自動化と雇用の動き

イギリスの中央銀行イングランド銀行(Bank of England)のチーフエコノミストが、ロボット化のためにいずれは1500万人の仕事が失われるだろうと警告した。これは、現在の仕事の半分近くである。

一方、アウトソーシングの大手Capitaが、コスト削減のために、スタッフを2千人減らし、それをロボット開発に向けると発表し、波紋を投げかけている。

人工知能とオートメーションの高度化で、将来の雇用の問題が深刻に考えられている中、このようなニュースが立て続いている。

その中、大手インターネット小売り会社アマゾンの動きも報じられた。アマゾンが、アメリカのシアトルの本社の近くに170平方メートルの小売店を開いた。この店では、ミルク、パン、それに出来合いの食品などが扱われているそうだ。アマゾン・ゴー(Amazon Go)は、現在、そのスタッフのみに開いているが、来年一般の人が使えるようになるという。イギリスでもこの名前が、12月初めに商標登録され、イギリスにも展開されると見られている。イギリスは規制が少なく、新しい事業を展開しやすいと言われる。

この店では、レジに並ぶ必要がなく、センサーが客の取り上げたものを自動的に探知し、アマゾンプライムの口座に課金するという。この結果、このような店では、4分の3の仕事が無くなると言われる。

もし、アマゾンゴーが成功すれば、他の小売業も同じことをするよう迫られると見られ、同様の動きが強まると見られている。このような動きが強まれば、そう遠くない将来、失業者がかなり出る可能性があるのではないか。

政党の党員数

保守党の党員数が、EU国民投票から急増していると言われる。その数は5万人と言われ、それをメイ新首相の誕生による「メイ・マニア」効果とする見方があるが、実際には、もっと複雑なようだ。キャメロン前首相辞任後、党首選に投票するために入党した人が4人に3人という地方支部もある。保守党の党員数に関する最も新しい情報は、2013年12月現在のものであり、保守党の党員数は、それ以来、減少していたことがうかがわれる。党員の「急増」の結果、現在どの程度の党員数になっているかは不明だ。

なお、労働党、自民党、SNPも6月23日に行われたEU国民投票の後、党員数が増加している。

下院図書館が2016年7月現在でまとめた現状(8月5日発行)では以下のとおり。

政党 2016年07
労働党 515,000
保守党 149,800 2013年12月が最新の数字
SNP 120,000 2013年12月には、25,000
自民党 76,000
緑の党 55,500 2013年には138,000
UKIP 39,000 2015年5月には47,000
PC 8,300

:緑の党はイングランドとウェールズのもの
PCはウェールズの地域政党プライド・カムリ
SNPはスコットランドの地域政党スコットランド国民党
UKIPはイギリス独立党

労働党の党員は、有権者の1.1%、すなわち100人弱に1人程度であり、また、SNPの党員は、スコットランドの有権者数と比較すると、2.9%であり、スコットランドの有権者30数人に1人がSNPの党員ということになる。

首相を選ぶ保守党の党員

6月23日の欧州連合(EU)国民投票でイギリスがEU離脱を選択した後、キャメロン首相が辞任し、次の保守党の党首選びが始まった。保守党は下院で過半数を占めているため、保守党党首が選ばれれば、女王がその人物をバッキンガム宮殿に招き、首相に任命する。

党首選立候補は、6月30日正午に締め切られ、5人の立候補者から、330人の保守党下院議員が、2度の投票を経て、2人の候補者、内相テリーザ・メイとエネルギー閣外相アンドレア・レッドサムの2人の女性を選んだ。そして保守党党員がこの2人のうちどちらかを選ぶ。下院議員の2回目の投票では、メイが199票、レッドサムが84票獲得し、メイが大きくリードしたが、党員がどちらに投票するかは別の問題である。

現在のような選挙制度は、1997年に保守党がブレア労働党に大敗した後、党首選びに党員がもっと関与すべきだという考え方から設けられた。イギリス最初の女性首相サッチャーが選ばれた時はこの制度ではなく、保守党下院議員が選出した。

