経済成長とオズボーンの予算(Economic Growth and 2014 Budget)

2014年度の予算が発表された。恒例の「首相への質問」の終わった後、オズボーン財相が立ち上がった。しばらく前に髪型を変えたオズボーンがかなり痩せている。52断食ダイエットを始めてからそれほど時間がたたないが、その効果が出ているようだ。このダイエットは1週間7日のうち5日は普通通りに食事をするが、あとの2日間はカロリーを大幅に抑えるダイエットである。オズボーンが若く見える。 

オズボーンのスピーチから、国に経済成長がいかに大切かひしひしと伝わってくる。雇用、財政赤字削減など非常に多くの効果がある。財政赤字削減率はG7の中でトップだともいう。オズボーンは、経済成長に浮かれることなく堅実な財政赤字削減努力を強調する。2014年度の財政赤字予測は1,080億ポンド(183,600億円:£1Y170)でGDP6.6%だが、このままでいくと2018年度には財政黒字が出る見込みだ(参照)。 

財政責任局(OBR)が経済予測を大幅に上方修正した。もちろんOBRは現在時点で最善の経済予測をしていると思われるが、逆に見れば近い将来下方修正する可能性も秘めている。

オズボーンは経済成長の一つの引き金となったと思われる住宅購入の資金ローン援助策「Help to Buy」を3年間の限定期間から2020年まで延長すると発表した。これで適用されるのは、この援助策の2つのスキームのうち最初に実施された新造物件の購入へのローンである。これで経済成長への原動力を維持し、不足している住宅の増加策の一助とするようだ。

さらに経済のバランスある成長を確保するために基幹となる輸出産業への政府の直接融資額を2倍の30億ポンド(5,100億円)に増やし、その利子を3分の1削減する支援策なども含んでいる。

そのほか、国民にアピールする政策として、この4月から所得税の課税最低限度額は1万ポンド(170万円)となるが、さらに来年4月から10,500ポンド(1785千円)とする。

一方、今回の予算の前に中流階級を苦しめているとして大きな課題となっていた、所得税が40%かかり始める額の引き上げの問題がある。現在41,450ポンド(7,046,500円)だが、この4月からそれを1%上げ41,865ポンド(7,117,050円)そして来年4月にはさらに1%上げ42,285ポンド(7,188,450円)とすることとした。インフレ率より低いが当初据え置きの観測もあった。

有権者にはさらに今年9月からの燃料税アップをせず、さらにビールへの税を若干引き下げるなどの対策を講じた。

福祉予算には上限を設け、2018年度までインフレ率でアップすることとした。なお、これには国の年金と失業手当は含まれていない。 

いずれにしても、いったん経済成長が軌道に乗り始めると比較的柔軟な政策が実施できる。政治家にとって経済成長がいかに大切かを示していると言える。

効果の乏しかった「秋の財政声明」(Osborne’s Autumn Statement Changed Little)

オズボーン財相の12月5日の「秋の財政声明」は効果が乏しかった。春の予算に次いで重要なこの声明で、財相は経済の好転と自らの財政再建策の効果を強調し、キャメロン政権の財政経済運営の成功を国民に知らしめる機会にすると考えられていた。

多くの政治コメンテーターたちは、「ストラテジスト」オズボーンが期待する評価をしたが、様々な要因からオズボーンの期待は裏切られた。

まず、ちょうどこの日、南アフリカのネルソン・マンデラが亡くなった。そのため、ニュース報道はテレビも翌日の新聞もマンデラ特集となった。「秋の財政声明」は吹き飛んでしまった。

次にこの日、最大時速142マイル(230キロ)にもなった強風が吹き荒れ、嵐のため英国各地で多くの災害をもたらした。

さらにマンデラ死去のニュースで、サッチャーが首相として、白人の南アフリカを支持し、マンデラ率いるアフリカ民族会議(ANC)をテロリスト集団として決めつけていたことに焦点が当たった。多くの英国人は、保守党がいかに「嫌な政党」であったかを改めて思いださせられた(実は、マンデラ釈放を強く要求したのはサッチャーであったが、事実と印象は必ずしも一致しない)。

マンデラ死去と英国中に大きな被害を与えた嵐がなければ、オズボーンの「秋の声明」はテレビと新聞のトップで大きく扱われていただろう。実は、この「秋の声明」はもともとその前日の12月4日に行われることになっていたが、キャメロン首相の中国訪問からの帰国を待つために1日遅らせたのである。

この中国訪問は、オズボーン財相が先に中国を訪問し、お膳立てした後であったが、政治的には失敗に終わった。経済的には60億ポンド(1兆円)の価値があったとキャメロン首相は主張したが、ファイナンシャルタイムズ紙は「中国との付き合いですべきではない痛い教訓」と題して、これ以上腰を低くすることができないほどにしたキャメロン首相の卑下の姿は英国人が困惑するほどだったと評した(なお、ガーディアン紙の同様の記事)。キャメロン首相が中国政府の危険視するダライラマに会ったという過去の政治的判断のつけがあったと言えるが、その姿には行き過ぎがあったようだ。 偶然とはいえ、財相の声明と大きな出来事が重なり、キャメロン首相の中国訪問の叡智が改めて問われる事態となったように思われる。

一方、下院のオズボーン財相は、大上段に構え過ぎ、これまで思いやりに欠けるという批判のある保守党の印象を変えようとする姿勢が見られなかった。サン紙の読者の参加したグループ評価で財相の声明を好意的に受け止めたのは4分の1にとどまっている。

労働党のボールズ影の財相は、下院で顔を真っ赤にしてオズボーン財相の経済財政運営を批判した。脳卒中で倒れるのではないかと心配になるほどで、気負い過ぎており、効果が乏しいように思われたが、翌日の新聞では、現在の経済回復は消費者の借金に支えられた消費に頼っており(タイムズ紙)、経済のバランスが取り戻されている兆候はなく(ファイナンシャルタイムズ紙)、徐々に消える可能性を指摘している。

結局、オズボーン財相の「秋の財政声明」はキャメロン保守党の命運を変えるには至らなかったように思われる。