パーティゲート調査の体制

新型コロナの拡大防止のための行動規制が設けられている最中に、その規制を破り、首相官邸などで行われたといわれる「パーティゲート」の調査が終了し、その報告書(12ページ)が2022年1月31日に発表された。その後、ジョンソン首相が下院で声明を発表し、質疑応答があった。

その報告書では、首相官邸などでのリーダーシップが欠如していたと指摘。16の集まりが問題視され、そのうち犯罪の可能性があると思われる集まりが12あったとした。しかし、肝心な詳細が含まれていないものとなった。その原因は、ロンドン警視庁が、スー・グレイ率いる調査チームに、新型コロナの法的規制を逸脱した犯罪行為の容疑に係る詳細な報告を避けるよう依頼したためである。

確かに、調査報告書がジョンソン首相に渡され、発表されると、犯罪行為をした疑いのある人たちは、その報告の記述を参考に警察の取り調べに備えることとなり、きちんとした取り調べができないこととなる。しかし、これまで、このような微罪は過去にさかのぼって取り調べをしないとしていた警察が突然取り調べを行うと発表し、さらにグレイの調査チームに詳細の発表を控えるよう頼むのはおかしいとの批判が出た。これには、野党ばかりではなく、与党の保守党からも、また専門家やメディアからも強い批判が出た。特にスコットランド国民党や自民党などからジョンソン首相を助けるために警察がそのような介入をしているのではないかという批判があった。

警察は、この取り調べは1年まではかからないだろうとする。その取り調べの中には、首相官邸のジョンソン首相の住居で行われたとされる集まりもある。下院の質疑の中でジョンソン首相がこれに参加していたかどうかの質問が2人の下院議員からあったが、ジョンソン首相は答えなかった。それにはジョンソン首相が参加していたというニュースもあるようで、ジョンソン首相が警察に尋問される可能性もある。警察は、グレイの調査チームから300枚ほどの写真と500ページにもわたる証拠書類を渡されたと公表した。さらに、警察は、グレイの調査した集まり以外のものも調べ始めているという情報もあり、どこまで警察の調査が進むか今の段階では予想がつかない。

下院でのジョンソン首相への質疑では、保守党下院議員からジョンソン首相への批判もかなりあった。しかし、今回の発表だけで、保守党党首(ジョンソン首相)への不信任投票を行うのに必要な、保守党下院議員359人のうち15%の54人の手紙が集まるか疑問視される。警察の取り調べが終わり、グレイが完全な報告書をジョンソン首相に提出するのはまだしばらく先になりそうだ。なお、下院の質疑では、ジョンソン首相は何度も質問されたのにもかかわらず、最後までその最終報告書を公表するとは請け合わなかった。後に、首相官邸がグレイの報告書をアップデートするとしたが、これがグレイの最終報告書のことかどうかはっきりしていない。

ロンドン警視庁の取り調べの結果がどうなるかは今後注目すべき問題であるが、ここでは、グレイの調査の指揮監督体制について触れておきたい。

グレイとその調査チームは、独自の立場で調査を進めた。ジョンソン首相官邸などで新型コロナ対策法に触れる可能性のある集まりが度々行われていたという疑いが出てきて、ジョンソン首相への批判が高まった際、ジョンソン首相は、内閣書記官長(Cabinet Secretary:官僚トップ)に、それぞれの集まりの詳細や新型コロナのルールに従っていたのかなどの調査を命じた。ところが、この内閣書記官長のオフィスでもそのような集まりが行われていたことがわかり、内閣書記官長はこの調査から身を引き、その代わりに、同じような調査を行った経験のあるベテランで、内閣府第二事務次官のグレイが担うこととなった。

グレイに担当がかわっても、この調査を命じたのはジョンソン首相であることは同じである。ただし、このような調査を行う時には、担当者が独立の立場で行い、その過程で、ジョンソン首相は基本的にタッチしない。グレイの報告書も、調査報告書がいつ発表されるかが話題になったが、聞かれたジョンソン首相はまだそれを受け取っていない、内容も知らない、いつになるかわからないとのことだった。

もともと、グレイは詳細な報告書とそれとは別の報告書の概要書をジョンソンに提出するのではないかと見られていた。そのため、概要書だけではなく、詳細な報告書を公表すべきだという世論があった。これに対し、グレイの意向は、報告書は一つだけとし、それをそのままジョンソン首相に提出するつもりだと伝えられていた。ところが、ロンドン警視庁の依頼があったために、ことはややこしくなった。ジョンソン首相は、報告書を受け取ったらそのまま発表するとしていたが、実際には、グレイがジョンソン首相に渡した報告書は、「最新情報(Update)」となっていた。

グレイは、内閣府の第二事務次官であり、内閣府担当大臣スティーブ・バークレーの指示を受ける立場である。しかしながら、この調査では、バークレーとの上下関係が介入する余地はないと思われる。グレイは、かつて内閣府で「適切なふるまいと倫理」部門の局長を務めていた時、閣僚で事実上の副首相の問題を調査した結果、首相がその人物に辞職を求めたことがある。その手腕は高く評価されている。

次々出てくるジョンソン首相の権力濫用と嘘

2022年1月26日、ジョンソン首相がその権力を不適切に使った話が出てきた。2021年夏のアフガニスタン撤退の際、人の撤退よりも、動物の撤退を優先したことである。

ことの次第はこうである。2021年夏、アフガニスタンでイスラム教過激組織タリバンが権力を掌握し、首都のカブールを実効支配していたアフガニスタン政府を支えてきたアメリカ軍や英国軍などが撤退した。それまでのアフガニスタン政府が急に崩壊したため、外国人や、西欧関係国やその機関で働いていたアフガン人などが逃げようと懸命になった。

その中、アフガニスタンに拠点を置く、元英国海兵隊員の営むチャリティが、多くの人が撤退・国外退去で必死になっていた混乱の中、約170匹の犬と猫をカブール空港から英国に飛行機で送った。その前、英国の国防相は、そのような目的を助ける余裕はないと明言していたが、その時、ジョンソン首相が、英国外務省に、その関係者と動物の飛行機での撤退を助けるようにと指示を出していたことが改めて政府のEメールで確認されたのである。

ジョンソン首相夫人は動物愛好家で、動物関係のチャリティで働いている上、多くのチャリティと関係がある。動物のカブール撤退を支援した人物が、首相夫人のカリーに連絡を取り、ジョンソン首相に働きかけたと証言している。また、外務省の当時の担当者の1人で、内部告発をして外務省を辞職した人物が、ジョンソン首相の指示があったと下院の外務委員会に証言している。しかし、ジョンソン首相は、そのような話は完全にナンセンスだと主張してきていた。今回のEメールは、英国のアフガン撤退にまつわる調査の資料に含まれており、外務委員会が公表したのである。

この問題は、パーティゲート同様、ジョンソン首相本人には、そう大きな問題ではないのだろう。しかし、ジョンソン首相が、「嘘」でその場しのぎをする体質は変わっていないといえる。国民の政治と政治家に対する不信は、英国の有権者にとって、コロナ問題の次に大きな問題となっていることが、世論調査でわかった。