現在の制度が設けられた後、党首には2001年にイアン・ダンカン=スミス、2003年にはマイケル・ハワード、2005年にデービッド・キャメロンが選出された。ダンカン=スミスは、下院議員の投票では2位だったが、党員の投票で逆転し、当選した。なお、ダンカン=スミスは、2003年に下院議員による不信任投票が可決され、辞任し、その後任の党首にはハワードしか立候補しなかったために投票がなかった。党員の投票した2001年も2005年も、保守党が野党であったため、直接首相を選ぶ選挙ではなかったため、党員にとっては、今回が初めて首相を直接選ぶ選挙となる。

保守党の党員数

保守党では、地方支部が党員を把握しており、支部が党員の実態を明らかにしたがらない傾向もあると言われ、党本部が必ずしも正確で、最新の党員のデータを把握しているわけではない。党首選の投票用紙は8月中旬に送付されるが、党本部は、それまでに党員の住所などの確認作業があるといわれる。党員数は、公共放送BBCのジャーナリストでも13万という人もいれば、15万という人もおり、13万から15万人のようだ。

なお、投票の締め切りは、9月9日の正午であり、党員はその3か月前に入党していなければ投票できない。すなわち、6月9日までに入党しておかねばならないが、その期限は既に過ぎている。

党員像

2015年総選挙後に行われた、学術的な党員調査で約5700人を調査している。その中で、保守党の党員は1193人。平均年齢は54歳で、60歳以上が半分以上いた。そしてNHSや年金を守ることに関心があるという。その75%が中流階級で、71%が男性だった。すなわち、男性が、2人の女性から首相を選ぶともいえる。

党員の選ぶ基準

党員は、選挙に勝てる候補を選ぶ傾向があると言われる。それは、能力、党の顔となるかどうか、選挙でアピールできるかなどであるが、今回は、先に述べたように首相を選ぶ選挙である。保守党の党員の3分の2が離脱に投票したと言われるが、ある世論調査の結果によると、離脱派であることが大切だと見る人は3割にとどまり、候補者の能力に注目する人が7割を超えている。

候補者

メイはこれまで政治の第一線で17年間過ごしてきた手堅さがある。一方、まだ下院議員6年で、知名度のそう高くないレッドサムには新鮮さがあり、これからの2か月間でどこまで票を伸ばすか予測しがたい面がある。しかしながら、レッドサムにはこれまでのところ、過去の金融関係の経歴や発言で脇の甘い点があるように感じられる。レッドサムの履歴書は、見かけほどすごいものではないことが明らかになっており、また、本来強いはずの経済分析にも疑問が出ている。また、最後の2人に選出されれば、納税申告書を公開すると約束したため、これを公開する必要があるが、これがさらに火種となる可能性がある。これらを乗り越えたところで、保守党の党員の多くはレッドサムをメイときちんと比較して考慮するのではないか。

低迷するイギリス政治

現在のイギリス政治は低迷している。キャメロン首相は、2013年1月、欧州連合(EU)残留か離脱かの国民投票を実施する約束をした。そして、2015年の総選挙でキャメロン首相率いる保守党が過半数を獲得した後、その約束に従って、国民投票を6月23日に実施することとした。EU国民投票への離脱派、残留派の対立は深刻化しており、国民投票の結果がどのようになっても、保守党の中に大きな亀裂が入ったことは間違いなく、政権運営に大きな影響をもたらすだろう。

今起きている状況は、まさしく「混乱」とでもいえるものである。国民投票の結果を見るまで投資を控える状況が出てきており、雇用も臨時が中心、国内経済は減速し、製造業では、二期連続でマイナス成長となり、「景気後退」の状態。建設業も減速している。

5月5日の分権議会・地方選挙とも重なり、保守党は労働党よりも多くの議席を失った。この選挙で特に注目されたロンドン市長(日本の東京都知事にあたる)選挙では、当選した労働党候補者がイスラム教徒であったことから、キャメロン首相が、この労働党候補者のイスラム教過激派との関係を示唆し、「『イスラム国』を支援している」イスラム教僧侶との関係を攻撃した。それに怒った当の僧侶にキャメロン首相らが謝罪する事件も起きた。

