロマネジャー)、コントロールフリークとも言われる。それがゆえに内相として6年間やってこられた。そして首相の地位が回ってきたと言える。しかし、首相には、内相とかなり違う能力が要求される。その一つは、いかにそれぞれの大臣に権限を委譲し、それぞれの能力を最大限に発揮させるかである。コントロールフリークには、そのような転換は極めて困難なのではないか。むしろ、目的を広げようとすればするほど、自分でコントロールできる範囲が狭まり、その狭間で苦しむことになりかねない。

メイの場合、内相としての業績がそう優れていたとは言えない。犯罪の数が減ったと言われるが、その原因ははっきりしていない。最も注目された、正味の移民数を10万人未満とする目標は、最終的に33万人と全く達成できなかった。イングランドとウェールズの41警察管区で設けられた犯罪・警察コミッショナーは、成功したどころか、次々に問題が起き、2015年総選挙の労働党のマニフェストでも廃止するとうたわれていたが、保守党の中でも失敗だったとする声がある。メイが内相として6年間生き延びたのは、むしろ、あまり内閣改造を好まないキャメロンと、メイをそう攻撃しなかった右寄りのメディアによるところが大きい。もちろん、イギリスでは、6年間、内相の職務についていたこと自体に重みがあるのは事実である。そのような運があったとも言える。

それでも、メイは「ピーターの法則」の典型的な人物のように思える。ピーターの法則とは、ある地位への候補者を、その地位に適切な能力によって判断するよりも、現在の役割での業績に基づいて判断するものである。メイの場合、その「業績」は、在任期間の長さであろう。

メイはこの重要な時期に、おっちょこちょいのボリス・ジョンソンを外相に任じた。党内対策を考慮したのだろう。メイは、目的を拡散させずに、むしろ、絞ることからスタートすべきであったように思われる。

メイ内相が首相へ

6月23日の欧州連合(EU)国民投票でイギリスがEUを離脱することになり、残留派のキャメロン首相が辞任表明、保守党の党首選が始まった。5人の候補者が立候補。保守党下院議員の投票で、それが2人に絞られ、党員の投票で9月9日に女性2人から1人を選ぶことになった。ところが、7月11日、そのうちの1人、エネルギー閣外相のアンドレア・レッドサム(拙稿参照)が辞退したため、テリーザ・メイ内相(拙稿参照)が保守党の党首となることが決まった。

これを受け、キャメロン首相は7月13日に首相を辞任し、同日、その後任の首相にメイが就任する。イギリスでは、日本のような議会での首相指名がない。君主のエリザベス女王が現職の首相の辞任を受理する際、次期首相の推薦を受け、次期首相候補をバッキンガム宮殿に招いて首相に任命する。事実上、下院の過半数の議員の支持を受けられる人が首相となる。保守党は、下院650議席のうち330議席を占めている。なお、上院はこの過程に関わらない。

メイが7月13日にも首相となることになったため、政治関係者の目下の最大の関心事は、メイが直ちに総選挙を行うかどうかである。メイは、保守党党首選で、総選挙は2020年まで行わないと表明しているが、労働党が内乱の渦中であり、勝利の可能性の極めて大きなこの機会に一挙に総選挙を実施するという可能性がある。ただし、EU離脱でイギリスの経済が不透明になっており、メイの性格を考えると、政治の空白を避けるため、総選挙は行わず、実務に専念する可能性のほうが大きいように思われる。

首相候補レッドサムの失敗

保守党の党首選で、下院議員が候補者を2人に絞った。そして保守党の党員が、2人の女性候補者から保守党党首・首相を選ぶ(拙稿参照)。そのうちの1人、エネルギー閣外相のレッドサムが不用意な発言をし、それが大きなニュースとなった。

上記の拙稿でも触れたが、レッドサムは「脇が甘い」。それがまさしくこの問題に出ている。問題の経緯はこうだ。

タイムズ紙のジャーナリストが、レッドサムとのインタビューで、もう1人の女性候補者メイ内相との違いを質問した。レッドサムは、経済の能力と家族と答えた。そこでタイムズ紙のジャーナリストは、子供について質問。レッドサムには3人の子供がいる。レッドサムは、「メイには子供がいないが、自分にはいる」というような話にはしたくない、そのような話はひどい話だからと言いながら、メイには子供がいないが、自分には子供がいる、メイにも甥や姪、多くの人がいるだろうが、自分には子供、そのさらに子供で、直接、将来への本当の利害関係がある、と語った。

日本人の感覚では、あまり大した話ではないと思われるかもしれない。しかし、タイムズ紙は、「母なのでメイより勝る、レッドサム」という第一面の大見出しとした。

レッドサムは、自分の言ったことと全く反対だ、このような汚いジャーナリズムは見たことがないと主張。

そして翌日、7月9日は朝からこの話題で持ちきりとなった。タイムズ紙のジャーナリストが公共放送BBCに招かれて、このインタビューの経緯を語り、インタビューの録音も紹介、そして、これは「正確なジャーナリズム」だと主張したのである。

このジャーナリスㇳの説明でも明らかなように、レッドサムの子供のことに関する不用意な発言を引き出すことを最初から狙いにしていたようだ。レッドサムは、6月23日のEU国民投票前の様々な討論会で、たびたび子供のことを話していたので、それをきいたという。そしてレッドサムはナイーブにもその餌につられた。この「ナイーブ」という言葉は、このジャーナリストの使ったものである。

