SFO前ダイレクターのお粗末な能力(SFO Former Director’s Mismanagement)

3月7日の下院公会計委員会(Public Accounts Committee)にSFO(重大不正捜査局)の前職と現職の責任者、前ダイレクターのリチャード・オルドマンと現ダイレクター、デービッド・グリーンの二人が呼ばれた。オルドマンは2008年4月から2012年4月まで4年間その任にあった。

焦点となったのは、オルドマンのダイレクター当時に3人の幹部の解雇手当に計100万ポンド(1億4千万円)を支払ったことである。その支払いに必要な内閣府の許可を受けていたことを証明するものが何もなかったことから、会計検査院がその支払いは不正規だと指摘し、限定意見をつけた。さらに、SFO内での情実的人事やスタッフの低いモラールが指摘された上、捜査上の大失敗があったことからこの喚問は注目されていた。

この委員会での質疑で改めてわかったのは、オルドマンは内閣府から許可を受けたと主張するが、それを証明するものがないことである。内閣府はこのような許可をなかなか出さないので知られている。オルドマンは口頭でそのような示唆を受けたのかもしれないが、書面がなければ、その責任はオルドマンにあることになる。

また、3人の幹部の一人は、チーフ・エグゼクティブであったが、その昇進した際の記録が残っていないと言う。また、このチーフ・エグゼクティブは、ロンドンから離れた湖水地方に住み、週5日のうち2日は自宅勤務で、3日ロンドンに出てきていたが、ロンドンでのホテル宿泊費、交通費に2011年度は2万7600ポンド(400万円)公費から支出していたそうだ。

オルドマンは法廷弁護士だが、1975年から公務員として働き始め、2008年にSFOのダイレクターとなった。つまり公務員として30年以上の経験があったことになる。それにもかかわらず、きちんとした記録を残さず、適正手続きの必要性を十分に分かっていなかったようだ。このような人物がSFOのような、重要で、しかも一般からの信頼が要求される部門の責任者のポストに就いていたとは信じがたい。しかし、このような例は恐らくここだけにとどまるのではないだろう。特にSFOのような、英国政府の独立機関ではその可能性がより高いかもしれない。

ファラージュUKIP党首② (Nigel Farage②)

現在、英国で最もホットな政治家、英国のEU撤退を訴えるUKIP(英国独立党)の党首ナイジェル・ファラージュ。UKIPは2月28日の下院補欠選挙で大躍進した。

今日、このファラージュにたまたま道で出会い、これまで会ったこともなかったのに話をした人が、ファラージュはいい人のように見えたと言う。「よくやりましたね」と言うと「まだまだこれからですが、目的に着実に到達しようとしています」という答えが返ってきたそうだ。そして握手をしたという。たばこの臭いが強かったと付け加えた。

ファラージュは、かなり右で、扱いにくい人のように思われるかもしれない。UKIPはファラージュのワンマンバンドだとの批判もあるが、そう悪い人物のようには思われない。と言うのは、ファラージュが3人の英国の主要政党の党首、保守党のキャメロン首相、労働党のミリバンド党首、自民党のクレッグ副首相のうち、だれとなら食事をするかときかれた際、クレッグと答えたからだ。

クレッグは、EU賛成派だ。EUについてファラージュとは180度意見が違う。クレッグは、かつて1999年から5年間欧州議会議員だったことがあり、同期の欧州議会議員だったファラージュと一緒に議員として働いたことがある。しかし、ファラージュのクレッグ評は「ナイスガイ」である。クレッグには悪気が全くないと言う。クレッグをこのように言う人は恐らく悪い人ではないと思う。上記3人のうち、クレッグが最も真面目な政治家だと思うからだ。ただし、真面目な政治家と成功する政治家とは必ずしも一致しないが。

 

ファラージュUKIP党首の人物像(Nigel Farage)

UKIP(ユーキップ:The UK Independence Party:英国独立党)は、英国をEU(欧州連合)から撤退させることを目的に設立された政党である。そしてそれがこの政党の基本政策だ。ナイジェル・ファラージュは、EUの議会である欧州議会の議員を1999年から務めている。英国がEUのメンバーであるために、英国に割り当てられた欧州議会72議席のうちUKIPは2009年の議会議員選挙で13議席を獲得したが、もし、英国がEUから撤退すれば、UKIPの欧州議会議員全員が、ファラージュを含めその職を失う。つまり、ファラージュらは、自分たちの職を失うように懸命に働いていることになる。