また、キャメロン首相は、イギリスで行われる腐敗問題対応会議に参加するナイジェリア、アフガニスタンを「素晴らしく腐敗している」と軽率な発言をしたことが明らかになった。首相の存在が益々軽くなっており、EU国民投票に関してキャメロン首相に信を置く有権者が少ない

さらに、十分検討することなく、次々に打ち出した政策のUターンが続いている。子供の難民受け入れ、イングランドの初中等教育の公立学校を地方自治体から文部省管轄に変え、裁量権を増やすアカデミー化、国民保健サービス(NHS)の若手医師契約問題など、絶対に引かないと言っていた問題で立場を変えている

下院で過半数をわずかに上回るだけで、党内からの反対に弱い立場であるだけではなく、上院では過半数を大きく下回っており、上院対策にも苦しんでいる。これが政府の多くのUターンの背後にある。この調子では、キャメロンのUターンに味をしめた保守党下院議員たちが、選挙区を650から600に減らし、選挙区のサイズを均等化する案に反対し、実施できなくさせる可能性があるだろう。これは保守党の党利党略に深く関係し、これが実施されると、保守党の政権維持には有利となるが、下院議員の中には、自分の選挙区が消える、合併させられるなどで選挙区替えを迫られる議員が少なからず出るからである。

キャメロン首相やオズボーン財相は、国の将来を考えて、財政の健全化を含めた政策を進めているとしてきたが、実際には、キャメロン首相らの政府首脳に、政治を通じて実現したい方針、つまりビジョンが明確ではなく、党利党略によるところが大きいことが露呈していると言える。それには、労働党への労働組合からの献金が減る仕組みを作ろうとしたことにも表れている。

さらに2015年の総選挙で、重点選挙区に多くの青年をバスで投入し、その際の宿泊費用などをきちんと選挙委員会に届けていなかった疑いがあり、選挙委員会の度重なる書類要請にも応じず、その結果、選挙委員会が裁判所の提出命令を求める動きもあった。選挙費用の制限には、全国のものと選挙区のものがあり、これらの費用は選挙区の選挙費用として届ける必要があったと見られているが、もしそうならば、選挙区の費用制限が低いために、選挙区費用制限違反の可能性がある。その結果、幾つもの選挙結果が無効となり、補欠選挙が実施されることとなる。これらの選挙区で当選した者には出馬制限が課され、保守党が再び勝つことは容易ではない。過半数をわずかに超えるだけの保守党には、そのイメージへの痛手があるだけではなく、さらに議席が減る可能性が高いため、政権運営に苦しい状況となる。2015年総選挙の選挙費用に関わる問題は、それだけではなく、選挙区に配ったチラシの問題もある。

5月5日のスコットランド分権議会議員選挙で、保守党が大きく議席を伸ばし、労働党を上回る大躍進を遂げたが、これには、スコットランド保守党リーダーの功績が大きい。次期総選挙で保守党にプラスとなるが、キャメロン首相らの功績とは言えないだろう。

このままでは、弱い弱いと言われているコービン労働党に足元をすくわれかねない状況が生まれる可能性も否定できないだろう。残念な政治状況である。政治は、モグラたたきのように、次々に問題が出てくるものだと言えるかもしれないが、迂闊で浅薄なミスが続くのは、その政治的リーダーシップに問題があるからではないか。

底流の変化するイギリス政治

イギリス政治の底流が大きく変化している。

2015年5月の総選挙は、保守党が過半数を占めるという予想外の結果となった。そして9月には、労働党の党首に、誰も予想していなかったジェレミー・コービンが就任。コービンブームが労働党を含めた左派を席巻、他の候補者を圧倒した結果である。保守党はコービン当選を喜んだ。労働党の中の異端で、過去30年余り、イギリス政治の辺境にいた「極左」のコービンが相手では、次の総選挙は、保守党が楽勝すると信じたからだ。

