党首TV討論の行方

総選挙は5月7日。前回の2010年総選挙で、イギリス史上初めての主要3党党首によるテレビ討論が行われたが、放送局側は、今回の総選挙でも党首討論を実施しようと早くから取り組み始め、2014年の10月には、主要4放送局がその形式について合意した。前回同様3回の討論で、保守党、労働党、自民党、それにイギリス独立党(UKIP)を含めたものだった。

ところが、2010年総選挙でテレビ討論に参加したために、議席が思うほど獲得できなかったといわれるキャメロン首相は、公の場ではテレビ討論に参加したいと言いながら、実際には討論への参加は避けたいと考えているようで、難題を次から次に吹っかけている。

まず、全国政党である、緑の党を入れたものでなければ、参加しないと主張した。それを受け、放送局側は、3回の討論のうち、1回は首相候補同士の対決、すなわち保守党のキャメロンと労働党のミリバンドの討論、それ以外の2回は、緑の党と、地域政党であるスコットランド国民党とウェールズのプライド・カムリを入れた7党による討論を実施することにした。そして、出席しない党首がいても、出席した人だけで実施するとした。

しかし、キャメロン首相は、討論は、総選挙のキャンペーンが始まる前に実施すべきで、しかも、北アイルランドで最も下院議員の多い、民主統一党(DUP)も入れるべきだとする。これまで北アイルランドの政党は、それ以外の地域の政党とは別に扱われており、それに異を唱えることはなかったが、DUPは、党首のテレビ討論から自分たちが除外されていることに対して、法的措置を取る構えだ。もしDUPがテレビ討論に含められた場合、それ以外の北アイルランドの政党が黙っていないと見られる。

これに対して、放送局側は、既定の方針通り、7党で、総選挙中に実施するとし、党首討論を開催する予定の4つの放送局のくじ引きで、7党の党首討論を、選挙期間中の4月2日と16日、そしてキャメロンとミリバンドの討論を4月30日に行うと発表した。

労働党のミリバンドは、テレビ討論に積極的で、すでにその準備を始めているという話もある。しかし、キャメロンの側近は、キャメロンの参加したテレビ討論はないと見ているようだ。放送局側は、出席する党首だけで討論をするというが、ミリバンドとキャメロンが直接対決するテレビ討論で、例えば、投票日の1週間前だからという理由でキャメロンが参加しなれば、ミリバンド一人しかいない討論では、討論にならないだろう。

結局、キャメロン首相の参加する党首のテレビ討論はないと見たほうが確かなように思われる。

外国人刑務囚の国外退去に手こずるイギリス

8年前の2006年のこと、刑務所を出所した外国人1千人余りが国外退去措置を検討されることなく、そのままイギリスに滞在することが許されていることが明らかになった。しかもその中には殺人などの重大な罪を犯した人たちが含まれていたのである。非常に大きなニュースとなった。 

それが、このたび会計検査院(NAO)の報告で、改善されていないことがわかった。

外国人刑務囚は現在1700人ほどで、刑務囚全体の13%とかなり多い。外国人刑務囚の対応に昨年85千万ポンド1462億円:£1172円)かかっている。昨年には5千人余りが本国に送られたが、2009年以降イギリス国内に残っている外国人の元刑務囚は4200人ほどで、その6分の1760人は行方が不明であり、そのうち58人は社会に危険な罪を犯した人たちだという。

政府の対応が不十分な原因は以下の2つに集約される。 

  1.  政府の能力の欠如。これは決して新しい問題ではないが、特に以下のような問題が指摘されている。
  • 内務省、法務省、外務省の連携の不足
  • 実務担当者のミス
  • 警察らの既存データのチェックの欠如
  • 消極的な国際的データアクセス 

    2.   欧州人権法などの法制の問題個人の人権が手厚く保護されており、イギリス内の家族、例えば子供がイギリスで生まれたなどの理由で在留を許される例もかなりある。もし在留を否定されても、不服申し立て、再不服申し立てなどでかなり時間が経過し、さらに家族がイギリスに根をおろす機会を与える例もある。政府は、不服申し立ての理由を制限するなどの対応をしているが、不服申し立ての数は増えている。

基本的には服役中に、または刑期が終了すれば、すぐに国外退去をさせるべきだが、それがスムーズに行っていない。在留を拒否されれば、不服申し立てはそれぞれの本国からするようにすべきであるが、伝統的に人権が重視されすぎてきた傾向がある。 

いずれにしても総選挙が半年後に行われる時期となってこのような問題が表面化したことは、キャメロン首相にとって痛手である。