警察コミッショナー選挙の価値?(Police Commissioners’ Elections:Any Value?)

11月15日(木)に行われる警察・犯罪コミッショナー(PCC)の選挙の投票率も英国の賭け屋、ブックメーカーは扱っている。驚くことに17%以上と17%より下とで、それぞれの賭け率をつけている。イングランドとウェールズの41地区で行われる新しい選挙の投票率が17%前後の見通しとは!?

PCCは、それぞれの警察管区の警察行政の重点方針と予算を決め、それぞれの本部長を雇い、解雇できる権限を与えられる。

11月2日にはキャメロン首相がこの選挙のキャンペーンに出た。キャメロン首相は、新しい制度が受け入れられるまでには時間がかかる、その内に有権者も、それぞれの警察管区のコミッショナーが選挙で選ばれることの意味が分かるようになると述べたが、それは一体いつのことであろうか?

主要政党には投票率が20%を越えると見ている政党はない。大臣たちの中には、もしかすると10%に近いかもしれないと心配する声もあるという。それで7500万ポンド(100億円)の選挙費用が正当化されるのであろうか?

この制度は、保守党のマニフェストに含まれていたものである。地元の人々の声がより警察行政に反映させられるようにすることが狙いであったが、有権者が関心を持たないのではどうしようもない。むしろ、住民の関心が少ない中では、選ばれたコミッショナーによる警察行政の政治化や干渉が起きるのではないか。

必ずしも必要のない制度を、しっかりとした確信を持つことなく設けるのは、貴重なお金の無駄遣いのように思える。

道州制への疑問(Is Devolution that Good?)

日本では多くの政党が道州制の導入をマニフェストに入れる考えのようだ。しかし、道州制は本当にそんなにいいモノだろうか?

英国では、ブレア労働党政権でスコットランドとウェールズの地方分権を行った。1997年に住民投票を行い、それぞれの議会が開かれたのは1999年からである。スコットランドは、もともと独立の機運が強く、スコットランド人としてのアイデンティティが強いため、この地方分権は、当然の成り行きと見られた。むしろこの地方分権は、独立の機運が強くなりすぎるのを防ぐための一種のガス抜きと考えられた。ウェールズでもウェールズ人としての独自性が強く、ウェールズ語が英語と並んで公用語となっている。この11月15日に行われる新制度の警察・犯罪コミッショナーの選挙でも、既に印刷された投票用紙が英語だけだったために、すべてが廃棄されることとなった。大急ぎで英語とウェールズ語両方の入った投票用紙が準備されている。ウェールズは、分権実施後次第にその住民の支持を得ていったが、住民投票では、賛成50.3%、反対49.7%で、かろうじて賛成多数で分権に進むことになった。

ブレア労働党政権では、これをさらに進めて、人口の84%が住むイングランドの分権を図った。当時のプレスコット副首相がこれを促進し、まずは手始めにイングランドの東北地区で住民投票を行った。ところが、投票率44.7%でその内77.9%が反対し、住民の意思がはっきりした。このため、プレスコット副首相は予定していた他の住民投票を中止した。このような改革を行うには、現代では、住民投票で住民の意思を量る必要があるだろう。政治家や国家公務員、または学者の思いつきだけでことを進めるのは疑問があるように思われる。本当に住民がそういうシステムを求めているのか見極める必要がある。

日本の場合、最も大きな問題だと思われるのは、道州制を導入すれば日本はよくなるという発想だ。本当にそうなのだろうか?スコットランドは、スコットランド独立を謳って設立されたスコットランド国民党(SNP)が議会の過半数を握り、政権を担当している。第一首相のアレックス・サモンドが率いる、左寄りのSNP政権は、優れた手腕を発揮しているといわれ、高い評判を得ている(現在、独立後のEU加盟をめぐりウソを言ったという問題が出ているが)。SNPは2007年選挙後、少数政権を担当し、2011年に過半数を握る政権となった。そして2014年秋にはスコットランドの英国からの独立をめぐる住民投票を実施することになった。

ところが、スコットランドは1999年分権議会発足後既に13年経つが、これまで分権によるはっきりした経済的メリットが見られていないのである。スコットランドの課税権限には制限があるが、スコットランドは、中央政府から有利な補助金を受け、住民一人当たりの財政支出は、2010-11年で英国平均より13%高い。大学授業料は無料で、福祉関係費もイングランドより11%も高い。そのため、財政的にはかなり優遇されていると言える。しかし、未だに1980年代の景気後退で受けた大きな打撃から抜け切れていない。エディンバラを中心にした銀行などの金融セクターが伸びていたが、信用危機で、地元大手の二つの銀行が中央政府から救済されることとなり、他の地域と同様その成長も止まった。

スコットランドの分権がどのような経済的便益をもたらしたかについては幾つもの研究がある。ほとんどないか、まだその効果が表れていない、というのがこれらの結論である。それらの一つである下記の論文では、一般的に地方分権には、経済的な便益があると政府も国際機関も考えがちだが、実際的な証拠が乏しいと指摘している。
http://eprints.lse.ac.uk/33560/1/sercdp0062.pdf

スコットランドでもウェールズでも住民投票の際に使われた議論は、地方分権すれば、経済的な配当があるということだった。しかし、これは実現されていない。むしろ、ウェールズでは、議会の設けられたカーディフがよくなっただけで、以前より悪くなったと言われる。

日本の場合は道州制だが、道州制にすれば経済的便益があり、うまくいくと考えがちではないだろうか?道州制にしたとしても、これはあくまでも一つのツールであって、そのツールをいかに使って地域を発展させていくかは全く別の問題である。英語の表現にYou can lead a horse to water, but you can’t make it drink というものがあるが、道州制にしたとしても、その制度に対する住民の支持が乏しく、しかも地域をどのようにして発展させていくかの具体的なアイデアとそれを実行していくブルドーザーのようなリーダーがいなければ、逆効果であろう。かなりの手腕があると評価されているスコットランド内閣でも分権の経済的便益を上げるのに手こずっているのである。ウェールズの例で見られるように、道州制の結果で予測されるのは、既に繁栄している地域はますます栄え、そうでない地域は、さらに悪化する可能性があるということである。

一方、こういう改革で心しておかねばならないのは、そのコストである。実施にかかる費用と時間、その手続き、さらには行政上の混乱など多くの問題があろう。まずはその具体的な計画を作るだけでも相当の時間がかかる。中央と地方との役割分担、権限移譲のレベルなど簡単には片付かない問題のように思われる。当然ながら、中央から地方へ権限が移ることになれば、国家公務員の必要数が減る、さらに幾つかの県レベルの数が減ることになればその地方公務員の数も減ることになろう。これらの人員を解雇することになれば、その費用はかなりのものとなる。新たな役所や議会を建設するということになれば、その費用もかなりのものとなろう。その上海底資源の取り扱いなど相当細かな計画が必要だ。

いずれにしても、もし、道州制を本当に実施したいと考えているのであれば、現在の日本で行政区画の問題なく実施できると思われる北海道や沖縄に道州制で予定される権限などを委譲し、試行的に実施してみることが考えられるだろう。そこから学べることが多いかもしれない。英国でできていないことが日本でできる可能性はある。しかし、道州制を一種の特効薬のように考えるのは恐らく誤りだろうと思われる。