そして、この12月のシリアへの空爆を巡る下院の審議。キャメロン首相は、11月のパリ同時多発テロ事件の後、フランス、アメリカなどの要請も受け、その事件を起こした過激集団「イスラム国」(ISIL)を攻撃するため、シリアへの空爆参加に踏み切りたいと考えた。しかし、下院の支持が得られるかどうか疑問があった。そのカギとなったのは、労働党の対応である。平和主義者のコービンは空爆に反対で、コービンが労働党下院議員に空爆反対の投票指示をするかどうかが注目された。労働党では、影の内閣のメンバーをはじめ、空爆に賛成する下院議員がかなりおり、メディアが「労働党は分裂している」と報道する中、コービンは、結局、自由投票とした。そして、その結果、下院は大差でシリア空爆に賛成。コービンは、このため、その立場をかなり弱めたと見られた。

一方、この過程で、有権者は、当初、空爆に賛成していたが、その支持はかなり弱まる。

そして下院の採決の翌日、12月3日に行われた、下院の補欠選挙。労働党の圧倒的に強い選挙区だが、労働党が敗れる可能性も指摘されていた。しかし、労働党新人が、予想を裏切り、62%の票を獲得し、5月の総選挙時より得票率を伸ばし、次点のUKIPに大差をつけて当選。第3位の保守党は10%ほど得票率を減らした。コービンは、一挙に面目を回復した。

イギリス政治は大きく変わっているが、ほとんどの政治コメンテーターの見方は、これまでの政治の見方、価値観に基づいたものである。「予想外」の出来事が多発しているのは、イギリスの政治の底流が大きく変化しているためのように思われる。

驕りが目立ち始めたSNP

SNP(スコットランド国民党)がスコットランドで、大きな支持を集めている。5月の総選挙では、スコットランドに割り当てられている59議席のうち、56議席を獲得。2010年の総選挙の6議席から大きく躍進した。全650議席の下院で、保守党、労働党に続いて第3党となったSNPは、大きな存在感を与えている。来年2016年に行われるスコットランド議会議員選挙でも、過半数を占めることを難しくした選挙制度(小選挙区比例代表併用制)であるにもかかわらず、前回の2011年を上回る議席数で過半数を維持し、SNP政権を維持するのは確実な情勢だ。

ところが、このSNPに思い上がりが目立ち始めた。下院で、労働党の座る座席に座って、保守党政府の政策に対決するのは、労働党ではなく、左の自分たちだと気勢を上げるぐらいは良いだろうが、度を越し始めると問題だ。

特に人気の急上昇している政党は、大きな政策・政治判断ではなく、些細なことでその勢いがそがれないよう慎重に振る舞う必要があるが、多くはその人気がいつまでも続くかのような錯覚に陥ってしまうようだ。

SNPのスタージョン党首・スコットランド首席大臣とサモンド前党首が、BBCを批判したが、これも驕りに端を発しているように思われる。特にサモンド前党首・現下院議員は、昨年9月のスコットランドの独立住民投票で、BBCのロビンソン政治部長(当時)のインタビューで、ロビンソンに批判されたことを未だに根を持っている。当時、SNPの多くの支持者が、BBCのグラスゴー本部に押しかけ、BBCの視聴料支払い拒否を訴え、また、ロビンソンの取材を妨げようとし、その辞任を求めるなどの動きに発展した。ロビンソンが、言論が抑圧されている「プーチンのロシア」と比較するほどの出来事となった。これをサモンドはBBCの将来が議論となっているときにぶり返したのである。

このサモンドらの動きをスコットランド保守党の党首が、BBCを政争の具に使っていると批判した。この批判は当たっているように思われる。比較的小さなことだが、有権者の多くに何かおかしいと感じさせるようなきっかけを与えるようなことは、避けることが賢明だ。しかし、人は、驕ると足元が見えなくなるようだ。