本来、保守党党首、そして首相の選挙は、それぞれの候補者の政治的な言動や政策、考え方で競われるものであり、その身体的な特徴、この場合には、子供がいる、いない、というようなことは関係のないものだと考えられている。それを重視する有権者もいるだろうが、もしそれを候補者やその関係者が意図的に主張すれば顰蹙を買う。

レッドサムの場合、それを意図的に主張したのではなく、むしろ引きずりだされたという表現の方がふさわしいと思われるが、タイムズ紙のジャーナリストの視点は、そのような軽率なことを話す「判断力」が首相にふさわしいかどうかであり、それは報道に値するというものである。タイムズ紙は、メイ内相を推していることもその背景にあるだろう。

保守党党首選は、あと2か月続く。このような落とし穴は、2010年に下院議員に選出され、政治家として十分な経験がないまま、急に保守党党首候補、首相候補として躍り出て、大きな注目を浴び始めた人にとってはやむをえない点もあるだろう。

例えば、キャメロン首相は、2001年5月に下院議員となり、2005年5月に2回目の当選をした後、その12月に保守党の党首に選出された。ただし、それまでに財相、内相のスペシャルアドバイザーとして政界の内側から政治家の行動を観察したことがある。そのような経験がなければ、自分の発言に関する政治勘はなかなかつかみにくい面があると言える。

首相を選ぶ保守党の党員

6月23日の欧州連合(EU)国民投票でイギリスがEU離脱を選択した後、キャメロン首相が辞任し、次の保守党の党首選びが始まった。保守党は下院で過半数を占めているため、保守党党首が選ばれれば、女王がその人物をバッキンガム宮殿に招き、首相に任命する。

党首選立候補は、6月30日正午に締め切られ、5人の立候補者から、330人の保守党下院議員が、2度の投票を経て、2人の候補者、内相テリーザ・メイとエネルギー閣外相アンドレア・レッドサムの2人の女性を選んだ。そして保守党党員がこの2人のうちどちらかを選ぶ。下院議員の2回目の投票では、メイが199票、レッドサムが84票獲得し、メイが大きくリードしたが、党員がどちらに投票するかは別の問題である。

現在のような選挙制度は、1997年に保守党がブレア労働党に大敗した後、党首選びに党員がもっと関与すべきだという考え方から設けられた。イギリス最初の女性首相サッチャーが選ばれた時はこの制度ではなく、保守党下院議員が選出した。

現在の制度が設けられた後、党首には2001年にイアン・ダンカン=スミス、2003年にはマイケル・ハワード、2005年にデービッド・キャメロンが選出された。ダンカン=スミスは、下院議員の投票では2位だったが、党員の投票で逆転し、当選した。なお、ダンカン=スミスは、2003年に下院議員による不信任投票が可決され、辞任し、その後任の党首にはハワードしか立候補しなかったために投票がなかった。党員の投票した2001年も2005年も、保守党が野党であったため、直接首相を選ぶ選挙ではなかったため、党員にとっては、今回が初めて首相を直接選ぶ選挙となる。

保守党の党員数

保守党では、地方支部が党員を把握しており、支部が党員の実態を明らかにしたがらない傾向もあると言われ、党本部が必ずしも正確で、最新の党員のデータを把握しているわけではない。党首選の投票用紙は8月中旬に送付されるが、党本部は、それまでに党員の住所などの確認作業があるといわれる。党員数は、公共放送BBCのジャーナリストでも13万という人もいれば、15万という人もおり、13万から15万人のようだ。

なお、投票の締め切りは、9月9日の正午であり、党員はその3か月前に入党していなければ投票できない。すなわち、6月9日までに入党しておかねばならないが、その期限は既に過ぎている。

党員像

2015年総選挙後に行われた、学術的な党員調査で約5700人を調査している。その中で、保守党の党員は1193人。平均年齢は54歳で、60歳以上が半分以上いた。そしてNHSや年金を守ることに関心があるという。その75%が中流階級で、71%が男性だった。すなわち、男性が、2人の女性から首相を選ぶともいえる。

党員の選ぶ基準

党員は、選挙に勝てる候補を選ぶ傾向があると言われる。それは、能力、党の顔となるかどうか、選挙でアピールできるかなどであるが、今回は、先に述べたように首相を選ぶ選挙である。保守党の党員の3分の2が離脱に投票したと言われるが、ある世論調査の結果によると、離脱派であることが大切だと見る人は3割にとどまり、候補者の能力に注目する人が7割を超えている。

候補者

メイはこれまで政治の第一線で17年間過ごしてきた手堅さがある。一方、まだ下院議員6年で、知名度のそう高くないレッドサムには新鮮さがあり、これからの2か月間でどこまで票を伸ばすか予測しがたい面がある。しかしながら、レッドサムにはこれまでのところ、過去の金融関係の経歴や発言で脇の甘い点があるように感じられる。レッドサムの履歴書は、見かけほどすごいものではないことが明らかになっており、また、本来強いはずの経済分析にも疑問が出ている。また、最後の2人に選出されれば、納税申告書を公開すると約束したため、これを公開する必要があるが、これがさらに火種となる可能性がある。これらを乗り越えたところで、保守党の党員の多くはレッドサムをメイときちんと比較して考慮するのではないか。