ファラージュは、1964年4月3日にイングランド東南部のケントで生まれた。私立のダリッジ・カレッジで学んだ後、ロンドンのシティーの商品取引業者となった。ファラージュは、14歳で保守党に入ったといわれるが、そう積極的な活動家ではなかったらしい。しかし、1990年に英国がERM(Exchange Rate Mechanism:欧州為替相場メカニズム)に加入した時、ファラージュに大きな転機が訪れた。

ファラージュは英国がERMに入った日のことを思い出す。「亜鉛市場がものすごくひどかった。損をして、うんざりしてパブで他の取引業者と飲んで、自分の悲運を嘆いていた。その時だった。誰かが走って入ってきて、『英国がERMに入った』と言ったのだ。驚いた。たいへんばかげている。機能するはずがない。そして、ERMの事ばかり話す奴になった。どこに行っても誰にでもこれは大失敗だと言った。そして、実際そうだった」(タイムズ紙マガジン2013年3月2日)英国は、「暗黒の水曜日」と呼ばれる、ポンドの為替レートが急落する経験を経てERMから撤退した。

それからファラージュは、演説会に出席し始め、1993年に反連邦連盟(Anti-Federalist League)に入り、それが母体となってUKIPに発展した。

ファラージュは、これまで何回も死に面したことがある。自動車にはねられ、脚がひどく骨折した上、頭がい骨を骨折。睾丸癌(完治したと言われる)。そして2010年5月6日には、選挙の宣伝横断幕を空に掲げるために乗っていた軽飛行機が墜落し、胸骨を折った。こういう人にとっては、その日その日を生きていることが貴重だと感じられるのかもしれない。

UKIPの可能性(How far can UKIP go?)

イーストリーの補欠選挙で、議席を獲得したのは自民党だが、本当の勝利者はUKIP(英国独立党: The UK Independence Party)だと言われる。UKIPは、議席獲得を狙った、キャメロン首相の保守党をしのぎ、自民党に肉薄し、もう少しで下院に議席を獲得できるところまで近づいた。これは2010年の総選挙時とは大きな違いである。その際、UKIP候補者は得票率5%以下で供託金を没収された。

UKIPは、1993年に英国をEUから離脱させることを目標に設立された。1999年の欧州議会議員選挙で3議席を獲得したが、この選挙でUKIPが使ったお金はわずか6万ポンド(840万円)と言われる。欧州議会議員選挙は、完全小選挙区制の下院議員選挙とは異なり、地域ごとの比例代表制を取っているために、得票が議席に直接つながる。

このUKIPが5年ごとに行われる欧州議会議員選挙で大きな飛躍を遂げ、2004年には英国の78議席中12議席を獲得した。この選挙では、アメリカのクリントン元大統領のストラテジストで、その容赦ないスタイルに賛否両論のあったディック・モリスがメディア戦略をアドバイスし、しかも英国の有名なパブリシスト、マックス・クリフォードも協力した。豊富な資金力を背景に、新聞広告や全国の街頭看板二千か所での巨大ポスター掲示、さらにメディアの注目を集めるスタント、著名人の勧誘などを行い、UKIPの知名度をその1年前の4%から75%へと大きく上げたといわれる。

もともと英国には「島国根性」があり、EUになじみにくい要素がある。英国は、第二次世界大戦でも、アメリカ、ロシアと並ぶ三大戦勝国の一つで、これまで他の国の占領下で苦しんだ経験がない。また、アメリカとの「特別な関係」もある。一種の優越感のようなものがあり、EUで自分たちを守らねばならないという強い動機がない。1952年に設立されたEUの前身に加わらず、1973年にECに加入したが、加入が遅すぎ、加入当初その恩恵を十分享受できなかったこともあり、今でもEUについては他の国と温度差がある。その中で、EUとの関係が英国の問題の一種のスケープゴートになっている面があると言える。そこにUKIPに支持が集まりやすい、そもそもの原因がある。

UKIPは、2009年の欧州議会議員選挙で、保守党に引き続く第2位で72議席中13議席を獲得した。完全小選挙区の下院議員選挙では、これまで議席を獲得したことはない。下院選挙では、ほとんどの選挙区に候補者を擁立し、その多くが供託金没収(5%未満)程度の得票しかできないが、次第に供託金没収の率が減ってきている。なお、供託金は500ポンド(7万円)であり、比較的候補者が立てやすい。(なお日本では衆議院選挙に立候補するには供託金が小選挙区300万円、比例区600万円であり、返還を受けるには10%の得票が必要である。)

