2021年5月6日の各種選挙でジョンソン政権の将来が見えるか?

英国では、選挙は木曜日に行われる。この2021年5月6日には、様々なレベルの各種選挙が行われる。ボリス・ジョンソン首相の個人的な問題もあり、ジョンソン首相率いる保守党がどの程度の結果を収めるか、2019年12月の総選挙で大敗した労働党が回復の兆しを見せるかなど、成り行きに注目が集まっているが、将来の見える選挙とは言えないだろう。その中で、最大の焦点は、スコットランド議会選挙である。

ジョンソン首相の問題

ボリス・ジョンソン首相は、もともとイギリスのような比較的民度の高い国では、苦しむ性質の政治家である。それでも、それほど悪い人物ではないと思われており、誰とでも気さくに話ができる人物だ。老若男女を問わず、ジョンソン首相をボリス、ボリスと呼び、大衆的な人気がある。その一方、生活や仕事の取り組み方はだらしがない。自分の子供の数を答えない(Wikipediaは「少なくとも6人」としている(2021年5月4日閲覧))。首相の年収(約£157,000、日本円で2400万円ほど)では生活できないとされ、ダウニング街の住居の改修費用の上限を超えるおカネを保守党献金者に支払ってもらっていた疑惑(現在、選挙管理委員会や議会の委員会などが調査中)で苦しい立場だ。最も新しい話では、婚約者との間に生まれた子供の乳母を雇うおカネや自分のフィットネストレイナーを雇うおカネを保守党献金者にねだったとされる。もともとタイムズ紙の記者だったが、記事を捏造して首になったなど、正しいこととそうでないこととの垣根が低い人物ではある。

これらの疑惑と、キャメロン前首相のロビーイング疑惑なども重なり、保守党への不信がどの程度現れるか注目される。

ハートルプール下院議員補欠選挙

ハートルプールは、これまで長く労働党の議席だったが、今回は、保守党が圧倒的に強いと見られている。2019年12月の総選挙では労働党が勝ったが、それはEU離脱支持有権者が多数を占めるこの選挙区で、イギリス独立党(UKIP)の候補者がEU離脱派の票を割ったためである。UKIPはその後リフォーム党と名前を変え、今回も候補者を立てているが、UKIPの看板だったファラージュ党首が引退し、新しい党首の下では知名度が不足している。そのため、保守党が勝ったとしても、それは当然だと思われる。その一方、労働党とスタマー党首にとっては、険しい道が続くことを意味している。

スコットランド独立問題

スコットランド議会選挙で、スコットランド国民党(SNP)が過半数を占めるかどうか注目される。SNPがスコットランド議会で過半数を占めれば、ジョンソン首相が反対しても、スコットランド独立国民投票の実施をくいとめることは難しいだろう。ジョンソン首相はスコットランドでは人気がなく、今回の選挙でも一度もスコットランドを訪問していない。

なお、英国の世論調査の権威、カーティス教授は、全129議席のうち、SNPが62議席、緑の党が10議席獲得すると分析している。前SNP党首・首席大臣だったサモンド率いるアルバ党が数議席獲得したとしても独立国民投票の点では、サモンドの力を借りずともスコットランド議会の過半数は占められることとなる。

スコットランド独立住民投票の可能性

201768日に総選挙(完全小選挙区制)が行われることが、下院の投票で正式に決まった。下院の総議席6503分の2を大きく上回る522票の賛成を得たのである。

この総選挙の一つの注目点は、前回2015年の総選挙でスコットランドに割り当てられた59議席のうち56議席を獲得したSNP(スコットランド国民党)が、その勢力を維持・増加させて2回目のスコットランド独立住民投票に結び付けられるかどうかであろう。

スコットランド議会は、2017328日、独立住民投票を実施することに賛成し、スコットランド分権政府にイギリスのメイ政権と時期をめぐる交渉を始めることを承認した。しかし、メイ政権は「今は、そのような時ではない」とし、Brexitが完了するまでそのような住民投票を認めないことを明らかにした。

1回目の独立住民投票は、20149月に行われた。当時のイギリス中央政府のキャメロン首相とスコットランド分権政府のサモンド首席大臣が、エディンバラ合意に調印し、1998年スコットランド法30条に基づく命令で独立住民投票を実施した。すなわち、この住民投票の結果には、法的な拘束力があることを明確にして実施したのである。この住民投票は、独立反対が55%、賛成が45%で、反対派が勝利した。

スコットランドのスタージョン首席大臣は、第1回目のような形で、1998年スコットランド法30条命令による住民投票を求めている。しかし、これがなくても、独立に関する住民投票ができないわけではない。

独立住民投票の可能性が高まってきた時、多くは、そのような住民投票を実施するには、このスコットランド法30条に基づく命令がなければならないと考えた。しかし、UCLのロバート・ヘーゼル教授によれば、その命令なしでも「スコットランドの独立交渉をイギリス政府と行うのに賛成か」といった諮問的な住民投票を行うことは可能で、著名な法律家たちが、それは事実上同じ効果があるとしていると言う。ただし、そのような独立住民投票の実施には、異議が出るのは間違いなく、最高裁の判断が出るまでに数か月かかるだろうとした。

つまり、スコットランドのスタージョン首席大臣は、世論に独立賛成の機運が盛り上がって来れば、メイ首相の承認なしに、そのような住民投票を実施することができるというのである。

スコットランドの世論は、今のところ独立反対の方が強いが、メイ首相にとっては、スコットランドの独立機運が盛り上がらないようにする必要があろう。この総選挙でスコットランドの情勢がどうなるか見ものである。