日本に必要な型破りの政治家

7月1日にカナダで行われた、女子サッカー世界選手権の日本対イングランドの試合前のタイムズ紙(6月30日)の記事を読んで考えさせられたことがある。その記事の中で紹介されたことだが、イングランドの、ある女子サッカーのベテランは、かつて日本と対戦したことがあるが、日本を訪れた際に、日本の子供たちが、トレーニングで大人と同じような形のプレイをするのを見て、そのプレイの仕方が深く根付いている、信じられないと感じたというのである。

確かに女子サッカーでの日本のチーム力には優れたものがある。しかし、この試合では、イングランドは、日本の戦略を読んで、その対策を講じており、アディショナルタイムに自殺点を入れ、日本に敗れるまで優位に戦った。上記のベテランのコメントを思い出し、日本のような枠に入れる教育、トレーニングには限界があるのではないかと感じた。

そしてギリシャの経済救済策を巡る駆け引きを見て、枠にはまった政治家ではなく、型破りの政治家が日本にも必要なのではないかと思うに至った。

ギリシャではその救済策を巡って国民投票が7月5日に行われる。欧州連合(EU)、欧州中央銀行(ECB)、国際通貨基金(IMF)のギリシャ救済策を受け入れるか、受け入れないかの判断を国民に問うものだ。もし国民がそれを受け入れたとしても、ギリシャは苦しい状況が続き、もし受け入れないとすれば、ギリシャ経済はさらに深刻な危機に陥り、ギリシャが、欧州統一通貨ユーロからの脱退、はてはEUからの脱退にまでつながると見る向きが多い。

この国民投票の実施を6月26日に突然発表したのは、ギリシャ首相のアレクシス・チプラスである。反緊縮策を訴える急進左派連合(SYRIZA)を率い、今年1月から連立政権の首相となった。チプラスは、もともとチェ・ゲバラを崇拝していた人物で、当初から、そう簡単に妥協する人物ではなかった。この国民投票を勝手に実施することとし、EUの盟主ドイツらは、チプラス首相に見切りをつけ、入れ替える作戦を立てていると言われる。

この国民投票そのものは、かなり茶番的である。急に国民投票を実施すると発表しただけではなく、何に投票するかはっきりしていない。イギリスの公共放送BBCラジオのバラエティ番組で、ギリシャ国民投票の投票用紙に書かれた文言の英訳を読み上げたが、意味不明で、聴衆は大笑いした。

そもそも、この投票用紙に書かれている「6月25日にEU側が出した案」は、その後、緩和案が出されており、それが必ずしもEU側の提案したものではない。しかもこの救済案はすでに6月30日の受け入れ期限を過ぎており、現在有効な提案ではない。

一方、EU側の、ギリシャ国民投票への反応は、この救済策を受け入れるかどうかの枠を超えて、ギリシャがユーロを離脱するかどうかだと示唆するなど大きくエスカレートしている。ECBがユーロの追加支援をしなかったため、ギリシャの銀行は6月29日から閉鎖状態で、政府は引き出し額制限を実施した。少額しか引き出せないが、ユーロが枯渇しかけている。ECB側の対応は、ギリシャ国民を「イエス」投票に押しやる効果を意図してのもののように思われる。

確かに、GDPの180%の負債を抱えるギリシャは、EU、ECBらに支えられており、この国民投票で「ノー」の答えが出れば、ギリシャへの追加支援が行われず、現在でも経済がほとんど停止しているギリシャが、ユーロ離脱となる可能性が高い。

筆者の友人のジョナサンの見方はこうだ。「国民投票の結果がイエスとなろうが、ノーとなろうがあまり違いはない。いずれにしてもドイツらがギリシャをユーロ圏から離脱させる可能性は少ない。ドイツらに与える影響が大きすぎるためだ。ギリシャは、もともと貧しい国だった。それがユーロ圏に入り、お金がふんだんに入ってきて、経済が急に成長した。イギリスや日本のように長い期間をかけて徐々に経済が大きくなったところでは、それに伴い経済構造が次第に発展してきているが、それなしに経済が成長した。経済が困難になれば、独自通貨なら、通貨の切り下げなどの対応ができるだろうが、ユーロのため、それができない。強いドイツと通貨を共有したこと自体に無理がある」