UKIPのメッセージは極めてクリアーである。EUからの脱退が基本的なメッセージであるが、それ以外の教育、税、健康などすべての重要な分野をカバーする政策を持つ。

イーストリー補欠選挙の後、UKIPの党首ナイジェル・ファラージュがBBCのインタヴューに答え、その中でUKIPの政策に対する質問にも答えた。例えば、このような具合である。

Q: 単一政策の政党という批判がありますが。

A: もちろんEUからの脱退は重要ですが、この地域で最も大切なことは、雇用と経済成長です。それが一般の家庭の関心事です。EU内の移民をコントロールできないようでは雇用を確保できません。来年1月からブルガリアとルーマニアからの移民の制限がなくなります。前回ポーランドなどからの移民の制限がなくなった時には、政府は移民の数は年1万5千人ほどと言っていたのに、実際にはそれよりはるかに多かった。EUから脱退すればこのような問題はなくなります。EUからの規制を撤廃し、商店、小事業者、ビジネス、一般の人たちが自由に活動できるようにすべきです。また、一日当たり5千万ポンド(70億円)のEU拠出金をやめ、一日当たり2千万ポンド(28億円)の海外援助をストップして財政削減に役立てるべきです。

Q: キャメロン首相は1917年末までに国民投票を実施すると言い、断固たる移民政策を約束しましたが。

A: キャメロン首相は国民投票をするといいましたが、それは5年後です。キャメロンは2007年に首相となればリスボン条約の国民投票をすると固く約束しましたが、それを守っていません。私はキャメロンを信じていませんし、キャメロンの行っていることは詐欺です。

以上のような具合で、これらを非常に弁舌さわやかに語る。

ファラージュは論争の的の人物である。1964年4月3日生まれ。もともと保守党に所属していたが、1992年に当時のメージャー保守党政権のマーストリヒト条約の調印で保守党を離れた。1993年のUKIP設立時からのメンバーであり、1999年にUKIPが欧州議会で3議席を獲得した時、当選し、それ以来欧州議会議員を務めている。2006年から9年まで党首を務めたが、下院議員選挙に出馬するために一度党首を退いた。しかし、2010年に再び党首となった。

ファラージュの過激な発言は、マスコミでよく取り上げられる。例えば、欧州議会では、欧州懐疑派のグループの議長を務めているが、その発言は多くの物議をかもしている。例えば、以下のようなものだ。

Who is Herman van Rompuy? – YouTube

UKIP Nigel Farage tells Mrs Merkel it’s time for Britain to leave the EU – Nov 2012 – YouTube

ファラージュにはUKIPのワンマンバンドという批判がある。UKIPのトップを自分の仲間で固め、かなり独断的なリーダーシップを揮っているために、UKIPの欧州議会議員には、それに反発して離党し、保守党へ移った人もいる。

政府の政策に不満であった人たちは、これまで、野党時代の自民党に向かうこともできたが、今では自民党は政権政党となり、その受け皿にはならない。その人たちが、UKIPに向いている面もある。特に英国の経済が不調で、しかも大きな財政削減が行われている状態では、人々の不満はさらに高まり、その不満の対象は政権政党、保守党と自民党、それに前政権の労働党とに向かう。この状態ではUKIPがさらに支持を集める可能性は大だといえよう。

英国の補欠選挙の意味するもの(What A By-election Means In The UK)

イングランドの南部のイーストリーで下院の補欠選挙が行われた。その結果と英国の補欠選挙の意味するものについて触れておきたい。

イーストリー補欠選挙

2月28日に下院の補欠選挙があった。英国では選挙は木曜日に行われる。結果は、辞職した前職の所属する自民党が得票率を減らしたものの議席を維持した。

このイーストリーの補欠選挙は、自民党の大物下院議員クリス・ヒューンが、自分のスピード違反の違反点数を、10年前に当時の妻に受けてもらったことが発覚し、司法妨害罪の容疑を認めて辞職したために行われた。その上、この選挙期間中に、自民党の前チーフ・エグゼクティブのセクハラ疑惑が報道され、それへの自民党の対応、特にクレッグ党首への批判もあったために、自民党にはかなり厳しい選挙と見られていた。

