スコットランド独立問題をめぐるSNPの戦略

スコットランド国民党(SNP)のニコラ・スタージョン・スコットランド自治政府首席大臣が、スコットランド独立住民投票を2023年10月19日に実施する計画を発表した。ジョンソン首相は、そのようなことをするタイミングではないとして住民投票に反対している。そこで、ジョンソン政権の許可がなくても、スコットランドが独立住民投票を合法的に実施できるかどうかの判断を英国の最高裁判所に求めたことを明らかにした。また、最高裁判所が、そのような行動を非合法だと判断した場合には、次期総選挙でスコットランド独立を唯一の政策として戦い、もしSNPが投票の過半数(スコットランドでの投票の過半数)を占めた場合には、事実上住民投票で独立が認められたと見るべきだと主張したのである。

この発表の背後には、様々な思惑があると思われる。SNPは、英国からのスコットランド独立を目指して生まれた政党である。1700年までイングランドとスコットランドは別の国であった。そのため、スコットランドの国民意識は高い。

2014年に行われた、「スコットランドは独立すべきか?」にイエスかノーかの答えを求めたスコットランド住民投票では、独立賛成45%、反対が55%で、スコッランドの英国からの独立は否定された。この際には、1998年スコットランド法第30条の規定に従い、当時のキャメロン政権が、スコットランド自治政府にスコットランド独立住民投票の実施を認め、もし、独立賛成が過半数を占めた場合には、英国議会とスコットランド議会の両方で、スコットランド独立の手続きを進めることになっていた。

もともとキャメロン政権が住民投票を認めたのは、独立賛成派が勝つ可能性はないと見たからであるが、住民投票の投票日が近付いてくると賛成派が大きく伸び、最後には手に汗を握る戦いとなった。ジョンソン首相らは、これに懲りており、スコットランド独立住民投票を認めるつもりはない。現在、世論調査の権威ジョン・カーティス教授は、独立支持派と反対派は半々だという。これでは、結果がどちらに転ぶかわからない。

2021年5月のスコットランド議会議員選挙でも示されたように、スコットランドではSNPが圧倒的に強い。もともとスコットランド議会議員選挙制度は、SNPが過半数を占める可能性をなくすよう設計されており、選挙区の当選者数と比例区の当選者数をリンクさせている。2021年の議会議員選挙ではSNPは選挙区で強かったが、比例区であまり議席が伸びず、過半数を下回った。しかし、スコットランド独立支持のスコットランド緑の党と提携し、スコットランド議会では、独立支持派が多数を占めている。

SNPは、党勢が弱まらないよう慎重だ。ジョンソン首相が全国的に支持率を落とし、スコットランド議会第2党のスコットランド保守党の支持が下落している。その反面、第3党のスコットランド労働党が支持を伸ばしていることを警戒している。労働党のスターマー党首へのスコットランドでの支持も伸びているといわれる。

一方、次期総選挙で、保守党が過半数を獲得できない可能性が高まっている。もしそうなれば、労働党が政権を獲得するためには、同じ中道左派のSNPとの提携が必要となるかもしれない。労働党は、スコットランド独立に反対しており、連立政権は作らないと主張しているが、状況によっては、SNPが独立住民投票の実施を条件に労働党政権を支えることとなるような可能性がある。SNPは、スコットランドでしか選挙を戦わないが、英国下院で45議席持つ第3党である。スコットランドで労働党になるべく議席を獲得させず、SNPの立場を強めようとする狙いがあると思われる。

政党スコットランド議会英国下院(スコットランド)
SNP64 / 12945 / 59
スコットランド保守党31 / 1296 / 59
スコットランド労働党22 / 1291 / 59
スコットランド緑の党7 / 1290 / 59
スコットランド自民党4 / 1294 / 59
アルバ党0 / 1292 / 59
2022年6月29日現在のスコットランド政党勢力

すなわち、SNPの今回の発表は、以下のような意図があるものと思われる。

  • 住民投票を実施したい
  • そのための手続きの可能性を探るために最高裁判所の判断を求める
  • 住民投票が合法と認められれば計画通り実施する
  • もし合法と判断されなければ、次期総選挙を事実上の住民投票にするつもりだが、この結果は、中央政府の認める決定的なものではない。
  • もし次期総選挙で、保守党が過半数を占められず、どの政党も過半数を占められない「宙づり議会」となれば、SNPはその50近い議員数を使って、住民投票実施、もしくは話し合いでスコットランド独立に向かわせる
  • この過程で、スタージョンは、公約通り、スコットランド独立に向けて努力しており、SNPの党勢を維持、または強めることができる

新たなジョンソン信任投票の可能性

ジョンソン首相の率いる保守党は、6月23日に行われた2選挙区の補欠選挙で大きく敗れた。政権政党が選挙の谷間の補欠選挙で敗れることはよくあることだが、野党第一党の労働党の勝利した選挙区(ウェイクフィールド)では12.7%の票のスイング、自由民主党の勝った選挙区(ティバトンとホニトン)では、29.9%もの票のスイングがあった。

スイングとは、前回の選挙と今回の選挙でどの程度の票が動いたかを示すものである。特にティバトンとホニトンは、保守党の最も安全な選挙区の一つであった。前保守党下院議員の辞職した経緯があるが、ジョンソン首相への批判が強く、これまで保守党に投票してきた有権者が、労働党より考え方の近い自由民主党に投票するという傾向が出たことと、前回次点だった労働党候補者が再び立ったにもかかわらず、労働党支持者が、保守党に勝たせないよう自由民主党に投票するといういわゆるタクティカルボーティングがあったことが結果に大きく影響した。それでも保守党に投票してきた有権者が保守党に投票しないという結果は、保守党の将来に大きな暗雲を漂わせるものであった。

この中、保守党の党首選挙を預かる1922委員会の党首選挙のルールを変更しようとする動きが強まっている。党首信任投票は6月6日に行われ、211人が信任し、148人が不信任票を投じた。41%もの議員が不信任投票をしたが、ジョンソン首相は生き延びた。現在のルールでは、党首の信任投票が一度行われると1年間は再び信任投票を行えない。しかし、1922委員会では、その18委員の判断でルールを変更することが可能である。この18委員を選ぶための保守党下院議員による選挙が7月21日に行われる。この選挙に、ジョンソン首相に批判的な保守党下院議員たちが立候補を表明している。

ジョンソン首相は、英連邦会議の行われているルワンダからBBC Radio4 Todayのインタビューに答えたが、首相の人格が疑われるような、次から次に出てくるスキャンダルにはまともに返答せず、また、物価高騰の中での生活苦の問題など大切な政策はあいまいなままだ。ジョンソン首相のエンドゲームは始まっている。