確かに、イギリスもサッチャー政権で、ユーロの先駆けとなる欧州通貨メカニズム(ERM)に参加したが、1992年9月16日のいわゆるブラック・ウェンズデーで、ERMから脱退した。この際には、当時のノーマン・ラモント財相が、売り浴びせられたイギリスの通貨ポンドを守るために、政策金利を1日に10%から12%、そして15%に上げたが、結局あきらめ、イギリスはERMから脱退する。その経験があるために、イギリスはユーロ参加に消極的となった。イギリスは面目を失ったが、その後、経済は上向きに向かい、その翌年も順調な景気拡大を続けることになる。

これらを考えると、チプラス首相は、国民投票の結果がいずれに転んでも、長期的にはギリシャに有利になると考えている可能性がある。ギリシャ国民は、総体的にユーロそしてEUに留まりたいと考えている。チプラス首相は、現在の救済策は屈辱的だとして、ノーと投票するよう国民に訴えているが、ノーと投票してもユーロにもEUにも留まれると主張する。そしてノーと投票すれば、ギリシャの立場を強くし、交渉が有利になると主張している。もし万一、ギリシャがユーロ離脱の事態となっても、それは必ずしもギリシャの致命傷にはならないと判断しているのではないか。

一方、チプラスらは、もし国民がイエスと投票すれば、政権から退き、イエス側の政党に政権を任せる構えだ。すなわち、イエス側の政党に、EUらとの交渉を任せ、その責任を直接負わない方針である。そして、交渉がまとまった後、議会最大政党の地位を利用して、秋に、総選挙を行わせ、政権に復帰する構えだと伝えられる。

チプラスには、これまで、経験不足だ、何をしているかわからない、ノーと投票するよう国民に求めながらユーロ、EUに留まるとちぐはぐな主張をしているなどとの批判があるが、実際には、最悪の事態を見据えながら、計算してリスクを取っているように見える。もちろんそれが狙い通りにいくとは限らない。それでもチプラスの主義主張はともかく、その行動は、かなり一貫しているように見える。

ここで注目したいのは、チプラスの「大胆な行動」だ。国民への緊縮策の影響をできるだけ小さくしようとしているチプラスには、今でも国民から大きな支持がある。その行動はドイツらに嫌われているが、必ずしも「敵」に好かれる必要はないだろう。

イギリスの政治家には型にはまった人物が多い。日本では、その教育のために、特に型にはまった人物が多いことを考えると、今の時代には「型破り」の人物が必要なように思う。チプラスを見ていて、その思いを強くした。

放送局が折れた党首の「テレビ討論」

5月7日の総選挙の前に、主要放送局(BBC、ITV, チャンネル4、Sky)は、3回の党首討論を予定していた。有権者の選挙への関心を高め、また政党の政策を十分理解させることを目的とするものである。前回の2010年の総選挙で、主要3政党(保守党、労働党、自民党)の党首が、イギリス史上初めて、テレビで3回にわたり討論し、有権者の関心が大きく高まったことから、同じような効果を狙ったものである。しかし、前回総選挙のテレビ討論に参加したために不利になったと考えている、保守党のキャメロン首相が、選挙期間中のテレビ討論参加に難色を示し、結局、放送局側が、大きく譲歩し、当初の計画とはかなり異なった形の「テレビ討論」に落ち着くこととなった。

放送局側は、それまで、当初の計画通り実施するとして、もしキャメロン首相が参加したくなければ、その椅子を空席にして討論を行うという方針を繰り返し、主張していた。しかし、最終的に折れた背景には、放送局側の事情もあると思われる。

