EUを離脱するイギリス

6月23日に行われた、イギリスが欧州連合(EU)に留まるかどうかを決める国民投票で、イギリス国民はEUを離脱することを決めた。投票直前、そして投票中も、残留が優勢だという観測が高まったが、実際に票を開けてみると、離脱派の勢いが上回っていた。結果は、離脱52%、残留48%だった。わずかな差だったが、キャメロン首相は、いずれの結果が出てもそれを尊重すると宣言していた。

この結果を受けてキャメロン首相は、首相を辞任すると発表した。この10月に行われる党大会の前までに後継の保守党党首、そして首相を選ぶことになり、キャメロン首相は、3か月後に退くのである。

EUを離脱する交渉を正式に始めるには、リスボン条約で付け加えられた欧州連合条約50条により、イギリスがEUに離脱を通知することとなるが、それは、新しい首相によって行われる。すなわち、これから3か月ほどの期間、本格的な離脱交渉を始めるまでの準備作業が進められることとなる。

この結果でイギリスの政治は大きく変わる。首相が変わり、そして政府の目的も変わる。しかもイギリスとEUとの関係、それ以外の国との関係も含めて、新政府の課題は多岐にわたり、しかも膨大なものとなる。これまでEUに頼って進めてきた貿易交渉を自らの手で行う必要があり、政治、戦略的にも本格的な見直しに迫られる。

イギリスが離脱を選択した大きな理由は、EUとの関係や移民の問題を含めて、現在のイギリス政治に不満をいだく国民が、このような包括的な見直しを求めたためではないかと思われる。投票率は72%と、昨年総選挙の66%を大きく上回り、非常に関心の高かった国民投票だった。

投票日の6月23日には、豪雨などのため、各地で洪水が起き、交通網に影響が出るなどの影響があった。一方、開票結果の分かった翌日の24日早朝は、打って変わったいい天気だった。現状維持の「残留」ではなく、新しい未来を意味する「離脱」にはそれなりの魅力があり、「離脱」の結果に、肩が楽になったような気がした人は多かったと思われる。

しかし、このような気分は、1997年にトニー・ブレアが労働党を率いて総選挙で地滑り的大勝利を収めた時のものに似ているのではないか。ブレア政権は、投票日翌日の、素晴らしい五月晴れの日に政権についた。非常に大きな期待を受けて政権についたブレア労働党政権が、それほど振るわなかったような事態が「離脱派」に待ち受けているかもしれない。

新政権の手腕が問われることとなる。新首相の最右翼と目されている前ロンドン市長ボリス・ジョンソン下院議員にどれだけの能力があるか見ものだ。

あと2週間足らずとなったEU国民投票

6月23日にイギリスが欧州連合(EU)を離脱するか残留するかを決める国民投票が行われる。移民(離脱派)か経済(残留派)かの戦いとするメディアが多いが、現在の政治への見方、不満も重なり、有権者の考え方は、そう単純ではない。

この段階では、離脱派に勢いがあるように思える。筆者の知人にも、当初、残留に投票するとしていた人たちが、今では迷っている、もしくは離脱に投票することを考えているという人が何人もいる。

筆者は日本人であり、投票する権利がないが、ある知人に、もし投票できればどちらに投票するかと聞かれ、当初は残留だったが、今では決めかねていると答えた。

確かに、イギリスがEUを離脱すれば、その経済に与える影響は少なくないだろう。残留派のキャメロン首相が、イギリスはEUから離脱しても存続していけるが、経済成長は低下すると発言した。少なくとも短期的なショックはかなり大きいと思われる。しかし、現在のEUにはかなり行き過ぎている面がある。イギリスの中央銀行であるイングランド銀行の前総裁マービィン・キングが指摘するように統一通貨ユーロが破たんする可能性があり、もしそうなれば、EU自体の存続が問題となるだろう。移民問題などで苦しむEUを無理にまとめようとする努力は不毛かもしれず、将来イギリスが迫られてEUから離れるよりも、この機会にEUの重荷を離れて、独自の立場を確立することにはそれなりの意味があるように思われる。

ただし、イギリスがEUを離脱することとなれば、EU諸国の中に同様の国民投票実施を迫られる国があると見られており、その影響はかなり大きい。また、欧州の経済だけではなく、世界経済に与える影響もあるだろう。

最も新しい世論調査では、残留と離脱が均衡しているが、まだ決めていない人が一つでは11%、もう一つでは13%となっている。しかし、まだ決めていない、もしくは決められない人はもっと多いのではないか。2015年総選挙では、世論調査会社が保守党の過半数の議席獲得を事前に読めなかった。その理由の一つは、どの政党に投票するかを投票所で決めた人がかなりいたためではないかという見方がある。

今回の国民投票では、総選挙のように指標となる前回の選挙がないため、その予測と結果の誤差はかなり大きいと見られている。つまり、世論調査の結果による予測がはずれる可能性が高い。

イギリスの賭け屋は、最近の世論調査などの結果、大きく賭け率を変えている。以前、残留が圧倒的に優勢だったが、離脱に賭ける人が増えており、離脱の賭け率が減っている。今でも残留が強いが、キャメロン首相らは、この展開を心配していると伝えられる。