この選挙区は、従来、自民党と第二位の保守党が争ってきており、連立政権を組む二つの政党の対決として注目された。さらに世論調査でUKIP(英国独立党)が大きく支持を伸ばしていることがわかり、通常の補欠選挙以上に大きな注目を浴びた。

結果は、有権者数7万9千に対し、投票率は52.7%、得票数は以下のようである。(得票率、2010年総選挙時の結果との比較の数字は四捨五入している)

順位 政党 得票 得票率 2010年比較
1 自民党 13,342 32% -14%
2 UKIP 11,571 28% 24%
3 保守党 10,559 25% -14%
4 労働党 4,088 10% 同じ

これから見ると、自民党が勝利を収めたものの、かなり大きく支持を失っている。この支持の減り方は、全国の世論調査に表れている減り方に一致する。つまり、この選挙区では勝利を収めたものの、自民党の退潮傾向に歯止めがかかったとは言えない状態だ。

保守党も自民党と同じような割合で支持を失った。第二位のUKIPと保守党では支持層がかなり重なっている。保守党から回ってきた票がかなりあると思われる。UKIPは大きく支持を伸ばしたが、UKIP党首のナイジェル・ファラージュは、得票の3分の1が保守党、3分の2はそれ以外の政党から来ていると主張した。さらにこれまで2,30年間投票したことのなかった人たちがUKIPに多く投票したとも言った。

この選挙結果で、自民党のクレッグ党首らは議席を失わなかったことで胸をなでおろしており、これから反撃に移ると宣言したが、最も大きな影響を受けたと思われるのは保守党である。英国のEUからの離脱を訴えているUKIPの躍進を抑え、保守党が次期総選挙でも過半数を獲得できる状況にしようと、保守党党首のキャメロン首相は、もし次期総選挙後も首相であれば、2017年末までにEUを脱退するかどうかの国民投票をすると発表した。しかし、その効果は出てきておらず、逆にUKIPのさらなる躍進を許している。昨年11月に行われた別の補欠選挙で、保守党は大きく票を減らし、UKIPが躍進した。

UKIPの躍進の原因はこれまでの世論調査の結果から見ると、有権者がそのEU離脱に賛成しているためというよりも政権政党、並びに既成政党への嫌気・不満から来ている。(参照:The UKIP threat is not about Europe – Lord Ashcroft Polls) UKIP党首は、既成三大政党を批判し、これらの政党を三つの社会民主党政党で、お互いに違いがないと主張したが、これはかなり多くの有権者の考え方を反映しているように思われる。

こういう有権者の不満に対応するのはそう簡単なことではない。キャメロン首相は、保守党下院議員の不満と不安を抱えてさらに苦しい立場に追い込まれる結果となったといえる。

もちろんUKIPへの支持が伸びてきているとはいえ、それがUKIPに下院議員を生み出せるかどうかは別である。下院議員選挙はすべて小選挙区であるために、最も得票の大きい一人だけが当選する。そのため、次期総選挙でもUKIPの下院議員が生まれる可能性はかなり低い。それでも2009年の欧州議会議員選挙で、保守党に続き、第二位の得票を得て第二位の議席数を獲得したUKIPが来年2014年に再び行われる欧州議会議員選挙でさらに活躍するのは間違いのない状態である。

特に保守党下院議員にとっては、UKIPは大きな脅威だ。イーストリー選挙区では、前回2010年の総選挙でUKIPの候補者はわずか3.6%の得票しか獲得できず、5%以下の供託金没収だった。それが大きく得票を伸ばした。UKIPはほとんどの選挙区に候補者を立てるので、UKIPの得票が多くなると、保守党候補者にとって、当選するか落選するかの分かれ目となり得る。

英国の補欠選挙

補欠選挙は、総選挙の際の選挙とはかなり異なる。まず、選挙運動が極めて集中的に行われる。しかもウェストミンスターの政権を誰が担うかに直接関係しない。さらに当選しそうな候補に票が集中し、それ以外の候補には票が行かない傾向がある。また、それぞれの選挙区の事情でかなり結果が異なる。そのため、補欠選挙の結果で、政党の全国的な情勢を読めるかというと必ずしもそうではない。

