必死の自民党(Threatened Lib Dems)

2014年5月の欧州議会議員選挙まで3ヶ月足らずとなった。この選挙では英国に割り当てられた73議席が12地区ごとの比例代表制で選出される。自民党には現在12人の欧州議会議員がいるが、この選挙で自民党の欧州議会議員がいなくなる可能性がある。2010年5月の総選挙後、保守党との連立政権に参加して以来、自民党の支持率が大きく下がったためだ。

実際、自民党の支持の凋落振りには驚くべきものがある。例えば、2014年2月5日から27日の間に1万4千人を対象に行ったPopulus/FTの世論調査である。自民党に2010年総選挙時に投票した人は、統計処理後の数値が2577人(生データ2622人)であったのに対し、現在総選挙があれば自民党に投票するという人は統計処理後987人(生データ899人)しかいない。つまり支持が60%も減少している。英国の有権者は総選挙では欧州議会議員選挙と異なった投票をするが、それでも自民党への支持は大きく減っているといえる。

もし自民党が欧州議会議員選挙で惨敗するようなこととなれば、1年後の2015年5月の総選挙に与える影響は甚大なものがあるだろう。

その中、自民党党首のクレッグ副首相は、その欧州議会議員選挙で大きく議席を伸ばすであろうと見られている英国独立党(UKIP)に党首討論を申し出た。UKIPは英国のEUからの脱退を提唱している政党であるが、自民党は主要政党の中で最も親EUだと考えられている。

この挑戦をUKIPのファラージュ党首が受け入れ、テレビでもBBC2が4月2日(水)午後7時から1時間の放送枠を取って放送することになった。保守党と労働党は参加しない。2010年総選挙時の党首テレビ討論に参加して失敗したと考えられている保守党はテレビ討論への参加には慎重だ。キャメロン首相が参加するとUKIPとの対決で大きな注目を浴び、UKIPを有利にするだけであり、逆効果だと考えていると思われる。

自民党は、この討論を通じて有権者に自民党の存在を改めて認識させることを狙っていると思われる。2010年の総選挙で初めて行われた主要3党首のテレビ討論でクレッグ人気が高まったことの再来を狙っているのは間違いないが、ファラージュUKIP党首は手ごわい相手だ。既に始まったつばぜり合いではファラージュ党首の方が上手を行っている。

3月5日の朝のBBC4ラジオ番組Todayに出演したファラージュ党首は欧州議会議員であるが、クレッグの指摘したいくつかの点に効果的に反論した。

  • 2009年以来欧州議会で議案の修正案を出したことがないという点には、自分は議会内のグループの議長で、自分のグループから多くの修正案が出ている。
  • ファラージュは、欧州議会の議事に貢献していないという点には、自分は、欧州議会から8時間離れたところに住んでおり、英国で全国政党を率いているが、議会の採決には55%出席している。ところが、ロンドンに住んでいるクレッグは、採決にわずか22%しか出席していない。

2010年総選挙の党首討論で一躍脚光を浴びたクレッグだが、自民党のマニフェストに10年以上の英国不法滞在者に合法的に滞在する権利を与えることが入っていることが広く知られるやいなや、クレッグに罵声を浴びせる人たちがでてきたことを思い出す必要があるだろう。英国民は移民の問題に敏感だ。

自民党は連立を組む保守党との違いを強調するなど、その存在意義を訴えるのに懸命だ。それらの努力がどの程度効果があるか注目される。

公共放送の社会的役割(Neutral Public Service Broadcasting)

テレビ局は、政治的な立場をはっきりさせる傾向のある新聞とは異なり、不偏不党でなければならない。例えば、2010年総選挙前に労働党のブラウン首相(当時)がITVのテレビ番組に出演した時には、保守党のキャメロンも同じ番組に異なる日に出演するよう要請を受けた。結局、キャメロンは、ITVの特別番組に出演した。さらにITVは自民党のクレッグの特別番組も作って放送した。つまり、選挙期間中に3党首のテレビ討論が控えている中、ITVはこの三者すべてに均等の機会を与えようとしたのである。

BBCは日本のNHKと同様、視聴料収入で運営されており、その編集方針の独立を必死で守ろうとしている。その結果、BBCは保守党からも労働党からも嫌われている。BBCの国防担当記者が、ブレア政権がイラク戦争の大義名分を作るために政府のインテリジェンス(諜報)文書を大げさに書いたと報道した。それはブレアの右腕で、政府の広報担当責任者のアラスター・キャンベルの仕業だと主張した時、キャンベルは憤慨し、他のテレビ局ITVのニュース番組に登場し、その報道は誤りだと断言した。キャンベルがITVに出たこと自体、非常に大きなニュースとなった出来事である。

政府は、BBCを強く批判し、その情報源を明らかにするよう求めたが、BBCはそれを拒否し、それは報道の自由だと主張した。後にその情報源は、国防省の生物兵器専門官であったことがわかったが、この専門官は自殺した。そこで、政府は、その死にまつわる状況について元判事を長とした特別調査を実施した。英国では判事は公平と信じられている。

その調査報告でBBCが厳しく批判されたために、BBCの会長と経営トップ(ダイレクター・ジェネラル)の2人が辞職した。また、国防担当記者も辞職した。しかし、BBCの立場はそれ以降も変化していない。BBCは、視聴者のお金で運営されており、BBCの立場は、常に視聴者の立場に立つことであり、できる限り公平に報道することである。このため時には政治的な出来事に関して、攻撃的な報道に結びつくことがあり、政治の側から大きな批判を招くゆえんである。

BBCも大きな組織であり、退職金のお手盛りやいじめ、女性差別、セクシャル・ハラスメントなどの問題が表面化しているが、外部からの政治的な介入には立ち向かっている。