公共放送のBBCはその免許の更新時期が近づいており、視聴料の徴収を巡る問題がある。また、それ以外の民放は、放送通信の監督機関Ofcomを考慮したものと思われる。選挙結果の予測の多くは、保守党も労働党も過半数を獲得できないが、保守党が最大政党となると見ており、賭け屋の賭け率では、キャメロンが首相として継続するが本命である。そのような状況の中で、現職の首相を粗末に扱えず、妥協できる形で何とかテレビ討論を行いたいという考えがあったと思われる。

主要放送局は、3月30日の下院解散後、以下のようなテレビ番組の予定をしていた。

4月2日 7党(保守党、労働党、自民党、イギリス独立党UKIP、スコットランド国民党SNP、緑の党、それにウェールズの地域政党プライド・カムリ)の党首による討論。

4月16日 同じく7党の党首による討論。

4月30日 首相候補である、保守党のキャメロン首相と労働党のミリバンド党首の一騎打ちの討論。

これが、次のように変わった。

3月26日 保守党のキャメロン首相と労働党のミリバンド党首への別々の質疑応答。

4月2日 7党の党首による討論。

4月16日 連立政権の保守党と自民党を除いた、5党の討論。

4月30日 保守党のキャメロン首相、ミリバンド労働党党首、自民党のクレッグ副首相への別々の質疑応答。これは、2005年の総選挙で行われたものと同じ形である。

労働党のミリバンド党首は、これまで、テレビ討論は、放送局側が決めるもので、自分はそれを受け入れると繰り返し述べていた。しかし、最終的に、新しい案を受け入れた。それでも、キャメロン首相と自分は、同じ場所で、同じ夜、同じ聴衆といるが、キャメロン首相は、自分と討論することを怖がっている、と苦情を言った。

ミリバンド党首は、自分の首相候補としてのイメージを上げるため、テレビ討論で、キャメロン首相と一対一で議論を戦わせたかった。キャメロン首相は、ミリバンド党首を弱いと批判し、ミリバンドは、キャメロンを弱いと批判する。いずれも選挙に与える影響の計算に基づいた行動をしており、どっちもどっちだと言える。

労働党とスコットランド国民党の提携問題

労働党は、前回の2010年総選挙で、スコットランドの59議席のうち、41議席を獲得した。スコットランド国民党(SNP)は6議席だった。

ところが、2014年9月のスコットランド独立住民投票後、SNPの支持率が大きく上昇し、最近の予測には59議席のうちSNPが56議席獲得するかもしれないというものもある。

全国的には、保守党と労働党の支持率は、30%台前半で、同程度。その支持率が、5月の総選挙で維持された場合、もし労働党がスコットランドで前回並みの議席を獲得すれば、選挙区の構造などから、労働党が有利であり、労働党が過半数を獲得できなくても、最大政党となる。しかしながら、労働党がスコットランドで大きく議席を失えば、その可能性は少なくなる。

一方、SNPは、その支持の急増を受け、既に保守党との連携をはっきりと否定し、労働党と連携する方針を打ち出している。労働党とSNPの連携には、公式なもの(例えば、連立政権や閣外協力など)、非公式なものを含めて、各方面から反発がある。

労働党とSNPが連携した場合、イギリス全体の国政が、地域政党であるSNPに牛耳られる可能性がある上、スコットランドの独立を目指すSNPは、その目的に向かって、政権を使おうとする心配があるからである。

また、スコットランドで議席を失う可能性の高まっている労働党議員だ。これまで、スコットランドの有権者は、スコットランド内ではSNPを支持しても、イギリス全体の下院選挙では、労働党を支持する傾向があった。SNPは地域政党だが、労働党は全国政党であり、政権を担当する可能性があるためである。

SNPの言い分は、SNPは下院で労働党を支持するので、SNPを支持することは、労働党を支持することと基本的に同じである、しかもスコットランドに有利だとする。これには、2014年のスコットランド独立住民投票が少なからず影響している。主要3政党(保守党、労働党、自民党)は、スコットランド独立に協力して反対した。そのため、住民は、住民投票では独立に反対したものの、労働党は、かなりの信用を失った。