また、選挙に使える金額が大きく増える上、各政党が他の地域から応援を繰り入れ、有力政治家が頻繁に選挙区に入る。そのため、マスコミもかなり熱心に報道する。

このイーストリー選挙区は、イーストリー市の中にある。市議会議員全44人のうち40人が自民党で、4人が保守党であるが、保守党の議会議員は全員この選挙区の隣の下院選挙区にあたる地域から選出されている。つまり、この選挙区内の市議会議員は全員が自民党である。そのため、地元の地方議会議員と活動家の動員力や浸透力が非常に高い選挙区であり、そういう選挙区は多くはない。かなり特殊だと言える。

このイーストリー選挙区の有権者数は7万9千人ほどで、日本の普通の市ぐらいのサイズである。そこには19の選挙区があり、それぞれの選挙区から2~3人の議員が選出される。それぞれの選挙区からは一回の選挙で一人ずつ選出されるため、それぞれの議員の任期は4年だが、その4年間のうちに同じ選挙区から出馬する他の議員の選挙がその議員の選挙も含めて2回もしくは3回ある。つまり、政党が同じだと、同じ選挙マシーンがこの4年間に何回も使われている。そのため、4年に1回ある場合と異なり、この選挙区の自民党の選挙マシーンは、かなり油が乗っているといえる。

しかも、英国では、戸別訪問が許されているために、政党は他の選挙区からのボランティアも含め、徹底的なローラー作戦を展開する。ビラを大量に配り、しかも電話作戦も徹底する。つまり、日本のイメージで言うと、普通の市長選(そう大きくない一つの選挙区から一人が選出される)に多くのボランティアが駆け付けて、地元の活動家と一緒に戸別訪問して回り、それ以外の選挙手段も使われるという形だ。補欠選挙で使える費用は、上限が10万ポンド(1400万円)と総選挙の際の約10倍である。

イーストリーでは、主要三政党が上記のような活動をしたのに対し、UKIPは人手の面でもはるかに劣った。これは、有権者が促されなくてもUKIPの方へ向いたということを表しており、既成政党にはかなりの脅威ということができるだろう。

自民党の苦悩(Agonising Lib Dems)

BBCの政治副部長が、ある保守党下院議員が言ったとして次の言葉をツイートした。

「自民党だけだ。セックスの絡まない性的スキャンダルがあり、それをリーダーシップ危機にできるのは」

今回のレナード卿のセクハラ疑惑(レナード卿は強く否定している)で、ニック・クレッグ自民党党首・副首相は「いつ何を知っていたか」で追い詰められた。「何も知らなかった」と党に言わせ、自分が答えるのを引き延ばした挙句、党の発表と異なる声明を発表した。その結果、クレッグは大きく傷つけられた。

警察がレナード卿のセクハラ疑惑に犯罪行為の可能性があるかについて自民党の職員と会った。労働党下院議員が警察にコンタクトした後、自民党スタッフが被害を受けたという女性たちの代表として警察にコンタクトした結果だ。警察がこの疑惑に犯罪行為の要素があるとして本格的な捜査に入るかどうかにはかなり疑問がある。しかし、自民党としてはこのような行動を取らなければならない立場に追い込まれてしまったと言える。

当事者の女性たちは、非常に真剣で、そのうちの一人は、自分たちのこれまでの苦しみを他の若い女性たちに味あわせたくない、とテレビ出演に踏み切ったいきさつを語った。これらの女性たちは、そのために自民党の体質を変えることに傾倒しているようだ。

それは正しいと思う。10人にも及ぶ複数の女性が同じような疑惑を訴えていることを考えれば、元チーフ・エグゼクティブは、同じことを何度も繰り返していたのではないかと想像され、「真の被害者」、つまり、嫌であったにもかかわらず、事に及ぶこととなった人も少なからずいるのではないかと思われる。つまり、セクハラを無くすことは、こういう真の被害者もなくすことにつながり、自民党にとっては極めて大切なことだといえる。

BBCラジオにスーザンという名の自民党地方議会議員が出演し、自分の同様の経験を語った。その中で、この女性は、クレッグはどうしたらよいかわからなかったのではないか、非常に下手に問題を処理したと言ったが、これはかなり実情に近いのではないかと思われる。クレッグは、2005年に下院議員に初めて当選し、2007年12月に党首となった。すぐにレナード卿の問題を報告されたようだが、下院議員として経験の浅かったクレッグにはこの問題はかなり重荷ではなかったかと思われる。そして、この問題が現在まで尾を引いている。