SNPの議論に対処するため、ミリバンド労働党党首が、SNPとは提携しないとはっきりした方がよいという意見がある。しかし、ミリバンドは、できればそこまでは言いたくない。労働党とSNPの連携の可能性を残しておきたいからだ。もし、SNPと組まないと言えば、政権を自ら放棄することになりかねない。

ミリバンドがそれをはっきりと言えば、今やSNPを支持する、元労働党支持者の多くの考え方を変えるかもしれないという期待がある。これは、特に、議席を失いかねない現職の労働党議員にとっては、切実な問題だ。また、労働党が、SNPとの連携を否定しても、SNPは労働党を支持せざるを得ないという見方がある。もしSNPが労働党を支持しなければ、SNPが保守党の政権を生むことになる可能性があるからである。しかし、このシナリオどおりに動くかどうか、確かではない。

その一方、労働党が、SNPとは提携しないと言えば、スコットランドの有権者が労働党を「罰する」かもしれないという不安もある。

ミリバンドは、労働党とSNPの連携の可能性のために、イングランドでの支持率に影響が出るようなら、立場をはっきりとさせざるを得ないだろう。

保守党は、この「労働党とSNPの連携」を前面に押し出したポスターキャンペーンを始めた。「弱いミリバンド首相」を操るSNPの不安を有権者に訴えることで、保守党が政権を担当しなければならないと示す作戦だ。

SNPの急激な支持の拡大は、イギリス独立党(UKIP)に票を失っている保守党に光明を与えている。

党首TV討論の行方

総選挙は5月7日。前回の2010年総選挙で、イギリス史上初めての主要3党党首によるテレビ討論が行われたが、放送局側は、今回の総選挙でも党首討論を実施しようと早くから取り組み始め、2014年の10月には、主要4放送局がその形式について合意した。前回同様3回の討論で、保守党、労働党、自民党、それにイギリス独立党(UKIP)を含めたものだった。

ところが、2010年総選挙でテレビ討論に参加したために、議席が思うほど獲得できなかったといわれるキャメロン首相は、公の場ではテレビ討論に参加したいと言いながら、実際には討論への参加は避けたいと考えているようで、難題を次から次に吹っかけている。

まず、全国政党である、緑の党を入れたものでなければ、参加しないと主張した。それを受け、放送局側は、3回の討論のうち、1回は首相候補同士の対決、すなわち保守党のキャメロンと労働党のミリバンドの討論、それ以外の2回は、緑の党と、地域政党であるスコットランド国民党とウェールズのプライド・カムリを入れた7党による討論を実施することにした。そして、出席しない党首がいても、出席した人だけで実施するとした。

しかし、キャメロン首相は、討論は、総選挙のキャンペーンが始まる前に実施すべきで、しかも、北アイルランドで最も下院議員の多い、民主統一党(DUP)も入れるべきだとする。これまで北アイルランドの政党は、それ以外の地域の政党とは別に扱われており、それに異を唱えることはなかったが、DUPは、党首のテレビ討論から自分たちが除外されていることに対して、法的措置を取る構えだ。もしDUPがテレビ討論に含められた場合、それ以外の北アイルランドの政党が黙っていないと見られる。

これに対して、放送局側は、既定の方針通り、7党で、総選挙中に実施するとし、党首討論を開催する予定の4つの放送局のくじ引きで、7党の党首討論を、選挙期間中の4月2日と16日、そしてキャメロンとミリバンドの討論を4月30日に行うと発表した。

労働党のミリバンドは、テレビ討論に積極的で、すでにその準備を始めているという話もある。しかし、キャメロンの側近は、キャメロンの参加したテレビ討論はないと見ているようだ。放送局側は、出席する党首だけで討論をするというが、ミリバンドとキャメロンが直接対決するテレビ討論で、例えば、投票日の1週間前だからという理由でキャメロンが参加しなれば、ミリバンド一人しかいない討論では、討論にならないだろう。

結局、キャメロン首相の参加する党首のテレビ討論はないと見たほうが確かなように思われる。