ただし、この一連の過程で明らかになったのは、自民党の古い体質だ。男性優遇の体質が残っている。女性の下院議員の数は、現在56人の下院議員のうちわずか7名。しかも自民党の強い選挙区から出ている下院議員は男性だけで、現在のような低支持率が続くと、次の総選挙では、女性議員が一人もいなくなる可能性がある。クレッグのように下院議員となる前から特別扱いで、自民党の非常に強い選挙区から出馬した男性とは違う。しかも、現在自民党から出している5人の閣僚(クレッグ副首相、ケーブル・ビジネス相、アレキサンダー財務省主席担当官、デイビー・エネルギー相、ムーア・スコットランド相)は全員男性だ。

自民党が、これを契機に、党の体質を変えようとすることが、他の政党にも変わるきっかけを与えることになるだろう。自民党は、古い体質があるとはいえ、それでも保守党や労働党と比べると、かなり純粋な政党である。そのために、今回のスキャンダルが自民党に与えた打撃は大きい。しかし、長い目で見ると、英国の政治の体質を変えるためのきっかけの一つとなるのではないかと思われる。

弱り目クレッグの誤った判断(Weakened Clegg’s Misjudgment)

2月25日の新聞の第一面の多くにニック・クレッグ自民党党首・副首相の顔写真が掲載された。

かつて自民党のチーフ・エグゼクティブだったレナード卿が、在任中に党の女性関係者にセクシャル・ハラスメントをしたという疑いがかかっている件で、前夜、クレッグが自分で声明を発表した。

そこで、それまで党が継続して、「クレッグはそのような疑いは全く知らなかった」と言っていたにもかかわらず、クレッグは「レナード卿の行為に対して、間接的で特定されていない懸念」を知っており、自分の首席補佐官をレナード卿のもとへ送り、「そのような行状は、全く許されないと警告した」と党の発表とは異なったことを発表した。非常に慎重に言葉を選んで書いた声明であったが、それまでの発表とは違うという事実は変わらない。しかもクレッグは声明を読んだ後、メディアからの質問を受け付けなかった。

25日の新聞の第一面の見出しは以下のようだった。

デイリーメイル しかめ面のクレッグの逃げ口上

デイリーミラー クレッグ:私は痴漢卿のことを知っていた。

インデペンデント クレッグ:私は性的苦情を知っていた。

デイリーテレグラフ 明らかになった:ニック・クレッグに対するのっぴきならない新主張

タイムズ クレッグが上院議員についての性的苦情を知っていたと言う。

ガーディアン クレッグが性的苦情について知っていたと認める。

サンは、「衝撃的なUターン」と表現し、それはデイリーメイルも同じで、クレッグが逃げ口上を言うと攻撃した。また、デイリーエキスプレスは、クレッグはその政治家としてのキャリアで最悪の危機に陥ったと言った。

クレッグはこの日、28日の補欠選挙のある選挙区周辺でラジオ局などのインタヴューに応じたが、それ以外のメディアからの質問には答えず、海外へ飛び立った。

クレッグは、この問題への対応を誤ったようだ。2月24日の夜に自ら声明を発表するまで6日間考えに考えた挙句である。

その大きな原因は、クレッグが政治的に非常に弱い立場にあるためのように思われる。自民党はまとまりの強い政党で、現在のように低い支持率であっても、クレッグを党首として引き下ろそうという動きは見られない。しかし、2010年に保守党と連立を組んで以来、世論調査の支持率を大きく落とし、野党への政党補助金を失った上、政治献金額を大幅に減らし、しかも党員の数が大きく減った。2011年、2012年の地方選で大きく地方議員の議席も失った。連立政権に参画する代償の下院の選挙投票制度を変えるAV制度の国民投票は大差で否決され、しかも第二の代償として位置付けていた上院改革は、保守党議員の反対で失敗した。連立政権の政策に自民党カラーを注入していると言っても、それらは必ずしも一般に理解されていない。

そういう中で、さらに自民党への打撃となる事態を避けたかった心情は理解できる。

2008年にレナード卿の、特定されていない不適切な行為の疑惑の話を聞き、当時首席補佐官だったダニー・アレキサンダーにレナード卿に話をさせた、と言われる。このような疑惑の話は、多くの職場にあることで、具体的な苦情がないと具体的な対応が難しいのは恐らく周知の事実だろう。タイムズ紙のインターネットのコメント欄への投稿者も同じ見解だ。

もし、クレッグが、「特定されていない懸念」を聞いただけというのが真実ならば、クレッグは、最初から、自分はその時点で妥当だと信じたことをした、と開き直ることもできたかもしれない。もちろん、被害にあったと訴える女性たちは、具体的な話を政党のトップクラスの政治家に訴えたと主張している。もしその話がクレッグに伝わっていなければ、それはそのトップクラスの政治家たちの責任ということになろうが。いずれにしても、弱くなっているクレッグは、そのようなリスクは取れなかったと思われる。

クレッグは打つ手が限られてきている。もし、自民党の優勢とされる28日の補欠選挙で敗れるようなことがあれば、非常に難しい立場に追いやられるだろう。補欠選挙に勝ち、事態が沈静化したとしてもクレッグがさらに大きく弱体化することは避けられそうにない。

クレッグの声明でさらにわかってきたこと(What Clegg’s Statement Reveals)

2月24日(日曜日)夜、クレッグ自民党党首・副首相は自民党本部で声明を読み上げた。

自民党の元チーフ・エグゼクティブで、上院(貴族院)議員のレナード卿が在任中に女性の党関係者に対してセクシャル・ハラスメントをしていた疑いがあることを、2月21日(木曜日)テレビ局のチャンネル4ニュースが報道した件についてである。

その声明で、クレッグは「レナード卿の行為に対して、間接的で特定されていない懸念が私のオフィスに2008年に届いた。それに対応する行動を取った」と言った。

その「懸念」は、クレッグの首席補佐官であったダニー・アレキサンダー(下院議員で現財務副大臣)がレナード卿に伝え、「そのような行状は、全く許されないと警告した」そうだ。

なお、この声明が出る前、自民党のスポークスマンは、クレッグは「これらの疑いを、まったく知らなかった」と主張していた。

クレッグは質疑応答に応じず、声明を終えた。その後、明らかになったことは、21日(木曜日)に最初に報道したチャンネル4ニュースが19日(火曜日)に、報道の中身をすべて自民党に提供しており、しかも3週間前の日曜日(2月3日)には自民党の幹部にこの件を調べていると知らせていたということだ。つまり、クレッグは、レナード卿のセクシャル・ハラスメント疑惑に答えるまでに少なくとも6日間かけている。

しかも、チャンネル4は、被害者の一人(オックスフォード大学政治学講師)が、2009年当時の自民党プレジデントからレナード卿のセクシャル・ハラスメント疑惑がチーフ・エグゼクティブを辞職した原因の一つであると聞いたと主張している件について、19日(火曜日)以来、クレッグがそれを否定するかどうか問い合わせているが返事がないという。

さらに興味深いことは、クレッグの声明とレナード卿の声明とのつじつまが合っている点だ。

レナード卿の声明

“I am disappointed and angry that anonymous accusations from several years ago are once again being made public in this manner in a clear attempt to damage my reputation.
“Let me reiterate that in 27 years working for the Liberal Democrat party, not a single personal complaint was ever made against me to my knowledge.”

これでは、数年前の匿名の疑惑が再び公になった、特定の人物の苦情は私には一つもなかったとレナードの声明は言う。これは、クレッグの「特定されていない懸念」に対応する。

一方では、クレッグ側は、BBCの政治記者に、この問題は、レナード卿の問題ではなく、クレッグとその指導部への攻撃だと、クレッグは感じていると言わせ、レナード卿から焦点をそらせようとしているようだ。

今後の展開が待たれる。

政権政党の思考の罠(Governing Party’s Wrong Way of Thinking)

バークレー銀行がLibor(ロンドン銀行間取引金利)とEuribor(欧州銀行間取引金利)の不正操作で、英国や米国の金融監視当局から莫大な罰金を科された。この問題には銀行内での企業文化や慣行などが深くかかわっていると言われるが、この問題の究明調査方法を巡り、政権を担当する保守党と野党の労働党の間で見解が食い違っている。

キャメロン首相らは、議会が特別の委員会を設置し、上下両院から委員を選んで、何が起きたかを突き止め、それを基に改善策を打ち出し、それを直ちに実施すべきだと言う。昨日の首相のクエスチョンタイムでも、首相は「スピーディ」という言葉を連発した。

一方、野党労働党のミリバンド党首らは、この調査は、トップ裁判官一人の率いる委員会で、厳正に行うべきだと主張している。メディアの倫理などの問題を扱っているレヴィソン控訴院判事の率いる委員会のような調査方法を取るべきだと言うのである。また、この形の委員会には時間がかかりすぎるという批判に対しては、財相の主張しているように今年の12月までにLiborの問題の報告を求め、1年後に銀行業界の文化や慣行に対する報告を求めればよい、と反論する。首相らの案の議会の委員会の焦点は狭すぎる、もっと広い問題に迫る必要があるというのだ。

この見解の違いは、政権が、銀行関係者にあまり大きな圧力をかけたくないということからきている。何らかの究明委員会が必要だということは十分認識しているが、銀行のトップらが、裁判官らの前で、尋問され、厳しい質問を受けるのは、ロンドンの金融センターとしての地位に大きなマイナスだと考えているのだ。

実は、これは、上記のLiborの問題の起きたとされる時に政権を担当していた、労働党にも当てはまる。労働党は、政権担当時、英国の金融業界に関する規制を緩め、銀行らにロンドンの居心地がよくするよう努力していた。キャメロン首相らは、労働党の規制が甘すぎたためにこういう問題がおきたのだ、と繰り返し主張している。これはその通りだと思われる。それでも昨日の首相のクエスチョンタイムでミリバンド労働党党首が指摘したように、キャメロンは、2008年に「英国には規制が多すぎる」と批判しているが。

要は、政権政党は、前の労働党政権、そして現在の保守党も含め、英国の経済の大きな要素を占める金融セクターに配慮し過ぎた、ということだ。この過ちを今回も繰り返すべきではない。つまり、銀行業界の文化や慣習にも踏み込んだ、抜本的な改革が必要だ。つまり、これまでの膿を出すために、考えられる最良の方法、つまり裁判官による委員会で究明するべきだと思われる。

特に、英国の金融業界には古くからの伝統的な文化や慣習、これは、今朝のラジオ番組TodayでのBBC政治部長ニック・ロビンソンの言葉を借りれば、「エスタブリッシュメント」の問題がある。短期的には、政府に対して大きな批判が出てくるかもしれないが、長期的に健全な金融業界を作り、ロンドンの評判を維持していくには必要なのではないか。

苦しむトップ官僚(Suffering top Civil Servants under austerity)

英国では、上級国家公務員は、SCS(Senior Civil Servants)と呼ばれ、日本の官庁の課長級以上を指す。この人たちが、政府の大幅な財政削減と効率化の中で苦しんでいる。その一つの現象に多くのSCSが辞職していることがある。この4月に発表されたものでは、2010年5月の現政権就任時には4350人いたが、その後1009人辞職し、現在は3700人ほどである。(参照以下)http://www.telegraph.co.uk/news/politics/9203416/A-quarter-of-senior-civil-servants-quit-Whitehall-under-Coalition.html

4人に一人が辞めている。その後、財政削減の中で、補充されていないポストもあるようだ。上記の記事では、モラールの低さがその大きな原因のように触れられているが、それだけではないだろう。むしろこれはそれぞれの能力の問題により強く関係しているように思われる。つまり、かつては、問題がでてくれば、それはスタッフ増や外部のコンサルタントに依頼するなど、お金で解決できたが、今では、財政緊縮下で、問題解決には知恵を絞り、効率化などで対応しなければならなくなっているからだ。

6月11日には、HMRC英国歳入税関庁の電話問い合わせへの対応に問題があることがわかった。前政権時代の2009年には、電話待ち中に電話を切る人が10%いたが、平均待ち時間は1分53秒だった。それが昨年には、28%に上昇した。平均待ち時間は5分45秒で3倍になっている。

HMRCでは最近幾つかの大きな失敗が明らかになっている。誤った警告書の送付、税コードの誤りなどで払い過ぎや過少支払いの人が500万人余りおり、さらには、大手企業との納税交渉で譲歩し過ぎているのではないかとの批判もある。企業の節税対策では、ボーダフォンは法人税を英国では全く払っていないと報道された。

財政緊縮下では、特によりきちんと税を集める必要があるが、さらなるスタッフ削減が予定されており、人を増やすわけにはいかない。そのため、より少ないスタッフで、より高いスタンダードの仕事をより効率的に行わねばならなくなっている。これは、これまであまりマネジメントに注意を払ってこなかった能力の乏しいSCSにとってはたいへん深刻な事態といえる。これは、いずれの省庁にもあてはまる。SCS受難の時とも言えるだろう。